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番外編〜

【番外編】処刑執行人の人生3

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「おーい!」

 手を振りながらやってきたイザークに、私は遠い目になった。

「……また来たの? お父さん? に怒られなかったの?」
「あんなの、殴り飛ばしたさぁ。出てけってな。セリナが死にかかった時に、隣の家のおばさんと不倫だぜ。あのクズ親父」

 どこで借りたのか荷馬車を引いてきたイザークは、手綱を木に縛り、渋い顔をしつつ、

「あ、じいちゃん、おばさん。こんにちは! 前言ってた、捨てられてたポーションの瓶って言うの拾ってきました。それに、おばさんが気に入ってた綿の布。買ってきましたよ」
「イザーク! また来たのか! ……どうして……お前は……」

祖父は泣きそうな顔をする。

 元々祖父は優しい人だ。
 私は、祖父のように強くて優しい人になりたい。

 すると、荷台でごそごそと布が動き、ぴょこん、ぴょこんと降りてくる。

「また来たの? セリナとシシリア……それに、この子は?」

 セリナはイザークの妹で、シシリアはイザークとセリナの幼馴染みである。

 そして、最後によちよち出て来た子は……。
 金髪で青い目だが……どうしてだろう?
 何故か、私の小さい頃に似ているような気がする。

「まぁ! この方は!」
「あ、おばさん、この子知ってる? なんかさぁ、こいつに似てない? だから連れてきたんだ」
「あのね? おばちゃま、変なおじちゃんがいてね? この子を追いかけてたの」
「イザークお兄ちゃんが、一緒に隠れてって」
「はじめまちて。あゆふれっどでしゅ。あいがとーでしゅ」

 ぺこん。

と頭を下げて、にゃはっと笑う姿は可愛らしい。

「アルフレッド?」
「アルフレッドって……」
「もしかして……」

 6人は顔を見合わせる。

「アルフレッド皇子?」
「何で? イザーク! どうするの?」

 アルフレッドと言うのは、現在の王の第二皇子。
 第一皇子は王の愛人との間の子供。
 この子がアルフレッド皇子なら、隣のサーパルティータ公国の王女であり、聖女であるアマーリエ王妃との子供。

「アルフレッド皇子……どうしましょう! 誘拐なんて、罪を被せられたりしたら!」

 オロオロと母は狼狽え、祖父は、

「何かあったら、わしが責任を負う」
「だいじょーぶでしゅ! あゆふれっどはおうちかえれましゅ。そえより、おかーしゃまがおうちよりいきなしゃいって」

幼い子供はポケットから地図を出す。

「んっと……にゃにかあったりゃ、らいんはゆとおにーしゃまのおうち、るーふぁしゅおにーしゃまのおうちでしゅ!」
「……えっと、確か、騎士団長の家は辺境伯で今は領地です。皇子。それに、外交大臣閣下の一族は他国を外遊中で……」

 祖父の言葉に固まり、みるみる泣きそうな顔になった。
 青い瞳が潤み、ヒックヒックしゃくり上げる。

「おかーしゃま……会えない? おかーしゃまっ……」
「だ、大丈夫ですよ……確か、魔術師長のお屋敷に天才と呼ばれている若君が……確かルシアン若君でしたね。何とか連絡を取りますからね?」

 母は、アルフレッド皇子を抱きしめ、家に案内する。
 自分は余りされたことないなぁと思いながら、イザークたちに母の後を追わせ、自分は祖父と共に荷馬車の荷物を降ろす。

 祖父は1つ1つ丁寧に包んでいた瓶を確認し、ホッとする。



 私が生まれる前までは、本職と薬草の販売で十分生計が立っていたと言う。
 しかし、私が生まれる一年前、陛下と正妃アマーリエ様の結婚前後から次第に薬草が売れなくなった。
 何故なら、アマーリエ様はアソシアシオン教国に認められた聖女で、教国が世界中に広めた教会で、高いお金ではあるものの寄進をすれば、ポーションという薬を分けて貰える。
 それは、とても高額で、アマーリエはそのような額で売るのはやめて欲しいと訴えたらしい。
 しかし、金の亡者である枢機卿が、国王に賄賂を贈り、それを認めさせた。

 ポーションは祖父たちの作る薬草より、すぐに痛みや熱が下がるのだという。

 そして、売れなくなったこちらの薬草は、困っていた祖父の様子を汲み、イザークが売ると言い出した。
 瓶代なども浮かせる為、イザークの下町の遊び友達と共に捨てられたポーション瓶などを拾い集めて洗い、乾かして持ってきていたのである。

「本当に……イザークには礼を言わねばならん。おい、付いてきなさい」
「はい、お祖父様」

 祖父も年老いた。
 祖父は口には出さないが、体の調子が悪いらしい。
 少しでも元気で長生きして欲しい。

 仕事は代わってもいい。
 その覚悟はできているから……。

「……イザークたちに嫌われるのは分かっているけれど……今が一番幸せなんだ……」



 私は空を見上げ星に囁いた。

「一日でも長く……生きたい。一日でもいい……こんな生き方を辞めたい。神も私たちを見放したという……私は神など知らないのに……どうして嫌われたのだろう」
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