上 下
18 / 56
過去回想のモブ編

第18話 襲撃ー対召喚獣戦2

しおりを挟む
ミーンミンミンミンミン

窓の外からはうるさく鳴くセミの声。
風が吹けばチリンチリンとなる風鈴。
部屋の中で聞こえてくるのは冷房の駆動音。

まさに夏を思わせる音が聞こえてくる。

ああ、懐かしいな。
あれ?なんで懐かしいんだっけ?

ここは僕が住み慣れた学生の一人暮らし用の1Kアパートの一室。
外は燦燦サンサンと照りつける太陽によって灼熱地獄と化している。
一方で、この部屋は文明の利器であるエアコンのお陰で過ごしやすい快適な温度に保たれている。

僕はソファーに寝ころび目を閉じる。
快適だ。このままぐっすり眠れそう。

んー?なんか遠くから誰かの声が聞こえる。
聞いたことのある声がするけど思い出せない、誰の声だっけ?

ああ、睡魔が僕を眠りに誘ってく。
頭が回らない。身体がだるい。
もう何も背負わなくていい。考えなくていい。

僕はこのまま襲い来る睡魔に身を委ね―――。

「起きろー。」

僕は文字通り叩き起こされた。
目の前には般若が―もとい母親が―買い物袋を携えて立っていた。

「全く。全然連絡を寄越さないから来てみれば案の定じゃない。
 大学生の一人暮らしだったからって気が緩み過ぎよ。」
寝起きからお説教が始まった。

「あんた、怒られてなんで笑ってんのよ?」
怪訝な顔をした母さんが聞いてきた。

「えっ?嘘、笑ってた?」
僕は慌てて自分の顔を触ると、口元が緩んでいた。

「うん、嬉しそうにしてたわよ。目覚めちゃったの?
 母さん違う意味で心配になってきたわ。」
「いやいや、違う違う。僕は至ってノーマルです。」
疑いのまなざしでこちらを見つめる母さん。戸惑いを隠せない僕。

ああ、懐かしいなぁ。
ん?懐かしいってなんでだろう?

母さんはどうやら僕の昼ご飯を作りに来てくれたようだ。
久しぶりに食べる母さんのオムライスは懐かしい味がした。

夢中で食べていると、母さんはすっかり気を良くしたようでニコニコと僕を笑ってみていた。

「ところで母さんは何しに来たの?」
見られていることに照れた僕は話を振った。

「昨日、あんたにLine送ったでしょう。
 お盆だからね。これから一緒に墓参りに行くのよ。」

「あれ、そうだったっけ。すっかり忘れてた。
 ん?でも誰の墓参り?
 身近で誰か亡くなった人いたっけ。」

「何言ってんのよ。この子は。
 呆れた。自分のことも忘れちゃったのかしら?」
そう言ってため息を吐く母さん。
だけど、僕は母さんの物言いに引っかかりを覚えた。

「え、自分の事ってどういうこと?」

「あらま。ホントに覚えてないようね。
 あんたの墓参りに決まってるでしょ。」
さも当然のように母さんは言い放つ。

だけど言われた方は大混乱だ。
意味が分からない。

えっえっ?何?ドッキリか何かだろうか??

「冗談はやめてくれよ。あれでしょ。
 テレビでよくやってるドッキリでしたーってやつでしょ?
 カメラはどこにあるの?見当たらないけど。」
僕はそう言って部屋をきょろきょろと見渡すが、隠しカメラらしきものも見当たらない。

「………。」
母さんは終始黙ったままだった。

「うーん、何も見つからないなぁ。
 ねぇ、母さん。もういいからさ。ネタばらししてよ。」
僕の言葉を聞いた母さんは再びため息を吐いた。

「これは重症ね。まぁいいわ。
 説明してる時間も無いし、さっさと墓参りに行きましょうか。」
そう言って母さんは僕の腕をつかんで強引に部屋の外に連れ出していく。

どれくらい歩いただろうか。
夏の日差しに汗だくになりながら、僕達はお寺にやってきた。
寺に入ると母さんはそのまま寺院墓地へと歩みを進めていった。

「さ、ここよ。」
母さんが立ち止まったのはとある墓の前だ。

僕はその墓を見て言葉を失った。

世渡家之墓 世渡 流よわたり ながれ享年21歳

そこには確かに僕の名前が書かれていた。
母さんは墓の前にしゃがみ込み静かに両手を合わせた。
セミの声が嫌に大きく聞こえる。

しばらくして母さんが立ち上がり僕を見る。
母さんの顔は憂いを帯びており、どこか困った表情をしていた。

「さっ、これであんたの供養は終わり。これで肩の荷が下りたわ。
 今更いっても遅いでしょうけど、そっちではあまり無理して回りを困らせちゃだめよ。」

母さんの言ってる意味が理解できないまま、自然と涙があふれてきた。

「ほら、もう泣かないの。」
困った表情をした母さんが僕の右手を握ると、僕は違和感に気づいた。
思わず声をあげそうになるが、母さんが人差し指を立てて口元に当てるジェスチャーをしたことで黙った。

すると、先ほどまで五月蝿かったはずのセミの声が止み、あたりは静寂に包まれた。
次の瞬間、僕達は1Kアパートに戻って来ていた。

(えっ!?)
あまりの出来事に僕は戸惑っていた。
驚いて母さんの顔を見ると、ふふっと笑っている。

すると玄関の外から声が聞こえてきた。
それは、どこか聞き覚えのある女の子の声。

『エド、早く起きなさいよ。』

(なんだ?エドって誰だ?
 分からない。だけど、これを無視しちゃいけないような気がする。)

僕が逡巡していることに母さんは気づいたようだ。

「あら?ちゃんと『声』に気が付けたようね。
 ホッとしたわよ。あんたなかなか気付かなかったんだもの。
 さて、『声』が聞こえたと言うことは私の役割はもう終わりね。
 名残惜しいけど、このまま引き留めておくと戻れなくなっちゃうから仕方ないわね。」

「どういうこと?母さんも聞こえるのか?
 この声はなんなんだ?聞き覚えはあるんだけど思い出せないんだ。
 胸のあたりがモヤモヤする。」
僕は言いようのない焦燥感に襲われた。

「それはきっと世渡 流として居るからじゃないかしら。
 思い出せないのはその影響かしらね。
 でも大丈夫よ。ここから出れば思い出せるから。」

「それってどういう…」
母さんに尋ねようとした時、また声が届いた。

『ほんとに、エ…、早くお……さいよ。』
しかし、先ほどと違って声がクリアに聞こえない。
どこかノイズが入っているような声だ。

「もうちょっと時間があると思ってたけどダメね。
 こうして会話が出来ただけでも幸運と思わなきゃいけないわね。
 さぁ、ながれ、早く玄関を開けて外に出なさい。」

そう言ってパンと背中を叩かれた。
僕は言われるがまま、玄関の扉を開ける。
振り返ると母さんが穏やかな笑顔をしていた。

「気張っていってらっしゃい。」
母さんのその言葉を最後に僕の意識は途切れた。

 ***

「起きろー。」
僕が目を開けるとやがて焦点があってきた。
ボロボロと涙を流している少女、レインの姿だった。

どうやら僕は先ほどまで夢を見ていたようだ。
それも今のエドワードではなく、前世の世渡 流としての夢。

そのままボケっとレインの方を見ていると、頬に痛みが走った。

「痛ったぁ」
僕は思わず左頬を抑える。ジンジンとした痛みが頬から感じていた。
どうやら僕はレインにひっぱたかれたようだ。

「遅いわよー、バカ―。
 それにいつまでもぼーっとしてんじゃないわよ。」
レインに叱咤されて僕は思わず姿勢を正した。

「あのー、レインさん。
 ちょっと状況が把握できないんですけど?」

「エドが魔人と戦ってた時に氷の塊が刺さって気絶したの。
 その後、魔人達は帰っていったわ。
 黒龍なんていう最悪な置き土産を置いて。」

「はっ、黒龍?」
意味が分からない。魔人は撤退したのになぜ黒龍なんて存在が出てくる。
ニジゲンの襲撃イベントでは黒龍の存在は欠片も出てこない。

「それで、今の戦況はどうなってるの?」
僕の質問にレインの表情が暗くなる。

「今はダリウスが一人で黒龍と戦ってるわ。」

「はっ?えっ?一人で?」
僕は思わず顰めしかめ面をしていた。

「村長もマイクもダリウス以外の他の皆は怪我を負って戦闘不能なのよ。
 唯一ダリウスだけが対抗できてる状況なの。」

レインの言葉に慌てた。
黒龍なんて化け物と対峙して普通なら無事でいられるはずがないからだ。

「あ、でも大丈夫。ダリウスってば今まで温存してたのかな。
 今、すっごく速く動いて黒龍を翻弄してた。」

嫌な予感がする。
僕の推測が間違ってくれと思いながらダリウスと黒龍が戦っている場所へと向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...