わたくしは親も兄弟もおりません!自由にさせていただきます!……はぁぁ?今更何をおっしゃいますの?

刹那玻璃

文字の大きさ
上 下
60 / 68
その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》

その後《辺境の医師のその後編4》

しおりを挟む
 俺の退院より、イオの入学が先になったことは残念だった。
 入院中に一緒に定期検診することになり、1日半かけて精密検査をすると、血液検査に引っかかったのだ。
 ……何のことはない。
 ただの鉄欠乏貧血だった。
 ただのだ……と言い聞かせていると、元母が、ハリセン持って来た。
 結構おっとりしている人だと思っていたのだが、改めて会うと、めちゃくちゃ怖かった。

「お久しぶりね~? お名前なんでしたかしらん?」
「えっと……」

 シュパン!

ハリセンが見事に翻った!
 俺の頭に叩き込まれる!
 そこで思い出した!
 元母って、俺が小さい頃、めちゃくちゃ厳しかった!

「はい! あなた、三歳の私の孫よりお馬鹿さんなのかしら? お名前は? と言うのだから、名乗ればいいのです! 後ろ暗い過去があるの?」

 ありまくりと言うか……後悔ばっかりだよ!

「おっそーい!」
「いっだぁぁ!」

 ビシバシ殴り飛ばされ、頭を押さえる。
 本気で痛い。
 これ、普通のハリセンじゃない。
 絶対何か入ってる……。

「えっと……ディと申します……」
「はい。よろしい。では、次です。あなたの現在ここで治療受けている病気は何かしら~?」
「鉄欠乏貧血……です」
「あなた、確かお医者様のたまごよね? 鉄欠乏貧血ってどんな病気かしら~?」
「えっと……鉄分が足りません……」

 答えると、ブォーンと大きく腕が翻った。

「ぎゃぁぁぁ!」

 おんなじところ、何度も叩かれると痛い!

「貴方はバカですか? そんな説明を、同じ病気の患者さんに言うのですか? そんなのヤブ医者でもエセ医者でも言いませんよ!」

 ババン!

 連続クリーンヒット! に悶絶する。

「いっだ~! なんで、そんなに殴るんですかぁぁ……これ、どこで使い方教わったんですか?」
「ママやおばあさまが、言っても聞かないバカには、容赦なくこれで躾けなさいって使い方を教えてもらったの!」
「ママって……」

 あれ?
 この人の母って……。

「……先代王妃殿下?」
「ピンポーン! あんまり私、ママに似ていないから、親子って思われないのよね~? それに結構私見た目が見た目だから、武器持つって思われないの」
「武器、持つんですか?」
「えぇ! 愛用は鞭よ? 遠方からも攻撃できるし! 金属武器持ち込めなくても隠しやすいものね。結構意外性があるって言われるの! でも、あーちゃんは喜ぶけど、しゅーちゃんとにーちゃは嫌がるのよね~?」
「うっわ……」

 何で、スカートにスリット入れてるんですか?
 ついでに手慣れたように扱ってますね……長い鞭と、短いのとか持ってますが、拷問用とかあるんでしょうか……。
 怖くて聞けない……。

「あ、一応、拷問用はここに持ってきてないわよ? 尋問用と私の身を守る用ね」

 聞かなかったのに話された!
 ど、どうすればいい?

「ところで? 鉄欠乏貧血ってどう説明したらいいと思う?」

 鞭はしまってくれたが、ハリセンの先で俺の顎を上げる。
 うん、見た目は儚く可愛い系……見た目はお姫様……うん、先代国王の長女で、現国王の妹で、祖母になる先先代王妃様に似ている……はずだ。

「て、鉄欠乏貧血は、体内に必要な鉄分が不足します」
「20点! 血中にある鉄分は、酸素が取り込まれて結合し体内をめぐる。鉄分が不足すると、酸素が体内に行き渡らず低酸素状態になり、めまい吐き気などを引き起こす……くらい言いなさい!」
「はい……」

 面倒臭いと思ってしまうのをビシッと指摘される。
 うっ、次から頑張る。
 患者に説明できるように!

「で、ちゃんと嫌いな野菜とか、レバーとか食べているのかしら?」
「む、昔より好き嫌いがないです!」
「食わず嫌いって、父親そっくり……」
「はい?」

 はっとして、可愛らしい系、儚いお姫様を見ると、大きくため息をおつきになられた。

「個人的な見解というか又聞きなのだけれど……50年ほど前に亡くなられたアンディール様っていう方は、ものすごく味覚音痴でした。甘いものはとことん甘く……溶け切らない砂糖がどっぷり残った飲み物と、激辛料理を一緒に食べても、吐くこともなく胃もたれも起こさないような頑丈さも持ち合わせた人でした。その人の叔父に子……つまり従兄弟が生まれた時、当時のマルムスティーン侯爵とマガタ公爵が守役になり、面倒を見ていたのですが、二人はかなり忙しく、ほんの少し目を離したときに、お腹が空いたと泣いていた上の王子に、アンディール様と赤ん坊の父親がとんでもないことをしでかしました」

 座った目で俺を見る。

「まだ生まれて半年もしない赤ん坊のミルクに、赤ん坊の父親は薬草を煮出した液体を流し込み、嫌がる赤ん坊に飲ませたり、アンディール様は自分の休憩用のおやつ……吐くほど激甘な蜂蜜の練り込まれたクッキーや激辛パウダーのまぶされたクッキー、シリアルを……」
「げっ!」
「アンディール様はすぐに足がつき、食べ物持ち込み禁止となりましたが、赤ん坊の父はそれ以降数度繰り返したらしく、結果、王子はかなり重症度の高いアレルギー反応で何度も死にかけ、元々虚弱体質だったこともあり面会謝絶になりました。死にかけた赤ん坊は、私の兄です。それなのに、アンディール様は、ちょっと閉じ込められただけと懲りもせず、その後生まれた長男の離乳食に挑戦しました。自分も食べてるから大丈夫と思ったらしいのですが、味音痴で胃腸の丈夫な彼は、いくら腐っている食べ物も全く気にしない、気にならない強心臓の人です。実の父親に細かく言われたことも、耳から抜けるような人だったので、そこら辺にある雑草だの、下処理もしないままの魚などそのまま鍋に放り込み、自分好みの激辛スパイスを振り撒いて、息子に食べさせました」

 青ざめる……ついでに震えるしかない。
 蜂蜜って赤ん坊に食べさせたら死ぬじゃん……。
 ミルクに薬草って吐くじゃん……。
 激辛パウダー入りの食べ物って、刺激物……。
 それに腐ったものとか、それ以前の段階……。

「あまりの不味さと舌を刺すような刺激に、泣き喚く孫に気がついたアンディール様の父親は『このバカ息子がぁぁ! お前の異常な体質と赤ん坊を一緒にすんじゃねぇわ!』と叱り飛ばし、離乳食からは手を引かせましたが、その幼児は《食べ物は毒》と認識してしまい、5歳くらいまでおにぎりしか食べなくなりました。あまりにも好き嫌いが激しく、嫌がってお皿から食べ物を掴んで外に投げたり、踏みつけたり、粗末に扱うので、私のママが『自分で育ててありがたみを感じなさいよ!』と、畑に連れて行かれてお手伝いをして、料理を教わって、ようやく偏食が直ったのでした」
「あ、あの……一番悪いのって……」
「アンディール様と私の父よねぇ~? それより偏食って血筋かしら~」
「……や、野菜は食べられるようになってます。さ、魚は臭みが苦手ですが……」
「ハーブで臭みを消して煮込むのね。硬いすじ肉も長い時間煮込むことで美味しくなるわよ。家族だけだと時間かけられない、薪代が高い、水の量がっていうなら、お昼に近所の人と一緒に大きな鍋で料理しておいたら、一度で済むでしょう?」

 バカねぇ?

と呟くお姫様。
 苦笑している。

「一応、今度あなたが帰る時までに、長期保存できる食料とハーブを、騎士団経由で送ってあげるように手配するわね」
「で……も、俺は……」
「まぁ、家というか、縁を切ってるわね? でも、私は貴方を生んだ母だし、彗ちゃんは子供に激甘な父だし? 貴方が納得するまでやっときなさい。……まぁ、貴方の嫁は家に入れないわよ? 変わろうと努力しない、なぜ自分が悪いかも考えない、周囲に迷惑をかけるだけかけて、謝罪もできない人間……私大嫌いなの!」

 本当に嫌そうな顔で吐き捨てる……般若だ。
 騎士の館の館長の愛用の能面だ。
 めちゃくちゃ怖い……いつも怒ってくれる人ももちろん怖いが、一番怖いのは、怒りを溜め込んだ人の……。

「まぁ、いつか戻ってきたら迎える気はあるから、やりたいようにやりなさい。長男の……イオのことは、にーちゃとあーちゃんが、カルス伯爵家のギディアン様にお願いの手紙を出してたから」
「……ごめんなさい。母上」

 俯き頭を下げる。
 今更だが、情けないのと、申し訳なさに涙が出る。

「いいのよ。貴方、侯爵に向いてなさそうだから。アルベルトくんの方が向いてるでしょ。それに、今揉めてるの~……聞きたい?」
「えっと、家を出てる人間に聞かせていいものでしょうか?」
「えぇ! アルベルトくんをマルムスティーン家の後継者にって言ったのよ? そうしたら婚約者をって言ったら、アルベルトくん、シュウ父様のところ行ってね~?」
「シュウ……えっと、グランディア大公閣下ですか?」

 あれ? 大公は娘いなかったはず……孫は……。

「アルベルトくんが、ちぃちゃんの長女と婚約したいって言ったから、ちぃちゃんが『やるか! ボケェ! 歳の差考えろ!』ってキレて、『もっと歳の近い男探すわ!』って大喧嘩。レクちゃんも『じゃぁ、うちの次男』って言い出して、『絶対やらん!』って言い出して面白いの!」
「楽しまないでください……」
「それだけじゃなくて、海の向こうのリスティル陛下が『うちの次男どう~?』ってにーちゃ、言われたらしいわぁ~」
「すみません……俺、胃に穴が開きそうです。すみません……向こう帰ったら井戸を掘りたいので、水源確保して安定した水量が出るまでは、それまで生きてたいです」

 怖い……めちゃくちゃ怖い。
 絶対キレてる、呪われる……。

「あら、可愛いんだもの。モテて当然よね? ちぃちゃんは、千夏くんと結婚してもいいって思ってるみたいだけどね。去年、双子ちゃんが生まれたけど、二人ともお姉ちゃんが大好きらしいわ」
「……俺が何も言えないってわかってるじゃないですか……」
「そうねぇ……じゃぁ、これを一つ報告。前に家の壁の隙間を塞ぐものって貴方考えたでしょう?」
「はい……」
「あれね? ヒエヒエじゃちょっと強度が足りないそうです。それに風を防ぐだけだったから、もうちょっと万能タイプにってことで、こっちで研究が進み、特許取れました。今後、貴方の名前で販売します」

 びっくりする。
 母の顔を見ると、笑う。

「貴方のグランディアの名前です。貴方が何に使おうがかまいません……まぁ、ちぃちゃんは一銭ももらうつもりはないそうなので、使うならイオが貴方の家に帰れない時の生活費、滞在費として使いなさい。貴方が支援したい人にもね」
「ありがとうございます……」
「また様子見にくるわ……ちゃんと食事とって、鉄分とりなさい。向こうで井戸掘るんでしょ?」
「はい」

 過激すぎる再会だったが、母は強かった。
 それから俺が退院するまで何度か会いに来てくれた。
 向こうに帰る時も、いろいろなもの……レシピとか、包帯、ガーゼと言ったもの、布も持ってきてくれた。
 日持ちする食料もだ。
 水も持ち帰れるだけ持ってきた。

 そして、イオの後見人になったのは、団長の父のレイル・マルムスティーン侯爵と、カルス伯爵……伯父が頼んでくれたギディアン閣下だったことも追記する。
 一応、ギディアン閣下だけでも良かったらしいが、イオに何かあった際に連絡を送ってくれやすい人もということらしい。
 こんなふうに優しい人たちに、甘えすぎないことを心に誓いたいと思う。


~*~~*~~*~


 ちなみに、俺のグランディアの名前は蘇芳すおう……色の名前だと名付けてくれた母の祖父が言っていた。
 後年《スオウ・プロジェクト》と名付けられた荒地の再生計画に、イオも、そして母たちも関わってくれることに感謝することになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...