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ヴァルキュリアになる前……記憶に残る過去
桃子……連理之枝
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藤原道長の北の方、倫子に仕えていた頃、女童……正式な裳着を行っていない、行儀見習い……として仕えたと思われる。
倫子の長女である彰子が入内した年は、数えで10歳である。
その後出仕した桃子は、子供を父に預け仕えたとされている。
それに、結婚は当時としては遅かったと言われている為、20歳すぎであったと思われる。
その頃、時代が変わりつつあった。
彰子が入内して約5年後に、安倍晴明が亡くなり、その前に彰子の従姉妹であった一条天皇皇后であったの定子も亡くなった。
彰子は入内したものの子供に長く恵まれず、従姉妹の定子の子供達を引き取り、我が子のように育てた。
その世話も幼い彰子一人では出来るはずもなく、ある程度、和泉式部、赤染衛門達も女房として侍っていた為、交代で見ていたかもしれない。
で、出会いは……。
「……」
行儀見習いとして倫子に仕えていた頃、賢くとも子供の為、他の子供達と共に遊びなさいと言われることがある。
その時には、父の書簡を写し取った漢詩を読んだり、もしくは歴史書、本来は一族の男児にしか読ませて貰えない祖父や曾祖父の日記を兼ねた宮中の行事、礼儀作法などの書かれたものを読みふける。
兄の惟規も読んでいるが、昔は勢力のあった家だったが、桃子が生まれる10年程前に勢力争いに破れ、殿上出来なくなった。
殿上出来ないとは、現在の政府に見捨てられたことを意味する。
式部丞と言う位は、政権争いに破れる前の父の役職である。
しかし、越後守と言う上国の守に任ぜられることは、それなりに能力を認められ、それと学者として知られているのだろうと桃子は踏んでいた。
桃子にとって父は、尊敬する父である。
「何をやっているんだ? お前は、清原の末娘ではないだろう?」
日が陰ったかと思い、顔をあげた。
いつのまにか長身……かなり大きな男が立っていた。
「あの……申し訳ありませんが……」
「何だ?」
「父に無理を言って、お借りできた書簡を読んでいるのです。読めませんのでどっかに行って下さい」
「アハハ!」
大爆笑をする男の顔は見えないが、桃子は、ため息をつく。
書簡を纏め、少し横にずれる。
そして読もうとしたが、日が陰った。
黙ってもう一度ずれるが、同じである。
ムカッ!
珍しく怒った桃子は立ちあがり、書簡をもって歩き出した。
別の場所に行こうと思ったのだ。
「どこに行くんだ? 清原の娘」
「……清原元輔殿のお嬢さんは、快活とお伺いしております、どうぞ」
行ってこい。
と言外に含ませ、ツーンと歩き出す。
すると、回廊を歩く桃子の横……庭を歩きついてくる男。
ニヤニヤと楽しげに歩くだらしない格好だが、所作は上品である。
「清原元輔の娘」
「……失礼します。ご自分のお名前も名乗らないのに、尋ねもなさらない。素っ気ない面白味もない方ですわね」
と、丁寧に頭を下げ、そのまま去っていった。
背後には笑い声が響いたのだった。
それから時々出会うようになった。
名前を名乗ろうとしない男に、桃子は名前を名乗らなかった。
しかし、
「その書簡……文字は、藤原為時の文字だな。為時の娘か」
「……そのお答えは、拒否させて頂きます。で、どうして、詳しく説明して下さるのでしょうか?」
「何でかなぁ? で、そこが違うなぁ……」
指摘され、直しながら問いかける。
「で、貴方は誰でしょう? 普通、名前を名乗ってからでしょう」
「妻問いでもあるまいし……名前など必要なくはないかな?」
「……貴方は私の身元を知っているのに、ズルいと思います。もう結構です。失礼致します」
「アハハ!」
男はよく笑う。
桃子は、彼が胡散臭いと思うものの、博識であること、情報量が多い事に驚き、引き込まれる。
しかし賢い少女も、一つだけ大事なことを忘れていた。
この男は、優しい父や穏和な兄とは違う……危険な人だ。
これ以上近づいてはいけない……。
いけなかった……。
倫子の長女である彰子が入内した年は、数えで10歳である。
その後出仕した桃子は、子供を父に預け仕えたとされている。
それに、結婚は当時としては遅かったと言われている為、20歳すぎであったと思われる。
その頃、時代が変わりつつあった。
彰子が入内して約5年後に、安倍晴明が亡くなり、その前に彰子の従姉妹であった一条天皇皇后であったの定子も亡くなった。
彰子は入内したものの子供に長く恵まれず、従姉妹の定子の子供達を引き取り、我が子のように育てた。
その世話も幼い彰子一人では出来るはずもなく、ある程度、和泉式部、赤染衛門達も女房として侍っていた為、交代で見ていたかもしれない。
で、出会いは……。
「……」
行儀見習いとして倫子に仕えていた頃、賢くとも子供の為、他の子供達と共に遊びなさいと言われることがある。
その時には、父の書簡を写し取った漢詩を読んだり、もしくは歴史書、本来は一族の男児にしか読ませて貰えない祖父や曾祖父の日記を兼ねた宮中の行事、礼儀作法などの書かれたものを読みふける。
兄の惟規も読んでいるが、昔は勢力のあった家だったが、桃子が生まれる10年程前に勢力争いに破れ、殿上出来なくなった。
殿上出来ないとは、現在の政府に見捨てられたことを意味する。
式部丞と言う位は、政権争いに破れる前の父の役職である。
しかし、越後守と言う上国の守に任ぜられることは、それなりに能力を認められ、それと学者として知られているのだろうと桃子は踏んでいた。
桃子にとって父は、尊敬する父である。
「何をやっているんだ? お前は、清原の末娘ではないだろう?」
日が陰ったかと思い、顔をあげた。
いつのまにか長身……かなり大きな男が立っていた。
「あの……申し訳ありませんが……」
「何だ?」
「父に無理を言って、お借りできた書簡を読んでいるのです。読めませんのでどっかに行って下さい」
「アハハ!」
大爆笑をする男の顔は見えないが、桃子は、ため息をつく。
書簡を纏め、少し横にずれる。
そして読もうとしたが、日が陰った。
黙ってもう一度ずれるが、同じである。
ムカッ!
珍しく怒った桃子は立ちあがり、書簡をもって歩き出した。
別の場所に行こうと思ったのだ。
「どこに行くんだ? 清原の娘」
「……清原元輔殿のお嬢さんは、快活とお伺いしております、どうぞ」
行ってこい。
と言外に含ませ、ツーンと歩き出す。
すると、回廊を歩く桃子の横……庭を歩きついてくる男。
ニヤニヤと楽しげに歩くだらしない格好だが、所作は上品である。
「清原元輔の娘」
「……失礼します。ご自分のお名前も名乗らないのに、尋ねもなさらない。素っ気ない面白味もない方ですわね」
と、丁寧に頭を下げ、そのまま去っていった。
背後には笑い声が響いたのだった。
それから時々出会うようになった。
名前を名乗ろうとしない男に、桃子は名前を名乗らなかった。
しかし、
「その書簡……文字は、藤原為時の文字だな。為時の娘か」
「……そのお答えは、拒否させて頂きます。で、どうして、詳しく説明して下さるのでしょうか?」
「何でかなぁ? で、そこが違うなぁ……」
指摘され、直しながら問いかける。
「で、貴方は誰でしょう? 普通、名前を名乗ってからでしょう」
「妻問いでもあるまいし……名前など必要なくはないかな?」
「……貴方は私の身元を知っているのに、ズルいと思います。もう結構です。失礼致します」
「アハハ!」
男はよく笑う。
桃子は、彼が胡散臭いと思うものの、博識であること、情報量が多い事に驚き、引き込まれる。
しかし賢い少女も、一つだけ大事なことを忘れていた。
この男は、優しい父や穏和な兄とは違う……危険な人だ。
これ以上近づいてはいけない……。
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