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始まりは多分お別れという意味なのですわ。
「もう許さないぞ! 甘ったれんのもいい加減にしろ!」あ、もう、アイツら終わりだな。……ちぃちゃん目線
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俺は、珍しい父さんの激怒っぷりに引いた……いや、本気で立ってるのも辛いくらい震えてる。
父さんは普段は温厚で、自他共に認める愛妻家。
見合いというか政略結婚で結婚した母さんを、文字通り溺愛している。
……母さんの母親は、その頃すでに亡くなっていて、再婚した父親とその嫁が叩いたり、食事を抜いたりと虐待していたそうだ。
見合い……というより、顔合わせの席に言葉も喋れず、プルプル震えていたよちよち歩きの小さい幼児の腕に、火傷痕を見つけた父さんは激怒した。
じい様に母さんを預けて、母さんの実家に向かい、縁を切ること、二度と会わないことを約束させ、ある程度の支度金という手切金を叩きつけてきたらしい。
その後はもう、幼少期の記憶を忘れさせるよう、上書きするかの様にデレデレドロドロに母さんを甘やかした。
そこでワガママに育つかというと、そうではなかったらしい。
元々遠慮がちで、大人しく気が弱い母さんは、父さんに甘えるのもかなり時間がかかったらしく、
「瑞波が初めて父さんの名前を呼んでくれて、抱きついてくれた時には、もう、嬉しくて嬉しくて、今度は笑ってくれるなら、天女の羽衣とか奪ってこようと思った!」
と、惚気たこともある。
父さん……天女の羽衣は、俺の一族が守っていた神殿の奥に安置されている開封できない箱の中だって聞いたぞ。
一応御神体ということで、こっちに持ってきているが、厳重に小さいお社に納められているらしいが、盗むつもりだったのか?
普段から膝抱っこだの、手を繋いで歩くことは当然で、俺の学友が憧れているのだという指を絡めて恋人繋ぎはすでに両親で見慣れていたし、逆にそれが普通すぎて、なんでそれくらいで大騒ぎするんだろうと本気で思っていた。
まぁ、俺が憧れていたのは、すでに好きだった日向夏を自分のデザインしたドレスを着てもらって、当然恋人繋ぎでデートにお姫様抱っこ、公園でお弁当を食べてのんびりする……というものだったからな。
あっ! キスはもっと後だ!
と、恐ろしい光景から現実逃避したかった俺……でも、いつのまにか目の前には麗しい女神の如き御方が……。
ちなみに、この世界では神は恐れられ、女神は敬意と親愛を持って表現される。
だから、従兄は男だが、表現する際は女神の如き美貌とか、女神のような優しさと称するのだ。
その女神の化身が、こちらを見上げ心配そうに俺が抱く毛布の中を覗き込んだ。
「ちぃ。ルナは大丈夫?」
「それが……あっ! 移るかもしれませんよ?」
「あぁ、大丈夫。風疹も麻疹も水疱瘡も、かかったことあるから」
「いえ、小さい頃に接種しても、成長すると抗体が無くなるそうですよ? ある程度すると。それに成人してなると、悪化して後遺症が残る場合も……」
これは、従兄が年寄りというわけではない。
従兄は国王陛下である以前に、家族親族からはまるで父さんが母さんを愛するかの如く溺愛の対象で、この人が倒れたら、まず、他の従兄弟たちと兄貴に殺される!
そして、伯父や叔母、祖父母、ありとあらゆるところから……。
従兄の親衛隊と化した同僚らの顔まで思い出して、遠い目をする。
ヤバイ、今度こそ詰んだ。
しかし、優しい国王陛下は、あっけらかんと告げる。
「何言ってんの? 俺、これでも普段から、子供や孫たちに囲まれてるんだけど? 最近、孫たちが予防接種した後に熱出したでしょ? 忙しい娘たちの代わりに少しだけど孫の看病もしてるし、免疫も抗体もしっかりあるってば」
「でも、風疹か麻疹か、水疱瘡かも分からないんですよ? 今、ナナが、ルナがどの接種を受けたか、全く知らないって言ってます。母親なのに! ルナのことは彗兄たちに全部任せてるもん! だそうです!」
「うわぁ……さいってい! 子供の健康状態くらい、自分で見られないの? 最悪だぁ」
その言葉に、
「な、何よ! あたしはちゃんと子育てしてるわ! 大変なんだから! 浮気してフラフラする亭主が悪いのよ! それにね? その子だって、私たちの夫婦喧嘩を見て賭けて、楽しんでる根性悪よ! そんな娘いらないわ!」
「黙れ!」
パーン!
父さんの手が振られ、ナナの身体が崩れ落ちた。
初めて見る……父さんが、ナナに女性に手をあげるなんて!
ハッとした顔をする父さんは、すぐに辛そうに唇を噛んだ。
父さんは生粋のフェミニストだ。
女性に手を挙げる男は、最低だと常々口にしていた。
でも、耐えられなかったんだろうな、ナナの暴言の数々に……。
俺だって同じだ。
姉妹だからって我慢できないこと、それがルナのことだ。
「ひ、ひどい! 父さん! 何でこんなことするの?」
頬を抑え、キャンキャンと叫ぶ姿は、あざとく見苦しいとしか言いようがない。
「あたしは悪くないわ! 悪いのはみんなでしょう? なんで、あの子ばかりを可愛がるのよ! サディだってミリアだって孫でしょう? エコひいきっていうのよ!」
「甘ったれるのもいい加減にしろ! お前がエコひいきとかいうな! お前がルナだったらどうなんだ! 誕生日プレゼントも贈らない。食事も一緒に取らない。買い物にもお出かけにも連れて行かない。そんな親、誰が慕う!」
「違うわよ! あの子が言うことを聞かないからよ!」
「あの子、あの子と、自分の娘の名前も言えないのか!」
「言う必要はないわ! もうあんな子いらない! それに暴力を振るう父さんなんて大嫌い! 怒鳴りつけるちぃも大嫌いよ!」
その叫び声に、ドアが動いた。
入ってきたのは、この屋敷の現当主で、ナナの義父の彗兄。
その後ろから、激怒した長兄と王弟殿下。
最後に何故かこの場にそぐわない……先王陛下が、ボロと化したアンディールを引きずってきた。
「ほいっ。ゴミを捨てにきた」
「ゴミはゴミ箱だよ。ここじゃないよ。邪魔だし、本気で迷惑だから捨ててきて。ついでにへーか。へーかも入ってくれば?」
ふんっと鼻を鳴らす王弟に、
「一応、俺は自分がゴミだってわかってるから、普段はどっかに行ってるだろ? それに、セイラさんに矯正してもらってるし?」
「共生の間違いじゃない? 日々、二人して、破壊活動に邁進してるらしいじゃない?」
「まぁ、世界には弱者をいたぶって喜ぶ、こいつらと同じクズが多くてなぁ……今みたいに自分がしてるのに、同じことをやられたら喚き散らすか、もうしないと口先だけの奴らだ。そういうのほど反省なんてしねぇよ。しねぇんだから、過酷な鉱山送りか、寒冷地の開拓に従事させるべきだと思ってな。馬鹿への後顧の憂をなくすためにも、どこから手に入れたかわからない金や貴金属、骨董品は売っ払って被害者に分けて、家屋敷は完膚なきまで潰しておくに越したことはないだろう? ついでに俺が矯正されたように、ある程度職場で思う存分励めるように躾も必要だろうしな?」
「自分の子供も育てられずによく言うよ」
「だから、俺は父親失格なんだろう? アーサー」
ニヤリと笑う先王……あぁ、この人本気で歪んでるわ。
ひねくれてるし、人の意見も聞かないし、ワガママ自分勝手……そして孤独の王……。
自分がどれほど家族に愛されているか、周囲から慕われているか理解できなかった人。
自分も家族を不器用ながら愛しているのすら、最近まで気がついていなかった……少々その愛は歪んでいるが……。
「それに、こんなバカ親どもと同じように、俺がお前たちに接してたら、一番チビが俺みたいになるぞ?」
「一番チビなんて言わないでよね。アルトゥールだよ! 失礼しちゃうよ! 僕達の可愛い弟なのに! それにね、ミィはいい子だから、へーかみたいになんないよ」
「だろうな。顔だけだ」
「……やだねぇ~、へーか。顔だけ似てるの嬉しそうじゃん? この間、ミィに言われたんだって? 『育ててもらってないけど、父さんに感謝してる』って言われたんだって? うわぁ……ミィって優しい! 誰が育てたんだろう? あ、僕たちだった!」
息子のからかいに、顔をしかめる……おい、頬が赤いぞおっさん。
そんなに嬉しいなら、定期的に顔を見せてやれ。
一番あんたに甘いミィなら、すぐ絆されるぞ。
あぁ、だめだ。
脱線する……というか、このバカが俺の姉と思いたくない……それより、ルナが心配だ。
頭がズキズキする。
しかし、
「アンディールじゃない! 大丈夫? なんで? こんなことするのよ!」
「何かあったら、ヒステリックになって、叫ぶのはお前の悪い癖だな。あれほど直せと言ったのに。そうやって叫んでわがままいえば、みんながいうことを聞くと思ってるのか?」
感情を押さえつけるためか、いつになくゆっくりと喋る兄貴。
「いくつだ? お前は。6歳のルナリアよりガキだな?」
「いくつだっていいでしょ! なんでお兄様もあたしを責めるの? あたしは悪くない! 悪くないのよ!」
「そうやって自分が正しいと叫ぶ行為自体、自身が愚かなのだと吹聴してると思わないか? 自分が本当に間違っていないなら、落ち着いて自分の行いを省みることができるはず。そして、間違っていると指摘した俺や父さんに、ここが間違っている。それはこういうことだからと説明できるはずだ。オウムかインコか九官鳥のように、同じ言葉を何度も繰り返すしかできないのか? それに自己保身のために叫び、悲劇のヒロインぶったところで、お前の論理はすでに破綻してるんだよ!」
「うぎゃーん! ごめんなさい!」
「いやー! うちの子に何するの!」
うわぁ……いいことを兄貴が言ってる後ろで、退屈したらしい先王が先にチビどもに制裁を始めてるぞ……。
えげつないなぁ……壁に落書きを続けていたサディからペンを取り上げて、うわぁ…… 顔に落書きしてる……まぁいいか。
俺のお気に入りの壁紙に、落書きしたバツだ。
あれは俺がデザインした柄を、特別に壁紙専門店に発注したものだ。
二つとないものだった。
今から新しく作るにしても、同じものを頼むにしても、業者に頼んで数ヶ月はかかるんだから……。
ついでに落書きしたペンは、ルナが作った、洗っても落ちにくい特別なインクペンだ……ザマァみろ!
彗兄、そこで笑うのはやめてくれ。
俺も笑いたくなるのを我慢してるんだから。
それに、ナナ……先王陛下のこともわからないのか?
「ちぃ、ちぃ。こっち」
扉の向こうで小声で手招きするのは、ふぅちゃんの旦那で幼馴染のレク。
ルナを抱いたまま、そっと移動する。
「悪い……レク。忙しいのに……」
「大丈夫。それより、こっちにヴィク伯父上がいるから、ルナを診てもらおう」
「あぁ」
ひどく疲れ切っていた父さんが気がかりだが、ルナが心配だ。
ルナに負担がかからない速度で、レクの後を追いかけたのだった。
父さんは普段は温厚で、自他共に認める愛妻家。
見合いというか政略結婚で結婚した母さんを、文字通り溺愛している。
……母さんの母親は、その頃すでに亡くなっていて、再婚した父親とその嫁が叩いたり、食事を抜いたりと虐待していたそうだ。
見合い……というより、顔合わせの席に言葉も喋れず、プルプル震えていたよちよち歩きの小さい幼児の腕に、火傷痕を見つけた父さんは激怒した。
じい様に母さんを預けて、母さんの実家に向かい、縁を切ること、二度と会わないことを約束させ、ある程度の支度金という手切金を叩きつけてきたらしい。
その後はもう、幼少期の記憶を忘れさせるよう、上書きするかの様にデレデレドロドロに母さんを甘やかした。
そこでワガママに育つかというと、そうではなかったらしい。
元々遠慮がちで、大人しく気が弱い母さんは、父さんに甘えるのもかなり時間がかかったらしく、
「瑞波が初めて父さんの名前を呼んでくれて、抱きついてくれた時には、もう、嬉しくて嬉しくて、今度は笑ってくれるなら、天女の羽衣とか奪ってこようと思った!」
と、惚気たこともある。
父さん……天女の羽衣は、俺の一族が守っていた神殿の奥に安置されている開封できない箱の中だって聞いたぞ。
一応御神体ということで、こっちに持ってきているが、厳重に小さいお社に納められているらしいが、盗むつもりだったのか?
普段から膝抱っこだの、手を繋いで歩くことは当然で、俺の学友が憧れているのだという指を絡めて恋人繋ぎはすでに両親で見慣れていたし、逆にそれが普通すぎて、なんでそれくらいで大騒ぎするんだろうと本気で思っていた。
まぁ、俺が憧れていたのは、すでに好きだった日向夏を自分のデザインしたドレスを着てもらって、当然恋人繋ぎでデートにお姫様抱っこ、公園でお弁当を食べてのんびりする……というものだったからな。
あっ! キスはもっと後だ!
と、恐ろしい光景から現実逃避したかった俺……でも、いつのまにか目の前には麗しい女神の如き御方が……。
ちなみに、この世界では神は恐れられ、女神は敬意と親愛を持って表現される。
だから、従兄は男だが、表現する際は女神の如き美貌とか、女神のような優しさと称するのだ。
その女神の化身が、こちらを見上げ心配そうに俺が抱く毛布の中を覗き込んだ。
「ちぃ。ルナは大丈夫?」
「それが……あっ! 移るかもしれませんよ?」
「あぁ、大丈夫。風疹も麻疹も水疱瘡も、かかったことあるから」
「いえ、小さい頃に接種しても、成長すると抗体が無くなるそうですよ? ある程度すると。それに成人してなると、悪化して後遺症が残る場合も……」
これは、従兄が年寄りというわけではない。
従兄は国王陛下である以前に、家族親族からはまるで父さんが母さんを愛するかの如く溺愛の対象で、この人が倒れたら、まず、他の従兄弟たちと兄貴に殺される!
そして、伯父や叔母、祖父母、ありとあらゆるところから……。
従兄の親衛隊と化した同僚らの顔まで思い出して、遠い目をする。
ヤバイ、今度こそ詰んだ。
しかし、優しい国王陛下は、あっけらかんと告げる。
「何言ってんの? 俺、これでも普段から、子供や孫たちに囲まれてるんだけど? 最近、孫たちが予防接種した後に熱出したでしょ? 忙しい娘たちの代わりに少しだけど孫の看病もしてるし、免疫も抗体もしっかりあるってば」
「でも、風疹か麻疹か、水疱瘡かも分からないんですよ? 今、ナナが、ルナがどの接種を受けたか、全く知らないって言ってます。母親なのに! ルナのことは彗兄たちに全部任せてるもん! だそうです!」
「うわぁ……さいってい! 子供の健康状態くらい、自分で見られないの? 最悪だぁ」
その言葉に、
「な、何よ! あたしはちゃんと子育てしてるわ! 大変なんだから! 浮気してフラフラする亭主が悪いのよ! それにね? その子だって、私たちの夫婦喧嘩を見て賭けて、楽しんでる根性悪よ! そんな娘いらないわ!」
「黙れ!」
パーン!
父さんの手が振られ、ナナの身体が崩れ落ちた。
初めて見る……父さんが、ナナに女性に手をあげるなんて!
ハッとした顔をする父さんは、すぐに辛そうに唇を噛んだ。
父さんは生粋のフェミニストだ。
女性に手を挙げる男は、最低だと常々口にしていた。
でも、耐えられなかったんだろうな、ナナの暴言の数々に……。
俺だって同じだ。
姉妹だからって我慢できないこと、それがルナのことだ。
「ひ、ひどい! 父さん! 何でこんなことするの?」
頬を抑え、キャンキャンと叫ぶ姿は、あざとく見苦しいとしか言いようがない。
「あたしは悪くないわ! 悪いのはみんなでしょう? なんで、あの子ばかりを可愛がるのよ! サディだってミリアだって孫でしょう? エコひいきっていうのよ!」
「甘ったれるのもいい加減にしろ! お前がエコひいきとかいうな! お前がルナだったらどうなんだ! 誕生日プレゼントも贈らない。食事も一緒に取らない。買い物にもお出かけにも連れて行かない。そんな親、誰が慕う!」
「違うわよ! あの子が言うことを聞かないからよ!」
「あの子、あの子と、自分の娘の名前も言えないのか!」
「言う必要はないわ! もうあんな子いらない! それに暴力を振るう父さんなんて大嫌い! 怒鳴りつけるちぃも大嫌いよ!」
その叫び声に、ドアが動いた。
入ってきたのは、この屋敷の現当主で、ナナの義父の彗兄。
その後ろから、激怒した長兄と王弟殿下。
最後に何故かこの場にそぐわない……先王陛下が、ボロと化したアンディールを引きずってきた。
「ほいっ。ゴミを捨てにきた」
「ゴミはゴミ箱だよ。ここじゃないよ。邪魔だし、本気で迷惑だから捨ててきて。ついでにへーか。へーかも入ってくれば?」
ふんっと鼻を鳴らす王弟に、
「一応、俺は自分がゴミだってわかってるから、普段はどっかに行ってるだろ? それに、セイラさんに矯正してもらってるし?」
「共生の間違いじゃない? 日々、二人して、破壊活動に邁進してるらしいじゃない?」
「まぁ、世界には弱者をいたぶって喜ぶ、こいつらと同じクズが多くてなぁ……今みたいに自分がしてるのに、同じことをやられたら喚き散らすか、もうしないと口先だけの奴らだ。そういうのほど反省なんてしねぇよ。しねぇんだから、過酷な鉱山送りか、寒冷地の開拓に従事させるべきだと思ってな。馬鹿への後顧の憂をなくすためにも、どこから手に入れたかわからない金や貴金属、骨董品は売っ払って被害者に分けて、家屋敷は完膚なきまで潰しておくに越したことはないだろう? ついでに俺が矯正されたように、ある程度職場で思う存分励めるように躾も必要だろうしな?」
「自分の子供も育てられずによく言うよ」
「だから、俺は父親失格なんだろう? アーサー」
ニヤリと笑う先王……あぁ、この人本気で歪んでるわ。
ひねくれてるし、人の意見も聞かないし、ワガママ自分勝手……そして孤独の王……。
自分がどれほど家族に愛されているか、周囲から慕われているか理解できなかった人。
自分も家族を不器用ながら愛しているのすら、最近まで気がついていなかった……少々その愛は歪んでいるが……。
「それに、こんなバカ親どもと同じように、俺がお前たちに接してたら、一番チビが俺みたいになるぞ?」
「一番チビなんて言わないでよね。アルトゥールだよ! 失礼しちゃうよ! 僕達の可愛い弟なのに! それにね、ミィはいい子だから、へーかみたいになんないよ」
「だろうな。顔だけだ」
「……やだねぇ~、へーか。顔だけ似てるの嬉しそうじゃん? この間、ミィに言われたんだって? 『育ててもらってないけど、父さんに感謝してる』って言われたんだって? うわぁ……ミィって優しい! 誰が育てたんだろう? あ、僕たちだった!」
息子のからかいに、顔をしかめる……おい、頬が赤いぞおっさん。
そんなに嬉しいなら、定期的に顔を見せてやれ。
一番あんたに甘いミィなら、すぐ絆されるぞ。
あぁ、だめだ。
脱線する……というか、このバカが俺の姉と思いたくない……それより、ルナが心配だ。
頭がズキズキする。
しかし、
「アンディールじゃない! 大丈夫? なんで? こんなことするのよ!」
「何かあったら、ヒステリックになって、叫ぶのはお前の悪い癖だな。あれほど直せと言ったのに。そうやって叫んでわがままいえば、みんながいうことを聞くと思ってるのか?」
感情を押さえつけるためか、いつになくゆっくりと喋る兄貴。
「いくつだ? お前は。6歳のルナリアよりガキだな?」
「いくつだっていいでしょ! なんでお兄様もあたしを責めるの? あたしは悪くない! 悪くないのよ!」
「そうやって自分が正しいと叫ぶ行為自体、自身が愚かなのだと吹聴してると思わないか? 自分が本当に間違っていないなら、落ち着いて自分の行いを省みることができるはず。そして、間違っていると指摘した俺や父さんに、ここが間違っている。それはこういうことだからと説明できるはずだ。オウムかインコか九官鳥のように、同じ言葉を何度も繰り返すしかできないのか? それに自己保身のために叫び、悲劇のヒロインぶったところで、お前の論理はすでに破綻してるんだよ!」
「うぎゃーん! ごめんなさい!」
「いやー! うちの子に何するの!」
うわぁ……いいことを兄貴が言ってる後ろで、退屈したらしい先王が先にチビどもに制裁を始めてるぞ……。
えげつないなぁ……壁に落書きを続けていたサディからペンを取り上げて、うわぁ…… 顔に落書きしてる……まぁいいか。
俺のお気に入りの壁紙に、落書きしたバツだ。
あれは俺がデザインした柄を、特別に壁紙専門店に発注したものだ。
二つとないものだった。
今から新しく作るにしても、同じものを頼むにしても、業者に頼んで数ヶ月はかかるんだから……。
ついでに落書きしたペンは、ルナが作った、洗っても落ちにくい特別なインクペンだ……ザマァみろ!
彗兄、そこで笑うのはやめてくれ。
俺も笑いたくなるのを我慢してるんだから。
それに、ナナ……先王陛下のこともわからないのか?
「ちぃ、ちぃ。こっち」
扉の向こうで小声で手招きするのは、ふぅちゃんの旦那で幼馴染のレク。
ルナを抱いたまま、そっと移動する。
「悪い……レク。忙しいのに……」
「大丈夫。それより、こっちにヴィク伯父上がいるから、ルナを診てもらおう」
「あぁ」
ひどく疲れ切っていた父さんが気がかりだが、ルナが心配だ。
ルナに負担がかからない速度で、レクの後を追いかけたのだった。
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