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第一章

猫は暖かいのが好き。

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 多岐たきは……いや、多岐だった存在は、何か温かいものに包まれて、大変満足だった。



 あぁ、気持ちいいなぁ。
 もしかして、これが天国かぁ……。



「こらこら、おちびちゃん。起きなさい。ごはんの時間ですよ」



 聞こえる声は少し厳しい女性の声だ。
 でも、その言葉より、自分を包むこのモコモコが愛おしかった。
 だって、モコモコの上から、優しく触れる手を感じる。



「まぁまぁ……坊っちゃま。余りこの子だけを溺愛しないで下さいませ。他の子と差別しては、この子達が成長して、坊っちゃまの側近になる時に、この子がイジメられてしまうかもしれないのですよ?」
「いい。これは僕のだからあげない。僕が見つけたんだ。僕のだから、もう泣かせない」



 フワッとした香りがして、頭の上にチュッとリップ音が聞こえる。
 そして背中を優しく撫でてくれる。



 あ、毛布に包まれているんだ。
 気持ちいいなぁ……。



 耳元で声が聞こえる。



「僕の可愛いガッティーナ・ミア。目が見えるようになるのが楽しみだよ」
「全く……坊っちゃま。幾ら珍しい翼猫族アーラガットの雌とは言え、坊っちゃまは『猫妖精族ケット・シーの貴族』中でも最も高貴な青銀公の跡取り。猫族でも最も高位な存在です。でも、この子は捨て子です。それに、四つ足で歩くなんてとんでもない! ドレイか愛人としか……」
「ばあやでも、僕のガッティーナ・ミアを貶める言葉は許さないよ?」



 ガッティーナ……あぁ、イタリア語で、『子猫ちゃん』という意味。
 ミア・ガッティーナは愛人、娼婦とかそういう意味でも使われる。
 でも、ガッティーナ・ミアは、恋人とか可愛い子という意味。



 撫でてくれる人は、私のこと可愛がってくれるかなぁ……。
 嫌いにならないかなぁ……。


 悲しくなり、声を漏らす。



「……ニィ……」
「ガッティーナ・ミア。大丈夫だよ……何があっても、僕が守ってあげる……だから安心して……」
「ミュゥ……」
「良い子だね。おやすみしたら、後で良いものをあげる。おやすみ。僕のガッティーナ・ミア」
「……ニィ」



 良かった。
 大丈夫なんだ。
 目を開けようとしても何故か開けられないし、喋ろうとしても、『ニィ』『ミュゥ』になってしまう。
 手足も動けない。
 暖かいモコモコの毛布に包まる今の状態が、一番幸せ……。



 ありがとう……。



 お礼を言いたかったものの、小さくあくびをして、眠りについた。
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