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ヴァルキュリアになる前……記憶に残る過去
旅路……桃子の運命
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父が晴明の元に訪れている間に、館に訪れたのは……巨躯の壮年の男である。
鋭い眼差しで、顔立ちは整っている。
しかし、装いは狩衣……ではあるものの、所作は丁寧である。
「この屋敷のご息女にお会いしたいのだが……」
「申し訳ございませんが、妹はまだ裳着を済ませておりませんので……」
普段はおっとりしているが、生真面目で妹の桃子を可愛がっている惟規は、
胡散臭い奴に会わせるか!
と言わんばかりに、
「貴方様はどなたでしょう? 父はご友人にお別れに行っております。申し訳ございませんが、日を改めてお越し下さい」
「私は不本意ではあるが、安倍晴明と関わりがある」
「あぁ、そうですか。ですが、父がいないのを見越してきたと言うことで、更にお帰り下さい。正式にではありませんが、妹は見初められ、内々に固まりつつあります」
慇懃丁重に頭を下げる。
妹程賢くはないが、その分、父にしたたかな面を持てと言われた。
可愛い妹の為なら……。
「……ふーん。解った」
男は帰っていった。
「全く……大男だったとはビックリだね」
「どうしましたか?」
キョトンと顔を覗かせる桃子に、
「何もないよ。桃子。もう夜だからおやすみ」
「えっ? あ、あの……お兄様。書簡を教えて頂けませんか? お兄様、解らないところがありましたの……駄目でしょうか?」
当時はおちょぼ口に、目が細いうりざね顔が美貌であるものの、桃子はクリクリとした丸い瞳の好奇心旺盛な可愛らしい笑顔が似合う少女である。
今で言うシスコンである惟規はニッコリと、
「あぁ、いいよ。私の解る範囲で、だけどね」
「お兄様、大好きです!」
「私も大好きだよ」
ヒョロヒョロと伸び始めた惟規は、頭一つ小さい妹を抱き締め、そして歩き出した。
しばらくして戻ってきた父、為時は兄に甘えてスヨスヨ寝入っている娘の姿に呆れ、声をかけようとした。
「父上……」
口の前に指を置き、惟規は妹を起こさぬようにと父に合図する。
そして、
「父上……父上がいないのを見計らったように、六尺二寸程(約188㎝程度)の大男が参りました。桃子に会わせろと。ですので、追い払おうとしたのですが、父上が晴明さまに会いに行かれたのもご存じでしたので、余計に会わせませんと伝えました。そのあと心配でしたので、こちらに。力はありませんが、私が庇っている間に逃せるでしょう……」
「何だって! あの方が来たのか!」
「父上ご存じの方でしたか?」
焦る為時に、惟規は問いかける。
「いや……実際は知らないと言うか、有名な方だよ。晴明どのに教わった……名を呼ぶと、ご本人がこられては困る。書簡に記して残していく。何かあった時には晴明どのに……お願いしておいた。惟規もよくよく、晴明どのに挨拶を……いいね?」
「父上……やっぱり桃子のことが心配です。共に参ってもよろしいでしょうか?」
「馬鹿者! そなたは幾つになっても!」
「父上はずるいじゃないですか! 桃子のことを連れていくなんて! 私も一緒に!」
「こんでいい! 職務に励め!」
桃子の父と兄は、どちらともが桃子を溺愛しているのだった。
鋭い眼差しで、顔立ちは整っている。
しかし、装いは狩衣……ではあるものの、所作は丁寧である。
「この屋敷のご息女にお会いしたいのだが……」
「申し訳ございませんが、妹はまだ裳着を済ませておりませんので……」
普段はおっとりしているが、生真面目で妹の桃子を可愛がっている惟規は、
胡散臭い奴に会わせるか!
と言わんばかりに、
「貴方様はどなたでしょう? 父はご友人にお別れに行っております。申し訳ございませんが、日を改めてお越し下さい」
「私は不本意ではあるが、安倍晴明と関わりがある」
「あぁ、そうですか。ですが、父がいないのを見越してきたと言うことで、更にお帰り下さい。正式にではありませんが、妹は見初められ、内々に固まりつつあります」
慇懃丁重に頭を下げる。
妹程賢くはないが、その分、父にしたたかな面を持てと言われた。
可愛い妹の為なら……。
「……ふーん。解った」
男は帰っていった。
「全く……大男だったとはビックリだね」
「どうしましたか?」
キョトンと顔を覗かせる桃子に、
「何もないよ。桃子。もう夜だからおやすみ」
「えっ? あ、あの……お兄様。書簡を教えて頂けませんか? お兄様、解らないところがありましたの……駄目でしょうか?」
当時はおちょぼ口に、目が細いうりざね顔が美貌であるものの、桃子はクリクリとした丸い瞳の好奇心旺盛な可愛らしい笑顔が似合う少女である。
今で言うシスコンである惟規はニッコリと、
「あぁ、いいよ。私の解る範囲で、だけどね」
「お兄様、大好きです!」
「私も大好きだよ」
ヒョロヒョロと伸び始めた惟規は、頭一つ小さい妹を抱き締め、そして歩き出した。
しばらくして戻ってきた父、為時は兄に甘えてスヨスヨ寝入っている娘の姿に呆れ、声をかけようとした。
「父上……」
口の前に指を置き、惟規は妹を起こさぬようにと父に合図する。
そして、
「父上……父上がいないのを見計らったように、六尺二寸程(約188㎝程度)の大男が参りました。桃子に会わせろと。ですので、追い払おうとしたのですが、父上が晴明さまに会いに行かれたのもご存じでしたので、余計に会わせませんと伝えました。そのあと心配でしたので、こちらに。力はありませんが、私が庇っている間に逃せるでしょう……」
「何だって! あの方が来たのか!」
「父上ご存じの方でしたか?」
焦る為時に、惟規は問いかける。
「いや……実際は知らないと言うか、有名な方だよ。晴明どのに教わった……名を呼ぶと、ご本人がこられては困る。書簡に記して残していく。何かあった時には晴明どのに……お願いしておいた。惟規もよくよく、晴明どのに挨拶を……いいね?」
「父上……やっぱり桃子のことが心配です。共に参ってもよろしいでしょうか?」
「馬鹿者! そなたは幾つになっても!」
「父上はずるいじゃないですか! 桃子のことを連れていくなんて! 私も一緒に!」
「こんでいい! 職務に励め!」
桃子の父と兄は、どちらともが桃子を溺愛しているのだった。
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