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ラブシチュエーション
大学生と高校生の恋の場合
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歩花は、地方の週刊新聞の切り抜きと、スマホを必死で操作し、地図を見ながら大学の薬学部附属薬用植物園に向かっていた。
歩花は、植物が好きだ。
ハーブが大好きでよくハーブティを飲んでいる。
特に飲むのが多いのが、ミントティ。
冷たいと爽やかで、暖かく飲んでも清涼感がするので、受験勉強やテスト前の眠くなった時に飲んでいる。
他にもカモミールは炎症を静める効果がある。
その為に歯磨き粉に入れられていることが多い。
ローズヒップティは男性には敬遠されるが、少し酸味のある味が好きである。
レモンバームは鎮静作用があり、発汗、消臭作用がある。
ラベンダーは鎮静効果に、快眠を導く。
不眠に悩む人はラベンダーのポプリがいい。
お店で買うとこんなものなのかな?
お店でしかないのかな?育ててみたらどうなのかなぁ?
と思うこともあって、不思議に思っていると、丁度ママが読んでいる週刊新聞に、『薬学部附属薬用植物園の春の公開』と書いてあって、行ってみることにしたのだ。
電車に乗って大学のもよりの駅に行き降りると、そのとたん迷う。
「えっと、西高と梅林小学校、国立大学、え? 大学二つある! それに、向こうには中学校と、今度はまた小学校~?」
地図にはひしめき合う学校の数々に、ポケットの切り抜きを取りだし、
「えっと……地図は今ここを示してて、あぁ、高校が見えてて、じゃぁその向こうが目的の大学なんだ」
地図を指で移動させ、確認すると、歩道をてくてく歩く。
今日はあいにくの曇り空、折り畳みの傘もバッグに納めている。
「晴れててもいいけれど、曇りでも楽しみだなぁ。どんな樹が、草が植えられているんだろう」
考えながら大学の門に到着した。
けれど、薬用植物園等は見当たらず、建物ばかり。
「ここでしてるの?でも、人いないし……」
切り抜きと門を確認するが、戸惑い躊躇っていると、門にいた男の人に声をかけられる。
「おはようございます。どちらにこられてますか?」
「あ、あのっ、あのっ……こ、これ……」
切り抜きを差し出す。
それに目を通したその人は、
「あぁ、ここはね? この道をまっすぐ行くと信号を渡って、左に曲がってから、次の道を右。そのまままっすぐ行くと左手に見えてくるからね?」
「あ、ありがとうございます!」
ペコんっと頭を下げ、歩き出した。
「良かったぁ……親切だなぁ」
嬉しくなってくる。
進学を希望している大学に薬学部があるのを知って、興味をもった。
そして、お母さんの後輩になるおばさんが、
「何回か見に行ったことがあるけど、秋だったら花ではなくて実のついたものとかは多いけど、今の時期だから牡丹は終わりかけてて、他のお花が咲いているかも。それとか葉っぱね」
「ふぅーん……じゃぁ、ハーブとかどうかなぁ?」
「パンフレットを貰えると思うし、きっとパンフレットと一緒に、紙が入っていて、その紙の質問に答えて書き込んでいくのよ。ぐるぐる薬用植物園を見て回れるから、面白いと思うわよ」
「へぇ~」
おばさんも行けたら行くと聞いていたので、会えたらいいなぁと思いつつ、言われた通り横断歩道を渡り、左折、そして十字路を右に折れ歩いていくと左に人が十数人忙しく動き回っている。
「ここかなぁ?」
とことこと近づいていく。
看板を出していた人がいて、
「す、すみません……あの、ここは、大学の薬学部の附属薬用植物園ですか?」
「あ、えぇ。来られたんですか? ようこそ。まだ準備中ですので、こちらに」
「ありがとうございます」
あぁよかった。
歩花はホッとする。
雨が降りそうで、まだ迷っているみたいだ……と空を見上げる。
と、
「ようこそ。初めてですか?」
穏やかそうな長身の男の人が近づいてくる。
眼鏡をかけている知的な人だ。
「は、はい。知り合いのおばさんに聞いて……ハーブが大好きで、ハーブティを飲むんですが育てて見たことはなくて……ここには一杯の薬用植物が見れるって」
「へぇ。そうなんだ」
「はい。それに実は体が弱くて、薬を飲んでいるんですけど、漢方薬ってどうなのかなぁって思っているんです。病院を変えて、漢方薬を使ってもらうとか出来ないのかなぁ……もしできるのなら、受験を考えているので……」
「それは……今度受験なの?」
「は、はい!」
歩花は笑顔になる。
「どこに行こうか悩んでいるんですけど、薬学部か、歴史や日本文学史を学べる文学部のどちらかに……どうしようかなって、思っています」
「見て悩んでみてね」
「はい。よろしくお願いします」
ワクワクと待つ。
遠目に、麦わら帽子を被ったお兄さんお姉さんが確認している。
「あぁ、良いなぁ……一杯植えられてる。何が植えられているのかなぁ……」
キョロキョロと見回す。
四角い薬草園の回りは樹木が植えられていて、真正面は小さいスタッフルームのような建物がある。
手入れの為の道具などがあるのだと思う。
真ん中は花壇だろうか?
右側には温室もあって、どんな樹があるのかとても楽しみになる。
「ウワァ~ウワァ~! どんなのがあるのかなぁ」
「あ、どうぞ。受け付けに行ってください」
「はい!」
薬草園の手前にテントがあり、其処で名前を書くと、
「はい。問題がありますので、解いてみてくださいね?」
「あ、はい。ありがとうございます!」
クリアファイルとペンを受け取り入っていった。
クリアファイルの中には、パンフレットと薬草クイズと言うものと、アンケートがあった。
まずは、薬草クイズをと思うと、
『Q5』と書かれている。
『初夏に紫色の花穂をつけ、夏には枯れてしまう事にちなんで「夏枯草」とも呼ばれている植物は?』
「『Q5』……ここかなぁ」
クイズの下に地図とクイズ番号に○がついている。
向かった前には、見たことのない花。
「ウムム?わからないよ?ハーブってことは、何だろう……」
花をじっくり見ていると、お姉さんが、
「違いますよ。それはつぼみで、花はこれです。これはウツボグサって言うんですよ」
「ウツボグサ……知りませんでした」
「シソ科の植物で、打撲、止血、利尿作用に効果があります」
「へぇ~すごいんですねぇ」
答えと豆知識を書き込みながら言うと、
「私もそんなに詳しくなくて……」
「でも、すごいです。わぁ、ありがとうございました」
頭を下げ、次に向かう。
『Q10』である。
『インド、タイなど熱帯アジア原産で、蛇や毒虫に噛まれたときや解熱に使われていた植物は?』
「植物の前の看板は、ここだ……わからないよ……普通の木だもん。これはパイナップルだけど……」
パイナップルの木を見つけて呟く。
パイナップルの木は、昔父さんが、パイナップルを買ってくると上側の葉っぱをそのまま土に植えて、6年位すると、実が成った。
上側の葉っぱを植えるだけ、でもものすごく収穫までが時間がかかる……観葉植物にはもってこいかもしれない。
でも、ウンウンと悩んでいると、
「それはインドジャボクと言います。漢字では『印度蛇木』。レセルピン、アジマリンが含まれていて、血圧降下の作用があります」
「はぁぁ……凄いですねぇ。こんなに一杯植えられていてあ、ミラクルフルーツノキ? ミラクルフルーツって、ものすごく栄養素があるんですか?」
「あ、数年前まであったのですが、試食会していまして」
「へぇぇ……どんな?」
「ミラクルフルーツと言うのは、食べたあと、レモンを食べても酸っぱくない。味覚を変えるんです」
「はぁ……」
ガッカリした。
万能果実で、食べたら満腹感を得て、その上栄養素も摂れるなら最高なのに。
その後は、『Q28』『ヤマアジサイの甘味の強い変種であり、4月8日のお釈迦様の誕生日『灌仏会』に用いられる植物は?』
「アマチャ! でも、ガクアジサイだよ。可愛い~!」
と喜んでいると、最初に出入り口であった男の人が歩いてきていた。
「あ、先程はありがとうございました」
「イエイエ。すごく元気だなあって、雨が降ってるよ?」
言われると、雨が降っているのをようやく気がつく。
「あ、降ってますね。見てると嬉しくなって、忘れちゃいました」
エヘヘと照れ笑いつつ、折り畳み傘を広げた。
「もう全部解けたの?」
「いえ、3問目の『Q14』はクララだって分からなくて、『Q19』は葛根湯に使われるって書かれていたので『葛』かなぁと思ったのですが、蔓じゃなくて、小青竜湯にも用いられるって教えていただいたのですが、『シナマオウ』と言うのは知りませんでした。『Q24』は百日紅。漢字で分かりました」
「へぇ、漢字で解るって賢いね。その後は……」
クイズの紙を覗いてくる。
「うわー、書き込みすごいね。ここまで調べてどうするの?」
「えっ?あ……えっと、小説を書いていて……ネタに使います。多分、次の問題からは、全部わかります」
「そうなの?」
「はい。『Q33』は『トリカブト』です。『附子』って書いているので、毒ですよね。『Q37』は『ナンテン』。『難を転ずる』で、『南天』とも書きます。『Q42』は別名『スペアミント』なので、『ハッカ』の……えっと、ハッカの亜種です。『Q48』は多分『ざくろ』です。西アジア、ヒマラヤ原産で、赤い実が成って美肌効果に、ジュースなどを売り出しているって……違いますか?」
見上げる。
「すごいね……『Q42』は、ミドリハッカだよ?シソ科」
「ミドリハッカ……はっ! 書いとかないと」
「後は……」
丁寧に説明してくれる。
「へぇ……『トリカブト』ってキンポウゲ科だったんですか!」
「そうそう。高圧で過熱処理すると、毒が薬に変化してね?」
「へぇぇ~!」
感動する歩花に、
「はい、クイズ全問正解。百点満点」
「えぇ? 違いますよ~! 当たってなかったです。最初も」
「あぁ、これは僕たちが作ったブレンドティなんだけど、飲む?」
「はい」
飲ませてもらうと、カモミールが強いが何かの味がする。
不快感はないが、敬遠していたあれか?
「あの……カモミールの匂いと味、強いですけど……もしかしてシナモン入ってませんか?」
「良く分かったね」
「シナモン……苦手なんですが……今回はとても飲みやすかったです」
「じゃぁ、こっちは?」
口に入れ、喉ごしを味を確認するが、
「味がしっかりしてます。強いです。でも後味がいいです」
「味覚もしっかりしているね」
「ハーブティは大好きです」
エヘヘと笑う。
「君は?俺は高城湊斗1年生」
「あ、私は、東高校の葛城歩花です。えっ? お兄さん、一年生なんですか? 詳しいのに?」
「いや、君の方こそ。そうだ、あっちが受付。アンケートを渡す所。こっちのテントで書いていくといいよ」
「あ、はい」
書き込んでいると、横で、何かを書いている。
へ?
キョロキョロと湊斗を見ると、小声で、
「携帯番号とメール。こんなところで交換できないから……」
「ほえぇぇ!」
「しー!」
スルッとクリアファイルに滑り込ませる。
「よろしくね?」
ウインクされ、そのまま出口に案内され、
「先輩~! アンケートです~!」
「あぁ、どうでしたか?」
「あ、楽しかったです! ありがとうございました」
「じゃぁ、ハーブの苗か、ハーブの冊子とかしおり、どれがいいですか?」
歩花は、
「苗って育ちますか?」
「育つよ? 時々肥料を与えて、水を与えて、プランターで育てるとすぐに増えるよ」
「そうなんですね。じゃぁ苗を……」
「では、レモンバームがいいかな? ハーブティになるよ」
袋に入れてもらい、育て方のメモをもらう。
そして、
「お家に飾ってください。『ローズマリー』です。観賞用です」
と手渡された袋も受けとる。
「ありがとうございます。大事にします」
湊斗は、出入り口まで送ると、手を振る。
「また、ね?」
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
歩花は頭を下げると、大事にクリアファイルを仕舞いながら、そして、湊斗のメッセージを見て狼狽えている。
「なんか、可愛いって思ったんだよなぁ……」
背中を見送りつつ呟く。
クルクルと表情が変わり、考えている顔も、当たっていて喜ぶ表情も……。
「……電話……来るかな?」
呟き、道の向こうに消えた姿を見送って戻ろうとしたときに、スマホが鳴った。
知らない番号……もしかして……。
慌てて電話をとると、
『あの……案内してくださってありがとうございます。葛城歩花です。お忙しいと思いますが、頑張ってください』
「あ、ありがとう」
『あの、ま、また、色々教えてください。じゃ、じゃぁ……お忙しいと思いますので、失礼します』
「……ありがとう。またね?」
電話は切れ、でもほのかに温もりが残るスマホを握り締め、呼んでいる先輩のもとに歩いていったのだった。
歩花は、植物が好きだ。
ハーブが大好きでよくハーブティを飲んでいる。
特に飲むのが多いのが、ミントティ。
冷たいと爽やかで、暖かく飲んでも清涼感がするので、受験勉強やテスト前の眠くなった時に飲んでいる。
他にもカモミールは炎症を静める効果がある。
その為に歯磨き粉に入れられていることが多い。
ローズヒップティは男性には敬遠されるが、少し酸味のある味が好きである。
レモンバームは鎮静作用があり、発汗、消臭作用がある。
ラベンダーは鎮静効果に、快眠を導く。
不眠に悩む人はラベンダーのポプリがいい。
お店で買うとこんなものなのかな?
お店でしかないのかな?育ててみたらどうなのかなぁ?
と思うこともあって、不思議に思っていると、丁度ママが読んでいる週刊新聞に、『薬学部附属薬用植物園の春の公開』と書いてあって、行ってみることにしたのだ。
電車に乗って大学のもよりの駅に行き降りると、そのとたん迷う。
「えっと、西高と梅林小学校、国立大学、え? 大学二つある! それに、向こうには中学校と、今度はまた小学校~?」
地図にはひしめき合う学校の数々に、ポケットの切り抜きを取りだし、
「えっと……地図は今ここを示してて、あぁ、高校が見えてて、じゃぁその向こうが目的の大学なんだ」
地図を指で移動させ、確認すると、歩道をてくてく歩く。
今日はあいにくの曇り空、折り畳みの傘もバッグに納めている。
「晴れててもいいけれど、曇りでも楽しみだなぁ。どんな樹が、草が植えられているんだろう」
考えながら大学の門に到着した。
けれど、薬用植物園等は見当たらず、建物ばかり。
「ここでしてるの?でも、人いないし……」
切り抜きと門を確認するが、戸惑い躊躇っていると、門にいた男の人に声をかけられる。
「おはようございます。どちらにこられてますか?」
「あ、あのっ、あのっ……こ、これ……」
切り抜きを差し出す。
それに目を通したその人は、
「あぁ、ここはね? この道をまっすぐ行くと信号を渡って、左に曲がってから、次の道を右。そのまままっすぐ行くと左手に見えてくるからね?」
「あ、ありがとうございます!」
ペコんっと頭を下げ、歩き出した。
「良かったぁ……親切だなぁ」
嬉しくなってくる。
進学を希望している大学に薬学部があるのを知って、興味をもった。
そして、お母さんの後輩になるおばさんが、
「何回か見に行ったことがあるけど、秋だったら花ではなくて実のついたものとかは多いけど、今の時期だから牡丹は終わりかけてて、他のお花が咲いているかも。それとか葉っぱね」
「ふぅーん……じゃぁ、ハーブとかどうかなぁ?」
「パンフレットを貰えると思うし、きっとパンフレットと一緒に、紙が入っていて、その紙の質問に答えて書き込んでいくのよ。ぐるぐる薬用植物園を見て回れるから、面白いと思うわよ」
「へぇ~」
おばさんも行けたら行くと聞いていたので、会えたらいいなぁと思いつつ、言われた通り横断歩道を渡り、左折、そして十字路を右に折れ歩いていくと左に人が十数人忙しく動き回っている。
「ここかなぁ?」
とことこと近づいていく。
看板を出していた人がいて、
「す、すみません……あの、ここは、大学の薬学部の附属薬用植物園ですか?」
「あ、えぇ。来られたんですか? ようこそ。まだ準備中ですので、こちらに」
「ありがとうございます」
あぁよかった。
歩花はホッとする。
雨が降りそうで、まだ迷っているみたいだ……と空を見上げる。
と、
「ようこそ。初めてですか?」
穏やかそうな長身の男の人が近づいてくる。
眼鏡をかけている知的な人だ。
「は、はい。知り合いのおばさんに聞いて……ハーブが大好きで、ハーブティを飲むんですが育てて見たことはなくて……ここには一杯の薬用植物が見れるって」
「へぇ。そうなんだ」
「はい。それに実は体が弱くて、薬を飲んでいるんですけど、漢方薬ってどうなのかなぁって思っているんです。病院を変えて、漢方薬を使ってもらうとか出来ないのかなぁ……もしできるのなら、受験を考えているので……」
「それは……今度受験なの?」
「は、はい!」
歩花は笑顔になる。
「どこに行こうか悩んでいるんですけど、薬学部か、歴史や日本文学史を学べる文学部のどちらかに……どうしようかなって、思っています」
「見て悩んでみてね」
「はい。よろしくお願いします」
ワクワクと待つ。
遠目に、麦わら帽子を被ったお兄さんお姉さんが確認している。
「あぁ、良いなぁ……一杯植えられてる。何が植えられているのかなぁ……」
キョロキョロと見回す。
四角い薬草園の回りは樹木が植えられていて、真正面は小さいスタッフルームのような建物がある。
手入れの為の道具などがあるのだと思う。
真ん中は花壇だろうか?
右側には温室もあって、どんな樹があるのかとても楽しみになる。
「ウワァ~ウワァ~! どんなのがあるのかなぁ」
「あ、どうぞ。受け付けに行ってください」
「はい!」
薬草園の手前にテントがあり、其処で名前を書くと、
「はい。問題がありますので、解いてみてくださいね?」
「あ、はい。ありがとうございます!」
クリアファイルとペンを受け取り入っていった。
クリアファイルの中には、パンフレットと薬草クイズと言うものと、アンケートがあった。
まずは、薬草クイズをと思うと、
『Q5』と書かれている。
『初夏に紫色の花穂をつけ、夏には枯れてしまう事にちなんで「夏枯草」とも呼ばれている植物は?』
「『Q5』……ここかなぁ」
クイズの下に地図とクイズ番号に○がついている。
向かった前には、見たことのない花。
「ウムム?わからないよ?ハーブってことは、何だろう……」
花をじっくり見ていると、お姉さんが、
「違いますよ。それはつぼみで、花はこれです。これはウツボグサって言うんですよ」
「ウツボグサ……知りませんでした」
「シソ科の植物で、打撲、止血、利尿作用に効果があります」
「へぇ~すごいんですねぇ」
答えと豆知識を書き込みながら言うと、
「私もそんなに詳しくなくて……」
「でも、すごいです。わぁ、ありがとうございました」
頭を下げ、次に向かう。
『Q10』である。
『インド、タイなど熱帯アジア原産で、蛇や毒虫に噛まれたときや解熱に使われていた植物は?』
「植物の前の看板は、ここだ……わからないよ……普通の木だもん。これはパイナップルだけど……」
パイナップルの木を見つけて呟く。
パイナップルの木は、昔父さんが、パイナップルを買ってくると上側の葉っぱをそのまま土に植えて、6年位すると、実が成った。
上側の葉っぱを植えるだけ、でもものすごく収穫までが時間がかかる……観葉植物にはもってこいかもしれない。
でも、ウンウンと悩んでいると、
「それはインドジャボクと言います。漢字では『印度蛇木』。レセルピン、アジマリンが含まれていて、血圧降下の作用があります」
「はぁぁ……凄いですねぇ。こんなに一杯植えられていてあ、ミラクルフルーツノキ? ミラクルフルーツって、ものすごく栄養素があるんですか?」
「あ、数年前まであったのですが、試食会していまして」
「へぇぇ……どんな?」
「ミラクルフルーツと言うのは、食べたあと、レモンを食べても酸っぱくない。味覚を変えるんです」
「はぁ……」
ガッカリした。
万能果実で、食べたら満腹感を得て、その上栄養素も摂れるなら最高なのに。
その後は、『Q28』『ヤマアジサイの甘味の強い変種であり、4月8日のお釈迦様の誕生日『灌仏会』に用いられる植物は?』
「アマチャ! でも、ガクアジサイだよ。可愛い~!」
と喜んでいると、最初に出入り口であった男の人が歩いてきていた。
「あ、先程はありがとうございました」
「イエイエ。すごく元気だなあって、雨が降ってるよ?」
言われると、雨が降っているのをようやく気がつく。
「あ、降ってますね。見てると嬉しくなって、忘れちゃいました」
エヘヘと照れ笑いつつ、折り畳み傘を広げた。
「もう全部解けたの?」
「いえ、3問目の『Q14』はクララだって分からなくて、『Q19』は葛根湯に使われるって書かれていたので『葛』かなぁと思ったのですが、蔓じゃなくて、小青竜湯にも用いられるって教えていただいたのですが、『シナマオウ』と言うのは知りませんでした。『Q24』は百日紅。漢字で分かりました」
「へぇ、漢字で解るって賢いね。その後は……」
クイズの紙を覗いてくる。
「うわー、書き込みすごいね。ここまで調べてどうするの?」
「えっ?あ……えっと、小説を書いていて……ネタに使います。多分、次の問題からは、全部わかります」
「そうなの?」
「はい。『Q33』は『トリカブト』です。『附子』って書いているので、毒ですよね。『Q37』は『ナンテン』。『難を転ずる』で、『南天』とも書きます。『Q42』は別名『スペアミント』なので、『ハッカ』の……えっと、ハッカの亜種です。『Q48』は多分『ざくろ』です。西アジア、ヒマラヤ原産で、赤い実が成って美肌効果に、ジュースなどを売り出しているって……違いますか?」
見上げる。
「すごいね……『Q42』は、ミドリハッカだよ?シソ科」
「ミドリハッカ……はっ! 書いとかないと」
「後は……」
丁寧に説明してくれる。
「へぇ……『トリカブト』ってキンポウゲ科だったんですか!」
「そうそう。高圧で過熱処理すると、毒が薬に変化してね?」
「へぇぇ~!」
感動する歩花に、
「はい、クイズ全問正解。百点満点」
「えぇ? 違いますよ~! 当たってなかったです。最初も」
「あぁ、これは僕たちが作ったブレンドティなんだけど、飲む?」
「はい」
飲ませてもらうと、カモミールが強いが何かの味がする。
不快感はないが、敬遠していたあれか?
「あの……カモミールの匂いと味、強いですけど……もしかしてシナモン入ってませんか?」
「良く分かったね」
「シナモン……苦手なんですが……今回はとても飲みやすかったです」
「じゃぁ、こっちは?」
口に入れ、喉ごしを味を確認するが、
「味がしっかりしてます。強いです。でも後味がいいです」
「味覚もしっかりしているね」
「ハーブティは大好きです」
エヘヘと笑う。
「君は?俺は高城湊斗1年生」
「あ、私は、東高校の葛城歩花です。えっ? お兄さん、一年生なんですか? 詳しいのに?」
「いや、君の方こそ。そうだ、あっちが受付。アンケートを渡す所。こっちのテントで書いていくといいよ」
「あ、はい」
書き込んでいると、横で、何かを書いている。
へ?
キョロキョロと湊斗を見ると、小声で、
「携帯番号とメール。こんなところで交換できないから……」
「ほえぇぇ!」
「しー!」
スルッとクリアファイルに滑り込ませる。
「よろしくね?」
ウインクされ、そのまま出口に案内され、
「先輩~! アンケートです~!」
「あぁ、どうでしたか?」
「あ、楽しかったです! ありがとうございました」
「じゃぁ、ハーブの苗か、ハーブの冊子とかしおり、どれがいいですか?」
歩花は、
「苗って育ちますか?」
「育つよ? 時々肥料を与えて、水を与えて、プランターで育てるとすぐに増えるよ」
「そうなんですね。じゃぁ苗を……」
「では、レモンバームがいいかな? ハーブティになるよ」
袋に入れてもらい、育て方のメモをもらう。
そして、
「お家に飾ってください。『ローズマリー』です。観賞用です」
と手渡された袋も受けとる。
「ありがとうございます。大事にします」
湊斗は、出入り口まで送ると、手を振る。
「また、ね?」
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
歩花は頭を下げると、大事にクリアファイルを仕舞いながら、そして、湊斗のメッセージを見て狼狽えている。
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「……電話……来るかな?」
呟き、道の向こうに消えた姿を見送って戻ろうとしたときに、スマホが鳴った。
知らない番号……もしかして……。
慌てて電話をとると、
『あの……案内してくださってありがとうございます。葛城歩花です。お忙しいと思いますが、頑張ってください』
「あ、ありがとう」
『あの、ま、また、色々教えてください。じゃ、じゃぁ……お忙しいと思いますので、失礼します』
「……ありがとう。またね?」
電話は切れ、でもほのかに温もりが残るスマホを握り締め、呼んでいる先輩のもとに歩いていったのだった。
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