糸がもつれるようなもどかしい思いが恋らしい。

刹那玻璃

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出発

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 竜……ドラゴンは大きかった。
 プリシアも大きかったのに、ユーザーが住んでいたねぐらよりも大きい……。

「ほわぁぁ……いつも空を飛んでる子ですか?」
「そうだね。この子は騎士団に任務についている子で、騎士の任務で移動するときや、荷物を運ぶ時にも務めてくれるよ。全部で20騎いるね」
「そんなに?」
「まだ新しく任務につく子もいるよ。訓練が必要なんだ。訓練士や一緒に飛ぶ竜騎士も育てる必要があるからね。騎士の館ではドラゴンやププと同じナムグの事も勉強できるんだ。私の同僚にも騎獣の教育者になったものもいるし、別の道に進む子もいるよ」

 レイ先生が待機していた竜騎士に軽く手を上げて合図していたので、ボクは頭を下げて挨拶する。
 そして、ドラゴンの横にある梯子に近づく。
 あれ?

「先生、なんでお腹の下に箱があるんですか?」
「あぁ、今度授業で教えることになると思うけれど、ドラゴンの背中は翼があるし、飛行の邪魔になるからあまり嵩張るようなものを乗せられないんだ。だから、たくさんの荷物を運んだりするときは、お腹に背中に回したベルトで吊り下げられるようにして、長距離を飛ばす訓練をしているんだ。今回はププと私が乗ろうと思ってね。上には10人くらいいるから、多いようなら一人くらい、このお腹の籠に乗ってもらうこともできるけど……」
「ボ、ボク! こっちがいいです。小さくなって座るので、ププと一緒に乗りたいです」
「大丈夫? 乗ってもいいよとは言ったけど、下がよく見えるんだよね」
「大丈夫です」

 縋るように頼み込む。
 頭を撫でてくれたレイ先生は、ポケットから何かを取り出す。

「じゃぁ、背中より揺れるから、酔い止めを飲もう。そして、今回は籠だけど、いつもならこの、梯子を登って、降りたら好きな場所に座ってもらうよ。ベルトを締めるからね」
「はい」

 酔い止め薬をもらったので、水筒の水で飲んだ。
 籠の前にスロープがあって、先生が歩く後ろをついて登っていく。
 籠の中は大きい。
 高さもねぐらの屋根よりも高い。
 薄いけど薄い板を編んだような壁と天井で、柱と床は金属みたいだ。
 周りをぐるっと見回していたら、ププが入ってきた。
 先生は備品の毛布を広げ、そのほぼ真ん中にププが丸くなった。
 ボクは、ププにもたれるように座る。
 先生は、ププにもう一枚毛布をかけて、スロープの外に顔を出した。
 さっきいた騎士の人に声をかけているらしい。

「こちらでもフックをするけれど、外れないか確認をよろしく。上の子供達に、お腹のベルトをしっかり止めておくことを、もう一度説明してほしい」
「はい!」
「では、頼むよ」

というと一歩下がる先生。
 スロープがゆっくり持ち上がった。
 これが蓋というか、壁に戻るらしい。
 扉が閉ざされたのを確認した先生は、両側に頑丈そうなフックをかけた。

 カチャン、カチャン

 外側からも鍵がかかる。
 レイ先生はユーザーの隣に座ると、ププにもたれかかった。

「これからしばらく寝てるといいかな……うん、お昼から忙しくなると思うから、ゆっくりしようか……」
「大丈夫ですか?」
「結構揺れるし、じっとして寝てる方がいいと思う。何か考え事をするより、寝てる方が楽かもしれないね。あ、思い出したよ。さっきのユーザーの名前の綴りなんだけど、マルムスティーン領を流れる川の神の名前だ。精霊神と言えばいいのかな? ここの北にあるアンブロシアスの支流で、冬は深い森を通る交通の一翼を担い、春になると溶けた水が一気に流れて、地域に水を送る。恵み、豊穣の神。いい名前だね」
「そうなんですか?」
「うん。私の知人が、マルムスティーンの出身でね? それに、任務についていたこともあって、思い出したよ」

 気になってたんだ……。

 そう言って笑ってくれてホッとする。

 ガタン

大きく籠が揺れて、ググッと上に持ち上がったと思ったら、後ろに倒れそうなくらい大きく傾いた気がした。
 ププにもたれてなかったら、バランスを崩して転がっていたと思う。

「び、びっくりした!」
「結構揺れるね……私もここまでとは思わなかったよ。ププありがとう」

 キュルル

「……はいはい。ププが、お礼はいいから寝ちゃいなさいだって。シアも、走り回らないなら出てゆっくりしていいよ」
「はい」
「あ、気になるようだったら、私がわかる限りだけど、騎士の館での勉強について話すよ。何が聞きたい?」
「え、えっと、騎士の館は何年勉強できますか? ボク、いっぱい勉強したいんです」
「えっと……私は5年いたかな? 剣とか武器での戦いの方法だけじゃなくて、戦術、防具の扱い、マナー、基本的な勉強に、他には基本的な手当についてとか、数日何もないところで移動、火を起こすとかの訓練もするよ」

 考える。

「ボク、前に薬草を干して売りに行ったりしてたんです。傷薬とか、回復薬とか作れる人って少ないって聞いたんですが、そういうことも教えてもらえますか?」
「あぁ、調薬? それは基本を教わるね。つい昨日、配られた授業内容では、希望者には調薬の選択授業を選べたはずだよ」

 手帳を確認し、首をかしげる。

「えっと……あれ? この人は私が知ってる薬学専攻の騎士じゃないみたいだから、今期から入ってこられる先生だね。楽しみだな。どういう授業が行われるんだろう」
「先生も知らない先生ですか?」
「あぁ、騎士の館……学校ではね、実は今年度から授業内容をかなり変更したんだ。元々、私は騎士団に所属しながら、王都にある別の学校の先生を務めていたけれど、今回、騎士の館の教官にと言われてね。数日前、授業内容をある程度まとめたって館長からの冊子を渡されて……その熱意に圧倒されたよ。同僚に当たる方の名前だけは手帳に書き込んだけれど、こーんな本みたいに分厚いし、内容は膨大すぎて……」

 親指と人差し指で厚みを説明する。

「でも、昔よりもいい環境にって、館長は考えているんだろうなって思ったよ。ユーザーは、私の最初の生徒だから、何か気になったらいつでも相談しにおいで」
「はい!」
「じゃぁ、もう少しゆっくりしよう。寒くはないかな?」
「大丈夫です。ポンチョも手袋とブーツがあるのであったかいです」

 パッと両手を見せると、先生は笑ってくれた。
 ボクが胸がポカポカとあったかくなった。
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