生まれ変わったら幸せになりたいと願った不運な女は、何故か猫の王子様のペットになっていた。

刹那玻璃

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第一章

ルーチェの成長と、アルカンジェロの側近

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 ルーチェは毎日定期的にミルクを飲ませて貰い、綺麗に体を拭いて貰って、少しずつではあるがスクスク成長していた。



 ある時、アルカンジェロが、

「伯母上が下さったんだけど、どうかなぁ……ルーチェに重くないかなぁ?」

と付けたのは、フリルとレースを存分に使ったリボンのように結ぶ、可愛らしいが精巧な魔法を駆使した首輪。
 主人のアルカンジェロの瞳の色と同じ青い首輪である。



 アダルジーザはその苛烈な性格と国王としての執政、決断の速さに『朱炎の女帝』とも呼ばれるが、本当は可愛い物好きで、姪達や妹達をこれでもかと着飾るのが大好きである。



 初めての甥のアルカンジェロは弟や自分に似ておらず、とても可愛かったので、容赦なくその餌食となり、激怒した弟に、

「もう姉上には、うちの子を会わせません!」

と怒られ、何度も謝って許して貰ったのもいい思い出である。



 しかし時々、アルカンジェロに女装ではないが、可愛いデザインの服を着せてみたり、髪を結わせると称して、手作りの敵探知器プラス反撃の装飾具や、盗聴録音機を作っては甥の身につけさせている。



 下の二人はまだ貴族達の前に出していないので大丈夫だが、生まれた時より偏屈な予言者プーカに気に入られ、虹の女神の加護を持ち、7歳にして飛び級をしてすでに猫妖精族のトップレベルの魔法を駆使し、剣術も頼りない黒紫大公よりも信頼され、父と共に会議に出席するアルカンジェロを守るには、信頼できる者、道具が幾つあっても足りない。
 今回のルーチェの首輪にも、幾つもの魔法が組み込まれている。
 もう二度と怪我をさせたり、連れ去られては大変だからである。

 まぁ、ルーチェはまだ歩けないし、ウゴウゴと動くか、アルカンジェロ家族に抱っこされて移動するしかない。
 しかし、調整しつつ首が苦しくないか、何度も確認している。

「大丈夫? ルーチェ。苦しくない?」

 アルカンジェロをまだはっきり見えない目で見つめていたルーチェは、コテッと首を傾げる。

「あぁぁ! ルーチェが僕の言葉に反応した!」
「どうしたの?」

 家族の団欒の場所、居間にもルーチェ用にアルカンジェロのソファの隣にクッションと毛布が置かれており、普段はアルカンジェロと共に自室にいるが、アルカンジェロが外出しているか、家族と過ごす時は、ここに連れてこられていた。

「ルーチェ? ルーチェ。お名前分かる? 僕がアルカンジェロだよ?」

 じーっと顔を覗き込むアルカンジェロに、手足をウゴウゴ動かして見せる。

「僕のこと分かるんだ! ルーチェ、お利口だね~?」
「えぇぇ? いいなぁ、いいなぁ! ルーチェ、エラルドだよ~」

 ぽふん……

尻尾が揺れる。

「あぁぁ! 本当だ! ルーチェ、しゅごいよ!」
「どうしたの?」

 近づいてきたのは、母のアンナマリアと、そのスカートにしがみついているフルヴィア。
 持っているのはルーチェ用の哺乳瓶である。

「ルーチェ? そろそろお腹が空いたでしょう? ミルクですよ?」

 その声に、耳をピクピクさせると、

 パタパタ……

尻尾はブンブン振られ、嬉しいのか必死に這いずり近づくルーチェに、二人は愕然とする。

「お母様に負けた……」
「ルーチェ、僕にふったんじゃにゃいの?」

 ルーチェを抱き上げるアンナマリアは、優しくあやしミルクを与えながら、

「フフフフ……大丈夫よ。ルーチェは賢いから皆の声を聞き分けているわ。でも、まだ赤ちゃんで、食べたものはすぐに出てしまうから、すぐにお腹が空いちゃうのよ。だから、許してあげて」
「あ~、おててで哺乳瓶押してる。何で?」
「これも赤ちゃんの動作よ。お母さんに育てられている時にもミルクを飲むでしょう? その時に、お母さんに『お腹が空いてるの、お乳を出して』って合図を送るの」

 んくんくんく……

必死にミルクを飲む様子に、双子はニコニコ笑う。

「アルカンジェロ様。こちらを」

 毛布と、ルーチェのトイレを持って来ていたのは、伯母から直々にアルカンジェロ付きとなったウリッセである。



 彼は、大公家には劣るが黄緑公爵家の三男坊で、跡を継ぐのは長兄だからと早くに家を出て、親から貰っていたお金を元手に商売をしていた。
 それは簡単にうまく行くようなものではないが、冒険者ギルドと対立しない程度の、冒険者が持ち帰った品を彼が神様から与えられたギフトの鑑定を使い、ランク分けし、買い取り、そして加工して、商人ギルドに売るか、もしくは自分の店で売ることにしていた。

 するとある時、冒険者風だが、冒険者らしいがめつさや一ギルでも多くと大声で怒鳴るようなことはなく、野暮ったいメガネと地味に見えるが超高級の付加魔法をつけまくった装飾品にマント、服は可愛いワンピースでやってきた少女が、

「ねぇ? ギルド同士を仲介する鑑定士さん。悪いのだけど、これを鑑定して貰えないかしら? お金はちゃんと払うわ。お願いします」

と丁寧に頭を下げたのだが、ウリッセは、見えてしまった彼女の正体の書かれた鑑定表……彼は人間でも、そこらにある石もすぐ鑑定する能力がある……に硬直した。

「じょ、女王陛下……」
「内緒よ内緒。それより、お願いします。可愛い甥をバカ夫が殺そうとしてるの。これが呪術具。これをどうにか壊したいの。貴方に危険が及ばないようにするわ! 可愛い甥なの……私はあの夫との間に子供が欲しくないから、弟妹の子供達が私の子供。お願いします。どうか、甥を……」

 涙を浮かべながら、必死に頭を下げるアダルジーザに根負けしたウリッセは、鑑定し、そしてすぐに破壊方法を教える。
 二人で破壊に成功した呪具を作った男は、無残な姿で見つかったらしい。

 それから、時々ウリッセの家に一人の少女が姿を見せるようになった。
 彼女は自分が見様見真似で作った装飾品を持ってきて、

「このピアスに盗聴録音機をつけれないかしら? 途中はではできたのよ? でも小さくならなくて……」

だの、

「毒で変色する銀の食器が使えない時の為に、役に立つものはできないかしら?」

と、ウリッセの負けず嫌いな性格を分かっているかのようなセリフを吐く。
 そんな生活が続いた頃、突然、王宮に呼ばれ、

「王命です。私の次の王になる、青銀大公家長男アルカンジェロの側に支えて頂戴。アルカンジェロはとても素直で真面目な優しい子です。王となるなら汚い物、周囲すら信じられなくなることすらあるでしょう。ウリッセ……貴方の特殊能力ではなく、その強さ、知恵をアルカンジェロの為に使って下さい」
「……かしこまりました。私の命は貴方様のものです」

と、天才児のいる屋敷と聞いて緊張していたが、

「あ、お兄さん! 止まって! そこ、ルーチェが間違ってお漏らししちゃったから、すぐ魔法で綺麗にするね! ルーチェ、お兄さんのところにいるんだよ?」

と、普段は無表情の天才児が、拾った翼猫にはニコニコと溺愛し、家族も仲が良い。

「アダルジーザ様も、いい就職先を斡旋してくださったものだな……」

 ルーチェがベッドから落ちそうになり、慌てて戻しながら呟いたのだった。
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