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番外編〜

【番外編】処刑執行人の人生

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 祖父と母を殺されてから、何年経っただろう。
 二人は、国王の命令通り執行しただけで、逆恨みでその罪人の親族達によって惨殺された。
 理不尽だとか、何故とかと言う言葉は、私の一族には当てはまらない。



 国王の命令を遂行すること。
 処刑を執行すること。
 失敗は許されないこと。
 一度に首を落とさないと苦しみが増す。
 苦しみを長く引き延ばさず殺すことは、その人に敬意を払うこと。

 それを繰り返し言い聞かされ育った。



 私は、物心ついた頃から、祖父に家中にある本を読むように言われた。
 私達は普通一般の学校に通えない。
 だから、祖父に文字を教わり、そして二人が『仕事』に行っている間に、庭で育てている薬草の手入れをしていた。
 代々の仕事は『処刑執行人』だけでなく、『薬師』でもあった。
 処刑は国王や領主に命じられたもので、処刑後にある程度の食料や日用品などをあてがわれる。
 それ以外に収入を得る為に、『薬師』となったと聞いていた。

 町外れの家の周りには高い壁があり、表門は赤く塗られていた。
 赤い門は、この家が血に染まっている一族であること……処刑執行人の一族であることの印。
 高い壁は私達を閉じ込める意味と、私達を守る意味があったのだと後で分かる。
 壁の中で土を耕し、様々な薬草や毒草を育て、様々な薬を作った。
 小さい裏門を叩く人間に頼まれ、毒薬も媚薬も作ったし、傷薬や風邪薬なども作った。



 ある日、表門にコツコツと小さな音が響いた。

「誰かいませんか! お願いします!」

 必死な声……私と同年代だろうか?
 門を細く開けると、キリッとした少年が立っていた。

「……な、何か……」
「お願いします! 俺の妹を助けて! お、お金はそんなにないけど……俺のお小遣いしかないけど……」

 背中に小さい子供を背負っていた。
 そして、握りしめていた硬貨を突き出す。

「……どうした?」

 後ろから祖父が近づいてきた。

「おじいさま……」
「すみません! どうか、どうか妹を助けて下さい! 町のお医者さんは皆さじを投げるか、高額なお金を要求して……父の稼ぎじゃ無理で……ばあちゃんに、ここに有名なお医者さんがいるって……」
「誰かに……ここに来ると言ったかい?」
「いいえ! 小さい時に教えてくれたそのばあちゃんは、去年死にました」
「じゃぁ……急いで入りなさい」

 周囲を見回し、祖父は兄妹を門の中に入れた。

「おい」

 祖父の声に奥から顔を出すのは母。

「お父さん? まぁ、いらっしゃい」
「ベッドを」
「はい」

 祖父と母の会話は短い。

「坊よ。お前は家に帰りなさい。そして、ここに来たことを忘れなさい」
「嫌だ! セリナは、俺の妹なんだ!」
「ここに来てしまったのは……仕方ない。だが、坊にこの家に来た意味を知ってしまったら、坊が……坊の家族が周囲にどう思われるか……この子は私達が預かる。そして、遠縁を頼って、別の街の子供のいない家の養女にすることができる。だから帰りなさい」
「絶対嫌だ! 俺は後悔しない! それに、ここに来たことは誰にも言わない!」

 きっとした眼差しに、祖父は溜息をつく。

「……では、お前達、遊んできなさい」
「はい、おじいさま」

 セリナと言う少女を抱き上げ、奥に入っていった祖父を見送り、

「……えっと、こっちどうぞ」

奥の庭はほとんど薬草園で、自分が遊ぶと言うのは少ない。
 門の横の倉庫は、祖父と母の本職の道具を置いている。
 そこは鍵がかかっていて、入ったことはない。
 その為、家の奥に案内する。

「ここは……どこなんだ?」
「家。こっちが台所、こっちが書庫、この奥が調合室、手前が診察室兼客人に案内するんだ。どうぞ……」

 台所にあるテーブルに案内して、ハーブティを出す。

「どうぞ」
「……お前、何でそんなに無表情なんだ? 俺たちがうるさくして、嫌なのか?」
「嫌? うーん……よく分からないよ。私はおじいさまと母さんしか話したことないし。君くらいの子と会うのも初めてだし」
「はっ? 初めて? 何で?」
「知らない。それに、ここから出たことないから。それよりどうぞ」

 おずおずと飲んだ彼は、ホッとしたように大きく息を吐き出した。

「あったかいけど、なんか不思議な味」
「ハーブティだよ。ごめんね。家、何もないから」
「俺たち、こんな飲み物すら飲めないぞ」
「家は、薬草を育てているから、それを煎じて飲んでいるんだ」
「ふーん……そ、それより! 妹は大丈夫かな?」

 心配そうな少年。

「あの子は君の妹? いもうとって何?」
「は? 妹は、俺の兄妹。お前にも父さんと母さんいるだろ? 父さんと母さんに、俺と妹のセリナがいるんだ」
「父さん?」
「父さんいないのか? 病気で死んじゃったとか? お前の父さんだよ」
「私は父さんって言う人いないよ。私が生まれる前におばあさま死んじゃった。だから3人」

 淡々と答える私に、後で、イザークと名乗った同じ年の……後に親友となる少年との出会いだった。
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