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お出迎え
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あまみは、猫のシロを抱きしめていた。
家の窓辺に、列車が停まっていた。星空の見える窓辺の向こうには、黒々とした田んぼが広がっている。あまみは、目をこすった。空中を飛ぶ列車なんて、聞いたことがなかったからだ。
列車の運転席から、だれかが顔をのぞかせた。耳がピンと立っていて、毛むくじゃらで、鼻の両方に猫のひげが三本づつ、生えていた。
「やあ、あまみちゃん」
運転席のその猫は、あまみに語りかけた。あまみは驚きのあまりぽっかり口をあけて、立ち尽くしている。
「いつもシロをだいじにしてくれてありがとう。お礼を言いたくて来ました」
そういうと、運転手は、自慢そうにひげをしごいた。猫の手で三本のひげがみゅっと曲がった。
「この列車、空を飛んでるの?」
あまみは、胸がどきどきしてくるのを感じた。聞きたいことがいっぱいあるようで、だけどなにを聞いていいのかわからなくて、気持ちがぐらぐらしている。
「そうですよ。このねこ列車は、空を飛んでいるのです」
運転手は、まじめな顔で言った。
「ぼくの名前は、みーたんと言います。長老から、あなたを猫の国へご招待したいという伝言をあずかってます」
「えーっ! 猫の国へ? ほんとうに?」
あまみは、思わず窓に近付いた。
「あまみ! だれと話してるの? もう寝なさい!」
家の一階で、ママが大声で叫んでいる。あまみは、壁の時計を見やった。夜九時だ。
「にゃあ」
シロが、腕の中から抜け出そうとしている。どうやら、列車に乗りたそうなのだ。あまみも列車を見つめた。ちょうど入口が窓辺のところに来ている。あまみはシロを放した。シロはひらりと窓辺に飛び移ると、そのまま入口へ。
「わたしも行く!」
あまみは、よっこらしょと窓辺に足を載っけた。ちょっと足元がふらついたけれど、なんとか列車の中へ入って行った。
すると、客席にいたのは、何百年も生きていたようなおじいさんだった。
車掌の制服を着た猫がやってきて、「長老、あまみさんとシロくんです」と、紹介した。
長老は、うむ、とうなずくと、
「ねこ列車へようこそ」
と、言ってにゃん、と鳴いた。
列車は、にゃっにゃ~と言って走り出した。
窓から外を眺めると、銀の鏡のような月が、真っ黒な田んぼを照らしていた。ねこ列車は その上空を、星に向かって走り出す。
「あまみちゃん、猫の国へ行ったら、なにがしたいかね? 縄跳び? かけっこ? ボール蹴り?」
長老が問いかけるので、
「メイに会いたい」
あまみがそういうと、長老は少し考え込んで言った。
「メイは、病気で死んだはずだが?」
「うん。とっても悲しかった。だからシロは、動物病院に行って、毎月お医者さまにみてもらってるんだよ」
あまみは、胸を張って答えた。
「そういうことなら、いいだろう」
長老は、重々しくそう言って、窓から身を乗り出した。
「見てごらん、あの海を渡ったところが、猫の国だよ」
列車は海を渡って猫の国へ着いた。列車が広場に降りると、楽団がいっぱい並んでいて、
「歓迎! あまみちゃん」
と書かれた横断幕が、広場を占領していた。ひっそりとした月の下、黒や茶色、三毛猫やブチといったさまざまな猫たちが、とりどりの服を着て、まじめくさってあまみとシロが降りてくるのを待っていた。
長老が合図すると、楽団が陽気な曲を奏で始めた。広場の猫たちは、みなうれしそうにダンスをはじめた。シロもいっしょに踊り始めた。
あまみも、いっしょになって踊り始めた。シロはダンスがとても上手だった。夢のような不思議な時間だった。
ところが、ふと、気づいてみると、いつのまにか楽団の曲はなくなり、長老も、車掌さんも、運転手さんもいなくなっていた。いるのはシロだけだ。いや、そうじゃない。メイもいる。あの賢そうなクリクリした目に三毛のからだ。二本足で立っている。
「猫の国へようこそ」
と、メイは、鈴のような声で言った。
「ああ、メイ! メイなの?」なつかしさがどっと押し寄せてきて、あまみはメイに駆け寄った。
「あんたやっぱり、ここにいたんだね! 元気だった?」
メイは、ふしぎな瞳であまみを見つめた。そしてついっと下を向いてしまった。なんだか泣いているように見えた。
「みんなに大歓迎されちゃったわ。どうしてなんだろう」
あまみが言うと、メイはあまみの手を握りしめた。
「あまみちゃんが、いつも学校でいじめられてるって話を長老にしたの。シロのことも話したわ。それで、猫の国に連れてくることになったのよ」
でも、人間が猫の国に長くいたら、死んじゃうの。とメイは言った。
「だから、もう少ししたら、おうちに帰らなきゃダメだよ」
「いやだ」
あまみは、手を放した。
「メイのそばにいる!」
「わがまま言わないで。わたしはいつも、そばにいるから」
メイは、涙をいっっぱい溜めた目で、あまみを見つめた。それは、あまみよりずっとあまみのことを思っているような目つきだった。
「もう、お帰りなさい。二度とここには来ちゃダメよ」
「やだ!」
大きな声を出したとたん、目が覚めた。
青白い月の光が射し込む、開けっ放しの窓。シロがすぐそばで眠っている。
そのとなりにママがいた。
「あまみ! ああ、戻ってきてくれた!」
ママは、あまみを抱きしめた。
その優しいぬくもりを感じながら、あまみはメイのことを思い、胸が締め付けられるように切なかった。
家の窓辺に、列車が停まっていた。星空の見える窓辺の向こうには、黒々とした田んぼが広がっている。あまみは、目をこすった。空中を飛ぶ列車なんて、聞いたことがなかったからだ。
列車の運転席から、だれかが顔をのぞかせた。耳がピンと立っていて、毛むくじゃらで、鼻の両方に猫のひげが三本づつ、生えていた。
「やあ、あまみちゃん」
運転席のその猫は、あまみに語りかけた。あまみは驚きのあまりぽっかり口をあけて、立ち尽くしている。
「いつもシロをだいじにしてくれてありがとう。お礼を言いたくて来ました」
そういうと、運転手は、自慢そうにひげをしごいた。猫の手で三本のひげがみゅっと曲がった。
「この列車、空を飛んでるの?」
あまみは、胸がどきどきしてくるのを感じた。聞きたいことがいっぱいあるようで、だけどなにを聞いていいのかわからなくて、気持ちがぐらぐらしている。
「そうですよ。このねこ列車は、空を飛んでいるのです」
運転手は、まじめな顔で言った。
「ぼくの名前は、みーたんと言います。長老から、あなたを猫の国へご招待したいという伝言をあずかってます」
「えーっ! 猫の国へ? ほんとうに?」
あまみは、思わず窓に近付いた。
「あまみ! だれと話してるの? もう寝なさい!」
家の一階で、ママが大声で叫んでいる。あまみは、壁の時計を見やった。夜九時だ。
「にゃあ」
シロが、腕の中から抜け出そうとしている。どうやら、列車に乗りたそうなのだ。あまみも列車を見つめた。ちょうど入口が窓辺のところに来ている。あまみはシロを放した。シロはひらりと窓辺に飛び移ると、そのまま入口へ。
「わたしも行く!」
あまみは、よっこらしょと窓辺に足を載っけた。ちょっと足元がふらついたけれど、なんとか列車の中へ入って行った。
すると、客席にいたのは、何百年も生きていたようなおじいさんだった。
車掌の制服を着た猫がやってきて、「長老、あまみさんとシロくんです」と、紹介した。
長老は、うむ、とうなずくと、
「ねこ列車へようこそ」
と、言ってにゃん、と鳴いた。
列車は、にゃっにゃ~と言って走り出した。
窓から外を眺めると、銀の鏡のような月が、真っ黒な田んぼを照らしていた。ねこ列車は その上空を、星に向かって走り出す。
「あまみちゃん、猫の国へ行ったら、なにがしたいかね? 縄跳び? かけっこ? ボール蹴り?」
長老が問いかけるので、
「メイに会いたい」
あまみがそういうと、長老は少し考え込んで言った。
「メイは、病気で死んだはずだが?」
「うん。とっても悲しかった。だからシロは、動物病院に行って、毎月お医者さまにみてもらってるんだよ」
あまみは、胸を張って答えた。
「そういうことなら、いいだろう」
長老は、重々しくそう言って、窓から身を乗り出した。
「見てごらん、あの海を渡ったところが、猫の国だよ」
列車は海を渡って猫の国へ着いた。列車が広場に降りると、楽団がいっぱい並んでいて、
「歓迎! あまみちゃん」
と書かれた横断幕が、広場を占領していた。ひっそりとした月の下、黒や茶色、三毛猫やブチといったさまざまな猫たちが、とりどりの服を着て、まじめくさってあまみとシロが降りてくるのを待っていた。
長老が合図すると、楽団が陽気な曲を奏で始めた。広場の猫たちは、みなうれしそうにダンスをはじめた。シロもいっしょに踊り始めた。
あまみも、いっしょになって踊り始めた。シロはダンスがとても上手だった。夢のような不思議な時間だった。
ところが、ふと、気づいてみると、いつのまにか楽団の曲はなくなり、長老も、車掌さんも、運転手さんもいなくなっていた。いるのはシロだけだ。いや、そうじゃない。メイもいる。あの賢そうなクリクリした目に三毛のからだ。二本足で立っている。
「猫の国へようこそ」
と、メイは、鈴のような声で言った。
「ああ、メイ! メイなの?」なつかしさがどっと押し寄せてきて、あまみはメイに駆け寄った。
「あんたやっぱり、ここにいたんだね! 元気だった?」
メイは、ふしぎな瞳であまみを見つめた。そしてついっと下を向いてしまった。なんだか泣いているように見えた。
「みんなに大歓迎されちゃったわ。どうしてなんだろう」
あまみが言うと、メイはあまみの手を握りしめた。
「あまみちゃんが、いつも学校でいじめられてるって話を長老にしたの。シロのことも話したわ。それで、猫の国に連れてくることになったのよ」
でも、人間が猫の国に長くいたら、死んじゃうの。とメイは言った。
「だから、もう少ししたら、おうちに帰らなきゃダメだよ」
「いやだ」
あまみは、手を放した。
「メイのそばにいる!」
「わがまま言わないで。わたしはいつも、そばにいるから」
メイは、涙をいっっぱい溜めた目で、あまみを見つめた。それは、あまみよりずっとあまみのことを思っているような目つきだった。
「もう、お帰りなさい。二度とここには来ちゃダメよ」
「やだ!」
大きな声を出したとたん、目が覚めた。
青白い月の光が射し込む、開けっ放しの窓。シロがすぐそばで眠っている。
そのとなりにママがいた。
「あまみ! ああ、戻ってきてくれた!」
ママは、あまみを抱きしめた。
その優しいぬくもりを感じながら、あまみはメイのことを思い、胸が締め付けられるように切なかった。
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