七不思議と三人の冒険

翼 翔太

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真っ赤な桜と演奏会

真っ赤な桜と演奏会1

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 夏は終わったはずなのに、まだまだ暑い。運動会の練習もカンカン照りな太陽の光のせいで疲れがたまる。それは元気なカオル、レン、あすかの三人も例外ではなかった。
「あっついなあ」
 流れる汗をぬぐいながらあすかは言った。五時限目という一番暑い時間の練習だから、無理もないだろう。三人の学年の演目は沖縄の踊り、エイサーだ。使う太鼓、パーランクーとばちも図工の時間に作った。ちなみにあすかのものはオレンジ色だ。
ちらりと校舎にとりつけられている時計を見ると、あと五分で授業が終わる。
「はい、少し早いけれど今日の練習はこれまで」
 先生の一言でみんなは教室に戻った。あすかはカオルとレンのもとに小走りで向かった。カオルは自分の青のパーランクーを叩いていた。レンに「うるさい」と注意されていた。あすかはレンと肩を並べた。
「まだあと一時間授業があるのかあ」
 カオルがめんどくさそうに言った。そんな彼にあすかは言った。
「あと一時間で帰れるじゃん」
「考え方を変えれば、だな」
 それでもカオルの表情は変わらなかった。

 三人は残りの授業を受け校庭にあるジャングルジムのてっぺんにいた。家に帰る子、遊具で遊ぶ子、リレーの練習をしている子など。そんな日常の風景を三人は見下ろしていた。
「なあ。まだ解明してない七不思議って、なにがあったっけ?」
 カオルは足をぶらぶらと揺らしながら二人に尋ねた。
 この古美が丘小学校には七不思議がある。これまでに三人は七不思議を解明してきた。
 二人の亡霊が住む、柱時計の亡霊。柱時計は職員室の前に置かれている。
 幽霊の子どもたちと先生が授業をしている、五年六組。
 放課後の理科室で呼びかけるとわからないことを教えてくれる、放課後の荻野先生。
 図書室にいると言われている恥ずかしがり屋な幽霊、図書室の女の子。ちなみに読む本に迷っているとおすすめの本が棚から落ちてくる。それが図書室の幽霊の女の子、まいがやっているということはカオルたちだけが知っている秘密だ。
 鏡に吸いこまれると戻ってくることができないと言われている、踊り場の大鏡。踊り場の大鏡は学校の鏡すべてとつながっているため、行きたいところを念じれば大鏡を使って移動できる。
 この五つが今まで解明してきた七不思議だ。解明する前と変わっているものもある。
「あとは……真夜中のピアノと真っ赤な桜、か」
「じゃあ、次は真夜中のピアノの真相でも調べてみようぜ」
 あすかが言った。
 真夜中のピアノ。深夜の二時に誰もいない音楽室からピアノのおどろおどろしい音色が聞こえる、という七不思議だ。
 しかしカオルの反応は「うーん……」といまいちよくない。まるで何度も同じゲームをしたあとのようだ。そんなカオルを不思議そうに見つめながら、レンが尋ねた。
「どうしたんだ?いつもならはりきって解明するじゃないか」
 カオルが乗り気でないためか、結局その日は真夜中のピアノを解明する日は決まらなかった。

 カオルは家に帰るとすぐに二階の自分の部屋に上がった。ランドセルを床に放り投げ、ベッドに寝ころんだ。体が今の気分のように沈んでいく。レンやあすかは、カオルの様子を不思議そうにしていた。しかしカオルにはわかっていた。真夜中のピアノを、いや七不思議すべてを解明してしまうのがさみしいからだ。ずっと三人で秘密の遊びをしていたいのだ。
 カオルは寝がえりをうった。けれどこのまま中途半端にもしたくない。頭の中が、いや心がもやもやする。そのもやもやを晴らしたくて、カオル算数の答えを導く以上に考えた。
 初めは退屈しのぎだった七不思議の解明。知っている内容とちがっていたり、だれも知らなかった真相があった。七不思議の幽霊たちとも仲良くなった。残りは二つ。それらの本当の姿を知らずに、このままでいる?
「そんなの、いやだっ」
 がばっと勢いよく起き上がった。いつまでももやもやしているのはきらいだ。難しいことを考えるのはカオルの担当ではない。決めた。七不思議をすべて、レンとあすかの三人で解明するのだ。
「よし!明日、日にちを決めるぞ!」
 そう言ったカオルの顔はすっきりとしていた。
 次の日の放課後。いつものように三人はジャングルジムにいた。ぼーとしていると、カオルが口を開いた。
「おれさ、七不思議が全部わかっちゃうのが、さみしかったんだよなあ」
 少し驚いたように、二人がカオルを見た。
「それ、オレも思っていた」
「おれも」
 あすかとレンが言った。カオルは二人が自分と同じ気持ちだったことに驚いたけれど、心がひとつになったようでうれしかった。
「でもこの七不思議の解明が終わったからってオレたちが、友達じゃなくなるってことはないじゃないか」
「ああ、そうだよな。
 よし!真夜中のピアノのこと、調べようぜ」
 たがいの顔を見て力強くうなずきあった。

 三日後、金曜日の夜。いつものように校門に集まり夜の学校に忍びこんだ。初めのころのような怖さはない。今では学校のちがった顔を知っていることに、少し優越感を感じるようになった。静けさと暗闇に慣れたこともあるだろうが、ほとんどの七不思議は三人にとって恐ろしいものではなくなったからだ。
 音楽室は北校舎の四階にある。鍵がかかっているため北校舎の女子トイレから侵入する。
「なんか北校舎に入ることが多いなあ」
「特別教室が集まっているからな」
 レンはカオルに言った。三人の階段をあがる足音が響く。初めは怖かった暗闇と静けさだけれど、今ではずいぶん慣れた。心にも余裕ができた。
 そのときあすかが自身のくちびるを人差し指で押さえて、しっと静かにするように合図した。ぽろん、ぽろんと音が聞こえてきた。どうやらピアノのようだ。ゆっくり顔を見合わせた。ここは三階で音楽室は四階にある。忍び足で階段を上った。ピアノのメロディーが大きくなっていく。よく聞くとそれは校歌だった。音楽室の前に着いた。校歌は三番にさしかかっていた。三人はひょっこりと窓から中をのぞきこんだ。ピアノのふたは開いて、人影が見える。顔は見えない。体がメロディーにのって踊っているようだった。ぽろろんと弾き終わると、人影が顔を上げた。目が合った。どんな表情かはわからないがそう思った。三人は構えた。カオルは合気道、あすかは空手の型だ。レンは剣道の構えをしようと思ったけれど、竹刀の代わりになるものがなかった。一番身長の高いレンは二人の盾になろうと、一歩前に出た。三人の家は道場で大人も顔負けの強さだ。
『やあ、こんばんは』
 はじかれるように声のほうをむいた。ドアからぬうと上半身だけがすり抜けていた。予想の斜め上の登場に三人とも肩がびくんとはねた。美術室に置いてある彫刻のように彫りの深い顔の男だ。けれど険しさはなく、りりしい眉毛に目は少年のようにきらきらしている。
『ああ、待って!怖がらないでおくれよ』
 幽霊はすり抜けた格好のまま、三人をひきとめて自己紹介をした。へらと力が抜けそうな笑顔だ。
『おれは高宮。この学校で音楽の先生をやっていた。親しみをこめてタカミー、と呼んでくれ』
 タカミーはきざっぽくウィンクをした。今までにいなかったタイプの人に、三人は目をぱちくりとさせた。少しテンションについていけない。そんなこと気にせずにタカミーは尋ねた。
『こんな夜遅くに一体どうしたんだい?おれみたいに幽霊がたくさんいるのに』
「えっと、おれたち七不思議の解明をしていて……」
 カオルがそう説明すると、タカミーは興味を持った。
『へえ。今日はどんな七不思議を解明しにきたの?』
「えっと、真夜中のピアノっていうやつで」
『へえ!どんな七不思議なんだ?』
 レンはいやレンだけではなく全員が変だ、と思った。あのカオルでさえも。タカミーに背中を向けて肩を寄せ合ってひそひそと緊急会議をはじめた。
「なあ、もしかしてタカミーって自分が七不思議だってわかっていないのか?」
「そうかも」
「え……こういう場合って言っていいのか?」
「言わないと、いつまでも気がつかないんじゃないか?」
 タカミーは三人の会議を不思議そうに眺めていた。会議が終わった。くるりとタカミーと向き合う。カオルとあすかがレンをひじでつついた。レンだけ一歩前に出る。一番正確にうまく伝えられるからだ。ただレン本人は少しいやそうだったが。
「えっと、真夜中のピアノっていうのは多分……タカミーのことだと思う。さっきもこんな時間にピアノ弾いていたし」
 タカミーは目を丸くしていた。幽霊である自覚はあっても、七不思議になっているとは思っていなかったようだ。けれど心当たりがあるらしく「そういえば……」と腕を組み、思い出しはじめた。
『どれくらい前か忘れたけれど、こんな風に子どもたちがきたんだ。けれどその子たち、音楽室で走り回るし楽器を乱暴に扱うから姿を消して驚かしたんだよなあ。ピアノをジャジャジャーンッて鳴らして』
 それが人から人に伝わって真夜中のピアノの姿になったのだろう。音楽の先生だったなら楽器が雑に扱われるのは、腹立たしいことだろう。
『それに、ここの楽器たちはみんな生きているからね。真夜中しか目を覚ますことはないけれど』
「え?」
 レンとあすかはなにかの例えだと思った。カオルだけリコーダーに手足が生え、アニメのように走り回っている姿を想像した。なんとなくそれがわかったレンとあすかは少し呆れた様子でちらりとカオルを見た。それに気がついた本人は「なんだよ」と、ばつが悪そうだった。
『そろそろ起きる時間だ』
 窓際の壁にかかった時計を見てタカミーが言った。二時だ。するとカタカタ、カタカタ、と楽器が動きはじめた。輪郭が淡く光っている。
「な、なんだ?」
 三人はなにが起こるかわからない不安から背中を合わせた。ふわふわとトライアングルやリコーダーなどの小さな楽器が浮いて、元の位置に落ち着いた。すると楽しげな声が朝の教室のように、にぎやかになってきた。
『おはよう』
『おはよー』
『まだ眠いよう』
『ほら、起きて起きて』
 カオルの想像のように手足が生えてはいないけれど、例えでなく楽器たちは生きていた。楽器たちは三人に気がつくと、あわてて元の姿に戻ろうとした。けれどタカミーが説明すると楽器たちは安心したようだ。
『おれがこの教室にきたときには、すでに楽器たちには命が宿っていた。といっても昔寄贈されたものや、長いあいだ使われているものだけみたいだが』
 見てみるとたしかにそうだった。先日学校から買ってもらった木琴はしんとしていた。ぴかぴかの楽器に多くの生徒が触りたがった。丁寧に扱い、きちんと片づけをすることを条件にだれでも使っていいことになったのだ。
 あすかはとんとん、と肩をたたかれたような気がしてふり返った。そこには古びたトライアングルが宙に浮いていた。
『ねえねえわたし、しばらく誰に使ってもらっていないの。体がなまっちゃう。なにか弾いてくれない?』
 するとほかの楽器たちも『おれも』『ぼくも』と名乗りを上げた。タカミーは両手をぱんっ、と打った。
『よし、じゃあプチ演奏会をしよう。なにかリクエストはある?』
 あすかがすっと手を挙げた。
「えっと翼をください、とか」
 あすかの兄、カマクラがよく歌っているのだ。少し音程がずれているところがあるらしく、それを聴いたもうひとりの兄であるムロマチは「へたくそ」と笑うのだ。きちんと曲を聴いたことがないあすかは正しい音程をずっと知りたかったのだ。
『なつかしいな。おれもその曲、好きだよ。じゃあ楽器を選んで』
 楽器たちはだれが使ってもらえるかそわそわとしていた。悩んだがカオルはカスタネット、レンは鈴、あすかは話しかけてきたトライアングルを選んだ。
 タカミーはピアノの前に座り、弾きはじめた。タカミーは弾きながら歌う。カマクラは出だしの音程から間違っていたことがわかった。いつ、どのように楽器を鳴らせばいいのかわからなかったが、まるで吸い寄せられるようにそれぞれ演奏していた。楽器たちがリードしてくれたのだ。初めはそうやって演奏していたが、最後には楽器たち全員がメロディーを奏でていた。
 曲が終わると楽器たちはとても満足そうに笑っていた。いろんな楽器の音が笑い声になっている。けれどそれは耳をふさぎたくなるような不愉快なものではない。不思議と曲になっていて心地よかった。
『ちなみにこのピアノも生きているんだ』
『いやあ、楽しかったよ』
 低い紳士的なおじさんのような落ち着いた声だ。
『彼に弾いてもらうのは気持ちいいよ。乱暴に鍵盤をたたいたりしないし』
 タカミーは照れ笑いをした。その一言でカオルはタカミーの演奏を聴いてみたいと思った。
「なあタカミー。なにか弾いてくれよ」
『ああ、いいよ。曲はなにがいい?』
「任せるよ」
 カオルの返事を聞くとタカミーは少し考えた。そしてぽろろんと鍵盤をやさしく叩きはじめた。その表情はおちゃらけていたときのものとはちがい、真剣だけれどやさしい眼差しだった。幽霊のタカミーが音楽の先生に戻った瞬間だった。曲はカントリーロードだった。教科書にも載っていた。先日これがテーマ曲のアニメ映画をテレビで放送されたところだ。女の子とバイオリン職人を目指す男の子の話だった。三人とも自然と体が左右に揺れていた。聴いていると穏やかな気持ちになる、やさしい旋律だった。
 弾き終わるとタカミーは両手をゆっくり、ひざの上に置いた。
『知ってる?この曲。好きなんだ』
 人の好く笑みを浮かべた幽霊は音楽の先生から、おちゃめなタカミーに戻った。三人は拍手をした。それから何曲かタカミーの演奏を聴いた。ときどき輪に入りたい気持ちが抑えきれなくなった楽器たちが演奏に参加した。はじめは立って聴いていたけれど、それぞれいすを持ってきた。演奏を終えるとあすかが尋ねた。
「なんでタカミーはわざわざ夜の音楽室にいるんだ?最近はみんな幽霊といっしょに遊んだりするのに」
 三人が七不思議を解明したことで幽霊の子どもたちの教室が与えられ、クラブ活動までしていいことになった。そのため、この学校の生徒たちは幽霊に対してあまり怖いと思わなくなっていた。もちろん幽霊が苦手という子もいる。それでも仲良く過ごしている。最近学校の様子が変わってきていることは、タカミーもなんとなくわかっていた。それが目の前にいる三人組の力だということは知らなかった。『うーん』と腕を組んで考えた。それは理由を考えているというより、伝えるための言葉を作っているように思えた。
『まあ夜のほうが楽器たちとおしゃべりしながら演奏できるし、ゆっくりできるからかな。じつはそこの音楽準備室からのぞいたりしているんだ』
 タカミーは黒板の横の扉を指さした。となりは音楽準備室といって先生しか入られない部屋だ。あまり使われない楽器や古い教科書が置かれているのを、カオルはちらりと見たことがあった。
「そうなのか?全然気付かなかった」
 カオルの言葉にレンとあすかもうなずいた。タカミーは『邪魔にならないようにしているからな』と言った。少し子どもっぽい笑顔だった。
『みんなが歌ったりクラブで練習しているのを聴いていると、やっぱり音楽っていいなあって思う。なかなか快適なんだ』
 カオルやあすかがタカミーと雑談をしているあいだ、レンはふと時計を見た。三時になろうとしていた。楽器たちがあわててもとの位置に戻っていく。
「どうしたんだろう?」
『ああ、もうこんな時間か。彼らは二時から三時の一時間しか起きていられない。それ以上起きていると楽器そのものと魂が傷ついてしまうから。そうなってしまったらもう演奏することはできない』
 メロディーを奏でることができない。それは楽器にとって死ぬことと同じだ。
『おやすみ、みんな』
『おやすみー!』
 カチッと長い針がてっぺんにきたのと同時に楽器たちは眠りについた。
『さあ、君たちも帰りなさい。またいつでもおいで』
 タカミーは先生としてやさしく三人に言った。真夜中のピアノも解明できたので帰ることにした。タカミーは三人の姿が見えなくなるまで廊下で見送っていた。

 三日後の月曜日。学校は今日もにぎやかだ。給食も食べ終わった昼休み。カオルたちは五年六組にいた。みわ子先生に真夜中のピアノのことを話していた。
『そうだったの』
 そして教室を素早く見回し、だれも話を聞いていないことを確認するとみわこ先生は三人に耳打ちをした。
『あの、その先生に会うことってできる?』
「できるだろうけれど、どうしたんだ?」
 あすかが尋ねた。みわ子先生が照れくさそうに言った。
『実は最近音楽の授業もしたいって言われているんだけど……わたし、音痴なのっ。今はなんとかはぐらかしているんだけれど、そろそろ限界で……』
 みわ子先生は真剣なのだがみんなにばれないようにごまかしている姿を想像すると、なんだかおかしくてカオルたちは笑いそうになった。なんとか我慢したけれど。
「わかった。じゃあ今週の金曜日の夜に行ってみよう。タカミー、昼はこっそり隠れているから」
『ありがとうっ』
 カオルがそう言うとみわ子先生はほっとした様子だった。それにカオルたちもタカミーや楽器にもう一度会いたいと思っていた。
 そして金曜日の夜。みわ子先生とは音楽室の前で待ち合わせをしている。階段を上がっているとぽろろんとピアノの音が聞こえてきた。最初のような恐怖はなく、昼間と同じように音楽室へ向かう。するとみわ子先生がもう待っていた。ピアノの音色を聴いている。合流して静かに音楽室に入った。それに気がついたタカミーが演奏をやめ、顔を上げた。
『やあ、君たちか。……そちらの人は?』
 レンがみわ子先生を紹介してタカミーに事情を説明した。タカミーは快く引き受けてくれた。
『また生徒に教えることができるなんて、なんだかうれしいな。
 みわ子先生、どの日がいいとか指定はあります?』
『そうね、夜で今空いている時間は金曜日かしら』
『じゃあ金曜日にしよう。きっと楽器たちも喜ぶ』
 みわ子先生がタカミーに『よろしくおねがいします』とおじぎをした。あすかは以前から不思議に思っていたことを尋ねた。
「なあ、七不思議同士ってあんまり会ったりしないのか?」
 みわ子先生とタカミーはたがいに顔を見た。まるでそういえばそうだ、というように。図書室の女の子と、踊り場の大鏡が仲良しなのは知っているけれどそれ以外は聞いたことがない。
『あまりないな』
『わたしたちと荻野先生は会っていたけれど、仲が良かったわけではないから』
 五年六組のみんなはもともと理科室の荻野先生のことを恐れていた。今では五年六組のみんなも、学校の生徒とも仲良くしている。
「そうなのか。じゃあ真っ赤な桜のことは知らない?」
 あすかはだめは承知で尋ねた。みわ子先生とタカミーは思い出そうと考えた。
 真っ赤な桜。校庭にある桜すべてが真っ赤に染まる。その赤は桜の木で自殺した人の血や恨みを栄養としているから、と言われている。真夜中にまるで血しぶきのように咲き誇るらしい。それを見たものは自殺した人々の亡霊にとりつかれる、と言われている。
『あ、そういえば一度だけ見たことがあるわ』
 みわ子先生は言った。
『普段は北校舎で勉強していたんだけれど、その日は校内の植物の観察をすることになったの。桜があんまりにも真っ赤で怖くって、何人か泣いてしまったから中止にしたの。……たしか、今くらいの季節だったと思うわ。狂い咲きみたいって思ったから』
「くるいざき?」
 カオルが頭にはてなマークを浮かべながらとなりのレンに尋ねた。
「植物が本来の時期じゃないときに咲くことさ。秋に桜が咲いたりする」
 そういえばテレビのニュースで見たことがある。たしか温暖化の影響だと言っていた。
「じゃあ、毎日のように見張っているしかないかなあ」
「いや、もしかするともう咲いたかもしれない」
 うーんと三人がうなっていると、タカミーがはっとなにか思い出したような顔をした。
『そういえば……年に一度、楽器たちがあまり元気のない日がある。なにか関係あるのかもしれない』
「それってはっきりした日ってわかる?」
『うーん……たしか多分九月二十五日くらいだったと思う。運動会前か直後くらいだから。毎年カレンダーも見て、ああもうこんな時期かって思うから』
 運動会は毎年九月最後の日曜日だ。
「今年の二十五日は……金曜日か」
 黒板と音楽準備室の間に貼られたカレンダーを見てレンが言った。
「じゃあ……次の七不思議解明は二十五日に決定だな」
 あすかはあえて最後、という言葉は使わなかった。楽しい時間の中、さみしい気持ちになりたくなかったから。
                   
                           続く
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