【一旦完結】回想モブ転生~ヒロインの過去回想に登場するモブに転生した~

ファスナー

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過去回想のモブ編

第05話 ゲーム知識と現実

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『世界は魔素に満ちている』

これは魔法の大家ガイドラ=インの記した著書魔法体系学にも記載されている有名な一文である。この魔力基礎学を手にしている諸兄達は既に存じていると思うが確認のためにあえて記すこととする。

人が魔法を使うには魔力が必要となる。この魔力は人のもつ魔力器官で生成されると言われており魔力は空気中にある魔素を取り込むことで蓄積している。
人の持つ魔力量は魔力器官の大きさに比例すると言われ、魔力量が多いほど多種多様な魔法を使うことができると言われている。
理論的には魔力器官を鍛えることで魔力量が増えると言われている。
本書では魔力に関する基礎と最新の魔力器官のトレーニング法を記す。

「なるほどね」
僕は魔力基礎学という本を読みながら独りごちた。

「何がなるほどなんだ?」
聞いてくるのは横で別の本を読んでいたダリウス。

「ああ、ごめん。独り言だよ。
 今見てた本には魔法のトレーニング方法なんかも記載されてる。」

「おお、本当か。」
ちょっ、ダリウスさん、声が大きい。
僕は慌てて、口に人差し指を当てるジェスチャーでダリウスに静かにするように伝えた。

僕達が今いる場所は教会の地下に隠されていた書庫。
この隠された書庫は教会を掃除していた時にたまたま見つけた。
教会の掃除は僕達孤児院の子どもの仕事で、週に一回掃除が割当たるように当番制になっている。

偶然見つけた書庫にこっそりと忍び込んで、ダリウスと2人で本を読み漁っているというわけだ。
気付かれることはないと思っているが、誰がどこで聞いてるか分からないからね。
バレないよう細心の注意を払わないとね。

シスターマリアにバレてしまえば計画がおじゃんになる可能性もある。
シスターマリアの耳に入ったら、十中八九ダメだと言われるからね。

なぜなら、魔法を教えてくれるのは10歳の鑑定の儀が終わってからと決まっている。
その理由は、魔法は便利だが取り扱いを間違うと大惨事を引き起こしてしまう危険なものだから、ある程度の常識が身についてからじゃないと学ばせないようにしている。
僕の3歳上で兄貴分のユーリカが饒舌に語っていた。やっと魔法を教えてもらえるようになったとかですごくうれしかったんだって。

まぁ、それは表向きの理由だ。いや、ひょっとすると末端は表向きの理由しか知らされていない可能性は高い。
裏の理由は貴族と平民の力関係を保つためだ。

僕は前世の記憶からゲームの知識を色々知っている。
魔法に関しても結構わかっていると自負している。

じゃあ分かっている筈の僕がなんで書庫で本を読み漁っているかというと、この世界の常識とゲーム知識を比較するためだ。

ニジゲンに限らず前世の記憶にあるゲームの世界は様式美というか暗黙の了解明文化されてないルールがある。
例えば戦闘のターン制。RPGゲームなんかは多くが互いにリアルタイム戦闘ではなく交互に行動を選択するターン制を採用している。
ゲームの制作サイドからすればターン制にしないと色々大変になるのだから仕方ないのだが、ゲーム世界が現実となったここではターン制というのは有り得ない。

他にもレベル制。レベルが上がると強くなるシステムはゲームを楽しむ上で分かりやすい目安になる。
だけど、ゲームの世界が現実になった時レベルというのはどうなっているのか疑問に思っていた僕は、鑑定スキルを得たことによって理解した。
結論からいうとレベルなんてものはなかった。
ステータス上にもレベルといった表記はない。
筋トレをすると後々体力の上限値微量に増えていく。レベルアップのように様々なゲージが一気にあがるなんてことはない。

とはいえ、魔法とかスキルと言った前世ではあり得ない能力事体は存在している。
だからニジゲンのゲームと現実の類似点と差異をしっかり把握しておくべきだと思ったのだ。
ゲームの中では出来ていたからきっと現実でもできるだろうという慢心はいつか痛いしっぺ返しをくらうから。

それに、僕が知っている情報なんて一部でしかない。ニジゲンのゲーム中で語られることは当たり前だがストーリーに関係する部分だけでありすべてを語ってくれているわけではない。

例えば、襲撃のイベントもそうだ。
過去回想の中で魔人の襲撃を受けるという内容は語られているが、その詳細すべてが描かれているわけでない。
ストーリーの中で必要となるのはヒロインである『氷のレイン』が辛い過去を背負っているという事実だけだからだ。
きっと3年後実際に襲撃を受ける時に初めて知ることも多いだろう。

だからゲーム知識を頼りにしながらもそれに頼りきりにならず、現実と折り合いをつけていかなければならない。

この日は朝から夕方まで2人で片っ端から書物を調べて回った。
その甲斐あって色々と分かってきたことも多い。

一番の収穫は魔法に関してはニジゲンの世界よりも情報が少ないことが分かった。
きっと魔法に関しては秘匿されていることが多いのだろう。
ゲームの世界では主人公の魔法の師匠は、魔法を独自に研究しておりその内容を主人公に教えていた。
僕達プレーヤーは主人公視点でストーリーを追っているため、一般には出回っていない情報まで拾えているわけだ。

「人の身体には魔力器官と呼ばれる空気中に存在する魔素を取り込み魔力に変換する器官があり、魔力器官に蓄積された体内魔力を使って魔法行使している。
魔法は使うほど魔力と魔法練度が上達する。
魔法に費やす魔力量は魔力制御を上達させることでロスを抑えることが出来る。

なので、魔術師が鍛えるとなった場合の方法は主に2つ。
1つはひたすら魔法を使って経験を重ねること。
もう1つは魔力循環法という魔力を操作するテクニックを身に着けることで魔法制御を鍛えることだ。」

そう言うと、ダリウスは興味深そうに聞いてきた。
「魔力循環法って言うのはなんだ?」

「これは体内魔力を循環させるトレーニングの方法のことだと書いている。
 人間の身体には魔力器官の循環路である魔力腺というのが通っている。
 魔力腺には常に一定量の魔力が循環しているが、循環する魔力量を調節するトレーニングだ。
 魔力の緻密な制御ができるようになると1度の魔法で使用する魔力を減らすことが出来るので継戦能力が向上するので魔術師には必須のトレーニングだと書いている。」

「へー、そうなのか。
 じゃあ俺達もその方針で鍛えていくのか?」
ダリウスが聞いてきた。だが、僕は首を横に振る。

「いや違う。普通に鍛えるのは皆やってることだし、それでは急激な成長は望めない。その2つも鍛えていくけど、僕は魔力器官と魔力腺を鍛えることで強化を図っていこうと考えてる。」

「???」
ダリウスは首を傾げている。

「まず、魔力器官というのは魔力を貯めておく貯水池みたいなもんだ。
 魔法は貯水池から水を汲んできてそれを燃料に発現することになる。
 これは魔法に関する多くの本で書かれている。

 そして、簡易鑑定球などで示される魔力量というのは魔力器官に蓄積できる魔力量のことじゃない。
 魔力循環法にもあるように魔力腺を通して体内を循環している魔力がある。その流通量も加味された値がその人の魔力量となり、簡易鑑定球などで表示される魔力量になる。
 だから、魔力器官と魔力流通量の増幅をしたい。」

「俺も本を色々呼んだがそんな記述は見つからなかったぞ。」
ダリウスの指摘に僕は頷いた。

「そうなんだ。魔力器官の魔力量増幅や循環する魔力量を増やすと言ったアプローチのトレーニング法はどこにも無かった。
 単純に研究していないのか秘匿されているのかは分からない。
 魔力腺に関してはひょっとすると研究してない可能性もある。
 ただ、魔力器官については、貴族が秘匿しているんじゃないかと睨んでいる。
 魔法は一般的には貴族の方が魔法量も扱える魔法の種類も多いだろう。
 逆に、平民以下の人間は魔法で貴族を凌駕しては困るということでもある。

 そこで怪しんだのは魔力器官が出来てから鑑定の儀まで時間が空いてると言う点だ。
 シスターマリアの説明では魔力器官が出来て安定するまで時間を考慮して10歳になっていると言っていた。
 だけど、もしその安定するまでの間にトレーニングをすることで魔力器官の貯蔵量が増えるとしたらどうだ?」

「秘匿技術で貴族たちが魔力器官を強化することができるなら、平民との格差は広がるばかりだな。
 平民は貴族に逆らうなんてできない。」

「そう。そして魔力器官の強化は僕達が今からトレーニングするにはうってつけだと思う。」

「はー、すげーな。ここにある本読んだだけでそこまで分析したのか?」
ダリウスが感心してる。

「いや、流石に今日だけじゃないよ。前から調べてたからね。
 今日はまだチェックしてなかった本を読んでたんだ。
 多くの本を読んだけどやっぱり魔力器官や魔力腺の強化に言及した書籍は見られなかったよ。」

「じゃあ、これからはそのトレーニング方法を模索していくって段階か?」

「いや、その点は大丈夫。
 僕に<鑑定>スキルがあると分かった日から自分でトレーニングして効果が出ることを確認してるからね。
 後はダリウスにもやってもらって効果が出れば皆にも伝えようと思う。」

「マジか。仕事がはえーな。
 あー、でもそうなると、大人たちの魔力底上げは出来ないってことか。」

確かにダリウスの指摘の通り、魔力器官を鍛えるのは大人たちには効果が無いと思う。

「魔力器官の強化はそうだね。だけど、もう一つの魔力流通量を増やすトレーニングは大人にも効果があるはずだ。なんたって僕のトレーニングでは魔力腺を増やすためのトレーニングだからね。」

ダリウスはすげぇなと呆気にとられながら呟いていた。
驚いてもらっているところ悪いけど、これらは僕が考え出したトレーニングじゃない。
ゲーム中の主人公がやっていたトレーニング法を丸パクリしただけだ。
とはいえ、それを実践して有効だと分かったのは大きい。

この日から僕とダリウスは本格的にトレーニングを始めていった。
一か月もすると顕著な成果が出たため、周囲の子ども達を巻き込んでいき、半年もすると大人たちも巻き込んで魔力強化のトレーニングが行われることになった。

やがて、イーレ村は帝国から注目されることになるが現時点で彼等はまだそのことを知らない。
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