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番外編を集めてる^_^ ねこネコ(=^ェ^=)
【番外編】新種の生き物……って、僕は珍獣ではありません!……セリ目線
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今日、僕セリは、国王陛下に呼ばれた。
一応ね? まぁ、陛下……幸矢兄さまは僕の従兄弟だし、僕の兄弟子。
うん、僕の師匠は人外程度には強い人だから、いろんな人が弟子になりたいって頭を下げるらしい。
でも、問答無用の遠慮なく容赦なく繰り広げられる攻撃と、口撃に、心身ともにめったうちになるらしく、次々と辞めていったらしい。
なので、数日で脱落した人は教わった『生徒』、そのまま騎士になっても定期的に稽古つけてもらう人間は『弟子』になる。
ちなみに、僕の兄四人は『生徒』で、僕の父さまと僕は『弟子』。
そして、現在、騎士団長クラスでは、ラファ団長と僕だけが『弟子』なんだよね。
僕が騎士団長になったのは、まだ一、二年程度。
その前は、特務部隊に入っていて、色々と……うん、色々とやらせてもらってた。
その頃は髪も短くしてたし、仕事上染めたりもしてた。
で、当時の潜入の途中で何故か、中央に戻る命令が出た。
いつになく順調に進んでいた任務の途中放棄に、納得できなかった僕は、急いで戻ってカズールにいた直属の上司のフィア兄さま……次期カズール伯爵に会った。
そうすると、
「うわぁ……髪の毛、本当に脱色してる。似合わないね~セリ」
と言われた。
「仕方ないでしょ? 僕には、正式な術師と呼ばれる方ほど術を自在に操れませんし、任務中ずっと目と髪を同時に色を変え続けられません。それに黒髪って珍しいんだから。すぐにマークされるんだよ?」
「そりゃ、17から5年近くもやってれば、お尋ね者になるに決まってるでしょ? 『ブラックドラゴン』ちゃん?」
「何ですか? それ!」
「賞金首リスト、最新版」
フィア兄さまが、机に置いていた紙を持ち上げてこちらに見せた。
あまり質の良くないひらひらとした紙には、
『高額賞金首:通称ブラックドラゴン』
という文字の下に、
『性別:女
年齢:15歳前後
身長:155cm前後』
と書かれている。
「はぁぁ? 僕は男! 20代! それに身長だって159cmはある! せめて160cm前後にしろ!」
「そっちかい! 賞金首に名前を連ねたことを心配しないのかい!」
と突っ込まれたけど、そんなの覚悟して潜入してるもん!
何故かため息をつくフィア兄さまの腕の中には、ちっちゃい幼児がいて……、
「じーじ、くりょ、ちあう。ぶりゃっく、ちあう」
なんて言ってる。
良く知ってるね、黒とブラックの意味。
今、僕の髪の色は、あまり綺麗に染まってないけど赤毛のつもりの栗毛。
黒は母さまたちグランディアの血筋の人間には当たり前だけど、この国ではとても珍しいんだよね。
でも、この髪を見て黒じゃないって言えるのは賢い。
「お利口ですねぇ……うわぁ、フィア兄さま3人目? 六槻姉さんそっくり!」
「可愛いでしょう? 僕の孫の凛音だよ」
「あれ? アルドリーン様の子?」
アルドリーン様はフィア兄さまの長女で、王弟の蒼記兄の次男に嫁いでいる。
「違うよ、リーンの子は男の子。ティアの娘です。マルセルとの子供」
「うえぇぇ~! 僕より年下のマルセルの子供~! あ、そっか、マルセル、16で結婚できるんだ」
「……セリは、早く旦那さん見つけようね?」
「奥さんです! 失礼な!」
「綾ちゃんが、旦那でも嫁でもいいからって言ってたよ?」
「兄貴たちみたいに、鬼畜や変態じゃないので、可愛いお嫁さん探します!」
拳を固め、宣言する。
そうすると、何故かフィア兄さまの腕の中で大きいため息が聞こえる。
「……無理でしゅ……にーにより可愛いこ、滅多に探せにゃいと思うでしゅ」
「うえぇぇーん! 赤ん坊に言われた~!」
「わたくちは、いっしゃいでしゅ!」
「一歳は赤ん坊です!」
「ルナねーねは、しょんなこといいましぇんでした」
ぷぅっと頬を膨らませる凛音の言葉を繰り返す。
「ルナ……?」
「マユムスティーンのアンディーユしゃまのご令嬢でしゅ。リュナ……ルナリアしゃまでしゅ。とってもかちこくて、やしゃしくて、おともらちでしゅの」
「えっと、グランディア大公のご令嬢……ちぃや二葉の姉妹の七聆の娘だよ。この子より3歳上かな? かなり賢くてね? この間、手のひらサイズの石板渡されなかった?」
「あぁ、これですね?」
騎士に見えないように普通の格好をしているが、利き手の方ではない右手の薬指に認識阻害の術をかけている指輪に触れると、マジックボックスが開き、石板を取り出す。
本当は騎士の場合、胸ポケットとか腰に空間魔法付きのポーチを支給されるものの、僕は騎士団に所属していないようになっているので、騎士団からの支給はなかった。
代わりに、実家にあったこの指輪を父さまに借りて使っている。
「それ、元はこんな書類サイズだったのを、リーダイルが『持って歩くの億劫!』っていうし、それでいて団長室の機械を触ろうとしないもんだから、ラファがもう怒ってたんだよね。そうしたら、ちょうどちぃに連れられて遊びに来てたルナがそのやりとり見ていたらしくて、ひと月くらいしてかな? シエラ兄様のところに来てね? 『はい、これ使ってみてくらしゃい。前に、じーじとカジュールとおうちとで文字をやりとりしたり、お声を届ける実験しまちた。一緒に使えりゅのは、実験ではみっちゅまででしゅ。商品化しゅる場合は、騎士団に権利委譲しましゅ』って言ってくれたらしいよ」
「え、えぇぇ? いつですか?」
「商品化というか、正式に騎士団で使うことに決めたのは2年前。配布に一年かかった。つまり、一歳くらいで思いついた。それにこのペン」
机のペン立てに入っていたペンを見せる。
「これも、あの子が考えた」
「……天才だ」
「うーん……そうかもしれないけど、とっても可愛い、優しいいい子だよ。ちぃがめちゃくちゃ可愛がってる。父親も母親も、全く面倒を見ないらしくて、ちぃと日向夏ちゃんがいつも連れて歩いてるよ。もう、あの馬鹿親が、権利放棄すればいいのに……特に強欲な母親が、文句を言ったり無視したりするくせに、ルナの発明の特許とか得たお金を取ろうとしてるらしいよ。彗が、馬鹿達が触れないようにしてるらしいし、ルナも自分は製作費用だけ欲しい。あとはいらないって言ってる。これからルナのためにできることを探そうかって思ってるよ」
騎士団のために色々考えて、作ってくれたもんね。
と、フィア兄さんはつぶやいた。
それから僕は実家に帰ったら、父さまに号泣された。
父さまは7人いる息子の中で、何故か僕がお気に入り。
ついでに、僕の弟の結婚式も迫っていて、情緒不安定だったらしい。
……普通、嫁に出したり養子に出すならわかるけど、六男のシリルが結婚するだけで何故?
と思ったら、
「セリがいない間は、地獄だった……」
とさめざめと泣かれ、
「可愛いセリ。お願いだから、もうどこにも行かないんだよ? お前の兄さんたちが酷いんだ。もう、父さまは隠居したいです。それか、綾とセリを連れて実家に家出します!」
と宣言された。
離婚寸前?
違います。
うちの父さまは元々僕の祖父がカズール伯爵で、祖母がフェリスタ公爵令嬢。
カズール家には今の僕の師匠やリオンおじさんと言った後継者がいたけど、フェリスタ家には父さま以外の後継者がおらず、5歳にしてフェリスタ家当主になり、18歳の時には実父だったおじいさまも亡くなった。
フェリスタ公爵家のことはある程度兄貴たちが大きくなったら後を譲って、騎士として生きたいと思っていたらしい。
でも、兄貴たちはどいつもこいつもポンコツで、義理の姉さんたちの方が有能。
義姉たちはそれぞれ、教師兼騎士に元騎士団長、学者の卵。
兄貴たちは父さまの苦労をそっちのけで、マイペースだ。
ちなみにすぐ上の兄は、一応騎士になったけど、下っ端。
ろくに仕事もしないで、父譲りの顔で女性を引っ掛けまくっているようだ。
すぐ下の弟のシリルは身体が少し弱かったので、騎士にならず学者として王宮の書庫を整理、研究している。
一番下の弟のウィンツェンツは、少し歳が離れているから、可愛い。
まぁ、僕以外全部父さま譲りの顔だ。
「父さま、まだ若いよ? 隠居なんて早すぎるでしょ? 幸矢兄さんも反対するよ?」
「陛下も好きだけど、私は綾とセリがいないと生きて行けないんだ~!」
と頬をすりすりされ、トイレ以外はずっと一緒……つまり、父さまの職場にまで僕は連れて行かれ、夜は父さまと母さまのベッドに一緒に寝る羽目になり、ちょっと息抜きにと離れたら、父さまが真っ青になって僕を探し回るという経験をした。
豪快で豪胆な母さまも、ため息をつきながら告げる。
「セリ。花婿の父として情緒不安定なレーヴェの為にも、髪を黒くして、一年くらいは一緒に過ごしてやるのだ」
「一年と言わず、一生! もう、セリは働かなくていいから! 父さまが働くから!」
「……だそうだ」
「えぇぇぇ~? ひと月はいいけど、それ以上は嫌! それに騎士なんだから、騎士団に入る!」
そういうと、
「じゃぁ、父さまと一緒の!」
「それは嫌!」
「な、なんでぇぇぇ? そんなに父さまが嫌いなの?」
なんて言いながら、イケメン父さまが本気で号泣した。
僕は引いた。
いや、引くついでに逃げたかったのに間に合わなくて、抱きしめられたまま、泣き疲れて眠られた日には、暑苦しいし、大好きな父さまでも蹴りを入れて逃げようと思った……うん、思ったけど、我慢したよ。
あまり身動きできないまま、なんとか母さまが寝冷えしないように毛布をかけて、暑苦しいけどそのまま一緒に横になる。
すると、母さまは強ばった手を伸ばして、父さまの背中を撫でながら普段通りの淡々とした口調で爆弾発言をした。
「エルとジークが騎士団で色々と、イロイロと問題を起こしているらしくて、レーヴェは一回入院した」
「えっ?」
酒はほとんど嗜まず、嗜好品はお茶とハーブティーにお菓子……うん、父さま甘党です。
一番はクッキーで、プリンやアイスクリームなども好きだそうです。
それはいいとして、
「父さま、入院? どこが悪かったの?」
「ストレス? あ、幸矢たちはレーヴェを責めず、エルたちをしごいてたんだぞ? でも、馬鹿どもが反省せずに、最後にシエラ兄上やエディおじいさま方を怒らせてだな? それを見て参ったらしい。レーヴェは繊細だからな……それに、一時期セリと連絡が取れなかったからか……仕事と理解していたとはいえ、子煩悩なレーヴェには耐えられなかったのだろう」
「うっ……で、でも、父さまと同じ職場は憧れだけど、同僚が兄様たちって嫌だ~。別の団に就職したい」
「うーん……後宮騎士団は嫌……でも、なるべく近くにいて欲しいのだ」
「物足りないし、毎日兄貴たちをボコボコにしそうだもん。余計に父さまのストレスにならない?」
それが一番心配だ。
父さまはイケメンで、優しくて、強くて、僕の自慢の父さまだけど、愚兄たちは我慢できない。
僕が平均より小柄で、一人だけ垂れ目で童顔なのをからかう女好きに、それを容赦なく殴りつける脳筋。
歳の近い二人の喧嘩を嗜めることもせず、メガネサドはマゾの幼なじみの先輩を捕らえる策略を楽しげに計画し、マゾは月姉に振り向いてもらう為に訳もわからないストーカーのように追いかけ回し、殴られ、それが愛されていると豪語する。
まぁ、三兄はちょっと勉強が苦手で肉弾攻撃しかできない、頼りない程度で、矯正すれば何とかなる……はず!
うん、義姉さんは身体は弱いけど、とっても賢い子だし……あ、義姉って言うけど、僕より一つ下なんだよね。
すぐ下のシリルは、一番父さまに似てるいい子。
でも今日、数年ぶりに会ったら、
「セリ兄さん……可愛く育ったね? うーん、兄さんって、女の子だっけ?」
って、僕の頭を撫でてくれたから、ムカついてちょうどその場でニヤニヤ笑っていた長兄、次兄、四兄をフルボッコしておいた。
三兄は奥さんとお出かけ中だったよ。
それに、もうすぐ結婚するシリルを傷つけるのはダメだよね。
僕が3人を一人で殴り、蹴り、投げ飛ばしたのを見た末弟が目をキラキラさせて、
「セリ兄様、かっこいい! 僕、兄様みたいになる!」
って言ってくれたのは嬉しいな。
なのに、
「セリよりも、ウィンは絶対背が伸びるから、目指すのは兄様たちにしようね?」
なんて長兄が失言してくれたので、シリルとウィンツェンツを部屋から出して、しばらく特訓という名の躾をしておいた。
これくらいはしてもいいでしょ。
しかし情けないなぁ……まだ下っ端騎士してる四兄がクタクタで倒れ込むのは練習不足ということで、騎士団の上司にチクればいいけれど、長兄と次兄は王族の警護にサポートの後宮騎士でしょ?
こんなに弱っちくていいのかな?
僕だって本気出してる訳じゃないのに……うん、フィア兄様やラファ兄様、師匠にチクっとこう!
……って、気軽に告げ口に行ったら、師匠……騎士団総帥から即、辞令を渡された。
《セリディアス・フェリスタ
以下の騎士団の団長として任に着くように
王宮騎士団
カズール伯爵シエラシール・クリスティーン》
書き殴りだよ?
目の前で書かれて渡されたんだよ?
ひどくない?
唖然としてたら、二人にこんこんと言い聞かせられた。
「綾が、『レーヴェが泣いて仕方ないので、うちのセリを一番近い任地に縛り付けてくれないか?』って言ってたからね」
「うん、『レーヴェがちょっと情緒不安定で役に立たない……まぁ、普段はいいけど、最近ポンコツで……』って、ウェイト兄様がぼやいてたんだよね……」
「ポンコツ……」
父さま……そんなに僕が好きなんだね。
「だからね? セリ。元々、お前の兄たちは、ものすっごく、ものすっごく、力不足なの! はっきりいえば、高給取りのくせに半分も仕事してない! ちぃは仕事しつつ、自分の努力でデザインの勉強をして、結婚しても手を抜かず、今は子育てしつつ、姪のルナの父親がわりもしてる」
「こんなこと言って、脅してるって思われるのはいやなんだけど……セリが大人しくシエラ兄様のその辞令に『うん』って言わなかったら四人……うーん、3人かな? 黄騎士団の特攻隊長は除きますが、他の3人辞めさせます」
「はい、そうしてください!」
僕は即答する。
なんで、愚兄どもの代わりに自分を差し出さなきゃいけないの?
嫌に決まってるじゃん!
それ、自業自得っていうんだよね?
今まで怠けてたツケは、自分で払えっての!
そういうと師匠は渋い顔になり、フィア兄様はにっこりと、
「じゃぁ、この辞令受け取らなきゃ、こっちの辞令……に替えようか?」
あ、なんか嫌な予感……。
目の前で書かれ突きつけられたのは、
《セリディアス・フェリスタ
以下の騎士団の団員の任に着くように
アルドリー国王陛下側近騎士団
カズール伯爵シエラシール・クリスティーン
代理リュシオン・フィルティリーア》
の文字。
「い、嫌だぁぁ! 父さまと同じ制服は着たいけど! 兄貴たちと同僚は絶対嫌! 師匠! そっちの辞令ください! ついでに、兄貴たちの給料は半分カットで! その分をシリルの結婚祝いとして包んでやってください! 月姉たちには僕が言っておきます!」
「……そんなに後宮勤め嫌? 幸矢泣くよ?」
「幸矢兄やちぃ兄はいいの! 兄貴たちと一緒に出勤とか死ぬほど嫌! 兄貴たちが左遷されたら行きます!」
「……そこまでエルドヴァーンたちが嫌いなんだね」
持っていた《後宮騎士団員》辞令をクシャクシャにしつつ僕を見たフィア兄様に、僕は、
「うん! 大嫌い!」
と告げ、今までされてきたこと、それを3倍以上返ししてきたことを話したのだった。
一応ね? まぁ、陛下……幸矢兄さまは僕の従兄弟だし、僕の兄弟子。
うん、僕の師匠は人外程度には強い人だから、いろんな人が弟子になりたいって頭を下げるらしい。
でも、問答無用の遠慮なく容赦なく繰り広げられる攻撃と、口撃に、心身ともにめったうちになるらしく、次々と辞めていったらしい。
なので、数日で脱落した人は教わった『生徒』、そのまま騎士になっても定期的に稽古つけてもらう人間は『弟子』になる。
ちなみに、僕の兄四人は『生徒』で、僕の父さまと僕は『弟子』。
そして、現在、騎士団長クラスでは、ラファ団長と僕だけが『弟子』なんだよね。
僕が騎士団長になったのは、まだ一、二年程度。
その前は、特務部隊に入っていて、色々と……うん、色々とやらせてもらってた。
その頃は髪も短くしてたし、仕事上染めたりもしてた。
で、当時の潜入の途中で何故か、中央に戻る命令が出た。
いつになく順調に進んでいた任務の途中放棄に、納得できなかった僕は、急いで戻ってカズールにいた直属の上司のフィア兄さま……次期カズール伯爵に会った。
そうすると、
「うわぁ……髪の毛、本当に脱色してる。似合わないね~セリ」
と言われた。
「仕方ないでしょ? 僕には、正式な術師と呼ばれる方ほど術を自在に操れませんし、任務中ずっと目と髪を同時に色を変え続けられません。それに黒髪って珍しいんだから。すぐにマークされるんだよ?」
「そりゃ、17から5年近くもやってれば、お尋ね者になるに決まってるでしょ? 『ブラックドラゴン』ちゃん?」
「何ですか? それ!」
「賞金首リスト、最新版」
フィア兄さまが、机に置いていた紙を持ち上げてこちらに見せた。
あまり質の良くないひらひらとした紙には、
『高額賞金首:通称ブラックドラゴン』
という文字の下に、
『性別:女
年齢:15歳前後
身長:155cm前後』
と書かれている。
「はぁぁ? 僕は男! 20代! それに身長だって159cmはある! せめて160cm前後にしろ!」
「そっちかい! 賞金首に名前を連ねたことを心配しないのかい!」
と突っ込まれたけど、そんなの覚悟して潜入してるもん!
何故かため息をつくフィア兄さまの腕の中には、ちっちゃい幼児がいて……、
「じーじ、くりょ、ちあう。ぶりゃっく、ちあう」
なんて言ってる。
良く知ってるね、黒とブラックの意味。
今、僕の髪の色は、あまり綺麗に染まってないけど赤毛のつもりの栗毛。
黒は母さまたちグランディアの血筋の人間には当たり前だけど、この国ではとても珍しいんだよね。
でも、この髪を見て黒じゃないって言えるのは賢い。
「お利口ですねぇ……うわぁ、フィア兄さま3人目? 六槻姉さんそっくり!」
「可愛いでしょう? 僕の孫の凛音だよ」
「あれ? アルドリーン様の子?」
アルドリーン様はフィア兄さまの長女で、王弟の蒼記兄の次男に嫁いでいる。
「違うよ、リーンの子は男の子。ティアの娘です。マルセルとの子供」
「うえぇぇ~! 僕より年下のマルセルの子供~! あ、そっか、マルセル、16で結婚できるんだ」
「……セリは、早く旦那さん見つけようね?」
「奥さんです! 失礼な!」
「綾ちゃんが、旦那でも嫁でもいいからって言ってたよ?」
「兄貴たちみたいに、鬼畜や変態じゃないので、可愛いお嫁さん探します!」
拳を固め、宣言する。
そうすると、何故かフィア兄さまの腕の中で大きいため息が聞こえる。
「……無理でしゅ……にーにより可愛いこ、滅多に探せにゃいと思うでしゅ」
「うえぇぇーん! 赤ん坊に言われた~!」
「わたくちは、いっしゃいでしゅ!」
「一歳は赤ん坊です!」
「ルナねーねは、しょんなこといいましぇんでした」
ぷぅっと頬を膨らませる凛音の言葉を繰り返す。
「ルナ……?」
「マユムスティーンのアンディーユしゃまのご令嬢でしゅ。リュナ……ルナリアしゃまでしゅ。とってもかちこくて、やしゃしくて、おともらちでしゅの」
「えっと、グランディア大公のご令嬢……ちぃや二葉の姉妹の七聆の娘だよ。この子より3歳上かな? かなり賢くてね? この間、手のひらサイズの石板渡されなかった?」
「あぁ、これですね?」
騎士に見えないように普通の格好をしているが、利き手の方ではない右手の薬指に認識阻害の術をかけている指輪に触れると、マジックボックスが開き、石板を取り出す。
本当は騎士の場合、胸ポケットとか腰に空間魔法付きのポーチを支給されるものの、僕は騎士団に所属していないようになっているので、騎士団からの支給はなかった。
代わりに、実家にあったこの指輪を父さまに借りて使っている。
「それ、元はこんな書類サイズだったのを、リーダイルが『持って歩くの億劫!』っていうし、それでいて団長室の機械を触ろうとしないもんだから、ラファがもう怒ってたんだよね。そうしたら、ちょうどちぃに連れられて遊びに来てたルナがそのやりとり見ていたらしくて、ひと月くらいしてかな? シエラ兄様のところに来てね? 『はい、これ使ってみてくらしゃい。前に、じーじとカジュールとおうちとで文字をやりとりしたり、お声を届ける実験しまちた。一緒に使えりゅのは、実験ではみっちゅまででしゅ。商品化しゅる場合は、騎士団に権利委譲しましゅ』って言ってくれたらしいよ」
「え、えぇぇ? いつですか?」
「商品化というか、正式に騎士団で使うことに決めたのは2年前。配布に一年かかった。つまり、一歳くらいで思いついた。それにこのペン」
机のペン立てに入っていたペンを見せる。
「これも、あの子が考えた」
「……天才だ」
「うーん……そうかもしれないけど、とっても可愛い、優しいいい子だよ。ちぃがめちゃくちゃ可愛がってる。父親も母親も、全く面倒を見ないらしくて、ちぃと日向夏ちゃんがいつも連れて歩いてるよ。もう、あの馬鹿親が、権利放棄すればいいのに……特に強欲な母親が、文句を言ったり無視したりするくせに、ルナの発明の特許とか得たお金を取ろうとしてるらしいよ。彗が、馬鹿達が触れないようにしてるらしいし、ルナも自分は製作費用だけ欲しい。あとはいらないって言ってる。これからルナのためにできることを探そうかって思ってるよ」
騎士団のために色々考えて、作ってくれたもんね。
と、フィア兄さんはつぶやいた。
それから僕は実家に帰ったら、父さまに号泣された。
父さまは7人いる息子の中で、何故か僕がお気に入り。
ついでに、僕の弟の結婚式も迫っていて、情緒不安定だったらしい。
……普通、嫁に出したり養子に出すならわかるけど、六男のシリルが結婚するだけで何故?
と思ったら、
「セリがいない間は、地獄だった……」
とさめざめと泣かれ、
「可愛いセリ。お願いだから、もうどこにも行かないんだよ? お前の兄さんたちが酷いんだ。もう、父さまは隠居したいです。それか、綾とセリを連れて実家に家出します!」
と宣言された。
離婚寸前?
違います。
うちの父さまは元々僕の祖父がカズール伯爵で、祖母がフェリスタ公爵令嬢。
カズール家には今の僕の師匠やリオンおじさんと言った後継者がいたけど、フェリスタ家には父さま以外の後継者がおらず、5歳にしてフェリスタ家当主になり、18歳の時には実父だったおじいさまも亡くなった。
フェリスタ公爵家のことはある程度兄貴たちが大きくなったら後を譲って、騎士として生きたいと思っていたらしい。
でも、兄貴たちはどいつもこいつもポンコツで、義理の姉さんたちの方が有能。
義姉たちはそれぞれ、教師兼騎士に元騎士団長、学者の卵。
兄貴たちは父さまの苦労をそっちのけで、マイペースだ。
ちなみにすぐ上の兄は、一応騎士になったけど、下っ端。
ろくに仕事もしないで、父譲りの顔で女性を引っ掛けまくっているようだ。
すぐ下の弟のシリルは身体が少し弱かったので、騎士にならず学者として王宮の書庫を整理、研究している。
一番下の弟のウィンツェンツは、少し歳が離れているから、可愛い。
まぁ、僕以外全部父さま譲りの顔だ。
「父さま、まだ若いよ? 隠居なんて早すぎるでしょ? 幸矢兄さんも反対するよ?」
「陛下も好きだけど、私は綾とセリがいないと生きて行けないんだ~!」
と頬をすりすりされ、トイレ以外はずっと一緒……つまり、父さまの職場にまで僕は連れて行かれ、夜は父さまと母さまのベッドに一緒に寝る羽目になり、ちょっと息抜きにと離れたら、父さまが真っ青になって僕を探し回るという経験をした。
豪快で豪胆な母さまも、ため息をつきながら告げる。
「セリ。花婿の父として情緒不安定なレーヴェの為にも、髪を黒くして、一年くらいは一緒に過ごしてやるのだ」
「一年と言わず、一生! もう、セリは働かなくていいから! 父さまが働くから!」
「……だそうだ」
「えぇぇぇ~? ひと月はいいけど、それ以上は嫌! それに騎士なんだから、騎士団に入る!」
そういうと、
「じゃぁ、父さまと一緒の!」
「それは嫌!」
「な、なんでぇぇぇ? そんなに父さまが嫌いなの?」
なんて言いながら、イケメン父さまが本気で号泣した。
僕は引いた。
いや、引くついでに逃げたかったのに間に合わなくて、抱きしめられたまま、泣き疲れて眠られた日には、暑苦しいし、大好きな父さまでも蹴りを入れて逃げようと思った……うん、思ったけど、我慢したよ。
あまり身動きできないまま、なんとか母さまが寝冷えしないように毛布をかけて、暑苦しいけどそのまま一緒に横になる。
すると、母さまは強ばった手を伸ばして、父さまの背中を撫でながら普段通りの淡々とした口調で爆弾発言をした。
「エルとジークが騎士団で色々と、イロイロと問題を起こしているらしくて、レーヴェは一回入院した」
「えっ?」
酒はほとんど嗜まず、嗜好品はお茶とハーブティーにお菓子……うん、父さま甘党です。
一番はクッキーで、プリンやアイスクリームなども好きだそうです。
それはいいとして、
「父さま、入院? どこが悪かったの?」
「ストレス? あ、幸矢たちはレーヴェを責めず、エルたちをしごいてたんだぞ? でも、馬鹿どもが反省せずに、最後にシエラ兄上やエディおじいさま方を怒らせてだな? それを見て参ったらしい。レーヴェは繊細だからな……それに、一時期セリと連絡が取れなかったからか……仕事と理解していたとはいえ、子煩悩なレーヴェには耐えられなかったのだろう」
「うっ……で、でも、父さまと同じ職場は憧れだけど、同僚が兄様たちって嫌だ~。別の団に就職したい」
「うーん……後宮騎士団は嫌……でも、なるべく近くにいて欲しいのだ」
「物足りないし、毎日兄貴たちをボコボコにしそうだもん。余計に父さまのストレスにならない?」
それが一番心配だ。
父さまはイケメンで、優しくて、強くて、僕の自慢の父さまだけど、愚兄たちは我慢できない。
僕が平均より小柄で、一人だけ垂れ目で童顔なのをからかう女好きに、それを容赦なく殴りつける脳筋。
歳の近い二人の喧嘩を嗜めることもせず、メガネサドはマゾの幼なじみの先輩を捕らえる策略を楽しげに計画し、マゾは月姉に振り向いてもらう為に訳もわからないストーカーのように追いかけ回し、殴られ、それが愛されていると豪語する。
まぁ、三兄はちょっと勉強が苦手で肉弾攻撃しかできない、頼りない程度で、矯正すれば何とかなる……はず!
うん、義姉さんは身体は弱いけど、とっても賢い子だし……あ、義姉って言うけど、僕より一つ下なんだよね。
すぐ下のシリルは、一番父さまに似てるいい子。
でも今日、数年ぶりに会ったら、
「セリ兄さん……可愛く育ったね? うーん、兄さんって、女の子だっけ?」
って、僕の頭を撫でてくれたから、ムカついてちょうどその場でニヤニヤ笑っていた長兄、次兄、四兄をフルボッコしておいた。
三兄は奥さんとお出かけ中だったよ。
それに、もうすぐ結婚するシリルを傷つけるのはダメだよね。
僕が3人を一人で殴り、蹴り、投げ飛ばしたのを見た末弟が目をキラキラさせて、
「セリ兄様、かっこいい! 僕、兄様みたいになる!」
って言ってくれたのは嬉しいな。
なのに、
「セリよりも、ウィンは絶対背が伸びるから、目指すのは兄様たちにしようね?」
なんて長兄が失言してくれたので、シリルとウィンツェンツを部屋から出して、しばらく特訓という名の躾をしておいた。
これくらいはしてもいいでしょ。
しかし情けないなぁ……まだ下っ端騎士してる四兄がクタクタで倒れ込むのは練習不足ということで、騎士団の上司にチクればいいけれど、長兄と次兄は王族の警護にサポートの後宮騎士でしょ?
こんなに弱っちくていいのかな?
僕だって本気出してる訳じゃないのに……うん、フィア兄様やラファ兄様、師匠にチクっとこう!
……って、気軽に告げ口に行ったら、師匠……騎士団総帥から即、辞令を渡された。
《セリディアス・フェリスタ
以下の騎士団の団長として任に着くように
王宮騎士団
カズール伯爵シエラシール・クリスティーン》
書き殴りだよ?
目の前で書かれて渡されたんだよ?
ひどくない?
唖然としてたら、二人にこんこんと言い聞かせられた。
「綾が、『レーヴェが泣いて仕方ないので、うちのセリを一番近い任地に縛り付けてくれないか?』って言ってたからね」
「うん、『レーヴェがちょっと情緒不安定で役に立たない……まぁ、普段はいいけど、最近ポンコツで……』って、ウェイト兄様がぼやいてたんだよね……」
「ポンコツ……」
父さま……そんなに僕が好きなんだね。
「だからね? セリ。元々、お前の兄たちは、ものすっごく、ものすっごく、力不足なの! はっきりいえば、高給取りのくせに半分も仕事してない! ちぃは仕事しつつ、自分の努力でデザインの勉強をして、結婚しても手を抜かず、今は子育てしつつ、姪のルナの父親がわりもしてる」
「こんなこと言って、脅してるって思われるのはいやなんだけど……セリが大人しくシエラ兄様のその辞令に『うん』って言わなかったら四人……うーん、3人かな? 黄騎士団の特攻隊長は除きますが、他の3人辞めさせます」
「はい、そうしてください!」
僕は即答する。
なんで、愚兄どもの代わりに自分を差し出さなきゃいけないの?
嫌に決まってるじゃん!
それ、自業自得っていうんだよね?
今まで怠けてたツケは、自分で払えっての!
そういうと師匠は渋い顔になり、フィア兄様はにっこりと、
「じゃぁ、この辞令受け取らなきゃ、こっちの辞令……に替えようか?」
あ、なんか嫌な予感……。
目の前で書かれ突きつけられたのは、
《セリディアス・フェリスタ
以下の騎士団の団員の任に着くように
アルドリー国王陛下側近騎士団
カズール伯爵シエラシール・クリスティーン
代理リュシオン・フィルティリーア》
の文字。
「い、嫌だぁぁ! 父さまと同じ制服は着たいけど! 兄貴たちと同僚は絶対嫌! 師匠! そっちの辞令ください! ついでに、兄貴たちの給料は半分カットで! その分をシリルの結婚祝いとして包んでやってください! 月姉たちには僕が言っておきます!」
「……そんなに後宮勤め嫌? 幸矢泣くよ?」
「幸矢兄やちぃ兄はいいの! 兄貴たちと一緒に出勤とか死ぬほど嫌! 兄貴たちが左遷されたら行きます!」
「……そこまでエルドヴァーンたちが嫌いなんだね」
持っていた《後宮騎士団員》辞令をクシャクシャにしつつ僕を見たフィア兄様に、僕は、
「うん! 大嫌い!」
と告げ、今までされてきたこと、それを3倍以上返ししてきたことを話したのだった。
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