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過去回想のモブ編

第03話 死亡フラグを折るために

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ダリウスから殴られて2日後、またダリウスがやってきた。

「エドワード。ちょっと面かせ。」

「いきなりご挨拶じゃない、ダリウス。うちのエドに何かする気?」
隣にいたレインがダリウスに嚙みついた。

「うっ」と思わずたじろぐダリウス。
好意を持っている相手からきつく言われて、少し可哀そうになる。
言い方とかちょっと考えるべきだとは思うけど、ダリウスもまだ7歳だしね。

少し躊躇したダリウスだが、気を取り直して話を続ける。

「いや、エドワードに何かするつもりはない。
 ただ、気になる話をしていたので確認したくてな。
 おっと、すまんが男同士の話合いだ。2人で話がしたい。」

そう言われては僕も断りづらい。
だから、僕はレインに向き直り謝った。
「ごめんね。レイン」

エドワードとダリウスに言われてしまっては流石にレインも聞き入れないわけにはいかなかった。
不満気が表情を浮かべはしたが、しぶしぶ受け入れてレインは席を外していった。

レインが居なくなったことを確認して僕はダリウスに聞くことにした。
「それで、何の用?」

少々ぶっきらぼうになったのはご愛敬だ。

「ああ、お前に聞きたいのは2つ。
 1つ目は、お前、レインの事をどう思っている?」

そういう話が来るだろうなと思っていたが、まさかストレートに聞いてくるとは。
さて困った。予想はしていたが、なんとも答えにくい質問だ。

レインに対して愛情はある。
ただ、この愛情は恋愛感情というよりも家族愛に近い。
前世の記憶を取り戻す前のエドワードは姉や妹のように育ったレインを大切に想っているがそれが異性に対するそれかと言われれば違うと言わざるをえない。
その気持ちは今の僕にも引き継がれているため、レインに対してそういう気持ちが大きく占めている。また、前世の記憶を持つ僕は大学生なので、一桁代の女子に恋愛感情を持つことは難しい。
エドワードとして過ごして行けば、やがて恋愛感情も芽生えるのかもしれないが、少なくとも今はそうじゃない。

ダリウスはレインのことを異性として好いている。
だからこそ、真剣に僕に尋ねているのだ。
真剣な問いには真摯に答えてあげなければならない。

「レインのことは好きだよ。けど、それは家族愛のようなものだよ。
 兄妹のように育ってきたからね。
 ダリウスの質問の意図はそういう好きじゃないんでしょ?
 なら、答えは「分からない」だね。僕はレインに対してそういった感情は今のところ無いから。」


「そうか。」
ダリウスはどこか納得できないという表情をしていたが言葉を飲み込んだようだ。

「では、2つ目だ。
 2日前にお前が呟いてた、「襲撃」というのは何だ?
 あと「ダイガクセー」というのは初めて聞く言葉だがどういう意味がある?」

2つ目の質問に驚かされた。
独り言が聞かれていた。これは非常にまずい。あと普通に恥ずかしい。

イーレ村は辺境にあるため、人があまりやってこない。
そのため、盗賊などの悪人もやってこない。
こんな辺境を襲っても旨味がないからだ。

一方で、ゴブリンやコボルトなんかの魔獣は結構な頻度で現れる。
今のところ、村の男衆が協力して撃退できているので平和に暮らしていけている。

だからこそ、襲撃という強い言葉には反応してしまう。
イーレ村の村長の息子という立場的にもスルーできる言葉ではないのだろう。

さて困った。
馬鹿正直に僕の前世で遊んだゲームの知識で未来を知っていると説明しても無駄なのは火を見るよりも明らかだ。
何故なら、世界も文化も文明も全く異なっているから。前世は科学技術が発展し娯楽も多くあった。
一方、今は辺境の地にいて科学だとか娯楽なんかと縁遠い位置にいる。
その状況で前世のテレビゲームの話をしても理解されるはずもない。

かといって、夢の出来事で全然デタラメなんだと誤魔化す気はない。
何も行動を起こさなければゲームの通り、3年後に死んでしまうからだ。
なので、イーレ村の人たちが理解できる形に落とし込んだ上で説明しつつ、協力してもらわなければならない。

さてどうしようかと悩んでいると、

「はぁ、面倒くせぇ。」
ダリウスはボリボリを頭をかきながら話を続けた。

「あれか。えーっと神様のあれ。たしか、神託って言うんだっけか?」

思わぬ事を言われて一瞬呆気に取られてしまった。
だが、なるほど。
ダリウスの勘違いなのだが、宗教を絡めると言うのは良いアイディアだ。

僕はシスターマリアの経営する孤児院の子で、昔から教会に携わっている。
まぁ、礼拝堂の掃除だとか食事前の御祈り程度で信心深いわけじゃないけど、それでも神様からのお告げを受けたと言い張ってもなんとか納得してもらえるだろう。
他にアイディアも無いし、ここはダリウスの勘違いに便乗しておこう。

「そ、そうだよ。今のは神託。つなり神様からお告げを受けたんだ。」
僕は神託を受けたと説明することにした。
「ほぅ」っと、ダリウスは興味深そうな表情を浮かべている。

よし。大丈夫だ。押し通せる。

「急に言われてもしょうがない信じられないと思う。僕も半信半疑だよ。
 3年後にイーレ村が魔族の襲撃を受けて皆殺しにされるだなんて。」

「…」
ダリウスは絶句して固まっていた。
それもそのはず。いきなり3年後に殺されるなんて聞かされて驚かない人はいないだろう。
少ししてダリウスは決心した表情をして尋ねてきた。

「そうか。それで、お前はどうする?」

「えっ?」今度は僕が思わず固まった。
バカバカしいと一笑されると思っていた僕にとってダリウスの反応は予想外だった。

「その襲撃が3年後に来るとしてお前はどう行動するんだと聞いている。」
「話を信じてくれるの?」
「だってそれが神託なんだろ?
 俺だって冗談で言ってるのか真剣に言ってるのかの区別くらいはつく。
 その上で、お前は真剣に悩んでるってことは少なくともお前の中では襲撃の可能性があるということだ。
 なら、その可能性を考慮しておくべきだろう。襲撃が無ければそれでいい。
 という訳で、お前はどうするんだ?」

僕は首を傾げた。
ダリウスは何故僕のこれからの方針を気にするのだろう?
あ、もしかして。

「ひょっとして、協力してくるの?」
思わず聞いてしまっていた。

「村の一大事かもしれんのだ。村長の息子としては協力するのは当然だ。
 とはいえ、神託といっても大人たちは子供の戯言程度にしか受け取らんだろう。」
ダリウスの言葉に僕は頷いた。

「だろうね。だから僕は君以外には誰にも話していない。
 まずは僕自身が強くなる。
 次に、そのノウハウを大人たちに教えて村の戦力を底上げしようと考えているんだ。」

ダリウスは僕の言葉にピクリと反応した。

「なるほど。イーレ村は魔獣騒動が頻繁にある。
 戦力が強化されることは喜ばしいことだ。
 だが、強くなると言っても具体的にはどうするつもりだ?」

「この3年の猶予期間で強くならなきゃいけない。
 フィジカルを鍛えるのは今でもやってるけど、僕達はまだ子供だ。
 伸びしろはあるだろうけど、襲撃の時までに間に合わない。
 だから、メインで鍛えるのは魔法とスキルに限定する。」

「魔法とスキル…。普通は時間をかけて伸ばしていくものだぞ。
 神託の襲撃に間に合うのか?」

ダリウスの問いに僕は頷いた。
この世界がニジゲンの世界だとすれば、やりようはある。
ゲーム内で主人公のステータスが爆上がりしたのは主人公補正もあるが、他の人が気づいていない効率的なトレーニングがあるからだ。
つまり、その知識を活かせば僕らモブでも短期間で強化が可能なハズ。

確証はない。だけど、このまま抗うこともしなければ死ぬだけだ。
なら、ゲーム知識だろうと使えるものは何でも使って運命に抗ってやる。

「確かめてはいないけど、僕の考えている方法で鍛えれば今より圧倒的に強くなれる。襲撃してくる魔人と戦える程度には。」

ダリウスは一瞬驚きの表情を見せたがすぐにニヤリと笑みを浮かべた。

「へぇ、自信があるって顔だな。
 正直今までは頼りなさげな姿にイライラさせられたが、今のお前は覚悟を決めたようないい顔をする。
 神託が本物かは分からないが、俺もお前に乗った。
 トレーニングに付き合うぜ。」

「はっ?」
突飛な申し出に間抜けな声が漏れた。

「いや待てよ。この際だ。
 イーレ村の子ども達全員でトレーニングするか。
 うん。その方が確実だな。よし決定。」

ダリウスはそう言って頷いている。

「いやいや、待って待って。
 なんで急にそんな話になるんだよ。理由を教えてくれ。」 

僕は大慌てでダリウスに説明を求めた。
なんでダリウスはキョトンとしてるんだ。

「意味分からないか?
 お前は大人に自分のトレーニング法を教えるつもりなのだろう。
 自分自身の成果を説得材料として。
 だけど、それじゃ大人は納得してくれないぞ。
 考えてもみろ、年端もいかぬ子どもが大人に意見したところで笑っておしまいだ。
 お前が成果を出しても、才能があったんだで片付けられてしまう。
 意見が無視されないようにするには、成果の数を見せるしかないだろう。
 つまり、子ども達がみんな成果を発揮すれば大人たちだって耳を貸さざるを得ないだろうってことよ。」

ダリウスの鋭い言葉に僕はドキッとした。
1人でやれることには限界があるからこそ、大人を巻き込もうとしている。
だが、同時に大人たちが話を聞いてくれなければ諦めて自分で襲撃に備えるように考えていた。

大人が子どもの話を真剣に聞いてくれるためには理由付けが必要だ。
それが実体験による成果なら大人たちも聞き入れてもらえると思っていた。

だが、ダリウスは甘いという。
1人の成果では大人は耳を貸さないだろう。仮に貸したとしても、トレーニングを真剣にしてくれるかは疑問が残るというのだ。
だが、子ども達が軒並み成果を出したなら話は変わる。

子どもが出来たことを大人たちがやれない道理はない。
そのため、大人たちに半ば強制的にトレーニングをさせることが可能となる。
成果の質ではなく成果の量で説得するべきというダリウスの言葉は正しい。

「うん。分かった。」
僕の言葉にダリウスはしてやったりといった顔でニヤリと笑みを浮かべた。

「ただ、問題がある。
 トレーニングするにも、僕達は自分の適性やスキルを知らない。」

ニジゲンはゲーム世界だけあって自分のステータスを確認することが出来る。
恐らくこの世界にも鑑定できる魔道具があるはずなのだが…。

「そういうことなら大丈夫だ。
 年一回の鑑定の儀で使用する簡易鑑定球の保管はうち村長の家でしてるからな。
 今日…は親父がいるからダメだな。明日なら会合で出かけてるはずだ。明日うちに来な。簡易鑑定球使わせてやるよ。」
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