恋愛ゲームは初心者です〜なんでプレイ開始が2歳から?〜

刹那玻璃

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はじめはぷろろーぐ。

まーましゃまはちゅんれれ?

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 次に目を覚ました時に、青い瞳と、ヴァイオレットの色の瞳が見えた。

「……おちょーしゃま、まーましゃま?」
「う、えぇぇぇ! マリアンジェラ、わかるの? それに、呼んでる!」
「……っ」
「……まーましゃま?」

 硬直している紫の瞳をのぞき込み、笑う。

「……ラ……」
「まーましゃま!」
「……マリアンジェラ……その、まーましゃまと言うのは……ママかお母さまかどちらなんだ?」
「こらこら、コランティーヌ。2歳児に突っ込まない」

 やれやれ……

ため息をつきながら娘を抱き上げる。

「本当に真面目すぎるママさまだね。気にしないんだよ? ママさまはツンデレって言う属性だからね?」
「ちゅんれれ?」
「そう」
「こら! 娘に変なことを教えるな!」

 表情の豊かなアウグスティーンに比べ、表情筋が欠如した彫刻のように美しい顔立ちは、何故か震えている。

「まーましゃま? いちゃい? ちゅーちゃ?」
「……君の調子は大丈夫だって? 注射したのかって聞いてるよ」
「えっ? い、いや……なんともないとも……心配してくれたのか?」
「あい!」

 頷くと、見開いていた瞳が一瞬にして決壊し、ボロボロと真珠のような涙がこぼれ落ちた。

「……わ、わたくしのような……忙しいと言って、領地に滞在して戻ってこない、は、母親を心配してくれるのか? まだ、まだこんなに幼い……お前を……置き去りにして……ろくに会っていないのに……」
「ま、まーましゃま?」
「アウグスティーンのように、笑ってくれないのは仕方ないと……思って……」
「いや、コランティーヌ。君、鉄面皮だからね? 君の方こそ表情ないからね?」

 突っ込みつつマリアンジェラを妻に預け、そのまま妻ごと腕を回した。
 そして耳元で囁く。

「あのね? マリアンジェラはまだ2歳で、おしゃべりもこれからなの。それに今まではほとんど寝て過ごしてたんだよ? 記憶だってあいまい。本当は君だって昨日のうちに戻ってくるつもりだったんだよね? 緊急に入った仕事を必死でこなして、髪を振り乱して飛んで帰ってきた。マリアンジェラもわかってるよ? ね?」
「あーい! まーましゃま、いーこいーこ!」
「……マリアンジェラ!」

 泣きながら抱きしめる。

「もう、弟に全部預けておいた! もう用事はない! ママさまは……ママさまは、これからずっとそばにいるからな!」
「いや、ずっとって……大きくなったら親が鬱陶しくなったり、結婚したりする……」
「鬱陶しいのはアウグスティーンだ! マリアンジェラはいつまでも一緒だ! なんなら嫁に一緒に行く!」
「それウザい……うぎゃぁぁ!」
「黙れ!」

 ゴーン!

凄まじい音が響く。
 きょとんっと上を向くと、父に頭突きをする母の姿……。

「ベタベタするな! セクハラ変態野郎!」
「ひど~! これでも君の旦那で、マリアンジェラの父親ですけど? 僕がいて、この子いるんですけど?」
「2歳児に何を教えるかぁぁ!」

 ギャイギャイ言い合う両親を見つめ、マリアンジェラはキャッキャと笑い声を上げていた。

 これがマリアンジェラの両親なんだ……。

 前世の両親は、辛そうな顔をしていた。
 疲れていた。
 よく顔を見せてくれていたけど、時々悲しそうにため息や顔を背けていた。

 良かった……マリアンジェラは嫌われてないんだ。
 二人とも、あまり会わなかったけれど、忙しかったんだ……。
 前世の両親も同じだったんだ……。
 先に死んでしまった酷い娘だけど……。
 憎まれ口しか叩けない、親不孝ものだったけど……。
 でも、今はここで私は生きていいんだ。

「おちょーしゃま、まーましゃま、らいしゅき!」

 手を伸ばしそう告げると、二人は顔を見合わせ、

「ママさまも」
「お父様も」
「「大好き」よ」

そう声を揃えた。
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