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始まりは多分お別れという意味なのですわ。

はぁぁ……もう二度と会いたくないもんだ……ちぃちゃん目線

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「あとは任せて」

と言い残し、心底楽しげに笑って出て行った師匠。
 方向音痴の師匠を親族の元に連れて行くために、父さんが急いで追いかける。

「兄さんは大丈夫? 風疹」
「大丈夫に決まってるだろう?」
「はぁぁ……」

 父さんから手渡されたルナは、また熱が上がったのか、ぐったりと俺にくっついている。
 一度、寝かせようとしたのだが、俺にしがみつき首を振り、ひんひんと弱々しく泣く姿に、毛布を巻いて抱き上げている。

 額には『スライムヒエヒエ』……これもルナの作ったものだ。
 ある時、とある研究、実験をしていたところ、出来上がったネバネバが、冷やしても柔らかく、皮膚かぶれもないということがわかり、保冷剤、熱冷ましとして商品化されたものだった。
 ちなみにこの『スライムヒエヒエ』の原料は、本物のスライムではなく、ある地域にごく普通に生えている雑草を乾燥させ、粉末にしたものを水で練ったもの。
 しかも、その地域はレクの国スティアナやこの国の南部で有名な、刈っても刈っても生えてきて、根っこも結構深く土に侵食していて、役に立たない雑草だったらしい。
 それを加工するだけで氷枕代わりや保冷剤としても使えるということで、レクは涙を流してよろこび、ぜひ雑草だからいくらでも使ってくれと頼んだらしい。

 すると数日後、

「はい! 『スライムヒエヒエ』の権利を、レクちゃんに譲渡しますという書類なのですわ! これで領地の皆さんのお仕事と収入になりますわ! この国の南部やスティアナ公国が、元気になって欲しいのです!」
「えぇぇ? な、何言ってるの? これ、本当にルナが持っていたら、ものすごい収入になるんだよ?」
「わたくし、作りたいものを考えるのは好きですが、領地の収益とか、還元方法とか考えるの苦手ですの! それに、本当は宝石とかを買い漁ったり、意味もない買い物をしたりして無駄にするより、次の研究のためのお金だけで十分なのです! おじいさまが研究費は確保してくださるそうなので、これはレクちゃんの公国にさしあげます! それにヒエヒエは、使い終わったらゴミにするのではなく、土に混ぜると肥料になるみたいです! そちらは時間も土地も足りなくて、実験結果がでていないのです! それを進めるので、一緒に研究してくださいね?」

とあっさり言われ、これで本当にいいのか? これは本当に巨万の富になるはずだ! それなのに、叔父とはいえ自分にあっさり渡すなんて、大丈夫なのか? と、周囲……アンディール以外……に相談した。
 周囲は、ルナが成長するまで預かって、そのあと正式に権利を譲ってもらうか、契約するといいと宥め、レクはルナと隣接するファルト領と共同で、肥料となるか試験を開始した。
 最近になって本当に肥料になり、僅かだが混ぜると保水効果もあることがわかったという。
 しかも元々草、自然に戻っていくため、後々の影響もない。
 本当に、こんなものまで作り上げるルナはよくできた子だ。
 こんないい子に、あいつらは……あぁ、何度言っても理解できない馬鹿だったな。

 少し汗ばんでいる小さな頭を優しく撫で、

「……もう、アンディールたちが去るまで、ルナが元気になって正式に娘になるまで、俺は有給使い切りたいと思います!」

兄さんの前もあって、丁寧語で宣言する。
 すると兄さんは呆れた口調で、

「お前は阿呆か? 何かあった時に有給は必要だ。ギリギリまで残しておけ。それより育児休暇があるだろう。あれは未就学の幼児の親なら取れる」
「えっと、すでに千夏と風深の分とってます!」
「自分の娘になるんだったら、ルナの分も申請したら取れるはずだぞ」
「あ……それ、無理かも」

レクが恐る恐る手を挙げる。

「どういうことだ?」
「えっと、前に、遊ぶための休暇をとりたがってた馬鹿アンディールが、『あ、そうだ! 子供が病気になったって休暇もらおう!』って言ってました! その時は子供二人の分はすでにとってるからダメって、許可降りなかったはずなのに休んでたから、絶対ルナが病気になったって嘘の申請してると思います!」
「……悪知恵が働く奴め!」

 吐き捨てる。
 すると、腕の中でルナがぐずった。
 慌ててよしよしと背中を撫でる。

「ごめんごめん。パパが悪かった。大丈夫だよ、おやすみ」
「……ふえっ……」

 スンスンと鼻を鳴らし、うわぁ……指しゃぶりをしている。
 えっ? 歯の形が悪くなるからやめさせろ?
 いいじゃないか少しくらい。可愛いんだから!

 少しだけ揺すって、眠りに導いていたら、兄さんが絶対零度の声で、

「それ、虚偽申告、国庫横領だと思うんだが、報告するか……?」
「してください! じゃないとルナの看病ができません!」
「それに罪が増えたところで、死刑にはならないんだからいいでしょう?」

あぁ、温厚なレクも、悪辣そのものといった顔になる。

 まぁ、レクの最愛のふぅちゃんをいじめて悲しませたんだ。
 この程度で済むならいいだろう。
 それにレクの息子のマルセルは、20歳になっていないというのに、国を乗っ取っていた反逆者を倒すためにゲリラ部隊に潜入している。
 時々南方の警備隊や騎士団の面々が見かけるらしいが、金髪だった髪も真っ白で顔つきも変わってしまい、全身傷だらけで、昔の可愛らしさは影を顰めてしまっているらしい。
 何度も死にかけたようだし、当然生きるために武器を振るい、敵に手をかけることもあっただろう。
 もうすぐ、戻ってくる……戻って欲しい、そう信じ願っている。

 話は戻るが、アンディールたちにマルセルのゲリラ部隊に入って、そこまでしろと言っているわけでもないしな。

「で、レク。そういえば、マルセルは元気なのか?」
「師匠に聞いた方が早いと思うけど、元気らしいよ。はぁぁ……早く捕獲されないかな……孫のラインが可哀想だよ」
「30になってすぐ、じいちゃんだったもんな……だけど孫は可愛いだろう?」
「ラインは可愛いよ~もう、3歳! 可愛いんだ! 一応、ラインローズだからローズって呼びたいのに、嫌です! ボクはラインなのです! だって! あんなに可愛いのに、ボクっていうのが可愛すぎるんだよ~! あ、グランディア名は凛音リンネっていうんだって!」

 レクの孫娘は、病弱だがとても賢い。
 ルナとも話が通じるらしいから、かなりの天才児だ。

「そっかそっか……じゃぁ、レクじいちゃん。ルナを養女に迎えるの、書類に名前頼む!」
「レクじいちゃん言うな! ちぃだって、いつかはじいちゃんだろう!」
「じいちゃんより、じーじって呼ばれたいな……でも、まずはルナにパパと呼ばれたい! 父さんと呼ぶのはちょっと、ルナには辛いだろうからな。日向夏はママって呼ばれたいと思う!」

 そうだ、まずはそっちが最優先だ!
 あぁ、パパとよんでくれるだろうか?
 ……ちぃちゃんも嬉しいが、やっぱりパパ希望だ!
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