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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》
その後……一応ちぃちゃんの独り言。
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《千夜(パパ目線)》
……四年経つあいだのことを説明しろというので、説明する。
~*~~*~~*~
細かいことより大まかなこと。
まず、ネコミミブームは下火どころか、大掛かりになった。
着ぐるみパジャマは前からあった。
でも、フード付きパーカーとかジャケットを作って、彩映に着せていると、周囲の反響があり、売ることになった。
しかも、何故か騎士の館にいる祖母が気に入って、館の生徒の生活着にしたいと言い出した。
館長である祖父にも着せると言い出し、それはかわいそうだと止めたが、いつのまにか、休日の服になっていたようだ……。
祖父が三毛柄の上着を着て、騎士の館を歩いている様は……いまだに笑いが込み上げる。
そして、風深の下に双子の子が生まれた。
三男が結。次女が紬だ。
結は父さんや彩映に似たのか、金色の髪と緑の目。
紬は日向夏のお父さんである、隼人父上や月姉に似ている。
彩映は双子の誕生を喜んだ。
風深も明るい髪色だが、彩映ほど明るくない。
両親の俺たちが黒髪だったのを、気にしていたらしい。
「ほら、じーじも金髪なんだから、結と彩映もおんなじだな」
と父さんが言うと、笑っていた。
それに、紬が女の子なのも嬉しいようだ。
日向夏も、
「彩映が手伝ってくれるから助かるわ~」
と2倍以上大変だろう子育てを楽しんでいる。
そして、ふぅちゃんとレクの長男のマルセルが、2年前に戻ってきた。
その話をしようと思う。
~*~~*~~*~
ようやく捕獲された。
そう、捕獲だ。
それ以外に言いようがない。
何が悲しくて、5年ぶりに再会した甥……そう、図体はデカイが、ふぅちゃんの息子だから俺の甥だ……が手枷足枷、ついでに猿轡もされて、ドラゴン捕獲用の檻に閉じ込められて連れてこられた。
見た時、唖然として、呆然とした。
最後に会った時はまだ成長期の中間で、ほっそりとしたはにかむように照れ笑う様子が可愛らしい少年だったのだが……全く違うさまに、どんな生き方をしてきたのかと涙が出た。
しかも、捕まえたというより見つけたのが、何故か偶然怪我をしていた奴を、息子と一緒にジョギングしていた彩映の元父だったということ。
最初は猛獣か、手負の獣……血の匂いがしていたようだ……と思って様子を窺っていたが、意識が朦朧としてぐったりしていたのに気がついて術で水を作り、ぶっかけ気絶させて、治療したらしい。
その間にイオという子供が、騎士団に走って行き……リーダイルが檻に放り込んだのだという。
人間を猛獣扱いするかとも思ったが、届いた荷物の中にいたのは、若人というより、薄汚れた図体の猛獣にしか見えず。
昔は柔らかな金髪だったのに、散々染めたのか、髪は傷みボロボロ、手足も傷だらけで、背中には無数の傷が残っていた。
ちなみに檻も何度も抜け出そうとした跡があり、そのせいで枷で厳重に繋がれているのだということもわかった。
猿轡も、余計なことを喋るというより、自害防止だったという。
弱っていた上に、パニック状態にあったらしい。
薬も食事も拒否し、手当も嫌がるマルセルを最後まで手当てできないと連絡が来たので、リーダイルたちの元から、騎士団本部が引き取ってきたそうだ。
そして、術で完全に寝落ちさせて治療して檻の中に放置……栄養や水分補給のための点滴もぶち抜く馬鹿なので、治療完了までずっと眠らせたままだったそうだ。
そして、ようやく目が覚めた生物は、檻から出され、ベッドは破壊できないようにフローリングの部屋に入れられたのだが、今度は燃え尽き症候群になり、座り込んでぼーっと遠くを見ている状態で、どうすればいいのかとレクとかは真っ白になっていたのだが、ある日、俺についてきてくれと行って、お昼寝猛獣の元に向かったのが……。
「よっしゃぁぁ! じいちゃまたちに、百発は思いっきり叩いていいよと、僕、許可もらったのですよ! まーず、いっぱーつ!」
と言いながら、巨大なハリセンを振り翳した5歳の凛音だった。
パーン!
素晴らしくいい音がした。
「ほらほら~! 起きるんです! 叩きますよ!」
ス、パ、パ、パン!
連打に、嫌そうに眉を寄せたマルセルがボソッとつぶやいた。
「……いや、お前、もうすでに叩いてるだろ?」
「はい! まだ5発ですよ! 95発残ってますから!」
「やめろっての!」
「いやですかぁ? じゃぁ、金だらいにしましょうか? その方が楽ですね! 準備しましょう!」
「なんで、金だらいなんだよ!」
「天井にヒモを通しておけば、何回も落とせます! 水も入れちゃいましょう!」
「やめろっての! どこの子供だよ! ……?」
言い返したマルセルが、自分を既に叩いている凛音を見ると、目をわずかに大きくする。
凛音はニヤッと笑うと、
「せーのっ! 目を覚ましなさい! この馬鹿~!」
振りかぶって、思いっきりマルセルの頭上に振り下ろした。
「あ、だぁぁ! いてぇじゃねえか! お前、音が鳴る方じゃなくて折り畳んでる、密度の多いカドの方で思いっきりやっただろ!」
頭を押さえながら、しきりに文句を言うマルセルに、
ちちちっ!
と空いている右手の人差し指を左右に動かした。
「何言ってるんですか? 痛くないでしょ? 今まで散々怪我しまくってるって言うじゃないですか~? 血も出てませんよ? それに、これには愛情とお目覚め機能がついてますよ! 僕、やっさしい!」
「何をどうやったら、このハリセンが愛情なんだよ!」
「これ、お手紙と辞令の数々を束ねたものなのですよ~? 読んでないんでしょ? 優しい僕が代わりによんでおきましたからね? 簡単に説明してさしあげます! まずレクじーじからは、スティアナ公主の後継者としての自覚足りませんから、もう家出てってくださいな~ですって! おめでとうございます!」
パッシンパッシン……えっ? 凛音。楽しそうにハリセンでアホの頬を叩いてる……悪役令嬢ものの小説を読んでるっていうが、様になってるぞ。
「ついでに、カズール伯爵家からは騎士団を無断で出てったから、任務放棄違反罰則命令ですよ! シャバに出てくるのは半年後! 頑張ってくださいね~? 一応、迎えにだけは行ってあげましょう! 僕の母様と」
オイオイ、シャバって言葉、誰に聞いた?
凛音……。
「……お前の母親?」
「えぇ! 本当に、こんな猛獣のどこがいいんでしょうねー? もっと優しくてかっこいい人いたでしょうに」
「……お前、王弟殿下の第二王子の子供だろ?」
「ばっかですかぁぁ! 伯父上の! どこに! 似てるんですかぁぁ? 僕は! 伯父上に似てたら! もっとイケメンです! 父親似だから! こんなに! ブッサイクなんですよ!」
オイオイ……凛音。
一言一言言いながらパンパンするな……。
まぁ、お前の伯父は見た目はワイルドだが、嫁デレだ。
「それに、伯父上に似てたら、もっと青みがかってるとか~! 切長の目をしてるはずじゃないですか! この顔を見ましょう! 垂れ目で無駄にアホヅラですよ! はい! 誰に似てると思いますか! 答えなさい!」
「……えっと、ティア」
「忘れてませんね?」
「情報こなかったけど、ティアって結婚したんだ? お父さん誰?」
「愚か者ぉぉ!」
パチン!
凛音が頬を叩く。
「この髪の色見なさい! 僕で確認すんな! このあほったれぇぇ! もういい! 離婚です! じいちゃまたちに頼んで、母様の再婚相手探してもらうのです! このヘタレ!」
おぉぉ……凛音、よく言った!
「母様が、母様が、どれだけ待ってたと思うんですか! 僕をどんな思いで生んだとおもうんですか! 待ってたと思うんですか!」
「……君、男の子でしょ?」
「女ですよ! 失礼ですね! どこぞの誰かにそっくりだそうです!」
「どこの誰……」
「製造元です! うぎゃぁぁぁ! 製造元! ぎゅーすんなぁぁ!」
あ、そういうセリフは5歳の子供が言うもんじゃない……ま、いっか……。
目の前では、凛音を思いっきり抱きしめたデカイ獣がいて、泣きじゃくって、そのまま寝てしまっていた。
数日寝てなかったらしく、凛音を離さなかったので、そのまま置いて行ったのだが、翌日レクに怒られた……マルセルが。
1日凛音を抱いて寝ただけで落ち着いたらしく、数日後、半年間の研修に行ったそうだ。
研修といっても、婿入り先で義父や義理の祖父にボッコボコにされたらしい。
まぁ、頑張れ!
~*~~*~~*~
半年後、髪も整えて傷も治して、服も綺麗になったマルセルは、改めて自分の娘に会った。
ぼーっとしていた実父の前に腕を組み、ふんぞり返って見上げた……凛音は、
「どこの害獣ですか? 生ゴミですか? 通路に置かないでください! 邪魔ですよ! それより、何かいうことないですか?」
と言った。
おぉぉ……さすがツンデレ。
「えっと……」
「帰ってきたら、ただいま、くらいいいなさい!」
「……あ、ただいま……」
「もう一回! 製造元!」
その言葉に、周りで様子を見守っていた凛音の母のティアは青ざめ、ティアの祖父のシエラ叔父は、何故かハリセンでマルセルを殴り飛ばした。
「この馬鹿孫がぁぁ! 凛音に何を教えたぁぁ!」
「ち、違います! 俺教えてません!」
自分じゃないと何度も首を振るマルセル。
うん、半年前も、お前は言ってはなかった……。
しかし、凛音を溺愛している叔父は、スパパンと叩きまくっている。
……叔父が、凛音にハリセンの扱い方を教えたようだ。
「ダメですよ! じいちゃま。僕のおもちゃに手を出してはいけません!」
「えぇぇ~! もう一発!」
「僕にはまだ57発叩く権利が残ってます! そのあとにしてください!」
「……凛音。おもちゃじゃないよ? この人、凛音のお父さんだから!」
ティアが声をかけるが、プイッと顔を背ける。
「違いますよ! 僕の父なら、ちゃんと名前言ってくれないと! それに、見ず知らずの人間を、父と呼べませんよ! これは僕のおもちゃか、ペットです!」
「……頑固なのは誰に似たの?」
ため息をつくティアに、
「母様だそうですよ?」
「……ティアに似てる……けど、俺にも似てる」
ボロボロ涙を流しながら、膝をつく。
身長差もあってか、顔を見ようと思ったらしい。
「あ、改めて、はじめまして……でいいかな? 俺はマルセル。昔はもうちょっと明るい色の髪だったんだけど、こんな色になった。目の色は同じ……かな? 俺が君の父親だよ」
「……熊みたい。聞いてたのと違います」
「あの頃は、まだ成長期だったから……」
「……ただいまって言いなさい」
「おかえりって言ってくれる?」
「先にちゃんと言いなさい!」
マルセルを見た凛音が、泣きそうな顔になる。
「おかえりって言えないじゃないですか……」
「……! ‥‥ただいま!」
腕を伸ばして、凛音を抱きしめて頬擦りする。
「ただいま……ただいま!」
「ぎゃぁぁぁ! ひげザリザリ、ジョリジョリ、痛い! じ、じいじ~! 助けてぇぇ!」
ツンデレが逃げようとするが腕は外れず、慌ててティアが近づくと、また、抱きしめ……しばらく泣き続けた。
見た目はゴツくなったが、マルセルは泣き虫のままだったと、俺はレクに伝えておいたのだった。
~*~~*~~*~
一応……
マルセル……ちぃちゃんの三つ子の姉、二葉とレクシアの長男。
十代半ばで失踪。騎士団の諜報機関に入るつもりだったが、途中で脱走扱いになっていた。彩映が8歳の時に戻ってくる。二重人格。普通はヘタレだが、キレたり酒が入ると柄が悪くなる。体を鍛えすぎて、気を抜くと何かしら破壊する。
……四年経つあいだのことを説明しろというので、説明する。
~*~~*~~*~
細かいことより大まかなこと。
まず、ネコミミブームは下火どころか、大掛かりになった。
着ぐるみパジャマは前からあった。
でも、フード付きパーカーとかジャケットを作って、彩映に着せていると、周囲の反響があり、売ることになった。
しかも、何故か騎士の館にいる祖母が気に入って、館の生徒の生活着にしたいと言い出した。
館長である祖父にも着せると言い出し、それはかわいそうだと止めたが、いつのまにか、休日の服になっていたようだ……。
祖父が三毛柄の上着を着て、騎士の館を歩いている様は……いまだに笑いが込み上げる。
そして、風深の下に双子の子が生まれた。
三男が結。次女が紬だ。
結は父さんや彩映に似たのか、金色の髪と緑の目。
紬は日向夏のお父さんである、隼人父上や月姉に似ている。
彩映は双子の誕生を喜んだ。
風深も明るい髪色だが、彩映ほど明るくない。
両親の俺たちが黒髪だったのを、気にしていたらしい。
「ほら、じーじも金髪なんだから、結と彩映もおんなじだな」
と父さんが言うと、笑っていた。
それに、紬が女の子なのも嬉しいようだ。
日向夏も、
「彩映が手伝ってくれるから助かるわ~」
と2倍以上大変だろう子育てを楽しんでいる。
そして、ふぅちゃんとレクの長男のマルセルが、2年前に戻ってきた。
その話をしようと思う。
~*~~*~~*~
ようやく捕獲された。
そう、捕獲だ。
それ以外に言いようがない。
何が悲しくて、5年ぶりに再会した甥……そう、図体はデカイが、ふぅちゃんの息子だから俺の甥だ……が手枷足枷、ついでに猿轡もされて、ドラゴン捕獲用の檻に閉じ込められて連れてこられた。
見た時、唖然として、呆然とした。
最後に会った時はまだ成長期の中間で、ほっそりとしたはにかむように照れ笑う様子が可愛らしい少年だったのだが……全く違うさまに、どんな生き方をしてきたのかと涙が出た。
しかも、捕まえたというより見つけたのが、何故か偶然怪我をしていた奴を、息子と一緒にジョギングしていた彩映の元父だったということ。
最初は猛獣か、手負の獣……血の匂いがしていたようだ……と思って様子を窺っていたが、意識が朦朧としてぐったりしていたのに気がついて術で水を作り、ぶっかけ気絶させて、治療したらしい。
その間にイオという子供が、騎士団に走って行き……リーダイルが檻に放り込んだのだという。
人間を猛獣扱いするかとも思ったが、届いた荷物の中にいたのは、若人というより、薄汚れた図体の猛獣にしか見えず。
昔は柔らかな金髪だったのに、散々染めたのか、髪は傷みボロボロ、手足も傷だらけで、背中には無数の傷が残っていた。
ちなみに檻も何度も抜け出そうとした跡があり、そのせいで枷で厳重に繋がれているのだということもわかった。
猿轡も、余計なことを喋るというより、自害防止だったという。
弱っていた上に、パニック状態にあったらしい。
薬も食事も拒否し、手当も嫌がるマルセルを最後まで手当てできないと連絡が来たので、リーダイルたちの元から、騎士団本部が引き取ってきたそうだ。
そして、術で完全に寝落ちさせて治療して檻の中に放置……栄養や水分補給のための点滴もぶち抜く馬鹿なので、治療完了までずっと眠らせたままだったそうだ。
そして、ようやく目が覚めた生物は、檻から出され、ベッドは破壊できないようにフローリングの部屋に入れられたのだが、今度は燃え尽き症候群になり、座り込んでぼーっと遠くを見ている状態で、どうすればいいのかとレクとかは真っ白になっていたのだが、ある日、俺についてきてくれと行って、お昼寝猛獣の元に向かったのが……。
「よっしゃぁぁ! じいちゃまたちに、百発は思いっきり叩いていいよと、僕、許可もらったのですよ! まーず、いっぱーつ!」
と言いながら、巨大なハリセンを振り翳した5歳の凛音だった。
パーン!
素晴らしくいい音がした。
「ほらほら~! 起きるんです! 叩きますよ!」
ス、パ、パ、パン!
連打に、嫌そうに眉を寄せたマルセルがボソッとつぶやいた。
「……いや、お前、もうすでに叩いてるだろ?」
「はい! まだ5発ですよ! 95発残ってますから!」
「やめろっての!」
「いやですかぁ? じゃぁ、金だらいにしましょうか? その方が楽ですね! 準備しましょう!」
「なんで、金だらいなんだよ!」
「天井にヒモを通しておけば、何回も落とせます! 水も入れちゃいましょう!」
「やめろっての! どこの子供だよ! ……?」
言い返したマルセルが、自分を既に叩いている凛音を見ると、目をわずかに大きくする。
凛音はニヤッと笑うと、
「せーのっ! 目を覚ましなさい! この馬鹿~!」
振りかぶって、思いっきりマルセルの頭上に振り下ろした。
「あ、だぁぁ! いてぇじゃねえか! お前、音が鳴る方じゃなくて折り畳んでる、密度の多いカドの方で思いっきりやっただろ!」
頭を押さえながら、しきりに文句を言うマルセルに、
ちちちっ!
と空いている右手の人差し指を左右に動かした。
「何言ってるんですか? 痛くないでしょ? 今まで散々怪我しまくってるって言うじゃないですか~? 血も出てませんよ? それに、これには愛情とお目覚め機能がついてますよ! 僕、やっさしい!」
「何をどうやったら、このハリセンが愛情なんだよ!」
「これ、お手紙と辞令の数々を束ねたものなのですよ~? 読んでないんでしょ? 優しい僕が代わりによんでおきましたからね? 簡単に説明してさしあげます! まずレクじーじからは、スティアナ公主の後継者としての自覚足りませんから、もう家出てってくださいな~ですって! おめでとうございます!」
パッシンパッシン……えっ? 凛音。楽しそうにハリセンでアホの頬を叩いてる……悪役令嬢ものの小説を読んでるっていうが、様になってるぞ。
「ついでに、カズール伯爵家からは騎士団を無断で出てったから、任務放棄違反罰則命令ですよ! シャバに出てくるのは半年後! 頑張ってくださいね~? 一応、迎えにだけは行ってあげましょう! 僕の母様と」
オイオイ、シャバって言葉、誰に聞いた?
凛音……。
「……お前の母親?」
「えぇ! 本当に、こんな猛獣のどこがいいんでしょうねー? もっと優しくてかっこいい人いたでしょうに」
「……お前、王弟殿下の第二王子の子供だろ?」
「ばっかですかぁぁ! 伯父上の! どこに! 似てるんですかぁぁ? 僕は! 伯父上に似てたら! もっとイケメンです! 父親似だから! こんなに! ブッサイクなんですよ!」
オイオイ……凛音。
一言一言言いながらパンパンするな……。
まぁ、お前の伯父は見た目はワイルドだが、嫁デレだ。
「それに、伯父上に似てたら、もっと青みがかってるとか~! 切長の目をしてるはずじゃないですか! この顔を見ましょう! 垂れ目で無駄にアホヅラですよ! はい! 誰に似てると思いますか! 答えなさい!」
「……えっと、ティア」
「忘れてませんね?」
「情報こなかったけど、ティアって結婚したんだ? お父さん誰?」
「愚か者ぉぉ!」
パチン!
凛音が頬を叩く。
「この髪の色見なさい! 僕で確認すんな! このあほったれぇぇ! もういい! 離婚です! じいちゃまたちに頼んで、母様の再婚相手探してもらうのです! このヘタレ!」
おぉぉ……凛音、よく言った!
「母様が、母様が、どれだけ待ってたと思うんですか! 僕をどんな思いで生んだとおもうんですか! 待ってたと思うんですか!」
「……君、男の子でしょ?」
「女ですよ! 失礼ですね! どこぞの誰かにそっくりだそうです!」
「どこの誰……」
「製造元です! うぎゃぁぁぁ! 製造元! ぎゅーすんなぁぁ!」
あ、そういうセリフは5歳の子供が言うもんじゃない……ま、いっか……。
目の前では、凛音を思いっきり抱きしめたデカイ獣がいて、泣きじゃくって、そのまま寝てしまっていた。
数日寝てなかったらしく、凛音を離さなかったので、そのまま置いて行ったのだが、翌日レクに怒られた……マルセルが。
1日凛音を抱いて寝ただけで落ち着いたらしく、数日後、半年間の研修に行ったそうだ。
研修といっても、婿入り先で義父や義理の祖父にボッコボコにされたらしい。
まぁ、頑張れ!
~*~~*~~*~
半年後、髪も整えて傷も治して、服も綺麗になったマルセルは、改めて自分の娘に会った。
ぼーっとしていた実父の前に腕を組み、ふんぞり返って見上げた……凛音は、
「どこの害獣ですか? 生ゴミですか? 通路に置かないでください! 邪魔ですよ! それより、何かいうことないですか?」
と言った。
おぉぉ……さすがツンデレ。
「えっと……」
「帰ってきたら、ただいま、くらいいいなさい!」
「……あ、ただいま……」
「もう一回! 製造元!」
その言葉に、周りで様子を見守っていた凛音の母のティアは青ざめ、ティアの祖父のシエラ叔父は、何故かハリセンでマルセルを殴り飛ばした。
「この馬鹿孫がぁぁ! 凛音に何を教えたぁぁ!」
「ち、違います! 俺教えてません!」
自分じゃないと何度も首を振るマルセル。
うん、半年前も、お前は言ってはなかった……。
しかし、凛音を溺愛している叔父は、スパパンと叩きまくっている。
……叔父が、凛音にハリセンの扱い方を教えたようだ。
「ダメですよ! じいちゃま。僕のおもちゃに手を出してはいけません!」
「えぇぇ~! もう一発!」
「僕にはまだ57発叩く権利が残ってます! そのあとにしてください!」
「……凛音。おもちゃじゃないよ? この人、凛音のお父さんだから!」
ティアが声をかけるが、プイッと顔を背ける。
「違いますよ! 僕の父なら、ちゃんと名前言ってくれないと! それに、見ず知らずの人間を、父と呼べませんよ! これは僕のおもちゃか、ペットです!」
「……頑固なのは誰に似たの?」
ため息をつくティアに、
「母様だそうですよ?」
「……ティアに似てる……けど、俺にも似てる」
ボロボロ涙を流しながら、膝をつく。
身長差もあってか、顔を見ようと思ったらしい。
「あ、改めて、はじめまして……でいいかな? 俺はマルセル。昔はもうちょっと明るい色の髪だったんだけど、こんな色になった。目の色は同じ……かな? 俺が君の父親だよ」
「……熊みたい。聞いてたのと違います」
「あの頃は、まだ成長期だったから……」
「……ただいまって言いなさい」
「おかえりって言ってくれる?」
「先にちゃんと言いなさい!」
マルセルを見た凛音が、泣きそうな顔になる。
「おかえりって言えないじゃないですか……」
「……! ‥‥ただいま!」
腕を伸ばして、凛音を抱きしめて頬擦りする。
「ただいま……ただいま!」
「ぎゃぁぁぁ! ひげザリザリ、ジョリジョリ、痛い! じ、じいじ~! 助けてぇぇ!」
ツンデレが逃げようとするが腕は外れず、慌ててティアが近づくと、また、抱きしめ……しばらく泣き続けた。
見た目はゴツくなったが、マルセルは泣き虫のままだったと、俺はレクに伝えておいたのだった。
~*~~*~~*~
一応……
マルセル……ちぃちゃんの三つ子の姉、二葉とレクシアの長男。
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