わたくしは親も兄弟もおりません!自由にさせていただきます!……はぁぁ?今更何をおっしゃいますの?

刹那玻璃

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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》

その後……ちぃちゃんの独り言3

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「……いー、いー!」

 うちの双子が最初に言ったわかりやすい言葉は、パパ、ママじゃなく、それだった。

「いー! にゃー?」
「いーにゃ」

 いや、頑張って彩映って言わなくていいぞ?
 それよか、言いやすいパーとかママとかじゃないの?

と思ったけど、思ってレクに愚痴ったけど!

「そのくらいいいじゃん」

とレクはそっけない。
 レクの長男のマルセルが、酒飲んで暴言吐いたとか、殴り合いしたとかで呼び出されたらしい。
 けど、前もってシエラ叔父上に聞いてるけど、ティアに暴言とか、嫌がらせしてるバカ殴って当然だと思う。
 レクは知らないのかねぇ?
 俺の耳には凛音を妊娠中のティアを突き飛ばしたとか、出産後にセクハラしようとした馬鹿がいたってこと。
 俺、知ってるぞ?

「いーにゃ!」

 キョトンとしている彩映に、千夏が、

《結と紬が『彩映ちゃん』って言ってる》

と説明する。
 すると、彩映は目を潤ませながら、

「彩映ちゃんってよんでくれたの? ありがとう! 結ちゃん、紬ちゃん」

と声をかけ、順番にだっこしていた。

 双子はお兄ちゃん、お姉ちゃんが大好きだ。
 特に、彩映が大好きだ。
 このまま成長してほしい……。

とほんわかしていたのだが、レクと、千夏と一緒に上司に呼び出しを受けた。
 辺境に送られた家族の長男が騎士の館に入るために試験を受けにくるらしい。
 そして、辺境の医師も更新試験と研修を受けるそうだ。

「どうする~?」

 シエラ叔父の問いかけに、キッパリ答える。

「いいんじゃないですか? 俺……彩映に近づかないならいいんで!」
「というか、千夏が試験一年伸ばしたから、同級生の家族だけど?」

 はっとする。
 そっか……本当は去年入学したがっていたんだ……でも、双子が生まれるから一年延期する、そのかわり、勉強優先するって……。
 そっか……同期になるんだ……。
 なら、一年前に入学させておくべきだったか……後悔する。
 すると、そんな俺の横で、あっさり千夏は言う。

「……いいんじゃない? オレ、友達になるか自分で決める。仲良くできるようならするし、ダメなら飛び級受けるから」

 ……大人だ。
 なんか急に大人びたこと言うようになった。
 そっかもうすぐ11歳になるんだ。
 嬉しくもあり、少し寂しいな。

「あ、そうそう。試験を受ける子は、イオっていう名前なんだけど、入学志望動機をよんでみて」
「読んでいいんですか?」
「ちぃもレクも騎士の館関係者。今度、館の短期インターンで直属の指導官するんだから。推薦状は、リーダイル他、紅騎士団のメンバーです」

 成人で言う履歴書のようなものと一緒に、差し出されたのは子供の文字で書かれた志望動機……。

《僕は、人のために何ができるか考えられる人になりたい。騎士になりたいというより、僕が今までお世話になった人に、恥ずかしくない人になりたい。感謝を言えるようになりたい、今までありがとうって言いたい。本当にごめんなさいと言えるようになりたい。大好きって言いたい。そして、近所のおじいちゃん、おばあちゃん、友達がお腹いっぱいに食べられて、水がいっぱい飲めるようにお手伝いしたい。皆が笑える町になるように頑張りたい。なので将来の希望は、騎士じゃなく周りのために尽くす人間になります。》

「これ見たら、シュウが号泣しちゃった。ついでに、本当はこれ、個人情報だから騎士団に保管されるべきなんだけど、シュウが自分と彗にだけコピーしてくれって言ってた」
「これだけで試験パスはダメですよ?」
「そんなのしないよ。あ、こっちが向こうの騎士団で選抜試験した時の成績。参考資料は5年前の彗から提供されたもの~」

 ピラッと出されたものは、5歳の時の術力と術の情報。

「……あれ? あの子、昔、ほとんど術使えてないですよね?」

 レクが指摘する。
 指で差している部分は、術適正、扱える術、容量などの部分。

「こんな種類覚えたんですか?」
「うん。最初の一年でかなり水の術を覚えたらしいよ。教えたのは父親。父親の方もここ数年で一気に精度が上がってる。向こうは水の聖霊の加護もないし、自分の力だけで制御も大変だったと思うけど、去年から息子に土の術を教えて来たらしいね」
「で、こっちが辺境の医師の人の騎士団に所属してからの貢献度ですね……治療の間に図書館、幼児保護施設、地域の人に職の斡旋、文字の読み書き計算を教える……あのおじさん、何でこの才能昔発揮しなかったんです? 昔なら、すでに政治の中枢食い込むなり、術師でもつかえたんじゃないですか?」

 もったいない……。

 読んでいた千夏が首をすくめてるけど……叔父上がバッサリ切ってくれた。

「うーん、馬鹿だからじゃない? 祖父が悪いのさ~。父方も母方も祖父が馬鹿~」
「あぁ、先代陛下って、まだ生きてますね。また海の向こうで暴れているんですか? 向こうに迷惑なので、捕まえてスティアナ領に送り込みましょう!」
「いや! やめて! あの人、マルセルにゲリラに入るように勧めた張本人だから!」

 真っ青になるレク。
 いくらなんでもやりすぎだな、先代は……。
 しかもゲリラに入った当初のマルセルを、自分で鍛えるんだと問答無用でボッコボコにしてたらしい。
 それなのに途中で飽きたって、マルセルに責任押し付けて出て行ったとかなんとか……あの人って、馬鹿じゃないのか?
 王の枠にハマらない変人というか……

「あのバカって哀れだよね……」

『アイツは永遠の敵』と常々言い続ける叔父がため息をついた。

「生き急いでるよね? 破壊して、壊しまくって、後に何が遺るんだろうね。ただ虚しいだけなのに。壊すのは一瞬だけど、その前の歴史とか記憶があるわけじゃない? それだけじゃなく、その場所の未来も奪うわけ。それに神の力のように元通りも絶対無理じゃない? 再生ってどんだけかかるのさ? いつかは憎しみも苦しみも怒りも向けられるだろうに、呆れやもうコイツは信用できないって思われるのにねぇ?」
「うーん……でも、この辺境のお医者さんの奥さんよりマシじゃないですか?」

 千夏が指を指す。

「先代陛下ってオレ、二度くらいしか会ったことないですけど、力が余りすぎっていうか、いつでも全力で生きてると思うので、首輪つけて、やりすぎたらリードを引っ張ることで躾けるといいと思います。ダメなら幸矢おじさんに『嫌い』って言われたら、大人しくなるって一度聞いたことがあります。でも、あのおばさんって、人の言葉聞こうとしないじゃないですか? 反省もしないし、未だに仕事もしない。不平不満というか、ただ喚いてるだけ。このおばさんの方が役に立たないと思います」
「千夏……いうね~」

 叔父が、姉のひ孫になる千夏を驚いたように見る。
 うん、うちの子は賢いんです。

「だって、先代陛下は破壊活動が目立ってますけど、オレ、前に教えてもらいましたよ? 孤児院は元々地域が運営していたけれど、先代陛下の代で、陛下……王族が資金提供することになって、直接見える化するのと、5爵も間に入ることによって運営も変わったって。人身売買組織と繋がりがありそうな部分を全部切ることに尽力することが出来つつあるって。でも、そのためにお金が必要だって、先代陛下、アルバイトだって王宮抜け出してギルドで依頼受けまくってたって」
「……うん、あのバカってそういうのはド派手にやってくれたから、民衆にはとっても人気なんだよね」
「オレはそこまでしませんけど、彩映や父さんや母さん、風深たちに何かあったら、動ける人間になりたい。だから、自分は動かないし、何もしないくせに、周囲にあれやってこれやってって命令して、そんな命令は聞けないって言われたら、なんで、あたしのいうこと聞かないのよ! って言いながら暴力振るったり物を壊して暴れるおばさんは嫌いです。もう二度と会いたくないし、あの辺境から出てくんな! って思います。だから、今度の試験の時、このイオがどんな子なのか理解して、おばさんの影響を受けてたら無視します。頑張りたいっていうなら応援します。それに、オレは1番になって頑張ります」
「おぉぉ! 千夏。すごいね~! さすがシュウと隼人の孫! 賢い! 将来有望!」
「あ、おばさんとかが彩映に近づこうとしたら、抹殺できる許可ください」
「……うん、そういうとこはちぃに似たね」

 どこがですか?
 俺はむやみやたらと抹殺しませんよ?

「あ、ちぃ。騎士の館の中でくつろげる服、手頃な値段で大量生産できたらって兄さま言ってたの、姉様の強烈プッシュで、君のとこのデザインのジャケットになったから。デザイン料はフィアに聞いて」
「はい? 俺、いつそれ提出しましたっけ?」
「知らないけど……あぁ、セイの奥さんが『これ、ちぃちゃんデザインです』って持って来たらしいよ?」
「……もしかして! あれ、前にうちの子供たちの遊び着でデザインしたものですよ? まぁ、型紙は俺が持ってますけど……」
「いいんじゃない? 着心地いいって言ってたから」

 ……俺知らないからな。
 知らないとも。
 家で子供たちに着せて喜んでた、ネコミミフードの上着がここで大々的に騎士の館の中でくつろげる私服となるとは……。


~*~~*~~*~

今回は語りに徹する。

《騎士の館》は大体10~18歳くらいまでの少年少女が共同生活をしながら、騎士見習いとして読み書き計算、歴史、生物学、裁縫、調理、緊急救助、治療、マナー、剣を初めとする武道、水泳、乗獣の世話、そして、希少生物の保護についてなど学べる。
それ以外にも近隣の草原でテントを張り、野営の練習をしたり、ボランティア活動で、雪の多い地域に行って雪かきなども学ぶ。
期間は成績で決まるが、最短2年から最長7年。
選択科目で術、医療、薬草作り、諜報なども選択できるが、諜報などは厳しい選抜あり。

入学資格は、国籍性別不問。
貴族一般などは関係ない。
なるべく健康であること。
読み書きできたらよし、返事ができる子。

入学時に、親から持たされていたお金は全部一旦卒業まで使えない。
代わりにカズール伯爵家から1ヶ月2ルード(1ルードが約10万円ほど)渡され、お昼代、ノート、私服代に使えるようになっている。
朝食と夕食は無料。
お金をどのように使うかも、勉強の一つとなっている。
実家に仕送りをしたいという子供には、生活が苦しくないように教官と寮母が見守っている。
入学からしばらくは家族からの手紙のやり取りは館長、教官、寮母との話し合いの元で制限する。
館の寮は、昔は先輩後輩が同じ部屋で過ごしていたものの、今は二人一室で、扉の奥に共同の居間、トイレ、お風呂、奥にそれぞれ個室があるようになっている。
カズール家からの毎月のお金は基本返還は求められないが、理由なく退学や問題を起こした場合のみ返還を求められる。
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