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強いネズミ
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半年も経つと、ヴィントは立派にネズミ駆除課の一員となっていた。未だに駆除数一位になったことはないが、それでも時々三位になれるようになってきた。
ヴィントは今日も城の中を歩く。ただし、ウニの縄張り以外のところを。何度かウニの縄張りに入って「ここは私の縄張りよっ。勝手に入ってこないでっ」と言って何度もおもいきりパンチをされた。なかなか痛かった。ふだんはやさしいが、縄張りの中に入るとひょう変した。弟のエアデが言うには「姉ちゃんは縄張り意識、すっごく強いよ。昔から」ということらしい。
ふと目の端になにかが映った。ヴィントがふりむくと、細いしっぽが角を曲がった。ヴィントは足音をさせずに角を曲がって、すぐに走り出した。見事にネズミを捕まえる。ネズミをぷらぷらとゆらしながら、ネズミ駆除課の部屋へもどった。そして『ヴィント』と書かれた箱にネズミを入れる。するとネズミはゆかにとけこむように消え、名前の横に三、と数字が表示された。
「おやヴィントくん、今日はなかなか大量ですねえ。まだ午前中なのに」
なにやら紙を整理しているらしいライデンが言った。どうやら彼にはヴィントたちが捕まえたネズミの数がわかっているらしい。仕組みには興味ないヴィントにはどうでもいいことだった。
「なんか見つけた」
「いいですね。我々にとってネズミは、なかなかやっかいなので捕まえてもらえるとありがたいです」
そんな風に話していると、フォイアがネズミをくわえて入ってきた。ヴィントと同じようにする。フォイアはタワーのほうを見て言った。
「なんだエアデ、もうねてるのか?」
「だってなんだか眠いんだもーん」
「まあ仕事はきみたちのやりやすいペースでいいから」
ライデンはにこにこ笑みを浮かべながら言った。エアデは大きくあくびをして、また丸まった。
「それもそうだな。よし、おれはもういっちょ回ってくるかな」
そう言ってフォイアは部屋をあとにした。ヴィントは少し迷った。少し休むか、もう一度ネズミがいないか見回るか。気持ちよさそうに眠っているエアデを見ていると、休みたい気持ちが出てくる。エアデはぷすーっと小さくね息を立てていた。
「ちょっと休もうかな」
結局ヴィントもねどこに移動した。今週の自分のねどこ、下から二番目のところで丸くなった。すぐに眠気がおそってきて、あっという間に夢の国に旅立った。
次に目を覚ましたのは時計の長いはりが二つ分移動したあとだった。ヴィントはねどこから下りると、大きくのびをした。
「じゃあもう一周してこようかな」
ヴィントはネズミがいないか再び見回りに行った。
ネズミは意外に警戒心が強い。そのため道の真ん中を歩くことはなく、壁際や家具の側を通る。そのためヴィントたちは道の真ん中を歩きながらも、すき間や壁際に目を光らせる。ヴィントは渡りろうかをとおり、客間や王族の部屋がある棟へ行く。ただし女王の部屋から東はウニの縄張りなので、進めない。ヴィントは五つある客室の中でも一番渡りろうかに近いところに、猫用の入口から入った。部屋の中は金で縁どった家具や、広いベッドが置かれている。ヴィントは部屋をくまなく見て回る。家具と壁のすき間、部屋のすみ。ベッドの下に入るとそこには一ぴきのネズミがいた。目が合う。赤黒い目がヴィントを見つめた。体はこげ茶色なので暗さに溶けこみそうだった。
(よしっ)
ヴィントはネズミに体当たりしようとした。命中したネズミはベッドの外へとふき飛んだ。ヴィントはネズミが体勢を立て直す前にかみつこうとした。しかしネズミはすぐに立ち上がり、ヴィントにむかってきた。そしてジャンプしたかと思うと、細いしっぽで思いきりヴィントの顔をたたいた。
「このっ」
ヴィントはネズミをはたいた。多くのネズミはにげるが、このネズミはちがった。歯をむき出しにして、ヴィントに突撃してきたのだ。ヴィントの鼻に激痛が走る。ネズミがかんだのだ。
「痛いっ」
ヴィントはネズミを払いのけた。しかしネズミはにげることなく、ヴィントの体によじ登り、今度は耳をかじった。
「ぎゃあっ」
ヴィントが頭をふるとネズミは転げ落ちた。
「このぉ……」
ヴィントはネズミを押さえつけた。しかしネズミも負けずに暴れ回る。するとヴィントの手からネズミがすり抜けた。そしてヴィントの前足をかんだ。ヴィントは短い悲鳴を上げた。
「な、なんなんだ、このネズミ。なんでこんなに強いんだ?」
ヴィントはネズミをひっかこうとした。しかしネズミはすばやくよけて、ヴィントの鼻をもう一度かんだ。それもさっきより強く。
「ふぎゃあっ」
ヴィントが痛みにうめいている間にネズミはどこかに行ってしまった。
「いったぁ……なんなんだ、あのネズミ。めちゃくちゃだ」
鼻がじんじんと痛む。
「これ、怪我してないかな」
ヴィントは一度ネズミ駆除課の部屋にもどることにした。
鼻にじんわり血がにじんでいたので、パルが手当てをしてくれた。そのとき別のネズミを捕まえて帰ってきていたフォイアとヴァッサに笑われた。
「ネズミにやられたのかー。そりゃ災難だ」
「でもネズミに。ネ、ネズミに」
「だってほかのネズミとちがったんだ。すごく強くてすばやかったんだ」
ヴィントはフォイアとヴァッサに説明したが、二ひきは「はいはい、わかったわかった」と信じてくれなかった。
「まあまあ、きゅうそ猫をかむっていうし……」
「パルまでっ」
ヴィントはくやしくて、その感情をぶつけるようにつめとぎをした。
ヴィントは今日も城の中を歩く。ただし、ウニの縄張り以外のところを。何度かウニの縄張りに入って「ここは私の縄張りよっ。勝手に入ってこないでっ」と言って何度もおもいきりパンチをされた。なかなか痛かった。ふだんはやさしいが、縄張りの中に入るとひょう変した。弟のエアデが言うには「姉ちゃんは縄張り意識、すっごく強いよ。昔から」ということらしい。
ふと目の端になにかが映った。ヴィントがふりむくと、細いしっぽが角を曲がった。ヴィントは足音をさせずに角を曲がって、すぐに走り出した。見事にネズミを捕まえる。ネズミをぷらぷらとゆらしながら、ネズミ駆除課の部屋へもどった。そして『ヴィント』と書かれた箱にネズミを入れる。するとネズミはゆかにとけこむように消え、名前の横に三、と数字が表示された。
「おやヴィントくん、今日はなかなか大量ですねえ。まだ午前中なのに」
なにやら紙を整理しているらしいライデンが言った。どうやら彼にはヴィントたちが捕まえたネズミの数がわかっているらしい。仕組みには興味ないヴィントにはどうでもいいことだった。
「なんか見つけた」
「いいですね。我々にとってネズミは、なかなかやっかいなので捕まえてもらえるとありがたいです」
そんな風に話していると、フォイアがネズミをくわえて入ってきた。ヴィントと同じようにする。フォイアはタワーのほうを見て言った。
「なんだエアデ、もうねてるのか?」
「だってなんだか眠いんだもーん」
「まあ仕事はきみたちのやりやすいペースでいいから」
ライデンはにこにこ笑みを浮かべながら言った。エアデは大きくあくびをして、また丸まった。
「それもそうだな。よし、おれはもういっちょ回ってくるかな」
そう言ってフォイアは部屋をあとにした。ヴィントは少し迷った。少し休むか、もう一度ネズミがいないか見回るか。気持ちよさそうに眠っているエアデを見ていると、休みたい気持ちが出てくる。エアデはぷすーっと小さくね息を立てていた。
「ちょっと休もうかな」
結局ヴィントもねどこに移動した。今週の自分のねどこ、下から二番目のところで丸くなった。すぐに眠気がおそってきて、あっという間に夢の国に旅立った。
次に目を覚ましたのは時計の長いはりが二つ分移動したあとだった。ヴィントはねどこから下りると、大きくのびをした。
「じゃあもう一周してこようかな」
ヴィントはネズミがいないか再び見回りに行った。
ネズミは意外に警戒心が強い。そのため道の真ん中を歩くことはなく、壁際や家具の側を通る。そのためヴィントたちは道の真ん中を歩きながらも、すき間や壁際に目を光らせる。ヴィントは渡りろうかをとおり、客間や王族の部屋がある棟へ行く。ただし女王の部屋から東はウニの縄張りなので、進めない。ヴィントは五つある客室の中でも一番渡りろうかに近いところに、猫用の入口から入った。部屋の中は金で縁どった家具や、広いベッドが置かれている。ヴィントは部屋をくまなく見て回る。家具と壁のすき間、部屋のすみ。ベッドの下に入るとそこには一ぴきのネズミがいた。目が合う。赤黒い目がヴィントを見つめた。体はこげ茶色なので暗さに溶けこみそうだった。
(よしっ)
ヴィントはネズミに体当たりしようとした。命中したネズミはベッドの外へとふき飛んだ。ヴィントはネズミが体勢を立て直す前にかみつこうとした。しかしネズミはすぐに立ち上がり、ヴィントにむかってきた。そしてジャンプしたかと思うと、細いしっぽで思いきりヴィントの顔をたたいた。
「このっ」
ヴィントはネズミをはたいた。多くのネズミはにげるが、このネズミはちがった。歯をむき出しにして、ヴィントに突撃してきたのだ。ヴィントの鼻に激痛が走る。ネズミがかんだのだ。
「痛いっ」
ヴィントはネズミを払いのけた。しかしネズミはにげることなく、ヴィントの体によじ登り、今度は耳をかじった。
「ぎゃあっ」
ヴィントが頭をふるとネズミは転げ落ちた。
「このぉ……」
ヴィントはネズミを押さえつけた。しかしネズミも負けずに暴れ回る。するとヴィントの手からネズミがすり抜けた。そしてヴィントの前足をかんだ。ヴィントは短い悲鳴を上げた。
「な、なんなんだ、このネズミ。なんでこんなに強いんだ?」
ヴィントはネズミをひっかこうとした。しかしネズミはすばやくよけて、ヴィントの鼻をもう一度かんだ。それもさっきより強く。
「ふぎゃあっ」
ヴィントが痛みにうめいている間にネズミはどこかに行ってしまった。
「いったぁ……なんなんだ、あのネズミ。めちゃくちゃだ」
鼻がじんじんと痛む。
「これ、怪我してないかな」
ヴィントは一度ネズミ駆除課の部屋にもどることにした。
鼻にじんわり血がにじんでいたので、パルが手当てをしてくれた。そのとき別のネズミを捕まえて帰ってきていたフォイアとヴァッサに笑われた。
「ネズミにやられたのかー。そりゃ災難だ」
「でもネズミに。ネ、ネズミに」
「だってほかのネズミとちがったんだ。すごく強くてすばやかったんだ」
ヴィントはフォイアとヴァッサに説明したが、二ひきは「はいはい、わかったわかった」と信じてくれなかった。
「まあまあ、きゅうそ猫をかむっていうし……」
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