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どういうことだ!
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その日のうちに、王都で愛人とイチャイチャと過ごしていたウィンゼニア伯爵の元に、本邸からの使いがやってくる。
しかし、普段の紋章付きの馬車ではなく、賃馬車だったためしばらく玄関に放置され、馬車の御者は、
「おいおいおい! 俺は仕事なんだぞ? 割増もらわないと割にあわねぇな!」
と文句を言う。
使いの者である侍従は伯爵にもらえるからと宥めすかし、一時間ほど待たされる。
そしてようやく、王都の別邸から執事でもない男が出てくる。
王都別邸には元々先代ウィンゼニア伯爵の信任した家令がいたのだが、あまりにも現伯爵の素行が悪く、注意をしたところ、辞めさせられ、現在は執事もいない。
家はまとまりもなく、好き勝手しており、護衛も夜に寝ているという有様である。
この男も寝ていたのか髪はボサボサ、服も整えられておらず、文句ばかりである。
「なんだよ、こんな時間に!」
「その言い草はなんだ!」
こちらも、休憩なく馬車を走らせ、一時間待たされた侍従は食ってかかる。
この侍従は、実は数年中に代替わりする執事の側で補佐を務める者で、現在はシェイルリーンの采配の補佐もしている。
「急の使いだと言っただろう! 伯爵は! どこにいる?」
「はぁぁ? そんなの、奥様と寝てるに決まってるだろうが」
「奥様は、領地の本邸にいらっしゃるだろう!」
「はっ! 旦那様は、あんな年増とは早いうちに離婚するだとさ。領地からの使者は受け付けねぇよ。帰れ」
「そんなこと言っていいのか? 伯爵に今すぐ伝えろ! 伯爵の愛息のナタニエル様が、勝手にヴェンナード家との婚約破棄を申し出た! あの、ヴェンナード家とアルテミス商会を怒らせ、明日以降、今までの立替金を一括返済しろとのことだ! 今すぐ一言一句違えずに伝えろ! 30分だけ待ってやる!」
けっ!
舌打ちしながら屋敷に戻って行った男だが、20分しないうちに、青ざめ、ガタガタと震えながら駆け寄ってきた。
「も、申し訳ありません! だ、旦那様がお待ちです!」
「遅いわ! 若造が! その格好はなんだ! 同僚とはいえ、そんな姿で出てくるな!」
「す、すんません」
「申し訳ございません、だ! この別邸では、全く教育がなっていないのだな! おい、今すぐ、この馬車の御者に賃金を払うんだ! お前が一時間半も待たせたんだ。お前が彼の要求金額を払うように!」
いい置いて、中に入っていく。
「おい、にーちゃん。よくもこんな夜まで待たせてくれたな! 門がもう閉まったじゃねえか! 明日の朝まで拘束されてんだから、2日分もらうからな! それに、厩貸せよ。ここで夜を過ごすから! 水と餌と、藁はそっちもちだぞ!」
「な、なんでだよ!」
「馬は疲れてんだよ! お前だって飯を食うし、水も飲むし、ベッドで寝るだろ! 馬も俺も休ませろや! 案内しろよ!」
いい加減待たされて疲れていた御者が怒鳴りつける。
「本当に、馬のブラシとか手入れ道具持ってきててよかったぜ! あ、俺の飯も頼むぞ。それと明日、賃金を一括で渡さなかったら居座ってやるか、簡易裁判所に訴えるからな!」
馬車を勝手に門の中に移動させつつ、しっかり、お金も請求するのを忘れないちゃっかりものの御者だった。
中に入っていった侍従は、扉を開ける護衛を押し除け、執務室にガウン姿で立っている伯爵を睨み付ける。
「大変なお話をと思っておりましたのに、これほど待たされるとは思いませんでしたよ」
「黙れ! こんな時間にやってくるお前が悪いんだ。ただの男爵家の次男坊のくせに。主人の伯爵に向かって、そんな口を聞いていいのか?」
「貧乏男爵の三男坊がふざけたことをほざく」
「何を! わしはウィンゼニア伯爵だ!」
「婿養子のくせに好き勝手をする……ただの居候ではないか! 喜べ! お前の息子がヴェンナード子爵家を敵に回したぞ? 愛人と金を使い、婚約破棄を言い渡したのだそうだ。明日にも違約金と、今までアルテミス商会で使い果たした金を一括返済を要求されている」
その言葉に、目を見開いた。
「クリスがか? あいつは俺の血を引いているにしては、愚か者だ!」
「はっ! クリス様は、居候のあんたに似ていないから出来が良いのですよ。貴様の息子はナタニエルって言うんじゃないのか? 父親に似て色を好み、自分で得た金でないのに使いまわり、屋敷に仕えるものを虐げる。ヴェンナード家を自分より下に見下し、暴言を吐いたそうだが?」
「あいつに……領地のあの女に、金を用意してもらわないと!」
青い顔で玄関に向かおうとするウィンゼニア伯爵の背に、
「そんな金、どこにあるっていうんです? あんたはここにいる愛人以外に、3人も愛人を別宅に住まわせ、贅沢三昧。それに、あんたの乗り回している馬車はヴェンナード家から借りてるじゃないか。仕事もろくにしてないくせに、金を取りに行くときだけ領地に戻る。領民も本邸の使用人も、あんたをなんてよんでるか知ってるか? クレクレ虫、金食い虫だ」
「お、お前! わしを誰だと……」
「ビョーン男爵家の役立たず! 早く実家に帰るんだな!」
「貴様!」
「今はウィンゼニア伯爵を名乗っているとはいえ、出仕もしない、領地を見ることもない人間を、何と呼べと? 元々私が、シェイルリーン様の婚約者だったのを奪った上に、働けと命じたのはお前じゃないか?」
せせら笑う。
「結婚した途端、愛人とここにこもって何もせず、全てシェイルリーン様に押し付けて、よく言えたものだ!」
「負け犬が!」
「はっ! 自分の分身のようなクズの種を撒き散らすだけで、何もできない男の方こそ負け犬だろうが! 実家に泣きつきに行くんだな!」
「出て行け!」
「ここは、ウィンゼニア伯爵家。シェイルリーン様に、これを預かっているとも」
胸元から鍵を出して見せる。
ウィンゼニア伯爵は目を見開く。
「そ、それは、代々の当主の執務室と寝室の鍵! わしのだ!」
「お渡しできません。クリス様にお渡しする前に、確認をしてほしいと。偽者の伯爵に荒らされていないかどうか……掃除の許可もいただきましたが、鍵は必ず持って帰るようにと。では」
掴みかかろうとするクズ男をヒョイっと避けて勝手知ったる屋敷を進んでいったのだった。
しかし、普段の紋章付きの馬車ではなく、賃馬車だったためしばらく玄関に放置され、馬車の御者は、
「おいおいおい! 俺は仕事なんだぞ? 割増もらわないと割にあわねぇな!」
と文句を言う。
使いの者である侍従は伯爵にもらえるからと宥めすかし、一時間ほど待たされる。
そしてようやく、王都の別邸から執事でもない男が出てくる。
王都別邸には元々先代ウィンゼニア伯爵の信任した家令がいたのだが、あまりにも現伯爵の素行が悪く、注意をしたところ、辞めさせられ、現在は執事もいない。
家はまとまりもなく、好き勝手しており、護衛も夜に寝ているという有様である。
この男も寝ていたのか髪はボサボサ、服も整えられておらず、文句ばかりである。
「なんだよ、こんな時間に!」
「その言い草はなんだ!」
こちらも、休憩なく馬車を走らせ、一時間待たされた侍従は食ってかかる。
この侍従は、実は数年中に代替わりする執事の側で補佐を務める者で、現在はシェイルリーンの采配の補佐もしている。
「急の使いだと言っただろう! 伯爵は! どこにいる?」
「はぁぁ? そんなの、奥様と寝てるに決まってるだろうが」
「奥様は、領地の本邸にいらっしゃるだろう!」
「はっ! 旦那様は、あんな年増とは早いうちに離婚するだとさ。領地からの使者は受け付けねぇよ。帰れ」
「そんなこと言っていいのか? 伯爵に今すぐ伝えろ! 伯爵の愛息のナタニエル様が、勝手にヴェンナード家との婚約破棄を申し出た! あの、ヴェンナード家とアルテミス商会を怒らせ、明日以降、今までの立替金を一括返済しろとのことだ! 今すぐ一言一句違えずに伝えろ! 30分だけ待ってやる!」
けっ!
舌打ちしながら屋敷に戻って行った男だが、20分しないうちに、青ざめ、ガタガタと震えながら駆け寄ってきた。
「も、申し訳ありません! だ、旦那様がお待ちです!」
「遅いわ! 若造が! その格好はなんだ! 同僚とはいえ、そんな姿で出てくるな!」
「す、すんません」
「申し訳ございません、だ! この別邸では、全く教育がなっていないのだな! おい、今すぐ、この馬車の御者に賃金を払うんだ! お前が一時間半も待たせたんだ。お前が彼の要求金額を払うように!」
いい置いて、中に入っていく。
「おい、にーちゃん。よくもこんな夜まで待たせてくれたな! 門がもう閉まったじゃねえか! 明日の朝まで拘束されてんだから、2日分もらうからな! それに、厩貸せよ。ここで夜を過ごすから! 水と餌と、藁はそっちもちだぞ!」
「な、なんでだよ!」
「馬は疲れてんだよ! お前だって飯を食うし、水も飲むし、ベッドで寝るだろ! 馬も俺も休ませろや! 案内しろよ!」
いい加減待たされて疲れていた御者が怒鳴りつける。
「本当に、馬のブラシとか手入れ道具持ってきててよかったぜ! あ、俺の飯も頼むぞ。それと明日、賃金を一括で渡さなかったら居座ってやるか、簡易裁判所に訴えるからな!」
馬車を勝手に門の中に移動させつつ、しっかり、お金も請求するのを忘れないちゃっかりものの御者だった。
中に入っていった侍従は、扉を開ける護衛を押し除け、執務室にガウン姿で立っている伯爵を睨み付ける。
「大変なお話をと思っておりましたのに、これほど待たされるとは思いませんでしたよ」
「黙れ! こんな時間にやってくるお前が悪いんだ。ただの男爵家の次男坊のくせに。主人の伯爵に向かって、そんな口を聞いていいのか?」
「貧乏男爵の三男坊がふざけたことをほざく」
「何を! わしはウィンゼニア伯爵だ!」
「婿養子のくせに好き勝手をする……ただの居候ではないか! 喜べ! お前の息子がヴェンナード子爵家を敵に回したぞ? 愛人と金を使い、婚約破棄を言い渡したのだそうだ。明日にも違約金と、今までアルテミス商会で使い果たした金を一括返済を要求されている」
その言葉に、目を見開いた。
「クリスがか? あいつは俺の血を引いているにしては、愚か者だ!」
「はっ! クリス様は、居候のあんたに似ていないから出来が良いのですよ。貴様の息子はナタニエルって言うんじゃないのか? 父親に似て色を好み、自分で得た金でないのに使いまわり、屋敷に仕えるものを虐げる。ヴェンナード家を自分より下に見下し、暴言を吐いたそうだが?」
「あいつに……領地のあの女に、金を用意してもらわないと!」
青い顔で玄関に向かおうとするウィンゼニア伯爵の背に、
「そんな金、どこにあるっていうんです? あんたはここにいる愛人以外に、3人も愛人を別宅に住まわせ、贅沢三昧。それに、あんたの乗り回している馬車はヴェンナード家から借りてるじゃないか。仕事もろくにしてないくせに、金を取りに行くときだけ領地に戻る。領民も本邸の使用人も、あんたをなんてよんでるか知ってるか? クレクレ虫、金食い虫だ」
「お、お前! わしを誰だと……」
「ビョーン男爵家の役立たず! 早く実家に帰るんだな!」
「貴様!」
「今はウィンゼニア伯爵を名乗っているとはいえ、出仕もしない、領地を見ることもない人間を、何と呼べと? 元々私が、シェイルリーン様の婚約者だったのを奪った上に、働けと命じたのはお前じゃないか?」
せせら笑う。
「結婚した途端、愛人とここにこもって何もせず、全てシェイルリーン様に押し付けて、よく言えたものだ!」
「負け犬が!」
「はっ! 自分の分身のようなクズの種を撒き散らすだけで、何もできない男の方こそ負け犬だろうが! 実家に泣きつきに行くんだな!」
「出て行け!」
「ここは、ウィンゼニア伯爵家。シェイルリーン様に、これを預かっているとも」
胸元から鍵を出して見せる。
ウィンゼニア伯爵は目を見開く。
「そ、それは、代々の当主の執務室と寝室の鍵! わしのだ!」
「お渡しできません。クリス様にお渡しする前に、確認をしてほしいと。偽者の伯爵に荒らされていないかどうか……掃除の許可もいただきましたが、鍵は必ず持って帰るようにと。では」
掴みかかろうとするクズ男をヒョイっと避けて勝手知ったる屋敷を進んでいったのだった。
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