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第7章

怒り狂う国王と冷静なパルミラ

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 ところで王宮では、元々辣腕を振るっていた若き宰相である王弟アルフレッドと外交官カーティス、騎士団長ラインハルトに魔術師長のルシアンが出仕しなくなり、当初は彼らの命令通り仕事を進めてきた。



 が、一ヶ月や二ヶ月は何とかなった。
 しかし、もう半年である。



 騎士団や魔術師たちはほぼ決められたことを行うので、さほど困らないが、政務と外交、そしてアルフレッドが握っていた財政がもう悲鳴をあげていた。

「もう無理だ! 仕事が進まない! 宰相閣下の許可を得なければ!」
「カーティス様の判断を仰がないと、どうしようもない!」
「それに、国王陛下やパルミラ様は、国庫を何だと思っているんだ! あれが欲しい! これが買いたい! そんなお金を使うなら、王子を救う方法か、苦しんでいる国民に還元してくれないか!」
「それに、一応私たちだって騎士だから遠征費もいる! 遠方に砦がある! そちらに派兵する為のお金と武器と食料、薬草を貰いたい!」
「こちらは新しい術の開発費! それとポーションを売りたい! 買ってくれるところはないか? 騎士団はお金がないという! こちらだってお金は必要なんだ!」

 それぞれの悲鳴に国王は、

「悪いのはアルフレッドだ。捕まえて来い」
「そんな訳ないでしょう!」

その言葉を聞いた者たちが激怒する。

「これまでの間、半年もあったのですよ! それなのに、陛下がアルフレッド宰相や皆様方に謝罪しないから!」
「そうだ! この国の混乱をもたらしたのは、陛下とパルミラ様ではないか!」
「だってぇぇぇ、私、宰相閣下に政治に口を出すなって、言われているんですものぉ! そんな風に言われても困るわぁ?」

 パルミラは被害者ぶって答える。

「それに私、宰相閣下のお屋敷にも入らせて頂けませんの。ついでに私のせいではありませんわ」
「陛下!」
「なぜ私が! 使いを送ったとも! だが来なかったのだ!」
「あのような者を送るからです! 何故、私共ではなく、そこら辺にいた練習帰りの下級の兵士を送りますか! アルフレッド宰相は弟君! その上、先代陛下の正妃であるアマーリエ様の息子です! アマーリエ様もサーパルティータの王女で、身分から言えば、この国でも別格です!」
「そうです! それに騎士団長や魔術師長、外交官のカーティス様も、それぞれ公爵! それなりの立場に送る使者は分かるでしょう!」

 その言葉に真顔で、

「毎回使者を送る時はアルフレッドが全部決めたし、書状の文章もそうだ。何故私がせねばならん。私は王だぞ? 父上は、そのような仕事は部下にさせろ。お前は次の国王なのだと言われたぞ。何が悪い」
「……!」

臣下の脳裏に、

『愚兄賢弟』
『そう言えば、先王も愚王だった……』
『先王の時は全てアマーリエ様が采配して下さっていた』
『この方を王とするのが間違っていたのだろうか……』

などぐるぐるする。

「アルフレッドが全部悪い! 謝罪の為に、すぐさま縄を打って引きずってでも呼んでこい!」

 その間にもそうのたまう国王に、殴り付けたい気持ちを抑え、

「そう言えば、アマーリエ様の屋敷で祝い事があったとか……」
「あぁ、アルフレッド様が養女に迎えたお嬢様の誕生日だ。確か4歳だとか」
「おや? 私が聞いたのは、アマーリエ様がサーパルティータの国王に認められた婚約者ができ再婚したとか。アマーリエ様は元聖女で、サーパルティータでも有名な美貌の持ち主。今まで再婚できなかったのも……」

家臣達が見るのは、神に裁かれた自分の息子以上に地団駄を踏み、わがまま放題の国王である。

「何! 父上というものがありながら! 浮気をしただと! ひっ捕らえてこい!」
「陛下? 駄目ですわよ。サーパルティータは屈指の有力国。それに、アマーリエ様は陛下を育てつつこの国の政治を一人で采配を振るった女傑。陛下はアマーリエ様に及びませんわ」
「なっ! あの悪女、ババァに味方するのか!」
「ババアではありません。陛下と年が変わらないではありませんか。陛下はもうすぐ40。アマーリエ様はまだ40を超えたばかり。女性の年齢をそういうのは、私は腹ただしく思いますわ」

 パルミラは眉間にしわを寄せる。
 こちらは三十路に入ったばかり、アルフレッドより年上である。

「……す、すまなかった。パルミラ。もう二度と、あのババァ……いや、義母のことを言うまい。だから許してくれまいか」
「陛下! 私、アマーリエ様を罵っているのを見て、他の誰かが私を年増と罵っているのではないかと怖かったのですわ!」

 瞳に涙を浮かべ、愛人にしがみつく。

「陛下は心優しく寛大な方ですから、信じておりましたわ。でも、辛かったんですの……」
「おぉぉ! パルミラ! 私の女神! そのようなことで心を痛めていたのか? 優しい女だ……! 大丈夫だ。お前ほど美しい女はいない! 信じてくれ」
「陛下!」

 こんなアホらしい茶番はないと、配下はいつの間にか下がっており、静かになっていた。
 しかし、冷静に国王を操るパルミラに、周囲は恐れるのだった。
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