森の薬師様と私

もちだもちこ

文字の大きさ
上 下
4 / 38

4、規格外な薬師様

しおりを挟む
薬師様のお世話係をするようになってから、あっという間に一ヶ月が経ちました。
薬学の基礎は、薬草の事を学ぶところからだと、家の周りや森の近くで素材を採取したり、希少な植物を薬草園に植えたりと、お仕事はたくさんあります。
そんな生活の中で私は、初日にキュア草を探した時のような、不思議な何かを感じるのです。
求める薬草だけではなく、薬師様がどこにいるのかまで、なんとなく分かるようなのです。
薬師様は私がとても仕事熱心だと褒めてくださいますが、この不思議な感覚が少し怖いです。
それでも毎日は忙しくて、楽しくて…。
私の抱く小さな不安は、すぐに忘れてしまうのでした。



「この解熱に必要な『ウスラヒ草』は、冷暗所に置かないと痛みが早いです。
乾燥させると効力が無くなるので、保存に注意してくださいね」

「はい。薬師様」

「温熱湿布に必要な『ハシガミの根』は、料理にも使えるのでたくさん採りましょう」

薬師様は薬草について、ひとつずつ丁寧に教えてくださいます。
そして薬の事だけではなく、生活の知恵から他国の風土や料理まで、本当にたくさんの知識を持ってらっしゃいます。
私は、ふと疑問に思いました。

「薬師様、あの、その、薬師様について聞いても良いですか?」

『はい、どうぞ」

美しく整ったお顔に、甘く蕩けるような笑みを浮かべる薬師様。
お願いですから、そんな笑顔を見せないでください。
私はコホンと咳ばらいをして、最近働かせ過ぎの心臓を落ち着かせます。

「薬師様は、薬学の勉強を始めたのはいつ頃ですか?」

「え?そんな質問ですか?…そうですねぇ、本格的には3年前ですかね」

前半に何か引っかかりを感じますが、それよりも3年前?
確か『薬師の証』って、国から授与されるって…その認定試験は超難関で、少なくとも10年は勉強しないといけないってオルさん言ってましたよ?
3年前だと計算が合わないような…?

「えっと…それでは『薬師の証』を受けられたのって…」

「それも3年前ですよ。認定試験はすぐに合格したのですが、王都から出るのに時間がかかってしまって…
せっかくだから薬学を徹底的に勉強しましてね。おかげさまで新種以外の薬草は全て知ってますよ」

爽やかに笑う薬師様。
いや、おかしいですよ?
そんな方が辺境の村に来るなんて、おかしいですよね?
だって、明らかに天才、天才としか言えません!
これはもう薬師様というよりも、賢者様なのでは…!?

「いやいや、僕はそんな高尚な人間ではありませんよ」

「ふぅぇぇ!?心を読まれました!?」

「ミラさんは分かりやすいですからね。僕は確かに人よりも知識が豊富ですが、だからといって全てが見通せるわけではありません…」

「薬師様…?」

いつもの優しい薬師様の瞳が、少しだけ曇ったように見えました。
シロさんが心配そうに、キュンキュンと鳴きながら薬師様の足に体をスリスリします。

「シロありがとう。大丈夫ですよ。
さて!今日はみんな大好きな鶏肉のミルク煮にしましょうね!」

キュン!と嬉しそうなシロさん、私も思わず笑顔になります。
薬師様の料理は何でも美味しいですが、ミルク煮だけは私にも味の再現ができません。
ちょっと悲しそうな薬師様の顔も気になりましたが、今は今夜のミルク煮のために頑張ってお仕事しようと思います!

いつか、私も薬師様を支えられるくらいの、知識と力を持てるといいな…。

シロさんを膝に乗せて、優しく撫でる薬師様の髪は、窓から射す光を浴びてキラキラ光ります。
亜麻色が日の光で不思議な色を見せています。

「あれ?」

「どうしました?ミラさん?」

「いえ、なんでもないです」

一瞬何かを思い出しかけたような…気のせいでしょう。
薬師様の天才っぷりに、今日はびっくりしすぎました。
私は私に出来ることで精一杯頑張ろうと、改めて心に誓うのでした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...