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まぁ、普通の人間でした。

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転生というか、魂の移し替えというか、融合というか。
俺、宮田一之介は地球ではない『異世界』で生きることになった。



とにかくクラウス・ドライ・エルトーデという名の少年は、生命力…生きる気力のようなものが少ない人間だったらしい。
それに比べて俺は「生きる!生きるよ!熱くなれよ!」なんて言えるほど暑苦しく生きてきた訳でもないし、ごく普通のサラリーマンの父とパートで働く母と小生意気な妹と住む、ごく普通の高校生だった。
「だった」と言うのは、まぁ過去の話だからで。

高校三年の大学受験追い込みの夏休み中に、暴漢からクラスメイトの女子を助けようとして無茶をした。
犯人は逃げたから、女子は多分無事だった…と思う。
後悔せずに反省はするタイプの俺だけど、死んだら元も子もない訳で…親には申し訳ない事をしたと思っている。本当に。

んで、話を元に戻すと、本来ならもっと優しい世界に置く魂を、うっかり厳しい世界に置いてしまったと『渡りの神』を名乗る少年が言った。
生命の神の仕訳ミスがあって、世界を『渡る』少年…神が尻拭いをしているそうだ。

「君の魂は強いんだよ」

「はぁ」

黒髪に真っ赤な瞳、Tシャツジーパンという、なんか適当な格好をした『神』を名乗る少年は言い切った。
強い魂ってなんだ?

「うん。そもそも君の魂はそっちじゃなく、こっちの世界のものだったわけ」

「そっちとかこっちとかは分かりませんが、とにかく俺はどうなるんすか?」

「まぁ、焦らないでよ。加護とかスキルとか付けたいでしょ?そっちで言う『チート』ってヤツだよ」

「え、いらないっすよ。そんなん付けられたら面倒くさそう…」

「問答無用で付けるけどね?」

「エー…」

マジか…やだなそういうの。魔王と戦えとか言われそうじゃん。

「そんな事言わないよ。戦う勇者の補佐をして欲しいだけで」

「それが戦えってコトじゃねーか!ざっけんな!あと心読むな!」

「神だからしょうがないよ。お茶の子さいさいだよ」

古っ。いや、それはともかくとして。
なんでそんな事になるんだ?勇者の補佐?もしやファンタジーな世界なのか?

「僕の世界はそっちで言う剣と魔法のファンタジーな世界ってやつで、精霊に祝福された勇者が魔王を倒すっていう伝説…戯曲の神がそういうの好きでさ…その勇者が生まれたんだよ。で、補佐役の子がこんなんなっちゃってさ。つーか、そもそも君がやる予定だったんだよ?クラウスくんだった子も頑張ろうとしてたみたいだけど、六才で力尽きちゃって…」

そう言われると、何だか悪いことをしている気分になるな…クソ。

「…わかったよ。んでもさ、魂を間違えたのはそっちなんだから、融通は色々聞いてくれよ」

「もちろん。まずは君の日本の家族には悲しみの感情を薄めておく。君を思い出すと安らぐ気持ちになるように感情の変換をする」

こいつ…俺のやって欲しいことを先回りで…でも有難いな。

「君の死は純粋な事故で僕らは関与してなかったけど、それくらいのケアは出来る。あとは加護ね。まずは生命の神、僕が関与したから渡りの神、あと君の勇気に感銘した勇気の神と力の神、地球の人間を守った感謝でガイアの神、ガイアは地球の神だけど二世界をまたぐ人生だからね」

「え、俺って死んだんじゃ?」

「正確には魂は死んでないよ。君のは強いからね。今までの記憶は持ったままクラウス君として生きてもらう」

「クラウスはどうなるんだ?」

「クラウス君はやり遂げたから普通に輪廻に乗って生まれ変わるよ。でも経験と知識は君に渡すって。君が違和感なく世界に溶け込めるように。よろしくって言ってた。彼は彼なりに幸せだったって」

「…そっか。なんか…なんて言えば良いのか分からないけど、次の人生は楽で幸せなのにしてやってよ」

「もちろん。あ、クラウス君の加護も君に付くよ。知恵の神と豊穣の神。ラッキーだね魔法使うの楽だよ」

「はぁ…」

加護の大売り出しだな。

「さて!もういいかな!特典として自分のステータスをいつでも見れるようにしておくよ!役立ててね!」

少年は明るく言い放つと、クルッと一回転して宙に浮いた。
いや、そもそもずっと浮いた状態だったのかもしれない。

「では、良い異世界人生を送ってね!」

視界がグラリと揺れて、そのまま俺は落ちていった。



異世界へ。




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