50 / 129
第7章
怒り狂う国王と冷静なパルミラ
しおりを挟む
ところで王宮では、元々辣腕を振るっていた若き宰相である王弟アルフレッドと外交官カーティス、騎士団長ラインハルトに魔術師長のルシアンが出仕しなくなり、当初は彼らの命令通り仕事を進めてきた。
が、一ヶ月や二ヶ月は何とかなった。
しかし、もう半年である。
騎士団や魔術師たちはほぼ決められたことを行うので、さほど困らないが、政務と外交、そしてアルフレッドが握っていた財政がもう悲鳴をあげていた。
「もう無理だ! 仕事が進まない! 宰相閣下の許可を得なければ!」
「カーティス様の判断を仰がないと、どうしようもない!」
「それに、国王陛下やパルミラ様は、国庫を何だと思っているんだ! あれが欲しい! これが買いたい! そんなお金を使うなら、王子を救う方法か、苦しんでいる国民に還元してくれないか!」
「それに、一応私たちだって騎士だから遠征費もいる! 遠方に砦がある! そちらに派兵する為のお金と武器と食料、薬草を貰いたい!」
「こちらは新しい術の開発費! それとポーションを売りたい! 買ってくれるところはないか? 騎士団はお金がないという! こちらだってお金は必要なんだ!」
それぞれの悲鳴に国王は、
「悪いのはアルフレッドだ。捕まえて来い」
「そんな訳ないでしょう!」
その言葉を聞いた者たちが激怒する。
「これまでの間、半年もあったのですよ! それなのに、陛下がアルフレッド宰相や皆様方に謝罪しないから!」
「そうだ! この国の混乱をもたらしたのは、陛下とパルミラ様ではないか!」
「だってぇぇぇ、私、宰相閣下に政治に口を出すなって、言われているんですものぉ! そんな風に言われても困るわぁ?」
パルミラは被害者ぶって答える。
「それに私、宰相閣下のお屋敷にも入らせて頂けませんの。ついでに私のせいではありませんわ」
「陛下!」
「なぜ私が! 使いを送ったとも! だが来なかったのだ!」
「あのような者を送るからです! 何故、私共ではなく、そこら辺にいた練習帰りの下級の兵士を送りますか! アルフレッド宰相は弟君! その上、先代陛下の正妃であるアマーリエ様の息子です! アマーリエ様もサーパルティータの王女で、身分から言えば、この国でも別格です!」
「そうです! それに騎士団長や魔術師長、外交官のカーティス様も、それぞれ公爵! それなりの立場に送る使者は分かるでしょう!」
その言葉に真顔で、
「毎回使者を送る時はアルフレッドが全部決めたし、書状の文章もそうだ。何故私がせねばならん。私は王だぞ? 父上は、そのような仕事は部下にさせろ。お前は次の国王なのだと言われたぞ。何が悪い」
「……!」
臣下の脳裏に、
『愚兄賢弟』
『そう言えば、先王も愚王だった……』
『先王の時は全てアマーリエ様が采配して下さっていた』
『この方を王とするのが間違っていたのだろうか……』
などぐるぐるする。
「アルフレッドが全部悪い! 謝罪の為に、すぐさま縄を打って引きずってでも呼んでこい!」
その間にもそうのたまう国王に、殴り付けたい気持ちを抑え、
「そう言えば、アマーリエ様の屋敷で祝い事があったとか……」
「あぁ、アルフレッド様が養女に迎えたお嬢様の誕生日だ。確か4歳だとか」
「おや? 私が聞いたのは、アマーリエ様がサーパルティータの国王に認められた婚約者ができ再婚したとか。アマーリエ様は元聖女で、サーパルティータでも有名な美貌の持ち主。今まで再婚できなかったのも……」
家臣達が見るのは、神に裁かれた自分の息子以上に地団駄を踏み、わがまま放題の国王である。
「何! 父上というものがありながら! 浮気をしただと! ひっ捕らえてこい!」
「陛下? 駄目ですわよ。サーパルティータは屈指の有力国。それに、アマーリエ様は陛下を育てつつこの国の政治を一人で采配を振るった女傑。陛下はアマーリエ様に及びませんわ」
「なっ! あの悪女、ババァに味方するのか!」
「ババアではありません。陛下と年が変わらないではありませんか。陛下はもうすぐ40。アマーリエ様はまだ40を超えたばかり。女性の年齢をそういうのは、私は腹ただしく思いますわ」
パルミラは眉間にしわを寄せる。
こちらは三十路に入ったばかり、アルフレッドより年上である。
「……す、すまなかった。パルミラ。もう二度と、あのババァ……いや、義母のことを言うまい。だから許してくれまいか」
「陛下! 私、アマーリエ様を罵っているのを見て、他の誰かが私を年増と罵っているのではないかと怖かったのですわ!」
瞳に涙を浮かべ、愛人にしがみつく。
「陛下は心優しく寛大な方ですから、信じておりましたわ。でも、辛かったんですの……」
「おぉぉ! パルミラ! 私の女神! そのようなことで心を痛めていたのか? 優しい女だ……! 大丈夫だ。お前ほど美しい女はいない! 信じてくれ」
「陛下!」
こんなアホらしい茶番はないと、配下はいつの間にか下がっており、静かになっていた。
しかし、冷静に国王を操るパルミラに、周囲は恐れるのだった。
が、一ヶ月や二ヶ月は何とかなった。
しかし、もう半年である。
騎士団や魔術師たちはほぼ決められたことを行うので、さほど困らないが、政務と外交、そしてアルフレッドが握っていた財政がもう悲鳴をあげていた。
「もう無理だ! 仕事が進まない! 宰相閣下の許可を得なければ!」
「カーティス様の判断を仰がないと、どうしようもない!」
「それに、国王陛下やパルミラ様は、国庫を何だと思っているんだ! あれが欲しい! これが買いたい! そんなお金を使うなら、王子を救う方法か、苦しんでいる国民に還元してくれないか!」
「それに、一応私たちだって騎士だから遠征費もいる! 遠方に砦がある! そちらに派兵する為のお金と武器と食料、薬草を貰いたい!」
「こちらは新しい術の開発費! それとポーションを売りたい! 買ってくれるところはないか? 騎士団はお金がないという! こちらだってお金は必要なんだ!」
それぞれの悲鳴に国王は、
「悪いのはアルフレッドだ。捕まえて来い」
「そんな訳ないでしょう!」
その言葉を聞いた者たちが激怒する。
「これまでの間、半年もあったのですよ! それなのに、陛下がアルフレッド宰相や皆様方に謝罪しないから!」
「そうだ! この国の混乱をもたらしたのは、陛下とパルミラ様ではないか!」
「だってぇぇぇ、私、宰相閣下に政治に口を出すなって、言われているんですものぉ! そんな風に言われても困るわぁ?」
パルミラは被害者ぶって答える。
「それに私、宰相閣下のお屋敷にも入らせて頂けませんの。ついでに私のせいではありませんわ」
「陛下!」
「なぜ私が! 使いを送ったとも! だが来なかったのだ!」
「あのような者を送るからです! 何故、私共ではなく、そこら辺にいた練習帰りの下級の兵士を送りますか! アルフレッド宰相は弟君! その上、先代陛下の正妃であるアマーリエ様の息子です! アマーリエ様もサーパルティータの王女で、身分から言えば、この国でも別格です!」
「そうです! それに騎士団長や魔術師長、外交官のカーティス様も、それぞれ公爵! それなりの立場に送る使者は分かるでしょう!」
その言葉に真顔で、
「毎回使者を送る時はアルフレッドが全部決めたし、書状の文章もそうだ。何故私がせねばならん。私は王だぞ? 父上は、そのような仕事は部下にさせろ。お前は次の国王なのだと言われたぞ。何が悪い」
「……!」
臣下の脳裏に、
『愚兄賢弟』
『そう言えば、先王も愚王だった……』
『先王の時は全てアマーリエ様が采配して下さっていた』
『この方を王とするのが間違っていたのだろうか……』
などぐるぐるする。
「アルフレッドが全部悪い! 謝罪の為に、すぐさま縄を打って引きずってでも呼んでこい!」
その間にもそうのたまう国王に、殴り付けたい気持ちを抑え、
「そう言えば、アマーリエ様の屋敷で祝い事があったとか……」
「あぁ、アルフレッド様が養女に迎えたお嬢様の誕生日だ。確か4歳だとか」
「おや? 私が聞いたのは、アマーリエ様がサーパルティータの国王に認められた婚約者ができ再婚したとか。アマーリエ様は元聖女で、サーパルティータでも有名な美貌の持ち主。今まで再婚できなかったのも……」
家臣達が見るのは、神に裁かれた自分の息子以上に地団駄を踏み、わがまま放題の国王である。
「何! 父上というものがありながら! 浮気をしただと! ひっ捕らえてこい!」
「陛下? 駄目ですわよ。サーパルティータは屈指の有力国。それに、アマーリエ様は陛下を育てつつこの国の政治を一人で采配を振るった女傑。陛下はアマーリエ様に及びませんわ」
「なっ! あの悪女、ババァに味方するのか!」
「ババアではありません。陛下と年が変わらないではありませんか。陛下はもうすぐ40。アマーリエ様はまだ40を超えたばかり。女性の年齢をそういうのは、私は腹ただしく思いますわ」
パルミラは眉間にしわを寄せる。
こちらは三十路に入ったばかり、アルフレッドより年上である。
「……す、すまなかった。パルミラ。もう二度と、あのババァ……いや、義母のことを言うまい。だから許してくれまいか」
「陛下! 私、アマーリエ様を罵っているのを見て、他の誰かが私を年増と罵っているのではないかと怖かったのですわ!」
瞳に涙を浮かべ、愛人にしがみつく。
「陛下は心優しく寛大な方ですから、信じておりましたわ。でも、辛かったんですの……」
「おぉぉ! パルミラ! 私の女神! そのようなことで心を痛めていたのか? 優しい女だ……! 大丈夫だ。お前ほど美しい女はいない! 信じてくれ」
「陛下!」
こんなアホらしい茶番はないと、配下はいつの間にか下がっており、静かになっていた。
しかし、冷静に国王を操るパルミラに、周囲は恐れるのだった。
0
お気に入りに追加
703
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる