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別視点2
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力尽きてぐったりする義弟を尻目に、ウェイトは壁に寄せて備え付けられたベンチに座り込んだ。
ルーに一旦監視を頼み、別の仕事をしてきたのだ。
ついでに、冷えた水に柑橘を搾り、塩を足したものをピッチャーになみなみと入れて持ってきてテーブルに置いている。
ルーは、少し前にシャワーを浴びて戻ってきていて、ブーツを脱いでサンダル姿だが、ウェイトはこの程度ならと目こぼししている。
「そういえば、残骸に50人ほどの子供たちが集まってるそうだ。地域は結構分散。一番多いのはファルト、次がマガタ……」
先に座っていた椅子に座り直したルーは、腕を組む。
「……俺が地域を回って話した子たちは、きてただろうか……」
「確か、お前に聞いてた子供の数より一人多かったはずだ。明日、シェールダムとカズールから到着するから、もう少し増えるらしい。一応、本来明日合流のカズール領とシェールダムの子供が3人、今日合流した。他にジェローム先輩の娘さんとパシヴァル先輩の息子と、後一人、レイ先輩が連れてきた子供と一室で過ごしているそうだ」
「……えっ? レイ先輩って、子持ちだったのか?」
いち早く立ち直ったエリオットに、こいつは……と呆れながら、ウェイトが答える。
「そんなわけはないだろ! 先輩はシェールダムで、王宮騎士としてリオンのサポートに、非常勤とはいえ大学院の講師、その合間に研究して、ほぼ休みなしだとリオンが言ってた。同じ地域……シェールダムに住んでるシュティーン先輩にも会う暇がないらしい」
「……まぁ、シュティーン先輩は、王宮にほぼ閉じ込められてる状態だしな……で、ウェイト。他の先輩方の子供はいいとして、レイ先輩の連れてきた子って、身元は?」
ピッチャーとグラスを引き寄せ、ぐびぐび飲み始めるエリオットの腹を、後何日でシックスパックにしてやろうかと思いながら問いかけたルーは、次の言葉に愕然とした。
「うーん……分からん」
「はぁぁ?」
騎士団の情報戦の要であり、国でも情報収集を担うレイル家の嫡子の言葉に、飲んでいた果実水を吐き出すエリオットと、青ざめるルー。
レイル家は10公爵の一家。
元々先祖は王家と縁があった上に、マルムスティーン家の分家に当たる家で、外交を担うマルムスティーン家当主のサポートとして暗部、情報収集を主に担う。
本名を明かしていないウェイトの父は、現在の当主兄弟の幼馴染兼諜報のトップとして、ほぼ外国を飛び回り続けている。
一応、ウェイトと妹は騎士団所属、ウェイトのすぐ上のナーニャは《妖精たちの輪》のトップデザイナーのため顔を晒しているが、ナーニャ以外の姉3人は顔を出すことはない。
ウェイトも姉たちのことは話すこともないし、妹の夫であるエリオットも一人ずつ1回しか会っていないので、あまり記憶になかったりする。
「おい! お前の家の諜報でも分からないのか? 危険じゃないのか?」
「そうだよ、義兄さん!」
「って言ったってな……一応、届いた情報は、闇ギルドに縁はない。レイ先輩は5、6歳……と思ったらしいが、文字がわかって、自分の名前の綴りを説明できる。自分は家族がいない。記憶がない。ってことだけだ」
ポケットから手帳を出し、書き込みを確認する。
「名前はユーザーと名乗ったそうだ。でも、文字の綴りはUserじゃなくUther。名前は小さい頃からこう呼ばれていると思うと言っていた。家族だというのは、子供の両掌に乗せたくらいの、二本足で立ち、小さい手のひらで果物を掴んで食べる生き物だそうだ」
「あのさぁ……5、6歳って、連れてきていいのか?」
「一応、その子を保護して、周囲に聞いたそうだ。町のゴミを拾って、分別して引き取り屋に持っていってお金に交換とかしていたらしい。物も盗むでもなく、町外れの昔使っていた倉庫に住んでいた。レイ先輩に会った時は、先輩が落とした時計を拾って届けてくれたそうだ。町の人によると大人しいし、逆に人見知りで、古いマントを被って、顔も見たことがないともあったな。ウィンも会ったことがあるらしいが、靴やブーツじゃなく、布を巻いた足。マントやその下の服は、町の人がゴミ捨て場に置いた古着を繕った物らしいとあった」
「いつ頃から住んでいるとか、調べられそうか? どこからきたというのは……髪の色とか、瞳の色とか……」
「それは調査中だ。一応、残骸で明日、全体で簡単な身体測定がある。身長、体重の確認だ。その時にわかるだろ。もし、訓練についていけなかったとしても、多分、新しく館長になったエイ叔父上が何とかすると思う」
ウェイトの言葉に、ルーは濃いめに染めた髪を乱暴にかきあげる。
「……まただ……俺は、あの時の力のなさを悔い続けるしかないのか……あの時、手を伸ばしていたら……俺が行っていたら……」
「いやいや……兄貴は、目つけられてたんだろ? もし強行したら、余計に悪化してたじゃん」
「フィアが死にかかることもなかったかもしれない! それに!」
「かもとか、たらればって、希望的ってか、お前のただの願望だ。どうなることもない。ただ、自分の心が軽くなるってだけだ。アホ」
ウェイトは、手帳に挟んだペンをくるくる回しながら言い放つ。
「テメェらがすることは、ここで何ができるか、だ。ついでに、ルー。お前は見た目はいいが、単純。もう少し上手く立ち回れ。それでも元紅騎士団所属か? エリオットは、筋トレをフィア並みに増やすことを命じる」
「な、何で! フィアと同じに鍛えるとしたら、俺、早朝に出勤じゃん!」
「時間ギリギリに出勤するのがおかしい。嫌なら勤務の後に、サービス残業させるぞ」
「そ、それだけはぁぁ!」
エリオットが悲鳴をあげるのを、うるさいなぁといなすウェイトをチラッと見たルーは、
ウェイトは、本気で腹立ててる時って、ペン回してるんだよなぁ……八つ当たりされたくないな。馬鹿は差し出しておこう……
と思ったのだった。
ルーに一旦監視を頼み、別の仕事をしてきたのだ。
ついでに、冷えた水に柑橘を搾り、塩を足したものをピッチャーになみなみと入れて持ってきてテーブルに置いている。
ルーは、少し前にシャワーを浴びて戻ってきていて、ブーツを脱いでサンダル姿だが、ウェイトはこの程度ならと目こぼししている。
「そういえば、残骸に50人ほどの子供たちが集まってるそうだ。地域は結構分散。一番多いのはファルト、次がマガタ……」
先に座っていた椅子に座り直したルーは、腕を組む。
「……俺が地域を回って話した子たちは、きてただろうか……」
「確か、お前に聞いてた子供の数より一人多かったはずだ。明日、シェールダムとカズールから到着するから、もう少し増えるらしい。一応、本来明日合流のカズール領とシェールダムの子供が3人、今日合流した。他にジェローム先輩の娘さんとパシヴァル先輩の息子と、後一人、レイ先輩が連れてきた子供と一室で過ごしているそうだ」
「……えっ? レイ先輩って、子持ちだったのか?」
いち早く立ち直ったエリオットに、こいつは……と呆れながら、ウェイトが答える。
「そんなわけはないだろ! 先輩はシェールダムで、王宮騎士としてリオンのサポートに、非常勤とはいえ大学院の講師、その合間に研究して、ほぼ休みなしだとリオンが言ってた。同じ地域……シェールダムに住んでるシュティーン先輩にも会う暇がないらしい」
「……まぁ、シュティーン先輩は、王宮にほぼ閉じ込められてる状態だしな……で、ウェイト。他の先輩方の子供はいいとして、レイ先輩の連れてきた子って、身元は?」
ピッチャーとグラスを引き寄せ、ぐびぐび飲み始めるエリオットの腹を、後何日でシックスパックにしてやろうかと思いながら問いかけたルーは、次の言葉に愕然とした。
「うーん……分からん」
「はぁぁ?」
騎士団の情報戦の要であり、国でも情報収集を担うレイル家の嫡子の言葉に、飲んでいた果実水を吐き出すエリオットと、青ざめるルー。
レイル家は10公爵の一家。
元々先祖は王家と縁があった上に、マルムスティーン家の分家に当たる家で、外交を担うマルムスティーン家当主のサポートとして暗部、情報収集を主に担う。
本名を明かしていないウェイトの父は、現在の当主兄弟の幼馴染兼諜報のトップとして、ほぼ外国を飛び回り続けている。
一応、ウェイトと妹は騎士団所属、ウェイトのすぐ上のナーニャは《妖精たちの輪》のトップデザイナーのため顔を晒しているが、ナーニャ以外の姉3人は顔を出すことはない。
ウェイトも姉たちのことは話すこともないし、妹の夫であるエリオットも一人ずつ1回しか会っていないので、あまり記憶になかったりする。
「おい! お前の家の諜報でも分からないのか? 危険じゃないのか?」
「そうだよ、義兄さん!」
「って言ったってな……一応、届いた情報は、闇ギルドに縁はない。レイ先輩は5、6歳……と思ったらしいが、文字がわかって、自分の名前の綴りを説明できる。自分は家族がいない。記憶がない。ってことだけだ」
ポケットから手帳を出し、書き込みを確認する。
「名前はユーザーと名乗ったそうだ。でも、文字の綴りはUserじゃなくUther。名前は小さい頃からこう呼ばれていると思うと言っていた。家族だというのは、子供の両掌に乗せたくらいの、二本足で立ち、小さい手のひらで果物を掴んで食べる生き物だそうだ」
「あのさぁ……5、6歳って、連れてきていいのか?」
「一応、その子を保護して、周囲に聞いたそうだ。町のゴミを拾って、分別して引き取り屋に持っていってお金に交換とかしていたらしい。物も盗むでもなく、町外れの昔使っていた倉庫に住んでいた。レイ先輩に会った時は、先輩が落とした時計を拾って届けてくれたそうだ。町の人によると大人しいし、逆に人見知りで、古いマントを被って、顔も見たことがないともあったな。ウィンも会ったことがあるらしいが、靴やブーツじゃなく、布を巻いた足。マントやその下の服は、町の人がゴミ捨て場に置いた古着を繕った物らしいとあった」
「いつ頃から住んでいるとか、調べられそうか? どこからきたというのは……髪の色とか、瞳の色とか……」
「それは調査中だ。一応、残骸で明日、全体で簡単な身体測定がある。身長、体重の確認だ。その時にわかるだろ。もし、訓練についていけなかったとしても、多分、新しく館長になったエイ叔父上が何とかすると思う」
ウェイトの言葉に、ルーは濃いめに染めた髪を乱暴にかきあげる。
「……まただ……俺は、あの時の力のなさを悔い続けるしかないのか……あの時、手を伸ばしていたら……俺が行っていたら……」
「いやいや……兄貴は、目つけられてたんだろ? もし強行したら、余計に悪化してたじゃん」
「フィアが死にかかることもなかったかもしれない! それに!」
「かもとか、たらればって、希望的ってか、お前のただの願望だ。どうなることもない。ただ、自分の心が軽くなるってだけだ。アホ」
ウェイトは、手帳に挟んだペンをくるくる回しながら言い放つ。
「テメェらがすることは、ここで何ができるか、だ。ついでに、ルー。お前は見た目はいいが、単純。もう少し上手く立ち回れ。それでも元紅騎士団所属か? エリオットは、筋トレをフィア並みに増やすことを命じる」
「な、何で! フィアと同じに鍛えるとしたら、俺、早朝に出勤じゃん!」
「時間ギリギリに出勤するのがおかしい。嫌なら勤務の後に、サービス残業させるぞ」
「そ、それだけはぁぁ!」
エリオットが悲鳴をあげるのを、うるさいなぁといなすウェイトをチラッと見たルーは、
ウェイトは、本気で腹立ててる時って、ペン回してるんだよなぁ……八つ当たりされたくないな。馬鹿は差し出しておこう……
と思ったのだった。
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