わたくしは親も兄弟もおりません!自由にさせていただきます!……はぁぁ?今更何をおっしゃいますの?

刹那玻璃

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始まりは多分お別れという意味なのですわ。

はぁぁ? 何をおっしゃるのやら。こういう時しかわたくしの顔も見にこないお父さまに、最後の嫌がらせですわ!

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「コラァ! ルナ! また俺を賭けに使ったらしいな!」

 前方から声が聞こえました。
 試作品の『超特急かける君』は、急に止まれませんの。
 あ、『超特急かける君』というのは、足の遅い私が、広大なこのお屋敷内を移動できないかと開発し、おじいさまに許可を得て試運転中のものですの。
 メイドさんや侍従さんにはちゃんと頭を下げて、私を見たら端に寄ってくださいね。
 ワゴンや重い荷物を持っていたら、私は避けようと思いますとお伝えしておりますの。
 なのに、何故か廊下の真ん中に手を広げて廊下に立ち塞がったお父さま。
 間に合わないし避けられないと判断したわたくしは、躊躇ためらわず、お父さまの鳩尾みぞおちに頭突きをかましてやりました!
 あ、ちょっとわたくしの背が低かったから正確には鳩尾と違うのかしら……でもほぼ近い場所ですから大丈夫ですわね。
 あらぁ? ちぃちゃんなら楽々受け止めてくださるのに、見事に転倒したお父さまが、お腹を押さえてうめいています。
 よわっちいですわ。
 『超特急かける君』を止めたわたくしは、お父様の近くまで戻り声をかけます。

「お父さま……前におじいさまから言っていただいたはずですが、『超特急かける君』は絶賛試運転中ですの。つけたわたくしの前に飛び出さないでくださいませ。避けられませんわ。お馬さんやドラゴンさんやナムグだってそうですわ。勢いがついたものは急に止まれませんの。メイドや侍従のお兄さんお姉さんだって、避けてくれますわ。お父さまは運動神経皆無ですか? おじいさまのお話も聞いていらっしゃらないんですか? そのお耳はついてるだけですか? そうですか……。あ、そういえば、お父さまのお腹はぶよんぶよんですわね」
「はぁぁ? 何でぶよんぶよんって……」
「前に、ちぃちゃんにぶつかった時には硬かったですよ? 確かシックスパック? とか言いますのね? やっぱりちぃちゃんは素敵です。スタイルも良くて優しくてかっこよくって、身体も鍛えられて、イケメンですね」
「ちぃの裸を見たのか?」
「見ませんよ。お父さまの裸は見ましたけど。酔っ払って脱ぎたがるのは結構ですけど、そのブヨブヨは、見てて気持ちいいものはありません。ちぃちゃんに鍛えてもらってください」

 わたくしの言葉に、お父さまはガーンという顔になりました。

 でも、お父さまは正直言ってなまっちろい青二才です。
 どんな不摂生な生活をされているんですか?

 ちなみにわたくしは、引き締まった身体に知識豊富な方が好きです。
 まぁ、鍛えすぎというか、お父さまの悪友のエル叔父様達のように、あちこちの筋肉が盛り上がってるだけでお馬鹿さんなのはご遠慮したいです。
 筋肉の鎧は逆に美しくありません。
 適度に、あるべきところに筋肉も知識もあるほうがいいのかもしれませんね。

「そういえば、お父さま。今日もお母さまに負けたんですね~頬真っ赤ですね。何発殴られました?」
「聞くな! ついでにポケットからノート出すな! お前は俺をなんだとおもってるんだ?」
「うーん……賭け事の話題提供者!」
「おい!」
「それじゃなかったら、一応血の繋がりのある人? わたくしを作った人の片方!」

 あっ! 硬直しました!
 何でショックを受けるんでしょう?

「どうしました~? お父さま」

 近づいて、手をひらひらと振る。

「あら~気絶しました? 何ででしょう? お母さまに離婚するって言われましたか? そうでしょうねぇ……浮気者で仕事もちぃちゃんの半分もしませんし、時間があれば遊びまわってますもんね? 子育てしてます? そう言われるくらい、家庭人としては最低の部類ですね!」
「……父親にそれはねえと思う……」
「そうですか? あら? まぁ……お父さまは、わたくしの父親だって自覚があるんですか?」
「はぁぁ? お前は俺の娘だろ? 顔見てわかるだろうが?」
「は? そうだったのですか? お父さまはわたくしを娘だと思ってくださっていたのですか?」

 驚きましたわ。
 お父さまって、わたくしのことを娘だと思っていないのだと信じてましたもの。

「ど、どうしてだよ。お前が俺の娘だって当然だろ? 俺とナナの娘なんだから」
「へぇ~そうだったんですか? 今までお父さまは、わたくしを娘だって思っていないのかと……意外でしたわ? わたくしは、お父さまを『生ませた人』、お母さまを『産んだ人』としか理解しておりませんでしたわ」
「はぁぁ? どういうことだよ! お前は娘で、ちゃんと……」
「ちゃんと何をしてくださいました? お父さまは毎朝、お母さまとお兄様とミリアとお食事を取られますわ。わたくしと何回一緒に取りましたか? ご挨拶と文句以外の言葉のやりとりは、何ヶ月前でした? あぁ、賭け事のお話以外ですわ? 花が咲いたとか晴れたとか、そんなお話すら、去年以来じゃございませんか?」
「……えっ……」

 目を見開き何故か変な顔をなさいましたね、お父さま。
 やっぱり、覚えておられませんのね。

「お忘れですか? わたくしと直接お会いして、くだらない浮気の言い訳をお話しなさったのは、去年の一の月27の日ですわ。それ以来ほぼ一年半、お会いしておりません。当然、5人でお出かけも朝食もしておりません。他の日にお出かけなさったのは、きっとお母さまとお兄様とミリアとですわね」
「えっ……嘘だろ? じゃ、じゃぁ、ナナと出かけただろう? 何回か……」
「お母さまのお出かけは、お兄様とミリアと一緒じゃありませんか? あぁ、去年の大祭の夜市にお父様たちは行ったのだと、後日水鉄砲を持ってきてくれましたわね、メイドの方が。壊れていましたけど。フーカと一緒に遊びました。それに、おじいさまたちとご一緒の夕食の席でお会いしますが、いつもお酒を飲んでいらっしゃって、『サディとミリアは可愛いのに、お前は可愛くない』って言いますわ? 『誰に似たんだ? 俺の子じゃないみたいだ』って言いますわよね? ご自分でおわかりでしょうに、この顔もこの瞳も髪の色も……残念なことにお父さまと瓜二つですわ。本当に似てなければ、わたくしのこの心も何も感じなかったでしょうに……」

 父を見上げてじっと見る。

「でも、お父さま? ご存知ですか? わたくし、物心ついてから、お父さまに何も買っていただいていませんし、お小遣いもいただいたことありませんの」
「……はぁぁ? そ、そんなことはないぞ? 俺は!」

 焦る目の前の父に、首をすくめる。

「子供だからって、騙せるとお思いでしょうか? 嫌ですわ? お父さまがどこかから買ってくるのは、お母さまとお兄さまとミリアのものだけ。一回、おじいさまが注意したら、『あ、忘れてた。今度買ってくる!』そう言って翌日、ミリアに買ってきていらっしゃいましたよね? あの時……3歳にして理解しました……あぁ、お父さまにとって、わたくしはいらない子なんだ、必要のない子なんだと。お父さまのことを、嫌いとか好きとか考えるだけ無駄だってことを」
「そ、それは……そんなふうに思ってない! じゃ、じゃぁ! 今から、何か買いに行こう! 何が欲しい? 言ってみろ!」
「もう結構です。今更だと思いませんか? わたくしに言われて気がつくなんて、最低だと思います。それに何が欲しいって、本人に聞かないとわかりませんの? お兄さまやミリアには色々と買って帰られるのに。それにわたくしはもう、お父さまのお金で暮らしておりません。今着ているこのドレスは、わたくしの誕生日に、ちぃちゃんに作っていただいたものです。それにおじいさまにお願いして、成人後の貯蓄投資をお願いしていますわ。今更お父さまに育ててやるとか、将来には育ててやったんだと恩着せがましく言われるのは、とてつもなく嫌ですの。わたくしが生きるために、もうすでに自分で稼いでおりますの! 私を育てるのはお父さまたちではありませんわ! 私とおじいさまたちですの!」

 声が震えているのは、何故なのでしょう?
 もう我慢しなくていいのです。
 言ってやればいいのです。

「……それに今日で、お父さまとお母さまの賭け事は終わりです。もう二度と、わたくしはお父さまとお母さまに関わりたくないので、辞めますね。嬉しいですよね? わたくしに会わなくて済むし! 文句も言わなくて済むし! 都合の悪いもの……わたくしなど! 無視できますものね? 煩わしかったのでしょう? 清々するでしょうね!」

 父の目は、わたくしを異質……不気味そうに、気まずそうに彷徨っています。
 申し訳ないというより、何でこんなに可愛げがないんだろうと言いたげです。

 感情を揺らせるのは悔しい。
 でも、もういいよね?

 持っていたノートをビリっと破り、父親の顔目掛けて思い切って投げつけた。

「今まで……いいえ、生まれてきて、本当に申し訳ございませんでした。あ、生ませてくれてありがとうございます、の方がよろしいでしょうか? マルムスティーン侯爵令息アンディール卿。今日限り、お父さまともお呼びいたしませんし、お声もかけません。奥様とお子さんと仲良く幸せにお過ごしくださいませ! さようなら!」

 そのまま、耳のピアスの操作をし、わたくしは走り去ったのだった。
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