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第2章
弟の妻を寝取っただらしない兄と、仲の悪い父親達
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玉座の間の扉の前には、何故か疲れ切った衛兵が立っていた。
「どうかしたのか?」
「あっ! 騎士団長閣下! それに宰相閣下!」
二人はあえて、カーティスを隠すように立っている。
「いえ、それが……」
すると、中から響くのは、
「罪人フェリシア嬢、いや、悪女フェリシアの家族であるカーティス卿一家を捕らえ、財産の没収と処刑を!」
「陛下が庇っておられたから、増長したのです」
「そうですとも! お優しい陛下をないがしろにした、騎士団長も魔術師長も同罪です!」
アルフレッドは溜息をつく。
馬鹿兄貴を持って最悪だと思う瞬間である。
しかも、普通玉座の間には王妃の座があるが、そこに座っているのは、アルフレッドの元妻で兄王の愛人、寵姫パルミラ。
権力に焦がれ、最年少の宰相として兄の代わりに政務を続けるアルフレッドよりもと、兄王にコナをかけ関係を結んだ。
隣国エメルランドの中級貴族の庶子だったパルミラと、同じ国の当時の国王の王女だった正妃……。
王は王妃を立てるべきだった。
しかし、欲望に溺れた王は王妃を拒否し、王妃は一人息子を置き去りにし実家に帰った。
王妃の生家はパルミラの実家を取り潰したが、庶子だったパルミラは逆に喜んだらしい。
それからその国との関係は悪化の一途を辿っており、騎士団長のラインハルトは隣国との国境に出向き、滅多に帰れない日々を送っている。
時々、ルシアンも向かい、そしてカーティスは外交交渉の為に、ほぼこの国に帰ってこられない。
愛欲に溺れる国王からいつ手を引くか、彼らは考えていた所なのである。
「ほほう……貴殿らは、おめでたいはずの王太子殿下の結婚式の祝福もせず、ここに集まっておられたのか!」
ラインハルトは声を上げた。
よく響くラインハルトの声に、国王も肩を震わせ、視線を彷徨わせている。
「き、騎士団長よ。我が息子の結婚式は終わったか?」
上ずる声に、
「終わるどころか、我らが散会しましても続いております」
「仲がよろしいですね。陛下とパルミラ殿のように」
にっこりと笑うのは、同じ城内に居ても顔を合わせることのない異母兄弟。
先代国王は正妃との結婚前に恋人がおり、身分差と相手に結婚歴があり、結婚は認められず愛人として後宮に住まい、生まれたのが現在の国王。
その後寵姫が亡くなり、嫁いできたサーパルティータ国の王女だった王妃との間に生まれたのが、アルフレッドである。
アルフレッドは小さい頃に父王が亡くなったので、縁戚の公爵家に養子に出、皇太后の母も王宮は息苦しいと息子の屋敷に住んでいる。
「お、おぉ。久しぶりだな。アルフレッド。何処にいたのだ」
「毎日、この城におりましたが? 度々陛下にお会いしたいと申し上げましたが……お忘れでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだったな! そ、その時は……」
「私の具合が悪く、ついていて下さったのですわ……!」
マナーも何もない、昼間なのに胸を大きく開け、スリットの深い夜用のドレスを纏った女が唇を持ち上げる。
「君には聞いていないけれど?」
「あら! そうでしたの? アルフレッド様」
「人の名前を軽々しく呼んで欲しくもないんだ。因みに君の身分は、私に声をかけられるものかな?」
「何ですって!」
「……解らないのか? では言い直そうか。この国でも、母国でも何の身分もないお前から、私に声をかけることが出来るのか? 戻る生家もない? 拠り所もない? この国の正妃でもないお前が、私に?」
無表情で問いかける弟に、焦ったように、
「アルフレッド……いや、宰相。何かあったのか? 息子夫婦は……」
「あぁ、二人ですか? 教会で今もおりますよ」
「置いてきたのか!」
立ち上がった兄王に、幼馴染の間から姿を見せたカーティスが微笑む。
「本当に素晴らしい式でしたね? 陛下も父なのですから、参列されればよろしかったのです。このような所で、私の家のありもしない罪を作り上げるような、姑息な輩と楽しげに話しをされる暇があるのなら、愛息であられる殿下の式に、父として。私共が参列するよりも喜ばれたでしょう」
「い、いや……そ、それは……」
「それとも、フェリシアを失った悲しみに打ちひしがれる私達家族の様子を見て、嗤うおつもりだったのですか? 流石に趣味がいい方ですな」
カーティスは幼馴染を見る。
「そう言えば……騎士団長。死刑執行人について……」
「そうだった。陛下。死刑執行人の一族が途絶えました」
「えっ? ど、どういうことだ!」
「カーティスの娘を殺すように王子に強要され、殺したことに耐えきれず、妻子と共に命を絶ったとのことにございます。まぁ、死刑というのは、手足を縛り付け動けなくさせた、本当に罪人かどうかも判らない者を殺していく、野蛮な行為ですから……前々から私達は……」
三人は頷く。
しかし、国王におもねる一派は、
「何を! それよりも戦場に立つ方が余程野蛮かと」
「それに、死刑は見せしめとして必要かと!」
「民も集まり、祭りのように……」
「今回は一般市民は参りませんでしたね? どなたかの私兵が、意見を言う者に暴力を振るったとか……早速、私の元に書類がありましたよ」
アルフレッドは皮肉を言う。
「それに、死刑執行人がいなければどうするのです? 貴方がたがなりますか?」
「そ、それは……遠慮……」
「あぁ、それに、戦場に向かう我ら騎士団に向かって言い放った言葉、謝罪して頂きたい! 我ら騎士を愚弄したな? 私は騎士団長として、部下や自らの尊厳を貶める言葉は許せん!」
ラインハルトは大声で怒鳴りつける。
「我らが国境を守らねば、攻められるのは必須! その原因を作ったのは誰だ! それを必死に対策を取る為に出かけるカーティス卿に、礼を言わねばならん筈だ! それなのに!」
「騎士団長……構わない。私は可愛いフェリシアを奪われた……この国に恩も何もない。荷物をまとめ、この王都から去ろうと思う」
「そうだな。我らもそうしよう! 兵を集めて、それぞれに手配をさせて頂く!」
「では、失礼致します」
「ま、待ってくれ!」
国王は顔色を変える。
「この国から兵がいなくなると、誰が私達を守るのだ! それに元はと言えば、フェリシアが嫌がらせをしたと言っていたのだぞ? 息子は! 自分のことが好きだから、恋人に嫌がらせをと……」
「はっ!」
「申し訳ありませんが、うちの娘は貴方の命令で婚約者にされただけで、この爪の先程も、殿下を好きじゃないですよ?」
ラインハルトとカーティスは嘲笑う。
「逆に、婚約を白紙にして欲しいと、何度も泣きながら母上に頼みに来てましたねぇ……母上は、フェリシアを可愛がっていますので」
アルフレッドは呟くが、
「あぁ、お二人共。あの、新しい死刑執行人になる者を連れてきては如何でしょう?」
「あぁ、そうだな」
「入りなさい」
その言葉に、戒められ姿を見せた一族は横に並ばされ、膝をつき座らされる。
「新しい死刑執行人の一族です。重い罪を負い、死を選ぶよりこちらを望みましたので、名前も姓も奪いました。これからは性別と数字で呼ばれるようになります」
「なっ! こ、この者達は!」
「罪人です。罪もない者を罪人にし、殺したと自白致しました。身分は元男爵。罪人に貶められたのは公爵令嬢。男爵は……特に一代男爵ですので、平民も同然」
アルフレッドはにっこりと笑う。
「あぁ、確か、この辺りの女狐も爵位もなく、財政を掠め取っておりますね? その女狐を捕らえ、散財したものを国庫に戻して頂くことも考えておりますが……」
「誰が女狐! 私は……」
「おや? 私は狐と言っただけですよ? パルミラ……これ以上私を陥れようとしたらどうなるか……分かっていますよね? 兄上も……これ以上お痛をすると、サーパルティータを敵に回しますが?」
サーパルティータは、アルフレッドの母の母国である。
周囲の国の中でも大きく勢力も強い。
その上、正妃として嫁いだのに、生まれたアルフレッドを王位から遠ざけたことで、こちらとも軋轢が生じ始めている。
国王は唇を震わせる。
「わ、分かった! 新しい死刑執行人として認めよう」
「ありがとうございます。では、私共は失礼致します」
優雅に礼をしたアルフレッドは、二人と罪人……処刑執行人No.1達を促し下がっていったのだった。
「どうかしたのか?」
「あっ! 騎士団長閣下! それに宰相閣下!」
二人はあえて、カーティスを隠すように立っている。
「いえ、それが……」
すると、中から響くのは、
「罪人フェリシア嬢、いや、悪女フェリシアの家族であるカーティス卿一家を捕らえ、財産の没収と処刑を!」
「陛下が庇っておられたから、増長したのです」
「そうですとも! お優しい陛下をないがしろにした、騎士団長も魔術師長も同罪です!」
アルフレッドは溜息をつく。
馬鹿兄貴を持って最悪だと思う瞬間である。
しかも、普通玉座の間には王妃の座があるが、そこに座っているのは、アルフレッドの元妻で兄王の愛人、寵姫パルミラ。
権力に焦がれ、最年少の宰相として兄の代わりに政務を続けるアルフレッドよりもと、兄王にコナをかけ関係を結んだ。
隣国エメルランドの中級貴族の庶子だったパルミラと、同じ国の当時の国王の王女だった正妃……。
王は王妃を立てるべきだった。
しかし、欲望に溺れた王は王妃を拒否し、王妃は一人息子を置き去りにし実家に帰った。
王妃の生家はパルミラの実家を取り潰したが、庶子だったパルミラは逆に喜んだらしい。
それからその国との関係は悪化の一途を辿っており、騎士団長のラインハルトは隣国との国境に出向き、滅多に帰れない日々を送っている。
時々、ルシアンも向かい、そしてカーティスは外交交渉の為に、ほぼこの国に帰ってこられない。
愛欲に溺れる国王からいつ手を引くか、彼らは考えていた所なのである。
「ほほう……貴殿らは、おめでたいはずの王太子殿下の結婚式の祝福もせず、ここに集まっておられたのか!」
ラインハルトは声を上げた。
よく響くラインハルトの声に、国王も肩を震わせ、視線を彷徨わせている。
「き、騎士団長よ。我が息子の結婚式は終わったか?」
上ずる声に、
「終わるどころか、我らが散会しましても続いております」
「仲がよろしいですね。陛下とパルミラ殿のように」
にっこりと笑うのは、同じ城内に居ても顔を合わせることのない異母兄弟。
先代国王は正妃との結婚前に恋人がおり、身分差と相手に結婚歴があり、結婚は認められず愛人として後宮に住まい、生まれたのが現在の国王。
その後寵姫が亡くなり、嫁いできたサーパルティータ国の王女だった王妃との間に生まれたのが、アルフレッドである。
アルフレッドは小さい頃に父王が亡くなったので、縁戚の公爵家に養子に出、皇太后の母も王宮は息苦しいと息子の屋敷に住んでいる。
「お、おぉ。久しぶりだな。アルフレッド。何処にいたのだ」
「毎日、この城におりましたが? 度々陛下にお会いしたいと申し上げましたが……お忘れでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだったな! そ、その時は……」
「私の具合が悪く、ついていて下さったのですわ……!」
マナーも何もない、昼間なのに胸を大きく開け、スリットの深い夜用のドレスを纏った女が唇を持ち上げる。
「君には聞いていないけれど?」
「あら! そうでしたの? アルフレッド様」
「人の名前を軽々しく呼んで欲しくもないんだ。因みに君の身分は、私に声をかけられるものかな?」
「何ですって!」
「……解らないのか? では言い直そうか。この国でも、母国でも何の身分もないお前から、私に声をかけることが出来るのか? 戻る生家もない? 拠り所もない? この国の正妃でもないお前が、私に?」
無表情で問いかける弟に、焦ったように、
「アルフレッド……いや、宰相。何かあったのか? 息子夫婦は……」
「あぁ、二人ですか? 教会で今もおりますよ」
「置いてきたのか!」
立ち上がった兄王に、幼馴染の間から姿を見せたカーティスが微笑む。
「本当に素晴らしい式でしたね? 陛下も父なのですから、参列されればよろしかったのです。このような所で、私の家のありもしない罪を作り上げるような、姑息な輩と楽しげに話しをされる暇があるのなら、愛息であられる殿下の式に、父として。私共が参列するよりも喜ばれたでしょう」
「い、いや……そ、それは……」
「それとも、フェリシアを失った悲しみに打ちひしがれる私達家族の様子を見て、嗤うおつもりだったのですか? 流石に趣味がいい方ですな」
カーティスは幼馴染を見る。
「そう言えば……騎士団長。死刑執行人について……」
「そうだった。陛下。死刑執行人の一族が途絶えました」
「えっ? ど、どういうことだ!」
「カーティスの娘を殺すように王子に強要され、殺したことに耐えきれず、妻子と共に命を絶ったとのことにございます。まぁ、死刑というのは、手足を縛り付け動けなくさせた、本当に罪人かどうかも判らない者を殺していく、野蛮な行為ですから……前々から私達は……」
三人は頷く。
しかし、国王におもねる一派は、
「何を! それよりも戦場に立つ方が余程野蛮かと」
「それに、死刑は見せしめとして必要かと!」
「民も集まり、祭りのように……」
「今回は一般市民は参りませんでしたね? どなたかの私兵が、意見を言う者に暴力を振るったとか……早速、私の元に書類がありましたよ」
アルフレッドは皮肉を言う。
「それに、死刑執行人がいなければどうするのです? 貴方がたがなりますか?」
「そ、それは……遠慮……」
「あぁ、それに、戦場に向かう我ら騎士団に向かって言い放った言葉、謝罪して頂きたい! 我ら騎士を愚弄したな? 私は騎士団長として、部下や自らの尊厳を貶める言葉は許せん!」
ラインハルトは大声で怒鳴りつける。
「我らが国境を守らねば、攻められるのは必須! その原因を作ったのは誰だ! それを必死に対策を取る為に出かけるカーティス卿に、礼を言わねばならん筈だ! それなのに!」
「騎士団長……構わない。私は可愛いフェリシアを奪われた……この国に恩も何もない。荷物をまとめ、この王都から去ろうと思う」
「そうだな。我らもそうしよう! 兵を集めて、それぞれに手配をさせて頂く!」
「では、失礼致します」
「ま、待ってくれ!」
国王は顔色を変える。
「この国から兵がいなくなると、誰が私達を守るのだ! それに元はと言えば、フェリシアが嫌がらせをしたと言っていたのだぞ? 息子は! 自分のことが好きだから、恋人に嫌がらせをと……」
「はっ!」
「申し訳ありませんが、うちの娘は貴方の命令で婚約者にされただけで、この爪の先程も、殿下を好きじゃないですよ?」
ラインハルトとカーティスは嘲笑う。
「逆に、婚約を白紙にして欲しいと、何度も泣きながら母上に頼みに来てましたねぇ……母上は、フェリシアを可愛がっていますので」
アルフレッドは呟くが、
「あぁ、お二人共。あの、新しい死刑執行人になる者を連れてきては如何でしょう?」
「あぁ、そうだな」
「入りなさい」
その言葉に、戒められ姿を見せた一族は横に並ばされ、膝をつき座らされる。
「新しい死刑執行人の一族です。重い罪を負い、死を選ぶよりこちらを望みましたので、名前も姓も奪いました。これからは性別と数字で呼ばれるようになります」
「なっ! こ、この者達は!」
「罪人です。罪もない者を罪人にし、殺したと自白致しました。身分は元男爵。罪人に貶められたのは公爵令嬢。男爵は……特に一代男爵ですので、平民も同然」
アルフレッドはにっこりと笑う。
「あぁ、確か、この辺りの女狐も爵位もなく、財政を掠め取っておりますね? その女狐を捕らえ、散財したものを国庫に戻して頂くことも考えておりますが……」
「誰が女狐! 私は……」
「おや? 私は狐と言っただけですよ? パルミラ……これ以上私を陥れようとしたらどうなるか……分かっていますよね? 兄上も……これ以上お痛をすると、サーパルティータを敵に回しますが?」
サーパルティータは、アルフレッドの母の母国である。
周囲の国の中でも大きく勢力も強い。
その上、正妃として嫁いだのに、生まれたアルフレッドを王位から遠ざけたことで、こちらとも軋轢が生じ始めている。
国王は唇を震わせる。
「わ、分かった! 新しい死刑執行人として認めよう」
「ありがとうございます。では、私共は失礼致します」
優雅に礼をしたアルフレッドは、二人と罪人……処刑執行人No.1達を促し下がっていったのだった。
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