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始まりは多分お別れという意味なのですわ。
ルナが悪い? 馬鹿言うな! 悪いのはお前たちなんだよ!……ちぃちゃん目線
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今回、病名がでますが、これは現代一般に感染する病気……風疹、麻疹、水疱瘡……という名前にしています。
ですが、少し症状を重く書いております。
その症状は私が感染した帯状疱疹、髄膜炎の症状を参考にしております。
一応、髄膜炎の中には成人した大人が、水疱瘡などのウイルスが首のリンパから体内……に侵入し、炎症を起こします。体験済み……。
なのでルナは、相当苦しい病気になったと思っていただければと思いますm(_ _)m
~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~
ルナが熱を出した。
「ねぇ、父さん。ルナの頬にブツブツがあるよ?」
先ほどまで一緒に昼寝をしていた千夏は先に起きたらしい。
横に寝ていたルナを見て、声を上げた。
同じ部屋にいたが、少し離れたソファに座り、ルナの新しいワンピースのデザインを考えていた俺は、顔を上げた。
「頬? どこにある?」
「ここと、ここ……あ、額にもある!」
「えぇ?」
慌てて駆け寄り、確認する。
ルナは顔を真っ赤にして、苦しげに目をあけた。
「ちぃちゃん……」
「頭が痛いのか? 大丈夫か?」
「頭……痛いで、すわ……」
額に手を当てると、熱い。
顔を確認すると、額にも、頬にもポツポツと発疹が出てきている。
俺は、あまり医術関係に詳しくないが……。
「もしかして、風疹じゃないだろうな? アイツらは予防接種はしてないのか! 日向夏! 念のために風深と、ヴィクおじさんを呼びに行ってくれないか。千夏。お前はうつったら大変だから、別の部屋に行きなさい」
「やだ! 俺はルナといる!」
「駄目だ。うつったら大変な病気なんだ。大丈夫だとヴィクおじさんに言われるまで、ここにきては駄目だ。レクおじさんとふぅちゃんのところに行きなさい」
「……はい」
頭の上に耳があったらペタンと倒しているかのように、しょげていた千夏ははっと顔をあげ、
「じゃぁ、元気になったら遊んでも良いよね? それに、ルナに俺はルナが大好きだって、見捨てないからって言ってね? 絶対だよ? 俺、幸矢おじさんとシエラ師匠に頼んで、ルナの騎士になるからね! 稽古いっぱいするから!」
「あぁ、稽古に行くからってちゃんというからね。行ってきなさい」
「はい!」
元気に返事をして、先に出た二人の後を追うように部屋を出て行った。
はぁぁ……
出したくもないため息が漏れる。
ルナや千夏にではない。
千夏は少しやんちゃだが、本当に親バカじゃないが良い子に育った。
今だって、寂しがったり、もしかしたら見捨てられたんだと泣くかもしれない、ルナのそばにいたいんだとはっきり言った。
そこまで7歳の子供だって言えるのだ。
気にかけて、心配して、そばについていてあげたいんだと訴えられるのだ。
なのに、ナナもアンディールも、ルナにそんなことはしなかった。
血が繋がった兄弟の俺ですら嫌悪したくなる、愚かでバカな姉とその夫。
もう、縁を切ったっていい、それより永遠に会いたくないとすら思う。
本当は、9年前に見捨てたって良かった。
でも、戻ってきたふぅちゃんや母さんが泣くから、我慢した。
だが、もう我慢するものか。
まだ幼いルナを、ここまで辛い目に遭わせたバカどもを徹底的に、将来すら潰してやる!
俺を甘い……未だに自分が命令、わがままを言えば、いうことを聞くと思い込んでいるナナと、ちょっと謝ったら許してくれるだろうと思い込んでいるアンディールを地獄の底に落としてやる!
死んだ方がマシという目に遭わせて見せる!
ただ良かったのは、親である二人がバカな分、ルナについていたメイドたちは乳母だった女性……ルナのばあやである……と団結して、守り愛情をかけてくれた。
今も二人が、駆けつけてくれてこちらに控えている。
「千夜さま……あの、私が代わりましょう」
「そして、私どもは、アンディールさまよりお嬢様につけられた者ではありません。国王陛下、そして現大公閣下より指示をいただき、手配されております。今、私どものリーダーは王宮に、今一人はお嬢様の部屋の片付けをしております」
「あぁ、父に聞いている。ありがとう。本当に助かっているよ。ルナの荷物は、この部屋の前にある今は空き部屋だが子供部屋に運んで欲しい。定期的に掃除はされている。家具は……」
「家具は……お伝えするのも躊躇うのですが、大変古いもので色も、形も整っておりません……お嬢様は平均よりお小さいのですが、大人の……男性が使うものとかがございます……ソファの数も合っておりませんし」
一人のメイドにルナの看病を頼み、振り返る。
「大人の家具? 数が合わないというと、もしかして、アンディールたちの夫婦喧嘩で破壊された家具の余りを、置き場に困り置いていったとかじゃないだろうね?」
「……実はその通りでございます。ソファは濃い色調のもの、机と椅子の高さも合わず、ベッドは私どものものとさほど変わりません」
「……世話をかけるけれど、残ったメイドたちに、荷物以外のものはそのままにして、現状維持のために、その部屋に全て鍵をかけ、アンディールや七聆が入れないようにしてくれないだろうか?」
「その点は大丈夫でございます。最近、ルナリアお嬢様が鍵を付け替えて欲しいとおっしゃられ、その合鍵は私どもに一つ、侯爵閣下に一つ、大公閣下に一つそれぞれ渡していただいております。ですので、移動する時に必ず施錠するよう伝えております」
丁寧に頭を下げるメイドに、俺は頭を下げる。
「本当に……申し訳ない。俺……私がもっとしっかりしていたら……」
「いいえ。ルナリアさまは、よくおっしゃっておられました。『あのね? 私にはね? 本当のお父さまより、優しくて強くてかっこいいパパがいるのよ!』と。千夜さまのことですわ。お出かけの後にいつも、嬉しそうに、今日はこれを買っていただいたのだと、何回も何回も……いえ、嫌なのではなく、あんなに笑うお嬢様を見るのは幸せで……」
「……これからも、ルナのことをよろしく頼むよ。陛下にも父にも、君達のことはお願いするから」
「ありがとうございます。私どもは、ルナリアさまに嫌だと言われるまでお仕え致します。そしてこれからは、何かございましたらすぐ、千夜さまと奥様に、ご相談させていただけますでしょうか? 今までは緊急時には、こちらの独断で動くこともあり……お嬢様がお辛い思いをされたこともございまして……」
「あぁ、そうして欲しい。だが、君たちは優秀で、ルナも信頼している。判断できる時は、今まで通りルナを最優先で頼みたい」
頷いた彼女を見てホッとする。
本当なら俺も、彼女たちに恨まれて当然だと言うのに、信頼してもらえるだけでもありがたいと思う。
コンコンコン……
扉が叩かれる。
目の前にいたメイドが、スッと扉に向かう。
開けるためだろうが、こちらからの返答も聞かず扉は勝手に開いた。
「ちぃちゃん!」
止めようとしたメイドの手を振り切り入ってきたのは、七聆……。
豪華なドレスで、二人の子供がついてくる。
「ねぇ! あの子が倒れたってほんと? ありがと! 体調管理できない子でごめんね~! 連れて帰るわ!」
ズカズカと入り、そのまま横を通り過ぎようとする姉妹の前に手を広げる。
「やめろ! 近づくな!」
「何よ~? どうせただの風邪でしょ? 本当に手がかかるんだから! ベッドに寝かせておけば治るわ。あら、この子のメイドじゃない! 邪魔だから早く連れて行って? あ、そうそう。あたし、ちぃちゃんにミリアのワンピースをお願いしようと思ってたのよ。この子に作るばっかりでしょ? 可愛い姪っ子に作ってよ」
人の話も聞かず、無神経な七聆の言葉に、メイドたちも一瞬眉を寄せる。
本当は、プロなら表情に出さないが、悪いことじゃない。
許されないのはこいつだ!
そうだ……こいつは昔からこうだった!
チラッと甥姪を見ると、母親の手を振り払ったサディは千夏のおもちゃを手に取り、壁に投げ、ミリアはテーブルのクッキーを食べ散らかし始めた。
「てめえらが帰れ!」
「な、何よ! なんで怒るの? あ、あの子が何かしたんだね! ごめんね? 叩いておくから許してよ」
謝ってるのか? それが!
ヘラヘラと笑いながら言うだけじゃないか!
しかも、何も悪くないルナが悪いといい、自分のふざけた行いを見て見ぬふりをする。
「はぁぁ? なんで、ナナがルナを叩くんだ? 俺たちが、ルナが叩いていいのは、ナナだろう? 子供の粗相は、親が謝罪するのが普通だろう! ついでに、いまのそれは謝罪じゃない! ごめんなさいって言うなら、ちゃんと頭下げろよ!」
「なんで? いいじゃない。あたしとちぃちゃんの仲でしょ? 許してくれるよね?」
「冗談言うな! 9年前に言ったよな? 約束したよな? もう迷惑はかけません! 俺を束縛したり、命令はしませんって!」
「したよ? でも、今のは命令じゃなくてお願いじゃない? なんで怒るの? それにあの子ばっかりかまって、うちの子を構ってくれないそっちこそ、ひいき、差別じゃない!」
「ひいきと差別をしてるのは、ナナとアンディールだろう! 何勘違いしてやがる! ルナと朝食も一緒にしない、買い物にもいかない、誕生日プレゼントも買わない、服も揃えない、ほったらかし! ほら、育児放棄してるのはナナの方だ!」
俺は、ナナを突き放しベッドに行くと、毛布ごとルナを抱き上げる。
ひゅうひゅうとルナの喉が鳴る。
熱が上がったのか、朦朧と開いた目が不安そうに揺れ動くのに、もう少し早く異変に気がついていたらと言う思いと、込み上げる怒り。
苦しくない程度に抱きしめ、安心させるようにトントンと背中を叩く。
「もう俺は、ルナを可愛がらない、他の二人と差別する、育児放棄してヘラヘラ笑う、ルナを体罰して言うことを聞かせると言うお前を、姉妹と思わない! ルナは俺の子供だ! 返すもんか!」
「なっ! ち、ちぃちゃん? なんで? 急にそんなこと言うの? あたし、ちゃんと子育てしてるよ? サディもミリアも……」
「どこがだよ! 見てみろ!」
俺の視線をたどった七聆は、顔色を変える。
七聆のいうよくできた長男のサディは、いつのまにか壁にペンで落書きをしていた。
あまりにもひどい様に、そっとたしなめるメイドに向かって積み木を投げつける。
ミリアはミリアで、両手にクッキーを掴んだまま、靴も脱がず、テーブルの上に足を投げ出して座りバタバタさせ、水のピッチャーを倒した。
「な、何をしてるの? 二人とも!」
「つまんない~。ママ」
「いつも通りいい子に……」
息子に声をかける。
そうすると、ミリアがベッドに置いていた人形を示し、声を上げる。
「あ、ママ! あのお人形ちょうだい!」
「あれは、駄目」
「ヤダァ! ちょうだい、ちょうだい! この間は、お姉ちゃんのお部屋から持って行っていいって言ったじゃない! ここのだっていいでしょ? だって、お姉ちゃんばっかり、おじいさまやおじさんたちは可愛がって、ミリアはかわいそうなんでしょ?」
癇癪を起こすミリアに、俺は多分、嫌悪感を丸出しの目で七聆を見ていると思う。
焦る七聆は、駆け寄りテーブルから降ろそうとするが、いやいやと首を振ったミリアは泣き出す。
「ママ、大嫌い! ミリアのこと可愛くないんだ! かわいそうなのに! ミリアかわいそうな子なのに!」
「可愛いわよ! 可愛いわ! ミリアはママの一番可愛い子だもの。でもね?」
「ママ、嘘つき! お姉ちゃんとおんなじお洋服くれない! お店にあるっていったけどないじゃない!」
「それは、ちぃちゃんが……」
困ったように俺を見る。
「ちぃちゃん……」
「うるさい! 出て行け! もうお前なんか兄弟じゃない! ルナにも二度と会うな! それに、この部屋の弁償と、ルナのもの全部返せ! 謝罪は聞かない! 同じものを返せ!」
「なんで……」
「うるさい! 窃盗犯だと突き出してやろうか!」
「ひ、ひどい! なんで?」
……我慢できない!
許せない!
もう、父さんや兄貴との約束を破ってしまいたい!
拳を握りしめ、唇を噛み締める。
バターン!
今度はかなり力任せに扉が開き、続いて現れたのは、珍しく無表情の父さんと、ニコニコと笑っている従兄弟兼国王陛下。
尊敬する二人だけど、扉は無事か?
と話を逸らせてしまいたいほど、今来るとは……俺は怖い。
父さんは、少々怒ろうが基本のオプションは笑顔の、見た目ひ孫がいるとは思えないほど年齢不詳の童顔好青年。
国王陛下である従兄は、執務中ですら微かに笑う程度に留めている。
従兄は、世界的に美貌の持ち主が多いこの国でも飛び抜けて美しい……絵画にも彫刻でも、ついでに映写機ですら、そのままを残せないと言われる神の域の美貌王……微笑むだけで、男女問わず魅了し、外交で訪れた要人も職と身分、言葉を忘れ、鼻血を出して倒れるのは数知れない。
従兄弟とまともに顔を合わせて平然とやり取りできるのは、三ヶ国の要人くらいである……ちなみにラディリア公国国主と、スティアナ公国国主は除く。
従兄弟が笑うのは、本当に嬉しい時もあるが、今回の背後のザワザワ感は、激怒している時のもの……。
俺のことを怒っているのではないと思いたいが……大の男だが、泣きたくなる。
怯む俺を、父さんが見た。
「千夜? ルナはどうだ?」
「あ、あの……顔や手に発疹があって、ヴィクおじさんに急いで来ていただけないかと、日向夏に……熱もありますし、もしかしたら麻疹とか、風疹ではないかと……」
「……七聆。ルナに予防接種は?」
「えっ? し、してるはずですわ。その辺は専門家のお義父さまに、全部お任せしてます」
「はぁぁ?」
父さんの眉が吊り上がった。
ヤバイ!
本気モード発動だ!
ですが、少し症状を重く書いております。
その症状は私が感染した帯状疱疹、髄膜炎の症状を参考にしております。
一応、髄膜炎の中には成人した大人が、水疱瘡などのウイルスが首のリンパから体内……に侵入し、炎症を起こします。体験済み……。
なのでルナは、相当苦しい病気になったと思っていただければと思いますm(_ _)m
~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~
ルナが熱を出した。
「ねぇ、父さん。ルナの頬にブツブツがあるよ?」
先ほどまで一緒に昼寝をしていた千夏は先に起きたらしい。
横に寝ていたルナを見て、声を上げた。
同じ部屋にいたが、少し離れたソファに座り、ルナの新しいワンピースのデザインを考えていた俺は、顔を上げた。
「頬? どこにある?」
「ここと、ここ……あ、額にもある!」
「えぇ?」
慌てて駆け寄り、確認する。
ルナは顔を真っ赤にして、苦しげに目をあけた。
「ちぃちゃん……」
「頭が痛いのか? 大丈夫か?」
「頭……痛いで、すわ……」
額に手を当てると、熱い。
顔を確認すると、額にも、頬にもポツポツと発疹が出てきている。
俺は、あまり医術関係に詳しくないが……。
「もしかして、風疹じゃないだろうな? アイツらは予防接種はしてないのか! 日向夏! 念のために風深と、ヴィクおじさんを呼びに行ってくれないか。千夏。お前はうつったら大変だから、別の部屋に行きなさい」
「やだ! 俺はルナといる!」
「駄目だ。うつったら大変な病気なんだ。大丈夫だとヴィクおじさんに言われるまで、ここにきては駄目だ。レクおじさんとふぅちゃんのところに行きなさい」
「……はい」
頭の上に耳があったらペタンと倒しているかのように、しょげていた千夏ははっと顔をあげ、
「じゃぁ、元気になったら遊んでも良いよね? それに、ルナに俺はルナが大好きだって、見捨てないからって言ってね? 絶対だよ? 俺、幸矢おじさんとシエラ師匠に頼んで、ルナの騎士になるからね! 稽古いっぱいするから!」
「あぁ、稽古に行くからってちゃんというからね。行ってきなさい」
「はい!」
元気に返事をして、先に出た二人の後を追うように部屋を出て行った。
はぁぁ……
出したくもないため息が漏れる。
ルナや千夏にではない。
千夏は少しやんちゃだが、本当に親バカじゃないが良い子に育った。
今だって、寂しがったり、もしかしたら見捨てられたんだと泣くかもしれない、ルナのそばにいたいんだとはっきり言った。
そこまで7歳の子供だって言えるのだ。
気にかけて、心配して、そばについていてあげたいんだと訴えられるのだ。
なのに、ナナもアンディールも、ルナにそんなことはしなかった。
血が繋がった兄弟の俺ですら嫌悪したくなる、愚かでバカな姉とその夫。
もう、縁を切ったっていい、それより永遠に会いたくないとすら思う。
本当は、9年前に見捨てたって良かった。
でも、戻ってきたふぅちゃんや母さんが泣くから、我慢した。
だが、もう我慢するものか。
まだ幼いルナを、ここまで辛い目に遭わせたバカどもを徹底的に、将来すら潰してやる!
俺を甘い……未だに自分が命令、わがままを言えば、いうことを聞くと思い込んでいるナナと、ちょっと謝ったら許してくれるだろうと思い込んでいるアンディールを地獄の底に落としてやる!
死んだ方がマシという目に遭わせて見せる!
ただ良かったのは、親である二人がバカな分、ルナについていたメイドたちは乳母だった女性……ルナのばあやである……と団結して、守り愛情をかけてくれた。
今も二人が、駆けつけてくれてこちらに控えている。
「千夜さま……あの、私が代わりましょう」
「そして、私どもは、アンディールさまよりお嬢様につけられた者ではありません。国王陛下、そして現大公閣下より指示をいただき、手配されております。今、私どものリーダーは王宮に、今一人はお嬢様の部屋の片付けをしております」
「あぁ、父に聞いている。ありがとう。本当に助かっているよ。ルナの荷物は、この部屋の前にある今は空き部屋だが子供部屋に運んで欲しい。定期的に掃除はされている。家具は……」
「家具は……お伝えするのも躊躇うのですが、大変古いもので色も、形も整っておりません……お嬢様は平均よりお小さいのですが、大人の……男性が使うものとかがございます……ソファの数も合っておりませんし」
一人のメイドにルナの看病を頼み、振り返る。
「大人の家具? 数が合わないというと、もしかして、アンディールたちの夫婦喧嘩で破壊された家具の余りを、置き場に困り置いていったとかじゃないだろうね?」
「……実はその通りでございます。ソファは濃い色調のもの、机と椅子の高さも合わず、ベッドは私どものものとさほど変わりません」
「……世話をかけるけれど、残ったメイドたちに、荷物以外のものはそのままにして、現状維持のために、その部屋に全て鍵をかけ、アンディールや七聆が入れないようにしてくれないだろうか?」
「その点は大丈夫でございます。最近、ルナリアお嬢様が鍵を付け替えて欲しいとおっしゃられ、その合鍵は私どもに一つ、侯爵閣下に一つ、大公閣下に一つそれぞれ渡していただいております。ですので、移動する時に必ず施錠するよう伝えております」
丁寧に頭を下げるメイドに、俺は頭を下げる。
「本当に……申し訳ない。俺……私がもっとしっかりしていたら……」
「いいえ。ルナリアさまは、よくおっしゃっておられました。『あのね? 私にはね? 本当のお父さまより、優しくて強くてかっこいいパパがいるのよ!』と。千夜さまのことですわ。お出かけの後にいつも、嬉しそうに、今日はこれを買っていただいたのだと、何回も何回も……いえ、嫌なのではなく、あんなに笑うお嬢様を見るのは幸せで……」
「……これからも、ルナのことをよろしく頼むよ。陛下にも父にも、君達のことはお願いするから」
「ありがとうございます。私どもは、ルナリアさまに嫌だと言われるまでお仕え致します。そしてこれからは、何かございましたらすぐ、千夜さまと奥様に、ご相談させていただけますでしょうか? 今までは緊急時には、こちらの独断で動くこともあり……お嬢様がお辛い思いをされたこともございまして……」
「あぁ、そうして欲しい。だが、君たちは優秀で、ルナも信頼している。判断できる時は、今まで通りルナを最優先で頼みたい」
頷いた彼女を見てホッとする。
本当なら俺も、彼女たちに恨まれて当然だと言うのに、信頼してもらえるだけでもありがたいと思う。
コンコンコン……
扉が叩かれる。
目の前にいたメイドが、スッと扉に向かう。
開けるためだろうが、こちらからの返答も聞かず扉は勝手に開いた。
「ちぃちゃん!」
止めようとしたメイドの手を振り切り入ってきたのは、七聆……。
豪華なドレスで、二人の子供がついてくる。
「ねぇ! あの子が倒れたってほんと? ありがと! 体調管理できない子でごめんね~! 連れて帰るわ!」
ズカズカと入り、そのまま横を通り過ぎようとする姉妹の前に手を広げる。
「やめろ! 近づくな!」
「何よ~? どうせただの風邪でしょ? 本当に手がかかるんだから! ベッドに寝かせておけば治るわ。あら、この子のメイドじゃない! 邪魔だから早く連れて行って? あ、そうそう。あたし、ちぃちゃんにミリアのワンピースをお願いしようと思ってたのよ。この子に作るばっかりでしょ? 可愛い姪っ子に作ってよ」
人の話も聞かず、無神経な七聆の言葉に、メイドたちも一瞬眉を寄せる。
本当は、プロなら表情に出さないが、悪いことじゃない。
許されないのはこいつだ!
そうだ……こいつは昔からこうだった!
チラッと甥姪を見ると、母親の手を振り払ったサディは千夏のおもちゃを手に取り、壁に投げ、ミリアはテーブルのクッキーを食べ散らかし始めた。
「てめえらが帰れ!」
「な、何よ! なんで怒るの? あ、あの子が何かしたんだね! ごめんね? 叩いておくから許してよ」
謝ってるのか? それが!
ヘラヘラと笑いながら言うだけじゃないか!
しかも、何も悪くないルナが悪いといい、自分のふざけた行いを見て見ぬふりをする。
「はぁぁ? なんで、ナナがルナを叩くんだ? 俺たちが、ルナが叩いていいのは、ナナだろう? 子供の粗相は、親が謝罪するのが普通だろう! ついでに、いまのそれは謝罪じゃない! ごめんなさいって言うなら、ちゃんと頭下げろよ!」
「なんで? いいじゃない。あたしとちぃちゃんの仲でしょ? 許してくれるよね?」
「冗談言うな! 9年前に言ったよな? 約束したよな? もう迷惑はかけません! 俺を束縛したり、命令はしませんって!」
「したよ? でも、今のは命令じゃなくてお願いじゃない? なんで怒るの? それにあの子ばっかりかまって、うちの子を構ってくれないそっちこそ、ひいき、差別じゃない!」
「ひいきと差別をしてるのは、ナナとアンディールだろう! 何勘違いしてやがる! ルナと朝食も一緒にしない、買い物にもいかない、誕生日プレゼントも買わない、服も揃えない、ほったらかし! ほら、育児放棄してるのはナナの方だ!」
俺は、ナナを突き放しベッドに行くと、毛布ごとルナを抱き上げる。
ひゅうひゅうとルナの喉が鳴る。
熱が上がったのか、朦朧と開いた目が不安そうに揺れ動くのに、もう少し早く異変に気がついていたらと言う思いと、込み上げる怒り。
苦しくない程度に抱きしめ、安心させるようにトントンと背中を叩く。
「もう俺は、ルナを可愛がらない、他の二人と差別する、育児放棄してヘラヘラ笑う、ルナを体罰して言うことを聞かせると言うお前を、姉妹と思わない! ルナは俺の子供だ! 返すもんか!」
「なっ! ち、ちぃちゃん? なんで? 急にそんなこと言うの? あたし、ちゃんと子育てしてるよ? サディもミリアも……」
「どこがだよ! 見てみろ!」
俺の視線をたどった七聆は、顔色を変える。
七聆のいうよくできた長男のサディは、いつのまにか壁にペンで落書きをしていた。
あまりにもひどい様に、そっとたしなめるメイドに向かって積み木を投げつける。
ミリアはミリアで、両手にクッキーを掴んだまま、靴も脱がず、テーブルの上に足を投げ出して座りバタバタさせ、水のピッチャーを倒した。
「な、何をしてるの? 二人とも!」
「つまんない~。ママ」
「いつも通りいい子に……」
息子に声をかける。
そうすると、ミリアがベッドに置いていた人形を示し、声を上げる。
「あ、ママ! あのお人形ちょうだい!」
「あれは、駄目」
「ヤダァ! ちょうだい、ちょうだい! この間は、お姉ちゃんのお部屋から持って行っていいって言ったじゃない! ここのだっていいでしょ? だって、お姉ちゃんばっかり、おじいさまやおじさんたちは可愛がって、ミリアはかわいそうなんでしょ?」
癇癪を起こすミリアに、俺は多分、嫌悪感を丸出しの目で七聆を見ていると思う。
焦る七聆は、駆け寄りテーブルから降ろそうとするが、いやいやと首を振ったミリアは泣き出す。
「ママ、大嫌い! ミリアのこと可愛くないんだ! かわいそうなのに! ミリアかわいそうな子なのに!」
「可愛いわよ! 可愛いわ! ミリアはママの一番可愛い子だもの。でもね?」
「ママ、嘘つき! お姉ちゃんとおんなじお洋服くれない! お店にあるっていったけどないじゃない!」
「それは、ちぃちゃんが……」
困ったように俺を見る。
「ちぃちゃん……」
「うるさい! 出て行け! もうお前なんか兄弟じゃない! ルナにも二度と会うな! それに、この部屋の弁償と、ルナのもの全部返せ! 謝罪は聞かない! 同じものを返せ!」
「なんで……」
「うるさい! 窃盗犯だと突き出してやろうか!」
「ひ、ひどい! なんで?」
……我慢できない!
許せない!
もう、父さんや兄貴との約束を破ってしまいたい!
拳を握りしめ、唇を噛み締める。
バターン!
今度はかなり力任せに扉が開き、続いて現れたのは、珍しく無表情の父さんと、ニコニコと笑っている従兄弟兼国王陛下。
尊敬する二人だけど、扉は無事か?
と話を逸らせてしまいたいほど、今来るとは……俺は怖い。
父さんは、少々怒ろうが基本のオプションは笑顔の、見た目ひ孫がいるとは思えないほど年齢不詳の童顔好青年。
国王陛下である従兄は、執務中ですら微かに笑う程度に留めている。
従兄は、世界的に美貌の持ち主が多いこの国でも飛び抜けて美しい……絵画にも彫刻でも、ついでに映写機ですら、そのままを残せないと言われる神の域の美貌王……微笑むだけで、男女問わず魅了し、外交で訪れた要人も職と身分、言葉を忘れ、鼻血を出して倒れるのは数知れない。
従兄弟とまともに顔を合わせて平然とやり取りできるのは、三ヶ国の要人くらいである……ちなみにラディリア公国国主と、スティアナ公国国主は除く。
従兄弟が笑うのは、本当に嬉しい時もあるが、今回の背後のザワザワ感は、激怒している時のもの……。
俺のことを怒っているのではないと思いたいが……大の男だが、泣きたくなる。
怯む俺を、父さんが見た。
「千夜? ルナはどうだ?」
「あ、あの……顔や手に発疹があって、ヴィクおじさんに急いで来ていただけないかと、日向夏に……熱もありますし、もしかしたら麻疹とか、風疹ではないかと……」
「……七聆。ルナに予防接種は?」
「えっ? し、してるはずですわ。その辺は専門家のお義父さまに、全部お任せしてます」
「はぁぁ?」
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ヤバイ!
本気モード発動だ!
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