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第7章
アソシアシオン教国
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「聖女の一人が婚約するだと!」
声が響き渡る。
「それに、もう一人生まれた聖女を隠し、あの国は我らを……いや神を馬鹿にするのか!」
「……しかしながら……猊下」
サーパルティータの現国王の息子でアマーリエの兄、枢機卿の一人であるアーティスが頭を下げ告げる。
「最近のあの国のやり方は、我らを馬鹿にしているのかと思う程でございます。私は母国を捨て神に仕えてはおりますが、あの国には元聖女の異母妹が嫁いでおります。それはここアソシアシオン教国とサーパルティータ、あの国との繋がりを深める為に嫁がせましたが、先代国王は寵姫と現王を寵愛し、神が認めた妃であるアマーリエを貶め、その上、あの国で生まれた聖女フェリシアをギロチンで殺そうとしました。私の異母妹は息のない聖女を引き取ったとか。エメルランドは現王の王妃が母国に戻ったまま……」
「だがそれは我らが悪い訳ではない!」
「いえ、先先代猊下のご命令で、我が国の聖女であった我が妹アマーリエがあの国に行ってしまったのです。私の国の痛手、喪失感は如何ばかりだったか……その上、向こうの国ではアマーリエは王妃として扱われず、肩身の狭い存在でした。アマーリエの生んだ第2王子アルフレッドも、父親にいないものとして扱われていたとか」
いつもならアマーリエの嫁いだ国の枢機卿があれこれ言い訳するのだが、王子の次に神の怒りを買い教会に留まっている為、今まで隠され、サーパルティータ国王や王太子がやきもきしていた内容を代わりに暴露する。
「アマーリエは現在の王の乳母、それ以下のように扱われ、王宮に居づらいと息子と共に出て行ったのです。アマーリエの母は身分が然程高い妃ではないですが、美しく、その血を引いたアマーリエを我が国では光の聖女と呼んでおりました。アマーリエの母親が亡くなると、私の母が実の娘として可愛がっていたのです。その娘への仕打ちに母は嘆き病気になり亡くなりました。父や、我々兄弟の怒りは……」
サーパルティータは、エメルランドと共に敬虔な信者の多い国である。
エメルランドの枢機卿も、国王の遠縁の女性枢機卿である。
「そう言えば、私の国の国王陛下の姉妹であられる現国王の妃殿下は、優柔不断な国王の為に離婚はできず、再婚もできないと……あの国にはパルミナという悪女が……それに聖女フェリシアを殺したマリアという女がおります」
「ではこの国に呼び寄せればいい!」
「それでは誘拐ではありませんか。先先代猊下が、アマーリエを連れ出したのと同じ……」
サーパルティータの国王は老齢だが、かくしゃくとしていて教皇猊下にとっては、恐ろしい存在である。
しかも、サーパルティータの聖女を連れ出した過去で今現在、教国の立場が弱い。
何かあるとアマーリエや、その息子のアルフレッドのことを出してくるのである。
「それならば我らが預かりましょう」
「エメルランドの……アマーリエは私の妹ですよ。その近い聖女フェリシアやもう一人の聖女は私どもが」
「では、貴方方の権力が、又増すではありませんか!」
「辛い立場から逃げ帰った者と、残って努力して立場を確立した者の違いですよ」
アーティスは顔を赤黒くする女性枢機卿に微笑む。
「そちらの国にも聖女は生まれるでしょう。その時にはお助け致しますよ。今はただ見守っていただけませんか? 関係のない貴方に口出しされては……国家間の対立になりますよね?」
「お、王女殿下に……」
「今更でしょう? それに、余りありもしないことを言うと……あの国の枢機卿のようになるのではないですか?……では猊下、エメルランドの枢機卿、失礼致します」
頭を下げ、アーティスは下がっていく。
そして、近づいてきた側近に、
「一回サーパルティータに戻り、その後アマーリエの元に向かう。その準備をしておいてくれ」
「畏まりました。枢機卿様」
アーティスは微笑み、
「アルフレッドも大きくなっただろうな。会えるのが楽しみだ」
と呟いたのだった。
声が響き渡る。
「それに、もう一人生まれた聖女を隠し、あの国は我らを……いや神を馬鹿にするのか!」
「……しかしながら……猊下」
サーパルティータの現国王の息子でアマーリエの兄、枢機卿の一人であるアーティスが頭を下げ告げる。
「最近のあの国のやり方は、我らを馬鹿にしているのかと思う程でございます。私は母国を捨て神に仕えてはおりますが、あの国には元聖女の異母妹が嫁いでおります。それはここアソシアシオン教国とサーパルティータ、あの国との繋がりを深める為に嫁がせましたが、先代国王は寵姫と現王を寵愛し、神が認めた妃であるアマーリエを貶め、その上、あの国で生まれた聖女フェリシアをギロチンで殺そうとしました。私の異母妹は息のない聖女を引き取ったとか。エメルランドは現王の王妃が母国に戻ったまま……」
「だがそれは我らが悪い訳ではない!」
「いえ、先先代猊下のご命令で、我が国の聖女であった我が妹アマーリエがあの国に行ってしまったのです。私の国の痛手、喪失感は如何ばかりだったか……その上、向こうの国ではアマーリエは王妃として扱われず、肩身の狭い存在でした。アマーリエの生んだ第2王子アルフレッドも、父親にいないものとして扱われていたとか」
いつもならアマーリエの嫁いだ国の枢機卿があれこれ言い訳するのだが、王子の次に神の怒りを買い教会に留まっている為、今まで隠され、サーパルティータ国王や王太子がやきもきしていた内容を代わりに暴露する。
「アマーリエは現在の王の乳母、それ以下のように扱われ、王宮に居づらいと息子と共に出て行ったのです。アマーリエの母は身分が然程高い妃ではないですが、美しく、その血を引いたアマーリエを我が国では光の聖女と呼んでおりました。アマーリエの母親が亡くなると、私の母が実の娘として可愛がっていたのです。その娘への仕打ちに母は嘆き病気になり亡くなりました。父や、我々兄弟の怒りは……」
サーパルティータは、エメルランドと共に敬虔な信者の多い国である。
エメルランドの枢機卿も、国王の遠縁の女性枢機卿である。
「そう言えば、私の国の国王陛下の姉妹であられる現国王の妃殿下は、優柔不断な国王の為に離婚はできず、再婚もできないと……あの国にはパルミナという悪女が……それに聖女フェリシアを殺したマリアという女がおります」
「ではこの国に呼び寄せればいい!」
「それでは誘拐ではありませんか。先先代猊下が、アマーリエを連れ出したのと同じ……」
サーパルティータの国王は老齢だが、かくしゃくとしていて教皇猊下にとっては、恐ろしい存在である。
しかも、サーパルティータの聖女を連れ出した過去で今現在、教国の立場が弱い。
何かあるとアマーリエや、その息子のアルフレッドのことを出してくるのである。
「それならば我らが預かりましょう」
「エメルランドの……アマーリエは私の妹ですよ。その近い聖女フェリシアやもう一人の聖女は私どもが」
「では、貴方方の権力が、又増すではありませんか!」
「辛い立場から逃げ帰った者と、残って努力して立場を確立した者の違いですよ」
アーティスは顔を赤黒くする女性枢機卿に微笑む。
「そちらの国にも聖女は生まれるでしょう。その時にはお助け致しますよ。今はただ見守っていただけませんか? 関係のない貴方に口出しされては……国家間の対立になりますよね?」
「お、王女殿下に……」
「今更でしょう? それに、余りありもしないことを言うと……あの国の枢機卿のようになるのではないですか?……では猊下、エメルランドの枢機卿、失礼致します」
頭を下げ、アーティスは下がっていく。
そして、近づいてきた側近に、
「一回サーパルティータに戻り、その後アマーリエの元に向かう。その準備をしておいてくれ」
「畏まりました。枢機卿様」
アーティスは微笑み、
「アルフレッドも大きくなっただろうな。会えるのが楽しみだ」
と呟いたのだった。
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