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4、規格外な薬師様
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薬師様のお世話係をするようになってから、あっという間に一ヶ月が経ちました。
薬学の基礎は、薬草の事を学ぶところからだと、家の周りや森の近くで素材を採取したり、希少な植物を薬草園に植えたりと、お仕事はたくさんあります。
そんな生活の中で私は、初日にキュア草を探した時のような、不思議な何かを感じるのです。
求める薬草だけではなく、薬師様がどこにいるのかまで、なんとなく分かるようなのです。
薬師様は私がとても仕事熱心だと褒めてくださいますが、この不思議な感覚が少し怖いです。
それでも毎日は忙しくて、楽しくて…。
私の抱く小さな不安は、すぐに忘れてしまうのでした。
「この解熱に必要な『ウスラヒ草』は、冷暗所に置かないと痛みが早いです。
乾燥させると効力が無くなるので、保存に注意してくださいね」
「はい。薬師様」
「温熱湿布に必要な『ハシガミの根』は、料理にも使えるのでたくさん採りましょう」
薬師様は薬草について、ひとつずつ丁寧に教えてくださいます。
そして薬の事だけではなく、生活の知恵から他国の風土や料理まで、本当にたくさんの知識を持ってらっしゃいます。
私は、ふと疑問に思いました。
「薬師様、あの、その、薬師様について聞いても良いですか?」
『はい、どうぞ」
美しく整ったお顔に、甘く蕩けるような笑みを浮かべる薬師様。
お願いですから、そんな笑顔を見せないでください。
私はコホンと咳ばらいをして、最近働かせ過ぎの心臓を落ち着かせます。
「薬師様は、薬学の勉強を始めたのはいつ頃ですか?」
「え?そんな質問ですか?…そうですねぇ、本格的には3年前ですかね」
前半に何か引っかかりを感じますが、それよりも3年前?
確か『薬師の証』って、国から授与されるって…その認定試験は超難関で、少なくとも10年は勉強しないといけないってオルさん言ってましたよ?
3年前だと計算が合わないような…?
「えっと…それでは『薬師の証』を受けられたのって…」
「それも3年前ですよ。認定試験はすぐに合格したのですが、王都から出るのに時間がかかってしまって…
せっかくだから薬学を徹底的に勉強しましてね。おかげさまで新種以外の薬草は全て知ってますよ」
爽やかに笑う薬師様。
いや、おかしいですよ?
そんな方が辺境の村に来るなんて、おかしいですよね?
だって、明らかに天才、天才としか言えません!
これはもう薬師様というよりも、賢者様なのでは…!?
「いやいや、僕はそんな高尚な人間ではありませんよ」
「ふぅぇぇ!?心を読まれました!?」
「ミラさんは分かりやすいですからね。僕は確かに人よりも知識が豊富ですが、だからといって全てが見通せるわけではありません…」
「薬師様…?」
いつもの優しい薬師様の瞳が、少しだけ曇ったように見えました。
シロさんが心配そうに、キュンキュンと鳴きながら薬師様の足に体をスリスリします。
「シロありがとう。大丈夫ですよ。
さて!今日はみんな大好きな鶏肉のミルク煮にしましょうね!」
キュン!と嬉しそうなシロさん、私も思わず笑顔になります。
薬師様の料理は何でも美味しいですが、ミルク煮だけは私にも味の再現ができません。
ちょっと悲しそうな薬師様の顔も気になりましたが、今は今夜のミルク煮のために頑張ってお仕事しようと思います!
いつか、私も薬師様を支えられるくらいの、知識と力を持てるといいな…。
シロさんを膝に乗せて、優しく撫でる薬師様の髪は、窓から射す光を浴びてキラキラ光ります。
亜麻色が日の光で不思議な色を見せています。
「あれ?」
「どうしました?ミラさん?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬何かを思い出しかけたような…気のせいでしょう。
薬師様の天才っぷりに、今日はびっくりしすぎました。
私は私に出来ることで精一杯頑張ろうと、改めて心に誓うのでした。
薬学の基礎は、薬草の事を学ぶところからだと、家の周りや森の近くで素材を採取したり、希少な植物を薬草園に植えたりと、お仕事はたくさんあります。
そんな生活の中で私は、初日にキュア草を探した時のような、不思議な何かを感じるのです。
求める薬草だけではなく、薬師様がどこにいるのかまで、なんとなく分かるようなのです。
薬師様は私がとても仕事熱心だと褒めてくださいますが、この不思議な感覚が少し怖いです。
それでも毎日は忙しくて、楽しくて…。
私の抱く小さな不安は、すぐに忘れてしまうのでした。
「この解熱に必要な『ウスラヒ草』は、冷暗所に置かないと痛みが早いです。
乾燥させると効力が無くなるので、保存に注意してくださいね」
「はい。薬師様」
「温熱湿布に必要な『ハシガミの根』は、料理にも使えるのでたくさん採りましょう」
薬師様は薬草について、ひとつずつ丁寧に教えてくださいます。
そして薬の事だけではなく、生活の知恵から他国の風土や料理まで、本当にたくさんの知識を持ってらっしゃいます。
私は、ふと疑問に思いました。
「薬師様、あの、その、薬師様について聞いても良いですか?」
『はい、どうぞ」
美しく整ったお顔に、甘く蕩けるような笑みを浮かべる薬師様。
お願いですから、そんな笑顔を見せないでください。
私はコホンと咳ばらいをして、最近働かせ過ぎの心臓を落ち着かせます。
「薬師様は、薬学の勉強を始めたのはいつ頃ですか?」
「え?そんな質問ですか?…そうですねぇ、本格的には3年前ですかね」
前半に何か引っかかりを感じますが、それよりも3年前?
確か『薬師の証』って、国から授与されるって…その認定試験は超難関で、少なくとも10年は勉強しないといけないってオルさん言ってましたよ?
3年前だと計算が合わないような…?
「えっと…それでは『薬師の証』を受けられたのって…」
「それも3年前ですよ。認定試験はすぐに合格したのですが、王都から出るのに時間がかかってしまって…
せっかくだから薬学を徹底的に勉強しましてね。おかげさまで新種以外の薬草は全て知ってますよ」
爽やかに笑う薬師様。
いや、おかしいですよ?
そんな方が辺境の村に来るなんて、おかしいですよね?
だって、明らかに天才、天才としか言えません!
これはもう薬師様というよりも、賢者様なのでは…!?
「いやいや、僕はそんな高尚な人間ではありませんよ」
「ふぅぇぇ!?心を読まれました!?」
「ミラさんは分かりやすいですからね。僕は確かに人よりも知識が豊富ですが、だからといって全てが見通せるわけではありません…」
「薬師様…?」
いつもの優しい薬師様の瞳が、少しだけ曇ったように見えました。
シロさんが心配そうに、キュンキュンと鳴きながら薬師様の足に体をスリスリします。
「シロありがとう。大丈夫ですよ。
さて!今日はみんな大好きな鶏肉のミルク煮にしましょうね!」
キュン!と嬉しそうなシロさん、私も思わず笑顔になります。
薬師様の料理は何でも美味しいですが、ミルク煮だけは私にも味の再現ができません。
ちょっと悲しそうな薬師様の顔も気になりましたが、今は今夜のミルク煮のために頑張ってお仕事しようと思います!
いつか、私も薬師様を支えられるくらいの、知識と力を持てるといいな…。
シロさんを膝に乗せて、優しく撫でる薬師様の髪は、窓から射す光を浴びてキラキラ光ります。
亜麻色が日の光で不思議な色を見せています。
「あれ?」
「どうしました?ミラさん?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬何かを思い出しかけたような…気のせいでしょう。
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