森の薬師様と私

もちだもちこ

文字の大きさ
上 下
15 / 38

15、ミルク煮の師匠

しおりを挟む
喫茶店の店主らしき男性は、穏やかな笑顔を浮かべてゆっくりとお辞儀をします。

「いらっしゃいませ。森の喫茶店へようこそ」

「森の喫茶店…確かに森の雰囲気ですね」

「マスター、彼女はミラさん。僕のお世話係なんです」

「お世話係…マールの弟子なら優秀なのかな?」

「そ、そんな事…え?弟子?」

なんか前にもそんな事を言われたような…???

「薬師の世話係は、弟子と混同されるんですよ。気にしないでください」

綺麗に整った顔に艶やかな笑みを浮かべる薬師様。なぜ今そんな笑顔ですか。色気がダダ漏れですか。

「マスター僕はコーヒーを。ミラさんは…ミルクティーで良いですか?」

「はい」

「かしこまりました。少々お待ちを」

店主…マスターは再びお辞儀をし、カウンターの中へ移動します。
この豆をひき、サイフォンに火を入れて準備をしています。
コーヒーは苦手ですが香りは好きです。ランプのオレンジ色とコーヒーの香り、サイフォンの水のコポコポ鳴る音が、何だか幻想的な風景に見えてきます。

「僕はマスターの弟子なんですよ。実はあのミルク煮も、マスター直伝なんです」

「え、あのすごく美味しいミルク煮が?」

「おや、マールは今もちゃんと作っているのだね」

コーヒーとミルクティーを出しながら、マスターは嬉しそうに話します。

「ミルク煮はメニューに無いのだけれど、マールが元気の無い時に一度だけ出したら『弟子になるから教えてくれ』って、その理由が」

「マスター!」

薬師様が赤くなってマスターの話を遮ります。
マスターはクスクス笑いながら謝ると、ミルクティーをポットから洗練された動作でカップに注ぎました。
温かいミルクに茶葉を煮出して作ってくれてて、砂糖ではなく蜂蜜を添えてあります。
蜂蜜の柔らかい甘みが、温かいミルクティーにちょうど良く、一口飲むとホッとしました。

「やぁ、短い間とはいえ弟子だったマールが、初めて女の子を連れて来るなんて、何だか感慨深いよ」

「マスター…だからそういうのは…」

顔を赤くする薬師様、もしやマスター最強説があるかもですね。
初めて連れてきた女の子が私…?
すごく嬉しいと思いながらも、薬師様なら昔からモテモテだったのではないのでしょうか。
騎士様だった頃の薬師様…きっときりりとした、女の子の憧れの象徴みたいな…もちろん今も素敵ですけど!
や、好きとか、そうじゃなくて一般論ですよ一般論!
なぜか脳内で言い訳を考えてます。何でしょう、今日はなんだか変な思考に行きがちです…。

「ともかく、ここに連れて来れたので良かったです。少し休んだら出ますよ」

「おや、相変わらず慌ただしいね。次はいつになることやら…」

「マスターがミラさんに変な事を言うからです!」

「ははっ、いやすまない。ミラさん、よろしければまた来てください」

「はい!」

今度来た時は、騎士様だった頃の薬師様の事を聞きたいです。
許してくれれば…ですけど。薬師様が。

…無理ですかねー。



この後は雑貨屋さんとか布屋さんとか数軒見て、欲しかった布を手に入れた私はホクホクでした。
王都のファッションに触発された私は、帰ってから流行りのデザインの服を作ろうと思ったのです。
村にいる友達のアンにも作ってあげたいです。気に入ってくれると嬉しいのですが…。

王都の出口からしばらく歩いていると、大きいシロさんがきてくれました。
馬車で一週間以上かかる道のりは、シロさんの力で半日くらいです。
精霊って、本当にすごいです。



「ミラさん」

「何ですか薬師様?」

「僕の…世話係って色々大変だろうと思いますが、これからも…」

言葉に詰まる薬師様。
たぶん、あの王女様の件が尾をひいてますね。

「私には力も知識もないですが…薬師様のお世話係として、これからも頑張りたいです!」

私の気持ちを一生懸命、笑顔で伝えます。

「ミラさん…!!」

薬師様の太陽のような笑顔と、その後にギュッと抱きしめられて、私はハルノ村まで記憶がほとんど無いまま帰宅をすることになるのでした。

ひどいです薬師様…。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...