悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア(改訂予定)

刹那玻璃

文字の大きさ
上 下
41 / 42
安倍晴明の章

晴明のペットになっています……。

しおりを挟む
「何か食べられますか? 子龍しりゅうどの」
『……あの、お手、お代わりさせないで下さい……』
「言うか、お前がやっているんだろう、子龍」

 白竜はくりゅうは腕を組み、ため息をつく。
 晴明せいめいは、小さい龍のままの子龍を面白がっている。
 どうみても晴明は、動物が好きらしい。
 本人は嫌われていると思っているらしいが、この庭には今は隠れているが何故か、生きた鳥や猫、犬もいるらしい……。

『うぎゃぁぁぁ!』

 突然、子龍がビュンっと晴明の衣の袖に隠れる。
 再び空を飛んで戻ってきたのは白虎びゃっこである。
 地面に穴が開く程、盛大に叩きつけられた白虎だが、

「イテテテテ……騰蛇とうだ、俺を殺す気か……」

と言いつつも、起きあがりうーんと伸びをして、毛並みを整え始める。

「今やるな! 暑苦しい!」
「いや、この美しい俺の毛並みが……」
「もう一度、川に行って泳いでこんかぁぁ!」

 掴み、投げようと手を伸ばすと、

「ちょっと待った! 『客人の先触さきふれに行ってこんかぁぁ!』って、騰蛇に投げられたんだ! 客人が来るんだ!」
「客人? ならば、私たちは帰るか? 子龍」
「いや、何か、先日の子龍どのをちっさくした少年と、子龍どの位の長身の兄さんが来てる。名前は聞かなかった」

 ひょいっと手を避けて逃げ出した白虎は、姿を人間に戻す。

「もうすぐ来るんじゃねぇ?」

 その声と同時に、

「失礼致します」

 ハッキリとした声に、子龍は顔をだし、

『あ、子麟しりん! 上の子です。子麟!』

 飛んでいこうとするが失速し、べしょっと落ちる寸前に晴明がすくいあげる。

「危ないですよ。飛ぶ練習もしないで、ちょこまかしても駄目でしょう。はい、だっこ」
「おい。子龍はペットじゃねぇぞ?」
「膝がいいですか?」
「おい、聞けや」

 渋い顔をすると、青龍せいりゅう朱雀すざくに案内された二人が現れる。

「ようこそ、お越し下さいました」

 立ち上がった晴明が頭を下げる。

「私は安倍晴明あべのせいめいと申します。中国の神仙、諸葛孔明しょかつこうめいさまですね?」

 顔をあげ微笑むと、孔明こうめいは固くなった。

「ど、どうされましたか?」
「孔明さま?」

 孔明の傍にいた子麟は、首を傾げる。

「……は、伯松はくしょう……?」

 言葉がこぼれる。

「伯松! 生きて……いや、ここに……」
「伯松と言うのは……」

 困惑したように周囲をみる。
 ペットのように抱かれたままの子龍は、晴明を見上げ、

『伯松と言うのは、孔明殿の長男です』
「……諸葛孔明殿の息子はせんあざな思遠しえんどのでは……」

 首を持ち上げ、

『孔明殿は女の子がおります。その子が姫です。伯松は孫呉そんごの宰相、諸葛子瑜しょかつしゆどのの次男で、養子に迎えたのです。殿……劉玄徳りゅうげんとくさまの姫……後主こうしゅ劉公嗣りゅうこうしさまの姉が奥方です。思遠は、遅くに生まれた妾との間の子供で……本当に可哀想ですが、出来た兄が数えで3才で逝ってしまい、忙しい孔明どのが余り見守る暇もなく逝った為に、何かいいことが起こると、民衆の間から、『諸葛の若さまのお陰だ』と、言う感じで……』
「思遠どのは大変でしたでしょうね……」
「いえ、ワガママなガキでした」

 晴明からみたら、少年……子供にしか見えない子麟は頭を下げる。

「初めまして、趙子龍の長男子麟と申します。母と妹が……本当にありがとうございます。で、瞻ですが……可哀想と言うべきではありません。諸葛家の嫡男の器ではなかったと言うことです。孔明さまが短い間に成したこと……それは粗っぽいものだった。孔明さまが軍師の才能がないなどと、後世では言われますが、長安への道を作っていき、天然の要塞に近い四川より、戦いに赴く為の要所を探していたのです。国が出来てすぐ……勢いのある時に戦場で足場を固め、そして国力を高める……。孔明さまが行ったのは、国の初期段階に行うものです。その後は生きていた私たちの責任。……姜伯約きょうはくやくは、国の財政を考えず戦場に……! 私たちは止めることができず……中央に戻ってみれば、暗愚あんぐな君主が、宦官かんがんと遊び回り、それを見て成長しているにも拘らず、後主の娘を妻にしていた思遠は、何の手も打っていませんでした。……父と孔明さまが作ろうとした国はこんなものかと、私も弟も悔やみました」

 唇を噛む。

「それに、先主せんしゅ……劉玄徳さまの為に必死に戦い抜いたはずの父は、他の武将の方々に比べてもかなり位も低く、その差に恨んでいたこともあります」
『いや、私は、位よりも……』
「父上は! いつもそればかりだ! ずっと、地道に戦い続けた父上に、あいつらは何を寄越したんですか? 死んでから取って付けたように……『順平侯じゅんぺいこう』! しかも、私は良く解らなかったですが、先主が漢中王かんちゅうおうになられた時に、前後左右の将軍位は、関聖帝君かんせいていくん閣下、黄漢升こうかんしょうどの、馬孟起ばもうきどの、張益徳ちょうえきとくどので、父上は翊軍将軍よくぐんしょうぐん! あの魏文長ぎぶんちょうよりも下ではありませんか!」

ぐわっ!

 食って掛かる。

「父上は悲しくなかったのですか? あれだけ必死に努力されて、その結果が、翊軍将軍! 恨みたくなかったのですか?」
『えっと……まだまだ努力が足りないなぁ……とか? でも、可愛い妻子がいるから良いやと思った』

 父親ののんきな一言に絶句する。

「あの時は、まだ母上生きていて、ボロボロと泣かれたの知らないんですかぁぁ!」
『えっ? 桃桃タオタオが! あぁ、じゃぁ、長安に一騎駆けして、潰してきたら……』
「その前に、私とお前が潰れるわ!」

 白竜は突っ込む。

『だよね……それに、情けないなぁと思っても、仕方ないかと思ったよ。あの頃には、もうすでに殿は、私の意見を聞き入れてくれなかった……』

 子供の竜だが、諦めたように呟く。

『殿にとっては、私はもう必要がなかったと言うことだよ。役立たずってこと。で、拾って下さった孔明どのや参謀の方々によって働けた。それが悲しいとかはないけど、『順平侯』はいらないよね』
「子龍どの……」

 孔明は絶句する。
 普段物静かな側近の一言に……。

『大丈夫ですよ。私は、分をわきまえているつもりです。欲も、権力も欲したら、魏文長のような男になります。ついでに関聖帝君。髭剃れ! ウザイ! 鬱陶しい? 暑苦しい! どっか行け!』

 その軽口に、孔明も晴明も子麟も噴き出した。

「所で、孔明どの。この安倍晴明どのが伯松どの……と言うのは?」

 白竜が示す。

「私にはどうみても、天狐てんこの血を引いた、力の塊にしか見えないのだが?」
「伯松なんだ! どうみても……私が伯松を見間違えたりしない!」

 孔明は言い切ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...