わたくしは親も兄弟もおりません!自由にさせていただきます!……はぁぁ?今更何をおっしゃいますの?

刹那玻璃

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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》

番外編:《辺境の医術師のその後》……氷の不死王

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 数日後、脱水症状も落ち着き、食事も取れるようになった俺は、騎士団の一角にある施設で騎士としての研修と、騎士団に所属する医術師に来てもらい、新しい知識を教わることになったのだが……。

「やぁ! アンディールの孫!」

 軽く言い放ってくれやがったのは……現在のマルムスティーン侯爵……俺の父の高祖父、三代前の侯爵だった、はっきり言えば生きた化石のクソジジイである。
 名前はエリファス・レヴィ。
 年齢は多分現在の人間の通常年齢の3倍以上、つまり500年は確実に生きており、人生は悪戯に費やすと言うことがモットーだという。
 なのに、強大な魔力のせいか、外見年齢は俺とそんなに変わらない。
 純白の髪と真紅の瞳をした彼は、漆黒のマントを被り、身長よりも長い杖を手にしていた。
 その杖でポンポンと肩を叩きつつ近づいてきて、俺の顔を覗き込むと、

「早く死ね! このクソジジイ! 悪魔! って思ってるよね? お前」
「えっと……」
「何でわかるんだって言いたそうだけどねぇ……僕だってわかりたくないよ。本当に……おんなじ名前だからか、アンディールってバカばっか!」

舌打ちすると、大きくため息をつく。

「……で? お前は何をしたいの? お前の祖父は自分が死んでいいから、代わりにお前の父だった子供を安全なところに連れて行ってくれと言った。元々先に子供二人は逃していた。けれど、まだ2歳になっていない息子は危険を察知して、父親の元に戻った。自分を守ろうとする息子をどうしても救いたいと僕に祈った。だから僕は一番安全っていうか、自分が行ってみたいな~って思ってたけど、なぜか自分はいけなかったから、ま、これを送り込む実験しちゃえって思って~異空間同士を強引に繋いで、こうやってポイって投げてみた! 実験成功だったよ」

 軽い口調で言ったが……もう一度言うが、軽く『ポイッ』と投げられたのはオヤジだった人のことか?
 ヤバくないか?

「おい、まだ2歳の子供を安全かどうかわかんねぇとこに投げるなよ! あんたは人捨ててんじゃねえか?」
「うん、元々人間の範疇かどうかわかんないから! 僕の母がユーザーの娘なんだよね~? つまり、僕は人間と精霊のハーフなの! ってことで、生きてるうちに祖父に会いに行こうと思ってるんだよ!」
「マジっすか……」

 青ざめる。

 一応、ユーザーというのは、この国の北方にあるマルムスティーン侯爵領を東西に分断しつつ南に流れる河の名前だ。
 シェールドの第一の河はアンブロシアスというが、その支流の一つでもある。
 母なる大河アンブロシアスと違い、冬は凍り、春は雪解けと共に水量が増え、荒々しいユーザーは女神アンブロシアスの弟神を表しているという。
 そのユーザーの孫だっていうのだろうか。

「まぁ、虫とかじゃないから、脱皮したり進化したりはしないけど~? 歳とるのは普通にくらべておっそいみたいだねぇ~? ちなみに僕の息子たちも僕の血が強かったのかなぁ……まだ若いもんね? 他の一般的な人間に比べてだけど!」

 ケラケラ笑うものの、すぐ、表情が消えた。

「でも悲しいのは、子供たちより先に死ねそうもないってことかなぁ……」
「……えっと……」
「まぁ、死ぬのは後、5000年後くらいかなぁ~? それまで、ヴァーロさまを追っかけて~遊んでもらおうと思ってるよ」
「遊ぶ気満々じゃん!」
「その合間に、お前みたいな馬鹿どもをからかって遊ぶんだよ」

 化石ジジイは、腕を組んだ。
 一応、ヴァーロ様というのは、ブルードラゴンの純血種、正式名はヴァーソロミュー・レクシア・アンドリューという名を頂く1800年前に国を再興した国王の第一王子。
 当然養子だが、国王に育てられた竜王。
 わずか数体のみのブルードラゴンの頂点だったはずの方だが、ちょうど一年前に論文が発表された。
 発表したのは、本人と、数年前に国内で保護された同じ青色の竜族のマレーネという女性。
 そして、彩映いろはという名前の少女。
 その中には驚きの内容が書かれていて、今までブルードラゴン種とされてきたヴァーロ様はブルードラゴン種ではないとされた。
 詳しい内容はこれから公表されるが、現在シェールド国内で見つかるカラードラゴン種の特徴に最も近いのはマレーネ。
 マレーネとまだ幼い幼体の子供が、ブルードラゴンと認定された。
 代わりに、見た目の姿形は似ているものの、通常のカラードラゴン種の寿命を飛び越えた長命さや平均のドラゴンの体格をすでに超えているにもかかわらず、まだ続く成長などの総合的に比較の結果、別のドラゴンであり、すでに滅んだとされる古代種の竜の子供……仮に青竜族と呼ぶことになったらしい。
 今後、ブルードラゴン種と呼ぶときは、マレーネたちを指すとあった。
 そして現在ブルードラゴンは隠されているものの、数が激減しており、その保護安全な生活の確保に努めること、そして害そうと考える他者を近づけないよう取り計らうことについて国王陛下に進言する、その場合その後ろ盾としてヴァーロ様にカズール伯爵家、マルムスティーン家、そして溟海の向こうのルーズリア国がつくと締めくくられていた。

「まぁ、その前に、お前を鍛えてやろうかと思って。うちのおチビちゃんや、お前の曽祖父は甘いからね! 文字通り血反吐を吐くくらい鍛えてあげるよ。そのあと、医薬師長の所に送り込んでくれよう! 感謝しなよ? 普通、僕や医薬師長が直々に出るなんてありえないんだからね?」

 ビシバシ行くよ? 最短で仕上げるから!

とまで言い放ってくれた。

 マジか……。
 ゾッとする。
 逃げたかったが、なぜか通常の騎士の訓練プラスこのジジイのカリキュラムが組み込まれた、俺限定の特別訓練が延々と続けられて、俺は死にそうになりながら半月もの間食らいつく羽目になったのだった。

 ちなみに氷の不死王というのは、クソジジイの別名であることは有名だったりする。
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