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始まりは多分お別れという意味なのですわ。
これでも普通のお嬢様を目指してますのよ? えぇ? お父さまが可哀想? どうしてですか?
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初めまして。わたくしは、ルナリアと申します。
一応、戸籍上というか、血のつながりのあるお父さまがアンディール、お母さまが七聆と申します。
わたくしは両親の悪いところしか受け継いでいないそうですわ……例えば、お父さまの目つきと根性の悪さとか、口が達者なところはお母さま譲りとか、両親の喧嘩のタネに毎回言われておりますわ……産んだ、生ませたお二人が悪いと思いませんこと?
これでも、一応、父方のおじいさまが無表情美少年風腹黒で、おばあさまが絶世の美貌を5割減にした可愛らしい系美少女ですのに!
そして、母方のじーじとばあばは、童顔で実際年齢不詳、永遠のバカップルと言われているのに!
……はっ! いけませんわ!
尊敬するおじいさま、おばあさまがたに失礼でしたわ……こんなことを内心ででも言ったとバレたら、特にじーじに『ほっぺたウニョーンの刑』なのです。
あれは地味に痛いのです。
されるなら、『ほっぺたフニフニの刑』が希望ですわ!
それにしても、二つ上のサディお兄さまはおじいさま、二つ下の妹のミリアはおばあさまに似たというのに、どうして悪いところばかり引いたのか……じーじ、ばあばに似ていたらもっと嬉しかったのですが……あぁ、やっぱり、私のせいじゃないですわ!
というか、日々思うのはうちのお母さまって趣味悪いですわね……もっとイケメンで性格が良くて、優しい男の人にすればよかったのに……。
どうして、目つきも口も悪くて、ひねくれてて、もう一度言いますが、顔も口も悪くて……唯一いいのは血筋のみ! のお父さまと結婚したのでしょう?
あぁ、お父さま……ではなく、お家がお金もちだったから! やっぱりそれかもしれませんわね!
それならわかりますわよ。
わたくしも結婚するなら、お金持ちの方とって思いますもの。
だって、愛なんてよくわからないですわよね?
目には見えないものですもの。
プレゼントでわかるのかしら?
それも変ですわ。
高額なものをもらっても意味がないこともあります。
例えば、虫の嫌いなわたくしに、何故か異世界のヘラクレスオオカブトという虫とか、オオクワガタとか、アレクサンドラトリバネアゲハとか、モルフォ蝶とかを下さると言ったとします……おじいさまは大好きだそうですが、わたくしはいただきたくありませんわ。
虫は苦手なのです。
特に黒い【ゴ】という生き物ですわね。
実際を見たことはないのですが、昔、ばあばに聞いたことがあります。
ツヤツヤの羽を持ったアレは空を飛ぶのだそうです!
なのに、ひいひいおじいさまはそれを樹脂でコーティングして、ネックレスに加工、ひいひいおばあさまにプレゼントして半殺しの目に遭いました。
ざまぁ! だと思います。
それにお父さまの大好きな裸婦像の絵画や彫刻、銅像はわたくし、下心がありませんので意味がありません。
そのかわり大きくて邪魔とお父さまが言う、大おじいさまの骨董品……確か衝立とか屏風とかはとても美しいと思います。
あれは絶対欲しいです。
今度の誕生日にくださいとおねだりしたいです。
こっちが違うのならそれとも、言葉になるのでしょうか?
でも、言葉なんて信用できないのは、このわたくしにもわかりますわ。
見えるもの、録音していないと残るものじゃありませんし、なんだかんだ言って人間って言うものは、忘れていったり都合よく変化して覚えておくものです。
バカにしているわけではありません。
全部をそのまま記憶して置けるほど、人間は強くありません。
弱くて愚かで、それでいて強かなんです。
だって、お父さまとお母さまだって、大恋愛で結婚したのよっていわれていたけれど、今じゃ毎日喧嘩ばかり。
時々、着飾った美しい女の人に鼻の下伸ばして、お母さまに、
「ディの浮気者! もう、実家に帰る!」
って怒られて、
「ち、違う! 俺にはナナしかいない~!」
って叫ぶ姿がしょっちゅう。
しかも、
「わかってるだろ! 俺は、他の女にはたたない!」
とも言ってましたわねぇ……?
意味がわからなくて、
「おじいさま。お父さまは、何を『たてる』んですか?」
って、一回おじいさまに聞いたら、
「ルナリア……アンディールに何を聞いたのかなぁ? 詳しく教えてくれるかな?」
と迫力のある微笑みを浮かべ、逆に聞かれたので、詳しく説明しましたの。
すると、お父さまはおじいさまに呼ばれて、引きずられて消えていきました。
その日の晩は、ボロボロになったお父さまが廊下で屍になっていました。
静かでいいですわ……。
あ、某ゲームの『ただの屍のようだ』の方が面白いのに……って言ってる人! 某ゲームファンですね?
これはわたくしの発言ではありませんのよ?
わたくしの言葉を借りて喋っているオタクの責任です。
コホンッ!
話は、我が家の日常に戻ります。
今日も今日とて、
「ディなんて大嫌い!」
という声と共に、
バチーン!
という素敵な音が!
「おぉやってますわ! 起承転結をしっかり確認して、結果を見なければなりませんわ!」
と、耳に私が作った新商品!
声をよく集めることができるイアフォンをつけて……あぁ、まだ少し音が集まりませんわね……まだ実験段階ですものね。
改良が必要ですわ。
良く声が聞こえるだろう柱の影に移動して、ポーチに入れていたこちらもおじいさまの、毎回インク壺にペン先を浸すのが面倒くさいのだと言う意見を取り入れて作ったペンとノートを取り出して、今日の喧嘩の始まりから簡潔にメモする。
多分、この間、お母さまが幼馴染のおじさまたちと喋っていたことに嫉妬して、機嫌が悪かったお父さまが話を出したに違いないですわ。
自分はお姉さま方に声をかけまくるというのに、妻には禁止とは、本当に心が狭い人ですわ。
余計に結婚願望薄れてしまいますわね。
そう思いながら書き込んでいると、上から声が響いた。
「こらこら……ルナさんや……それはやめなさい。しかもディはアホウで馬鹿だけど、なになに? 『こんな両親から、どうしてわたくしが生まれたのでしょうか? 毎日暇なんですね。おじいさま、もっと仕事を押し付けてやって下さい。うるさくてわたくしはグレたいです』……グレてどうするんだ?」
「そんなの決まってますわ! 家を出て金稼ぎに決まっていますわ! わたくしがおじいさまとお話しして、考えて作りあげた商品を、世界中に売りさばいてウハウハな生活をするのです! 恋愛なんて、ちぃちゃんは素敵ですが、あのお二人を見ていたら馬鹿馬鹿しいと思いません? それにこの家には、よくできた跡取りのサディおにいさまと、可愛くて素直なミリアもいますから、小賢しくて可愛げのないわたくし一人いなくても、滅びることはないと思われます!」
「滅び……この家が滅んだら、国がやばいだろ」
顔を引き攣らせる。
「それに、お前は誰に似たんだ?」
「ちぃちゃん……じゃないことは確かですわね!」
「……ちぃちゃんって言うなよ」
「えぇぇ~? いいでしょう? ちぃちゃん! 可愛いですよ! いつものことだし、お母さまだって言っていますわ?」
「それは俺とナナが兄妹だからだよ。それに、姪が叔父に可愛いって言うか? それに、なになに……父親の頬が殴られ、鳩尾に蹴りが決められ、近くの椅子で殴られた……うわっ、リアルだな? それ。そこまで細かく書くか? お前いくつだよ?」
母の弟のちぃちゃん……千夜おじさま……はノートを覗き込み、頭が痛いと言いたげに、顳顬をぐりぐりと押さえる。
「はーい! わたくしは6才ですわ!」
「偉そうにいうなよ! 6歳でそのメモはなんだ!」
「今日のお父さまとお母さまの喧嘩の理由ですわ! これをこの後、お家のとあるところで賭けるのです。わたくしが胴元と言うものですの! ふふふ……現状はあそこの隠しカメラで盗撮済み! 加工はおじいさまがしてくれますの! おじいさまは『子供が見るもんじゃありません! 理由と仲直り方法さえわかればいいんでしょ? 大丈夫!』って」
「彗にい……子供に何を許してるんだ……盗撮だぞ、盗撮。それに、娘に盗撮され、ネタにされるナナとディ……」
ブツブツと呟くちぃちゃんに、ささっと筆記具をしまった後、ぽんっと手を叩いて見せる。
「あ! 今度、ちぃちゃんとひゅーかちゃんの喧嘩の賭けも出す予定ですわ!」
「うちはない! するならエルドヴァーン達のところにしろ!」
「あ、そっか! じゃぁ、提案してくれた、ちぃちゃんに提案料を……」
「いらんわ! それに、その年で賭け事の胴元なんてするなよ! 末恐ろしいお子様だな!」
「だって……これがないと、この家は明るくならないんですもの! 夫婦喧嘩ばっかりでうるさいのですわ。それに、静かだと思ったら『イチャイチャしている』? らしくて……おじいさまが、『もう一人孫が生まれるかな?』って言われてましたわ。お父さまは『次の子は、わたくしのように可愛げのない子供じゃないと嬉しいな』だそうですわ」
メモに、『ちぃちゃんがエルおじさまとジークおじさまの賭けを提案する。こちらは、大伯父さまに相談』と加えておく。
うん! 大伯父ってちゃんと書けるのですわ! わたくし。
でも、家庭教師の先生って、なぜか絵本ばかり読ませたがるのですわ……不思議?
文字も少ないですし、なぜか雨の音が『ダァダァ』とか『バシャバシャ』とか……変な音ばかりです。
雨が降る時の音は、確か『サァァァ……』か、激しい時は『ザァァァ……』が近いと思うのです。
それを指摘したら、先生が、
「子供が賢しげに言うものではありません! 素直に聞けないのですか! お兄様や妹姫のような可愛らしさがないのですね」
と言って下さいましたわね。
それを聞いていたおばあさまが、おじいさまに言ったらしくて翌日からは来られなくなりましたけれど……。
わたくし、おじいさまのお部屋の歴史書の方が面白いです。
今度、おじいさまに相談しましょうか。
「あ、ちぃちゃん! 言うの忘れていましたが、賭け事なんて家でしかしませんからね?」
「当たり前だ。外でやられたら困るわ!」
しかめっ面のちぃちゃんですが、長身で、この国では珍しい漆黒の髪と瞳をしています。
その上、静謐さを漂わせるその色に似合う端正な容姿をしていて、わたくしも認めるイケメンですわ。
お母さまも黒髪に黒い瞳は一緒ですが、あの気の強い性格もあってか、神聖さのかけらもないのが残念です。
ちぃちゃんとお父さまも幼なじみで悪友だけど、性格は正反対だと思うのでザンメンだと思います。
「ところで、なんでルナが賭け事の主催者になってるのかな?」
「お金を稼ぐためですわ! 研究費が必要ですの!」
「け、研究費……」
「はい。わたくし、お兄さまたちと違って、お小遣いなどをお父さまから一切いただいておりませんの。ですから、色々と足りないので、おじいさまに許可を得て稼いでおりますわ。一応、このペンの収入は、おじいさまがわたくしが成人してからくださるので、今はさまざまなものを生み出し、商売に手を出して、お金を貯める必要があるのです」
「……賭けで稼ぐなよ。なんなら、俺が支援する!」
その言葉に、わたくしはため息をつき、拳を握りしめましたわ。
「支援……それはただのちぃちゃんの自己満足です。わたくしは、自分でしたいのですわ! 目指せ! 女性の自立! 倒せ! 子供は絵本を読んでいればいいと言い張る大人!」
「うわぁ……お前、本当にわかって言ってるのか? いや、その年でわかってたら余計に怖いわ……」
ちぃちゃんはなぜか遠い目をしましたわ。
何か馬鹿にしているのでしょうか?
いえ、ちぃちゃんは小さい頃から、可愛げのないわたくしを理解してくれる、数少ない大人です。
「まぁ、ルナがいうから研究費、開発費は出さないが、ルナの好きそうなものを持ってきてやった」
「えっ? 何ですの?」
「……ふふふ……水車と風車の設計図」
「おもちゃのですか?」
「違うわ! 本物だよ! じい様……お前のひいじいさまたちが昔、水を川から引き込む時に使われていたのを思い出して設計図を作図したらしいんだ。それは、その水車が動くことで生まれる動力で、麦の粉をひいたり、他にも活かせる。他には風のそこそこある場所では風車とか……」
わたくしはちぃちゃんに抱きつきました。
「素敵ですわ! そんなものがあるなんて! お父さまたちの夫婦喧嘩を見るより十分価値があります! 設計図を見せて下さいませ! とても大きいのはすでにありますが、今回のはどの程度の大きさでしょうか? どこで組み立てますの?」
あぁ……楽しみですわ!
それを見て、できれば作ってもらえたら……今まで稼いだお金を注ぎ込んでも惜しくありません!
一応、戸籍上というか、血のつながりのあるお父さまがアンディール、お母さまが七聆と申します。
わたくしは両親の悪いところしか受け継いでいないそうですわ……例えば、お父さまの目つきと根性の悪さとか、口が達者なところはお母さま譲りとか、両親の喧嘩のタネに毎回言われておりますわ……産んだ、生ませたお二人が悪いと思いませんこと?
これでも、一応、父方のおじいさまが無表情美少年風腹黒で、おばあさまが絶世の美貌を5割減にした可愛らしい系美少女ですのに!
そして、母方のじーじとばあばは、童顔で実際年齢不詳、永遠のバカップルと言われているのに!
……はっ! いけませんわ!
尊敬するおじいさま、おばあさまがたに失礼でしたわ……こんなことを内心ででも言ったとバレたら、特にじーじに『ほっぺたウニョーンの刑』なのです。
あれは地味に痛いのです。
されるなら、『ほっぺたフニフニの刑』が希望ですわ!
それにしても、二つ上のサディお兄さまはおじいさま、二つ下の妹のミリアはおばあさまに似たというのに、どうして悪いところばかり引いたのか……じーじ、ばあばに似ていたらもっと嬉しかったのですが……あぁ、やっぱり、私のせいじゃないですわ!
というか、日々思うのはうちのお母さまって趣味悪いですわね……もっとイケメンで性格が良くて、優しい男の人にすればよかったのに……。
どうして、目つきも口も悪くて、ひねくれてて、もう一度言いますが、顔も口も悪くて……唯一いいのは血筋のみ! のお父さまと結婚したのでしょう?
あぁ、お父さま……ではなく、お家がお金もちだったから! やっぱりそれかもしれませんわね!
それならわかりますわよ。
わたくしも結婚するなら、お金持ちの方とって思いますもの。
だって、愛なんてよくわからないですわよね?
目には見えないものですもの。
プレゼントでわかるのかしら?
それも変ですわ。
高額なものをもらっても意味がないこともあります。
例えば、虫の嫌いなわたくしに、何故か異世界のヘラクレスオオカブトという虫とか、オオクワガタとか、アレクサンドラトリバネアゲハとか、モルフォ蝶とかを下さると言ったとします……おじいさまは大好きだそうですが、わたくしはいただきたくありませんわ。
虫は苦手なのです。
特に黒い【ゴ】という生き物ですわね。
実際を見たことはないのですが、昔、ばあばに聞いたことがあります。
ツヤツヤの羽を持ったアレは空を飛ぶのだそうです!
なのに、ひいひいおじいさまはそれを樹脂でコーティングして、ネックレスに加工、ひいひいおばあさまにプレゼントして半殺しの目に遭いました。
ざまぁ! だと思います。
それにお父さまの大好きな裸婦像の絵画や彫刻、銅像はわたくし、下心がありませんので意味がありません。
そのかわり大きくて邪魔とお父さまが言う、大おじいさまの骨董品……確か衝立とか屏風とかはとても美しいと思います。
あれは絶対欲しいです。
今度の誕生日にくださいとおねだりしたいです。
こっちが違うのならそれとも、言葉になるのでしょうか?
でも、言葉なんて信用できないのは、このわたくしにもわかりますわ。
見えるもの、録音していないと残るものじゃありませんし、なんだかんだ言って人間って言うものは、忘れていったり都合よく変化して覚えておくものです。
バカにしているわけではありません。
全部をそのまま記憶して置けるほど、人間は強くありません。
弱くて愚かで、それでいて強かなんです。
だって、お父さまとお母さまだって、大恋愛で結婚したのよっていわれていたけれど、今じゃ毎日喧嘩ばかり。
時々、着飾った美しい女の人に鼻の下伸ばして、お母さまに、
「ディの浮気者! もう、実家に帰る!」
って怒られて、
「ち、違う! 俺にはナナしかいない~!」
って叫ぶ姿がしょっちゅう。
しかも、
「わかってるだろ! 俺は、他の女にはたたない!」
とも言ってましたわねぇ……?
意味がわからなくて、
「おじいさま。お父さまは、何を『たてる』んですか?」
って、一回おじいさまに聞いたら、
「ルナリア……アンディールに何を聞いたのかなぁ? 詳しく教えてくれるかな?」
と迫力のある微笑みを浮かべ、逆に聞かれたので、詳しく説明しましたの。
すると、お父さまはおじいさまに呼ばれて、引きずられて消えていきました。
その日の晩は、ボロボロになったお父さまが廊下で屍になっていました。
静かでいいですわ……。
あ、某ゲームの『ただの屍のようだ』の方が面白いのに……って言ってる人! 某ゲームファンですね?
これはわたくしの発言ではありませんのよ?
わたくしの言葉を借りて喋っているオタクの責任です。
コホンッ!
話は、我が家の日常に戻ります。
今日も今日とて、
「ディなんて大嫌い!」
という声と共に、
バチーン!
という素敵な音が!
「おぉやってますわ! 起承転結をしっかり確認して、結果を見なければなりませんわ!」
と、耳に私が作った新商品!
声をよく集めることができるイアフォンをつけて……あぁ、まだ少し音が集まりませんわね……まだ実験段階ですものね。
改良が必要ですわ。
良く声が聞こえるだろう柱の影に移動して、ポーチに入れていたこちらもおじいさまの、毎回インク壺にペン先を浸すのが面倒くさいのだと言う意見を取り入れて作ったペンとノートを取り出して、今日の喧嘩の始まりから簡潔にメモする。
多分、この間、お母さまが幼馴染のおじさまたちと喋っていたことに嫉妬して、機嫌が悪かったお父さまが話を出したに違いないですわ。
自分はお姉さま方に声をかけまくるというのに、妻には禁止とは、本当に心が狭い人ですわ。
余計に結婚願望薄れてしまいますわね。
そう思いながら書き込んでいると、上から声が響いた。
「こらこら……ルナさんや……それはやめなさい。しかもディはアホウで馬鹿だけど、なになに? 『こんな両親から、どうしてわたくしが生まれたのでしょうか? 毎日暇なんですね。おじいさま、もっと仕事を押し付けてやって下さい。うるさくてわたくしはグレたいです』……グレてどうするんだ?」
「そんなの決まってますわ! 家を出て金稼ぎに決まっていますわ! わたくしがおじいさまとお話しして、考えて作りあげた商品を、世界中に売りさばいてウハウハな生活をするのです! 恋愛なんて、ちぃちゃんは素敵ですが、あのお二人を見ていたら馬鹿馬鹿しいと思いません? それにこの家には、よくできた跡取りのサディおにいさまと、可愛くて素直なミリアもいますから、小賢しくて可愛げのないわたくし一人いなくても、滅びることはないと思われます!」
「滅び……この家が滅んだら、国がやばいだろ」
顔を引き攣らせる。
「それに、お前は誰に似たんだ?」
「ちぃちゃん……じゃないことは確かですわね!」
「……ちぃちゃんって言うなよ」
「えぇぇ~? いいでしょう? ちぃちゃん! 可愛いですよ! いつものことだし、お母さまだって言っていますわ?」
「それは俺とナナが兄妹だからだよ。それに、姪が叔父に可愛いって言うか? それに、なになに……父親の頬が殴られ、鳩尾に蹴りが決められ、近くの椅子で殴られた……うわっ、リアルだな? それ。そこまで細かく書くか? お前いくつだよ?」
母の弟のちぃちゃん……千夜おじさま……はノートを覗き込み、頭が痛いと言いたげに、顳顬をぐりぐりと押さえる。
「はーい! わたくしは6才ですわ!」
「偉そうにいうなよ! 6歳でそのメモはなんだ!」
「今日のお父さまとお母さまの喧嘩の理由ですわ! これをこの後、お家のとあるところで賭けるのです。わたくしが胴元と言うものですの! ふふふ……現状はあそこの隠しカメラで盗撮済み! 加工はおじいさまがしてくれますの! おじいさまは『子供が見るもんじゃありません! 理由と仲直り方法さえわかればいいんでしょ? 大丈夫!』って」
「彗にい……子供に何を許してるんだ……盗撮だぞ、盗撮。それに、娘に盗撮され、ネタにされるナナとディ……」
ブツブツと呟くちぃちゃんに、ささっと筆記具をしまった後、ぽんっと手を叩いて見せる。
「あ! 今度、ちぃちゃんとひゅーかちゃんの喧嘩の賭けも出す予定ですわ!」
「うちはない! するならエルドヴァーン達のところにしろ!」
「あ、そっか! じゃぁ、提案してくれた、ちぃちゃんに提案料を……」
「いらんわ! それに、その年で賭け事の胴元なんてするなよ! 末恐ろしいお子様だな!」
「だって……これがないと、この家は明るくならないんですもの! 夫婦喧嘩ばっかりでうるさいのですわ。それに、静かだと思ったら『イチャイチャしている』? らしくて……おじいさまが、『もう一人孫が生まれるかな?』って言われてましたわ。お父さまは『次の子は、わたくしのように可愛げのない子供じゃないと嬉しいな』だそうですわ」
メモに、『ちぃちゃんがエルおじさまとジークおじさまの賭けを提案する。こちらは、大伯父さまに相談』と加えておく。
うん! 大伯父ってちゃんと書けるのですわ! わたくし。
でも、家庭教師の先生って、なぜか絵本ばかり読ませたがるのですわ……不思議?
文字も少ないですし、なぜか雨の音が『ダァダァ』とか『バシャバシャ』とか……変な音ばかりです。
雨が降る時の音は、確か『サァァァ……』か、激しい時は『ザァァァ……』が近いと思うのです。
それを指摘したら、先生が、
「子供が賢しげに言うものではありません! 素直に聞けないのですか! お兄様や妹姫のような可愛らしさがないのですね」
と言って下さいましたわね。
それを聞いていたおばあさまが、おじいさまに言ったらしくて翌日からは来られなくなりましたけれど……。
わたくし、おじいさまのお部屋の歴史書の方が面白いです。
今度、おじいさまに相談しましょうか。
「あ、ちぃちゃん! 言うの忘れていましたが、賭け事なんて家でしかしませんからね?」
「当たり前だ。外でやられたら困るわ!」
しかめっ面のちぃちゃんですが、長身で、この国では珍しい漆黒の髪と瞳をしています。
その上、静謐さを漂わせるその色に似合う端正な容姿をしていて、わたくしも認めるイケメンですわ。
お母さまも黒髪に黒い瞳は一緒ですが、あの気の強い性格もあってか、神聖さのかけらもないのが残念です。
ちぃちゃんとお父さまも幼なじみで悪友だけど、性格は正反対だと思うのでザンメンだと思います。
「ところで、なんでルナが賭け事の主催者になってるのかな?」
「お金を稼ぐためですわ! 研究費が必要ですの!」
「け、研究費……」
「はい。わたくし、お兄さまたちと違って、お小遣いなどをお父さまから一切いただいておりませんの。ですから、色々と足りないので、おじいさまに許可を得て稼いでおりますわ。一応、このペンの収入は、おじいさまがわたくしが成人してからくださるので、今はさまざまなものを生み出し、商売に手を出して、お金を貯める必要があるのです」
「……賭けで稼ぐなよ。なんなら、俺が支援する!」
その言葉に、わたくしはため息をつき、拳を握りしめましたわ。
「支援……それはただのちぃちゃんの自己満足です。わたくしは、自分でしたいのですわ! 目指せ! 女性の自立! 倒せ! 子供は絵本を読んでいればいいと言い張る大人!」
「うわぁ……お前、本当にわかって言ってるのか? いや、その年でわかってたら余計に怖いわ……」
ちぃちゃんはなぜか遠い目をしましたわ。
何か馬鹿にしているのでしょうか?
いえ、ちぃちゃんは小さい頃から、可愛げのないわたくしを理解してくれる、数少ない大人です。
「まぁ、ルナがいうから研究費、開発費は出さないが、ルナの好きそうなものを持ってきてやった」
「えっ? 何ですの?」
「……ふふふ……水車と風車の設計図」
「おもちゃのですか?」
「違うわ! 本物だよ! じい様……お前のひいじいさまたちが昔、水を川から引き込む時に使われていたのを思い出して設計図を作図したらしいんだ。それは、その水車が動くことで生まれる動力で、麦の粉をひいたり、他にも活かせる。他には風のそこそこある場所では風車とか……」
わたくしはちぃちゃんに抱きつきました。
「素敵ですわ! そんなものがあるなんて! お父さまたちの夫婦喧嘩を見るより十分価値があります! 設計図を見せて下さいませ! とても大きいのはすでにありますが、今回のはどの程度の大きさでしょうか? どこで組み立てますの?」
あぁ……楽しみですわ!
それを見て、できれば作ってもらえたら……今まで稼いだお金を注ぎ込んでも惜しくありません!
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