森の薬師様と私

もちだもちこ

文字の大きさ
上 下
27 / 38

27、聖女と呪い

しおりを挟む
「聖女様…」
「なんて美しい…」
「聖女様…聖女様…」

カーチスさんが倒れた女性を支え、白金の髪の女性は何やら呼びかけているようです。
倒れたということは病気かも……聖女様なら奇跡が起こせるかもしれないけれど、ここはマール様にお願いしなくてはならないかもしれません。
マール様は隣の部屋に薬箱を置いていたはず。急がないと……
隣の部屋を開けようとすると同時に、オルさんが飛び出してきました。

「…っ!!ミラ!!」

「オルさん!!外で倒れている女性がいて…今はカーチスさんと聖女様と呼ばれている方がついているのですが…マール様はどちらに!?」

「マールは外に出た。俺が薬箱を持って行くから、ミラは部屋から動くな」

「そんな!!」

「落ち着け、聖女と呼ばれている女がいるなら、お前が外に出たら要らぬ混乱を招く」

悔しいけれど、オルさんの言葉は正論です。
しかも私は薬学を勉強し始めたばかり…役に立てることも少なく、外に出たら混乱を大きくしてしまうだけです…。
項垂れている私の頭をオルさんは優しく撫で、薬箱を持って宿の外へ出て行きました。

私は部屋でマール様を待つしか出来ないのでしょうか…。

キューン?(主達以外、ミラの姿は精霊魔法で見えないはずだよ?)

「シロさん!」

抱いている腕の中で、シロさんは呆れたような鳴き声を出しました。
確かに…人から見えないようにする精霊魔法だと、マール様もおっしゃってました。

キュンキュン!(こっそり行けば大丈夫だよ!)

「それって…大丈夫じゃなさそう…」

窓から外を見ると、薬箱を持ったオルさんがカーチスさんの所に走っていくのが見えます。
マール様の姿は見えません。

「急がないと…倒れた方が心配です。こっそり出てマール様を探しましょうか」

キュン!(行こう!)

外に出るとカーチスさん達を囲む人達が大勢います。どんどん人が増えていきます。
勇者様と聖女様の人気って凄いです……勇者様は偽物ですけど。
それよりも白金色の髪の女性はカーチスさんのお知り合いでしょうか。まさか本物の聖女様?とか?

シロさんを抱き直すと、意を決して人の波に飛び込みます。
心の中で謝りつつかき分けて進んでいくと、銀色の髪が見えてきました。その足元に倒れる女性と、支える白金の髪の……って、ふあぁぁぁ!!

伏せている瞳には長い睫毛。憂いを帯びた横顔に薄桃色の唇。薄く化粧をしているのか、甘い花の香りがします。
美しい!!美しいです!!
……あれ?おかしいですね?どこかで会ったような?

観衆の熱いため息が聞こえる中で聖女と呼ばれたその人は、女の私でも見惚れるほどの美しい顔をこちらに向けました。
その瞳は美しい紫で、みるみる大きく見開かれていきます。

「ミラ……ミラ!?何故ここに!?」

「……ふぇ?」

ぽうっとしていた私は、一瞬何を言われたのか分かりません。
その人が支えている女性はフードを被っていますが、覗く唇が真っ青で、意識も朦朧としているようです。
いけない!助けてあげないと!

「大丈夫ですか!?」

つい大声を出し、はたと気づく。
あれ?私って今……

倒れた女性の真っ白な手がゆらりと上がります。良かった、意識が戻って……

「見ツケタヨ。聖女」

しわがれた老人のような声。
フードの中から見えた目は暗闇の黒。昏い闇色。
真っ白な顔は、その顔は嗤っていて、ねっとりとした重い空気に息苦しさを覚えます。
女性はゆらりと立ち上がると、その白い手で胸についてた赤いブローチを掴み、私に向かって投げつけ……

「危ねぇ!!」

「危ないミラ!!」

同時に聞こえた声と、私を庇い覆い被さる甘い花の香りの中から、仄かに感じる薬草の香り。

「マール…様…?」

その美しい紫の瞳を細めて嬉しそうに微笑んだかと思うと、苦しそうに胸を押さえて私に寄りかかります。

「マール様?マール様!!」

「大丈夫…です…よ…」

「しっかりしろマール。とにかく宿に戻ろう」

「そんな!お医者様に診せないと!」

涙ぐむ私の手をマール様が掴みます。氷のように冷たい手です。さらに涙が溢れます。


「ミラ…さん…これは…呪いです…」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

もしも、いちどだけ猫になれるなら~神様が何度も転生させてくれるけど、私はあの人の側にいられるだけで幸せなんです。……幸せなんですってば!~

汐の音
ファンタジー
もしも、生まれ変わるときに神さまから一つだけ、なにか特別な力をもらえるなら? 女の子は「なにもいりません」と、答えましたがーー なぜか猫になったり、また転生して猫になったり。(作中でもさらっと割愛) やがて、“ヨルナ”という公爵令嬢に生まれ変わった女の子が、ちゃんと人としての幸せを掴みとるまでのお話。 ◎プロローグは童話風。〈つづく〉以降、転生ほんわかファンタジーで本人も回り(神様含む)も納得のハッピーエンドをめざします。全77話で完結します。 第一章「今生の出会い」 第二章「動き出す歯車」 第三章「運命の人」 エピローグ (タイトルがほぼあらすじです) (小説家になろう、エブリスタでも掲載しています)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...