森の薬師様と私

もちだもちこ

文字の大きさ
上 下
18 / 38

18、白金の髪

しおりを挟む
「オル、聞こえるかオル」

『んあ?なんだマールかよ』

「なんだとはなんだ。お前今どこにいる?」

『ナツキ町。一応冒険者ってことにしてる』

ずいぶん遠いところまで行ったな。オルにしては、かなり苦戦しているようだ。
魔王の残党探しなどと言うと大事になるから、オルも動きづらいだろう。

「そうか…何か分かったか?」

『ちょっとおかしな現象が起きた。もしかしたら一度王都に戻ってアイツに見せるかもしれねぇ』

「ミラに関係が?」

『…分からねぇ…けど…』

珍しく歯切れの悪い話し方をするオル。

「まぁ、それは彼に見てもらうとして。それよりもミラの髪色が元に戻った」

『何!?何故それを早く言わない!!』

「おい、それは予想出来てただろう?十六で解ける魔法だ。お前、ミラにどこまで話しているんだ?」

『ああ、両親は十年前の大戦で行方不明で、俺はミラを引き取った…と』

「まさか…それだけか?」

『それ以上言えねぇだろう?ミラはあの日、ショックを受けて寝込んで…起きたときには記憶があやふやになってたんだよ。かけられた魔法もあったし、そっとしておくしかなかった』

「…そう、か」

ミラの恐怖に怯えた表情。両手が血まみれだと言っていた。
もし、あの時のことがトラウマになっていたら…

それでも…

あの時の、幼いミラの笑顔。
美しかった。
何者にも汚されない美しさ。
僕は、ひと目で分かった。
なのに…。

「オルはミラの誕生日に一度戻って来れるか?」

『こっちの状況次第だ。努力はする。誕生日に二人きりにさせるとか…ただでさえ危ねーのに、ミラに手を出すなよ!』

「当たり前だ!ちゃんとしてから手は出す!」

『てめっ…ふざけんな!いい加減に…』

最後まで聞かずに魔道具の通信を切る。
まったくオルは、ミラのことになると過保護というか、親バカというか…。
とにかく、ミラの心が傷つかないよう、うまく記憶を取り戻せるよう努力しよう。
ミラの誕生日に、完全に解けてしまう前に。



===========================



「ふあああああああー…」

分厚い薬草の本をパタンと閉じ、思い切り伸びをします。
ずっと同じ姿勢でいたせいか、背中がすっかり固くなっていたようです。
足元で丸くなっていたシロさん(子犬バージョン)が、キュンと鳴いて膝に飛び乗ってきました。
どうやら疲れた私を心配してくれたみたいです。ありがたく真っ白なもふもふ毛並みを堪能させていただきます。ふわふわもふもふ癒されます。

「あ、いけません!今日は薬師様…マール様にクッキーを焼こうと思っていたのです!」

あれから薬師様をマール様と呼んでいます。
まだ意識しないでいると、つい薬師様と呼んでしまいます。
でもマール様と言うようになって、なんだか少し距離が近づいたような…ちょっとくすぐったいような、嬉しい気持ちです。

キュンとシロさんが鳴きます。
そうです、クッキー作らなきゃです。
朝食の後に生地を作って寝かしておいたので、オーブンに火を入れて、温まるまでに生地を薄く伸ばして型どりします。
表面に卵黄を塗って、オーブンが熱いくらいになったら焼き始める…と。

しばらくすると、バターの良い香りがします。
焼き具合を見てると、シロさんがキュキュンと鳴きました。

「そうですね、シロさん。これで出来上がりですね。成功して良かったです」

ひとつ取って半分に割って味見をすると、しっとりほろりとした歯触りで、ほんのりとした甘さがちょうどいい感じです。
キューンと鳴くシロさんに、残りの半分を差し出します。
サクサク食べるシロさん、キュン!と鳴きました。

「ありがとうございます!マール様の好みが分かるなんて、さすが眷属ですね……って、あれ?」

ふと気付きます。
おかしいです。
私……もしかして、シロさんと会話してませんか?

キュン!キュン!(やっと気付いたのミラ!にぶいなぁ!)

「えぇ!?」

(主が言ってたでしょ?銀や白金の髪は、精霊に愛されてる証なんだって。ミラは頭良いのに抜けてるんだからぁ)

そうです!確かにマール様が仰ってました!
マール様の言葉を忘れるなんて…教えていただいている身として、とんでもない事です!
私ったら…本当にダメダメです…



マール様にクッキーを持って行きましたが、落ち込む私を見てすごく心配されてしまいました。
さらに申し訳ない気持ちでいっぱいです。
あうううう……精進しなきゃです……

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...