悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア(改訂予定)

刹那玻璃

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まゆらの恋……

1800年越しの恋愛成就?

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 しばらく馬上に揺られていると、いつのまにかうとうとどころか熟睡していたらしい。

「……桃桃タオタオ? 又寝たのか? 寝付きがいいな……」

 耳元に届く、いたわりとも苦笑ともつかない声に、意識が上昇し、自分がどこにいるのか解らなくなる。

「あ、う、ぎゃぁぁぁ! エロ魔神! 嫌だぁぁ~!」

 真っ青になり暴れようとした桃子とうこを、子龍しりゅうは慌てて抱き締める。

「桃桃。大丈夫だ。落ち着いて、白竜はくりゅうは賢いが、驚くと暴れたらどうする?」
「……え? 白竜……ロンちゃん?」
『桃桃? 昔からそそっかしいと思っていたが、本当に変わらないな』

 白馬が振り返る。

『方向音痴でお人好し、呑気でボケ。その様子を嬉しそうに見ている主も主だが、日本の言葉で「割れなべに綴じ蓋」と言う言葉があるらしいが、その通りだな』
「こら、白竜!」
『何だ? 主? それとも言おうか? 桃桃がいない主は、仕事以外は役に立たないと、軍師どのに引きずられて戦場に行っていたとか、戦場で……』
「言うな~!」

 言い合う主従に、桃子は、

「あの? ここは?」
「私の邸宅として東王父(とうおうふ)様に戴いていたのだが、住んでなかった……」
「どこに住んでいたのですか?」

 白竜駒はくりゅうくから降りた子龍は、桃子を抱き下ろしつつ、決まり悪げに、

孔明こうめいどのの屋敷とか……職場に……」
「あ、うち……えーと、私と一緒!」
『良く似た夫婦だな、さすが』

 白竜駒は呟く。

「白竜。ここの事はお前の方が知っているのだろう? 教えて……」
『夫婦の邪魔はせぬ。ではな』

と、駆け去っていった。
 置き去りにされた子龍と桃子は、顔を見合わせる。

「……どうしようか? 桃桃」
「え? えっと……お屋敷探検、とか?」
「……広い屋敷は好かぬ。ウロウロと……」
「えっ? そうだったのですか……一応、お掃除とかしっかりと……出来ていなかったのですね……」

 俯く妻に慌てて、

「違う! 家に戻ってすぐに、桃桃の顔が見えないではないか! いつも掃除に洗濯にと姿はないし……屋敷を一周するはめになる」
「で、でも、貴方が外で働いているのですから……中での事は……」
「すぐ会いたいのだ!」

 カァァ……

 その言葉に、お互い真っ赤になる。

「会いたいと、思うのだ! だから……」
「何してるんですか? 父上、母上」

 声が聞こえる。

「親父と母上は何時まで経っても、なんだな」
「えっ?」

 振り返り、桃子は唖然とする。
 子龍に良く似た青年二人。

「あ、あの、え? えぇぇ? 三つ子だったのですか? でも、一番美形は貴方ですが!」

 拳を固め言い切ると、子龍は照れ、穏やかそうな青年は吹き出し、一番やんちゃそうな青年は、

「母上! 忘れたの? 酷くない?」
「母上……えぇと、こんなに美形な……いえ、もっと小さくておっとりとした可愛い息子と、やんちゃですが優しい息子はいましたが……私、いつの間に子供生んでいたんですか! 浮気……したいと思ってませんでした! でも……」
「ち、ちっがう~! 母上! 俺……僕だよ! こう! それに……」
「母上。とうです。良かった……父上は放浪するし、広は白竜駒と喧嘩するしで……いつ絞めようかと思っていたのですよ」

 にっこり……

 腹黒い笑顔になる統に、

「統はこういう子だったのか……?」
「そうそう。兄貴、腹の中、真っ黒!」
「……広、後で来るんだよ?」
「兄貴、暴力反対! 母上! 助けて!」

 手を伸ばそうとした息子から、ひょいっと桃子を引き寄せ、

「桃桃。行こう。はい、お前たちが屋敷を案内しなさい」
「あ、親父、嫉妬深い!」
「悪いか? 父は暑苦しい息子より、嫁がいい」
「うっわ~、言ってるよ」
「二人があの様子ですし、母上行きますか?」

 統は手を差し出す。

「こら、統!」
「兄貴、ずる~!」
「暑苦しいのって嫌なので、二人でどうぞ。私は母上と……」
「……ぷっ!」

 吹き出した桃子は笑い始める。

「あ、貴方も、子供ではないのですから、それに、二人とも……」
「桃桃! ……っ?」

 ボロボロと涙をこぼす桃子に3人は慌てる。

「ど、どうした? 何か辛い事でも……」
「すみません! 広が調子に乗りました!」
「兄貴も、俺のせいにすんなよ! でも、俺が悪かったです! 母上泣かないで! 謝るから!」
「ち、違っ……良かった……。さ、三人が、子龍さまと統と広が……仲が悪くなったら……心配で……」

 息子たちに順番に抱きつき、微笑む。

「仲が悪いと言うよりも、見栄の張り合いだと思うが……」

 呟く子龍に、統は、

「あ、母上。何時帰られても大丈夫なように、準備はできてますよ?」
「あ、そうだ! 母上の好きな果物もあるよ? 父上仕事らしいから行こうよ」
「こらぁ! 父を無視していくな! 桃桃は、私の嫁だ!」
「三人とも、喧嘩はダメですよ?」



 それからの桃子は……何故か牽制しあう夫と息子たちに振り回され溺愛され、日々を送ることとなる。



 苦しみは苦いだけではなく薬となり、
 楽しみはただ楽ではなく、努力することで幸いを招く。
 怒りは他人への攻撃ではなく、自らの行いを反省する為のものとし、
 哀しみは一人で抱えることなく、共に分かち合うことで心を許す術となる。

 それが人であり……未来を開く扉のひとつ。



「所で、母上の名前って、何?」
「知らないのかい? ただ、二娘アルニャンと呼ばれていたのを、父上が頬が桃のようにプクプクしているから桃花タオファに変えさせて、桃桃は、父上だけが呼んでいる愛称だよ」
「日本の女人に生まれ変わって、桃子になったのは偶然?」
「みたいだね。まぁ、日本では神聖な樹木として、屋敷の北東に植えるといいと言われているらしいよ。もしくは、キンモクセイだね。臭いがきついから、幽霊……中国で言うが嫌うと言う迷信がある」
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