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わたくしは、誰なのでしょう?
なんで、なんで、なんで?2……名前を奪われた食堂のおばさん目線(ざまぁレベル2.5)
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あたしは四人家族。
夫である男と子供二人、そしてあたし。
夫は休みらしい休みのない、この埃っぽく、ひなびた鉱山の町……名前はないらしい……とその近辺に住む貧しい民の無料の医師だ。
この地は、一応紅騎士団の分団が近くにあり、夫は騎士団に雇われている医師ということになっていて、給料は中央からある程度払われるらしいが、この地域の人間にすれば高額でも、あたしたちにとっては、はした金に過ぎない。
医術を一応学んでいて、術師としてもある程度の才能を持っているはずの夫だが、時間があれば毎日薬草辞典をすり切れるまでページをめくり、もしくは雑草を編んだ帽子を被り、薬草の苗を育てるオッサンとなっている。
ちなみに、その草帽子の材料はこの地域にありふれたもので、乾燥にも強く、風にも強い。
一度増えたら駆除が難しいらしく、役に立たないものと言われていたらしいが、つい最近、中央で研究され、非常に役に立つものと言われるようになり、こちらで生産を開始するらしい。
その上、その研究のために収穫されそこらで干されていたその草を見て夫が、昔誰かに聞いたとかで、干してあったそれで帽子を編んだところ、周囲が真似をして一気に周囲に広まったらしい。
それが、当たり前のように軒先で売られているのを見て、
「なんで簡単に教えるのよ! 知識料って事で、何割かとればよかったじゃない! お金になんないじゃない! 馬鹿!」
と文句を言うと、眉を寄せ、
「なんで? この地域ではみんな助け合うんだぞ。だから、お隣の人が子供たちを見ててくれるし、時々おすそ分けしてくれるんだろう?」
「あ、あれは……当たり前……」
言い返そうとしたあたしに、大きくため息をついた。
「な訳ないだろう? 何を言ってるんだ。こっちは料理もできないし、洗濯も掃除もできないんだ。お礼は別のものを考えるしかないだろ? 俺の知識が、お金になればいい事じゃないか? お礼なら時々差し入れられるおかずだ。ありがたいだろ? それにいつまでも、その驕慢な態度のお嬢さま気分はやめろ。いつまでも子供みたいな振る舞いするなよ。早く仕事に行くんだね。あまり遅刻が続くと、仕事もなくなるぞ?」
「なんでよ! あんたが働いてるんだから!」
「はぁ……俺一人で生活できるのは、せいぜい自分と子供二人までだ。お前の生活まで面倒みきれない。それにイオが、騎士の館に行きたいと言ってる。近くの騎士団までの交通費と食費、ある程度の身の回りの品を揃えるのも必要だ。最低でも、五年後までに貯められたら、いいくらいなんだ。お前を養う余裕はない!」
「この甲斐性なし!」
「あぁ、そうだな。昔からだ。それでもお前は俺でいいって言ったんだろ? ほら、洗濯物を取り込めば? それに、ここは水が貴重だ。毎日風呂に入ろうとか言うなよ。お隣が迷惑してるだろ!」
そう言ったきり、古びた机に向かった。
論文を読むのか、医術書を読むのか、薬草図鑑を見るのか、土壌調査をするのか……初めて見る夫の背中に、ベーっと舌を出した。
一応、イオと言うのは長男の現在の名前だ。
レイが娘の名前。
あたしはネネと呼ばれている。
情けないわ。
本当はもっといい名前だったのに!
それに、なんであたしが働かなくちゃいけないのよ!
前は悠々自適で、食事は好きなものを食べて、買い物ではドレスや装飾品を買いあさり、いつもお茶を飲んでお喋りしていたのに。
そうだ!
隠し持ってきた宝石を売っちゃえばいいじゃない!
急いで台所の天井近くに据え付けられていた棚のそばに椅子を寄せて、その棚の端の奥を探る。
ここに隠して置いていたのよ。
麻袋に隠しておいた……あら?
「ない……ないわ? なんでよ!」
「何を騒いでるんだ?」
先日夫に手当てを頼んで以来、時々中央からの荷物や、書類を届けてくれる、あたしたちの幼なじみだった紅騎士団長が顔を覗かせる。
「あー! *****! 助けてよ!」
「命令すんな!」
この間ここに来た時には、腕と鎖骨骨折に顔がボコボコになっていて青痣がしばらく残っていたこの男……しかし、最近になって癒えてきたら、兄の白騎士団長よりも精悍なイケメンに戻っている。
「で、何してんだ?」
「ないの! ここに置いていたものがないのよ!」
「は? 何が?」
「ここに麻袋に入れた……」
「そこにあったものかどうかは知らないが、麻袋はそこにあるだろ」
その指先をたどり、悲鳴を上げる。
「いやぁぁ! なんで?」
飛び降り、中身を確認する。
「……ない! ……ない! なんでないの!」
袋の中に手を突っ込んでも、ひっくり返しても、跡形もない。
「ひどい!」
「どうしたの? お母さん」
少し古ぼけた本を抱え姿を見せたイオが、あたしを見る。
「い、イオ……ここに置いていた袋の中身知ってる?」
「知らないよ? 何かあったの? 僕は団長に貰った本で勉強してたから。団長も見ててくれましたよね?」
「おう。よく覚えてたな」
騎士団長はにっと笑う。
「じゃぁ、******! とったの?」
返事はない……(作者の心の声→それはそうだろうなぁ……いまだに頑固に前の名前を叫んでいるんだから。意味もない記号以下のそれに返事をすることはないよね)
「ママ~うるさい~」
そう言いながら、台所から出られる裏庭から帰ってきたレイを振り返った。
あたしたちは目を見開く。
ブラブラと右手に持っているのは、砂まみれの何かの残骸。
以前のように毎日、新品のワンピースは用意できない。
ついでにあたしは作れないので、文句を言われつつレイには持ってこれた数少ない数枚のワンピースを着せている。
旦那は白衣の下は騎士団員から貰った古着。
イオも、近所に同年代の子がいるので、譲ってもらったと嬉しそうに色あせた服を着ている。
何が嬉しいんだろう?
今まできていた服の方が、仕立ても生地も何百倍も高級だ。
それなのに、イオはいつのまにか持ってきていた服などを何処かに持っていった。
その時聞くと、賢しげに答えた。
「ここじゃこんな服を着て遊べないから、騎士団長にお願いしてう……預かってもらった。取りに行っても返さないでって言ったからね! 絶対に取りに行かないで! それに、ママの服汚れてる。洗濯しようよ」
「何ですって?」
「ママ、毎日着替えたって、数日中には同じ服になるんだよ? 同じ場所が汚れてるって言われたんでしょう? 洗濯するか、お隣のおばさんに貰った服にしなよ。ここでそんなスカートの膨らんだ服着てる人いないよ? その服を洗って、ほどいて仕立て直したら二枚の服になるっておばさん言ってたよ?」
嫌に決まってるでしょ!
それにその言い方、忘れようと思ってるあの子を思い出すわ!
「そんな膨らんだ服じゃ仕事もできないし、裾が長過ぎて汚れるし、邪魔でしょ? 近所でも、ママのこと年に一回来るお祭りの時のチンドン屋さんみたい、変なおばさんって言われるんだよ。恥ずかしいからやめてよ」
「チンドン屋って何よ?」
「知らないよ。今度のお祭りに来るから、その時に見るといいよって言ってた。でも、ここで目立つよ。そのピンクとか、キラキラ刺繍とか。結婚式でも着ないって。それにもう一度言うけど、綺麗じゃないから余計に薄汚れてるって思われるよ? お風呂に入りたいって毎晩叫ぶより、おばさんに教えてもらって洗濯しようよ」
仕方ないでしょ!
母さまや三つ子の**ちゃんたちは、そんな生活してたでしょうけど、あたしはやったことないもの!
あたしは目を見開いて、レイの手のものを見つめる。
な、なんで……。
「いやぁぁ! あなた、それはどこで見つけたの?」
「えっ? ママが何か隠してたのを見て、とってもらった!」
「だ、誰に?」
「近所の子! でね? お礼に中身を分けてあげた」
「な、何考えてんのよ!」
叫ぶ。
そして、近づいてレイから宝石箱の残骸を引ったくり、手をつかんだ。
「返してもらいに行くわよ!」
「なんで? いいじゃない。あげたんだもん。返してなんて言っちゃダメって、ママ言ってたもん」
「昔のことでしょ! あれは大事なものなのよ! ママのなの! とっちゃダメ! 返してもらうのよ!」
「いや!」
手を振り払われる。
なんで言うこと聞いてくれないの?
こんなにわがままな子だったの?
「なんで? なんでダメなの? なんでここにいるの? じーじもばーばもなんでいないの?」
「だからね? 黙って! 叫ばないで! 言うことを聞きなさい!」
「なんで? ママはいつも叫んでるのに! パパを叩いたくせに! 文句ばっかり! ママなんか大嫌い!」
裏庭に出て行ったレイの背中を見送り、ふらふらと埃っぽい土間に膝をついた。
あぁ、汚い……。
そう思うけれど、それよりも混乱していた。
なんで?
聞いてくれないの?
いや違う。
あたしが子供たちの話を聞いていなかったんだ。
自分勝手……好き勝手に生きてきたバチが当たったんだ。
レイはあたしそのもの……あたし自身を写す鏡……。
「……じゃぁ、あの子は……誰に似たの? 可愛げなかったじゃない……」
ポツンとつぶやきが漏れた。
「あの子は……」
「お前じゃねぇなぁ……?」
幼なじみの嘲笑が響く。
「まぁ、俺も父親失格で、ここで言ったって知られたら、親父とか兄貴に殴られるだろうけど、お前よりまだマシだよな。お前の言うあの子ってのが、前、ルナリアって呼ばれてた子なら、お前に全然似てない! お前の旦那にも似てない! あの子、可愛いんだって俺の嫁言ってたぞ? ようやく目を覚まして、食事を取れるようになったらしいが、知ってるか? あの子、食物アレルギーだと! パンもゼリーも、クッキーもマフィンも食べられないそうだ。ミルクも卵もダメ! 知ってたか?」
「……!」
「アレルギー反応がひどいからって、元気になってきたら、食事療法に入っるそうだ。でも現状、数値も高くて、今後、最悪の場合、まだまだ増えるだろうってさ……親がちゃんとしてたらなぁ? 俺でも、一応メオの食べられるもの、苦手なものくらいは知ってたぞ? 命に関わるからな」
「命……」
「当たり前だろ? 食べなきゃ死ぬ。でも、食物アレルギーの場合、食べたら発疹が出るとか強い反応が出るんだよ。熱出したり、悪化したら呼吸困難とか起こすことだってあるんだよ。それくらい知らねえのか? 勉強するだろ?」
首を振る。
そんなの知らない。
国王の**兄様だって、あるけど他人事だった……。
でも、なんでこうなったんだろう……。
ううん、あたしは……あたしは……。
夫である男と子供二人、そしてあたし。
夫は休みらしい休みのない、この埃っぽく、ひなびた鉱山の町……名前はないらしい……とその近辺に住む貧しい民の無料の医師だ。
この地は、一応紅騎士団の分団が近くにあり、夫は騎士団に雇われている医師ということになっていて、給料は中央からある程度払われるらしいが、この地域の人間にすれば高額でも、あたしたちにとっては、はした金に過ぎない。
医術を一応学んでいて、術師としてもある程度の才能を持っているはずの夫だが、時間があれば毎日薬草辞典をすり切れるまでページをめくり、もしくは雑草を編んだ帽子を被り、薬草の苗を育てるオッサンとなっている。
ちなみに、その草帽子の材料はこの地域にありふれたもので、乾燥にも強く、風にも強い。
一度増えたら駆除が難しいらしく、役に立たないものと言われていたらしいが、つい最近、中央で研究され、非常に役に立つものと言われるようになり、こちらで生産を開始するらしい。
その上、その研究のために収穫されそこらで干されていたその草を見て夫が、昔誰かに聞いたとかで、干してあったそれで帽子を編んだところ、周囲が真似をして一気に周囲に広まったらしい。
それが、当たり前のように軒先で売られているのを見て、
「なんで簡単に教えるのよ! 知識料って事で、何割かとればよかったじゃない! お金になんないじゃない! 馬鹿!」
と文句を言うと、眉を寄せ、
「なんで? この地域ではみんな助け合うんだぞ。だから、お隣の人が子供たちを見ててくれるし、時々おすそ分けしてくれるんだろう?」
「あ、あれは……当たり前……」
言い返そうとしたあたしに、大きくため息をついた。
「な訳ないだろう? 何を言ってるんだ。こっちは料理もできないし、洗濯も掃除もできないんだ。お礼は別のものを考えるしかないだろ? 俺の知識が、お金になればいい事じゃないか? お礼なら時々差し入れられるおかずだ。ありがたいだろ? それにいつまでも、その驕慢な態度のお嬢さま気分はやめろ。いつまでも子供みたいな振る舞いするなよ。早く仕事に行くんだね。あまり遅刻が続くと、仕事もなくなるぞ?」
「なんでよ! あんたが働いてるんだから!」
「はぁ……俺一人で生活できるのは、せいぜい自分と子供二人までだ。お前の生活まで面倒みきれない。それにイオが、騎士の館に行きたいと言ってる。近くの騎士団までの交通費と食費、ある程度の身の回りの品を揃えるのも必要だ。最低でも、五年後までに貯められたら、いいくらいなんだ。お前を養う余裕はない!」
「この甲斐性なし!」
「あぁ、そうだな。昔からだ。それでもお前は俺でいいって言ったんだろ? ほら、洗濯物を取り込めば? それに、ここは水が貴重だ。毎日風呂に入ろうとか言うなよ。お隣が迷惑してるだろ!」
そう言ったきり、古びた机に向かった。
論文を読むのか、医術書を読むのか、薬草図鑑を見るのか、土壌調査をするのか……初めて見る夫の背中に、ベーっと舌を出した。
一応、イオと言うのは長男の現在の名前だ。
レイが娘の名前。
あたしはネネと呼ばれている。
情けないわ。
本当はもっといい名前だったのに!
それに、なんであたしが働かなくちゃいけないのよ!
前は悠々自適で、食事は好きなものを食べて、買い物ではドレスや装飾品を買いあさり、いつもお茶を飲んでお喋りしていたのに。
そうだ!
隠し持ってきた宝石を売っちゃえばいいじゃない!
急いで台所の天井近くに据え付けられていた棚のそばに椅子を寄せて、その棚の端の奥を探る。
ここに隠して置いていたのよ。
麻袋に隠しておいた……あら?
「ない……ないわ? なんでよ!」
「何を騒いでるんだ?」
先日夫に手当てを頼んで以来、時々中央からの荷物や、書類を届けてくれる、あたしたちの幼なじみだった紅騎士団長が顔を覗かせる。
「あー! *****! 助けてよ!」
「命令すんな!」
この間ここに来た時には、腕と鎖骨骨折に顔がボコボコになっていて青痣がしばらく残っていたこの男……しかし、最近になって癒えてきたら、兄の白騎士団長よりも精悍なイケメンに戻っている。
「で、何してんだ?」
「ないの! ここに置いていたものがないのよ!」
「は? 何が?」
「ここに麻袋に入れた……」
「そこにあったものかどうかは知らないが、麻袋はそこにあるだろ」
その指先をたどり、悲鳴を上げる。
「いやぁぁ! なんで?」
飛び降り、中身を確認する。
「……ない! ……ない! なんでないの!」
袋の中に手を突っ込んでも、ひっくり返しても、跡形もない。
「ひどい!」
「どうしたの? お母さん」
少し古ぼけた本を抱え姿を見せたイオが、あたしを見る。
「い、イオ……ここに置いていた袋の中身知ってる?」
「知らないよ? 何かあったの? 僕は団長に貰った本で勉強してたから。団長も見ててくれましたよね?」
「おう。よく覚えてたな」
騎士団長はにっと笑う。
「じゃぁ、******! とったの?」
返事はない……(作者の心の声→それはそうだろうなぁ……いまだに頑固に前の名前を叫んでいるんだから。意味もない記号以下のそれに返事をすることはないよね)
「ママ~うるさい~」
そう言いながら、台所から出られる裏庭から帰ってきたレイを振り返った。
あたしたちは目を見開く。
ブラブラと右手に持っているのは、砂まみれの何かの残骸。
以前のように毎日、新品のワンピースは用意できない。
ついでにあたしは作れないので、文句を言われつつレイには持ってこれた数少ない数枚のワンピースを着せている。
旦那は白衣の下は騎士団員から貰った古着。
イオも、近所に同年代の子がいるので、譲ってもらったと嬉しそうに色あせた服を着ている。
何が嬉しいんだろう?
今まできていた服の方が、仕立ても生地も何百倍も高級だ。
それなのに、イオはいつのまにか持ってきていた服などを何処かに持っていった。
その時聞くと、賢しげに答えた。
「ここじゃこんな服を着て遊べないから、騎士団長にお願いしてう……預かってもらった。取りに行っても返さないでって言ったからね! 絶対に取りに行かないで! それに、ママの服汚れてる。洗濯しようよ」
「何ですって?」
「ママ、毎日着替えたって、数日中には同じ服になるんだよ? 同じ場所が汚れてるって言われたんでしょう? 洗濯するか、お隣のおばさんに貰った服にしなよ。ここでそんなスカートの膨らんだ服着てる人いないよ? その服を洗って、ほどいて仕立て直したら二枚の服になるっておばさん言ってたよ?」
嫌に決まってるでしょ!
それにその言い方、忘れようと思ってるあの子を思い出すわ!
「そんな膨らんだ服じゃ仕事もできないし、裾が長過ぎて汚れるし、邪魔でしょ? 近所でも、ママのこと年に一回来るお祭りの時のチンドン屋さんみたい、変なおばさんって言われるんだよ。恥ずかしいからやめてよ」
「チンドン屋って何よ?」
「知らないよ。今度のお祭りに来るから、その時に見るといいよって言ってた。でも、ここで目立つよ。そのピンクとか、キラキラ刺繍とか。結婚式でも着ないって。それにもう一度言うけど、綺麗じゃないから余計に薄汚れてるって思われるよ? お風呂に入りたいって毎晩叫ぶより、おばさんに教えてもらって洗濯しようよ」
仕方ないでしょ!
母さまや三つ子の**ちゃんたちは、そんな生活してたでしょうけど、あたしはやったことないもの!
あたしは目を見開いて、レイの手のものを見つめる。
な、なんで……。
「いやぁぁ! あなた、それはどこで見つけたの?」
「えっ? ママが何か隠してたのを見て、とってもらった!」
「だ、誰に?」
「近所の子! でね? お礼に中身を分けてあげた」
「な、何考えてんのよ!」
叫ぶ。
そして、近づいてレイから宝石箱の残骸を引ったくり、手をつかんだ。
「返してもらいに行くわよ!」
「なんで? いいじゃない。あげたんだもん。返してなんて言っちゃダメって、ママ言ってたもん」
「昔のことでしょ! あれは大事なものなのよ! ママのなの! とっちゃダメ! 返してもらうのよ!」
「いや!」
手を振り払われる。
なんで言うこと聞いてくれないの?
こんなにわがままな子だったの?
「なんで? なんでダメなの? なんでここにいるの? じーじもばーばもなんでいないの?」
「だからね? 黙って! 叫ばないで! 言うことを聞きなさい!」
「なんで? ママはいつも叫んでるのに! パパを叩いたくせに! 文句ばっかり! ママなんか大嫌い!」
裏庭に出て行ったレイの背中を見送り、ふらふらと埃っぽい土間に膝をついた。
あぁ、汚い……。
そう思うけれど、それよりも混乱していた。
なんで?
聞いてくれないの?
いや違う。
あたしが子供たちの話を聞いていなかったんだ。
自分勝手……好き勝手に生きてきたバチが当たったんだ。
レイはあたしそのもの……あたし自身を写す鏡……。
「……じゃぁ、あの子は……誰に似たの? 可愛げなかったじゃない……」
ポツンとつぶやきが漏れた。
「あの子は……」
「お前じゃねぇなぁ……?」
幼なじみの嘲笑が響く。
「まぁ、俺も父親失格で、ここで言ったって知られたら、親父とか兄貴に殴られるだろうけど、お前よりまだマシだよな。お前の言うあの子ってのが、前、ルナリアって呼ばれてた子なら、お前に全然似てない! お前の旦那にも似てない! あの子、可愛いんだって俺の嫁言ってたぞ? ようやく目を覚まして、食事を取れるようになったらしいが、知ってるか? あの子、食物アレルギーだと! パンもゼリーも、クッキーもマフィンも食べられないそうだ。ミルクも卵もダメ! 知ってたか?」
「……!」
「アレルギー反応がひどいからって、元気になってきたら、食事療法に入っるそうだ。でも現状、数値も高くて、今後、最悪の場合、まだまだ増えるだろうってさ……親がちゃんとしてたらなぁ? 俺でも、一応メオの食べられるもの、苦手なものくらいは知ってたぞ? 命に関わるからな」
「命……」
「当たり前だろ? 食べなきゃ死ぬ。でも、食物アレルギーの場合、食べたら発疹が出るとか強い反応が出るんだよ。熱出したり、悪化したら呼吸困難とか起こすことだってあるんだよ。それくらい知らねえのか? 勉強するだろ?」
首を振る。
そんなの知らない。
国王の**兄様だって、あるけど他人事だった……。
でも、なんでこうなったんだろう……。
ううん、あたしは……あたしは……。
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