森の薬師様と私

もちだもちこ

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13、お誘い

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目が覚めると、見知らぬ景色に少し戸惑います。

「そっか…昨日は王都に来て、それから…」

一人で休むには充分な広さの部屋で、寝起きの私はベッドから動かず、しばらくぼうっと天井を見上げていました。

「よし!」

パンっと両頬を叩いて、えいやと体を起こします。
洗面台の鏡を見ると、腫れぼったいまぶたに赤い目をした自分が映って、ちょっと凹みます。

「顔色も悪いし…こんな顔見せたら薬師様に心配かけちゃいますね」

鏡に映る自分の白くなっている頬を撫でると、ずっと気にしていたソバカスが薄くなっていることに気づきました。

「室内で勉強することが多くなったから…でしょうか?」

水で冷やしたタオルを目に当てて、なんとか見せられる顔になった頃、ドアをノックする音が。

「ミラさん、朝食の時間ですが食べれますか?」

「あ、はい!今行きます!」

薬師様の声に、一気に胸の鼓動が高鳴ります。
昨日の夜はあんなに暗く考えていたのに、薬師様の声を聞いただけで心が明るくなるなんて、私ったら現金というか単純というか…
とにかく、考えててもしょうがないです。
私は、私が出来ることを精一杯やるだけです。
そしてそれが、少しでも薬師様のお役に立てるのであれば、お世話係として認めてもらえるのでは…なんて、楽観視しすぎでしょうか。



服装を整えて食堂に入ると、薬師様は先に座っていて、私に気づくと軽く手を振ります。
周りの視線が痛いです。薬師様ほどの美形は、やっぱり注目されてしまってます。
チクチク刺さる視線を気にしないようにしながら、薬師様の向かいの席に座りました。

「体調は大丈夫ですか?」

「はい。一人部屋をとっていただき、ありがとうございました。
おかげでぐっすり眠れました」

「そうですか…」

少し目を伏せた薬師様を見て、もしかしたら泣いたのがバレてるのかも…と思いましたが、原因も原因なので話す事は恥ずかしくて無理です。
ごまかすかのように周りを見ると、オルさんがいません。

「あの、オルさんは…」

「オルは王都に用事があるから、僕達は先に帰るようにと言ってましたよ」

「先に帰れと?」

過保護なオルさんが、私と離れるなんて珍しいです。私もやっと大人として認めてもらえたのでしょうか。
村長のオルさんが村を長く空けるのって良くないことだと思いますが、もしかしたら騎士時代の知り合いとか、お友達とかに会ってるのかもしれません。

「薬師様は、王都の知り合いの方に会わないのですか?」

「え?突然どうしました?」

目を大きく見開いてびっくりする薬師様。

「あの、元王都の騎士様と聞いたので。オルさんもカーチスさんとお知り合いでしたし…」

「ああ、そういうことですか。僕は遠征が多かったので、知り合いと呼べる人はオルくらいですよ。そのオルとも遠征の時に知り合いましたし…。その伝もあって、村の薬師として雇ってもらえましたから、僕は幸運でしたね」

それを言うなら、ハルノ村に薬師様が来ることが幸運でしょう。
薬師様なら引く手数多だと思います。
それよりも『遠征』と聞いて、私は驚きました。

「薬師様、まさか十年前の戦いを…」

村の年配の方々から聞きました。十年前の魔族との戦い、それはとても激しいものだったと。
その頃の薬師様は、まだ十代だったのでは…?

「まぁ、もう終わった話です。
それよりもどうでしょう、王都を見学してから帰りませんか?」

にっこりと微笑む薬師様。
その破壊的な笑顔に、私は黙って頷くことしか出来ませんでした。

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