糸がもつれるようなもどかしい思いが恋らしい。

刹那玻璃

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試験3日前

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 ボクは、翌日から溜め込んでいた紙の束を買い取り屋さんに持っていき、ねぐらの周りを片付け、貯めて缶の底に残っていたわずかなお金を、布で丁寧に包み、草臥れたバッグに《騎士の館新入生募集》の紙と一緒に入れた。
 本当は毛布とかもあったほうがいいと思うけれど、どこもかしこも穴が空いてボロボロだし、置いておくことにした。

 当日はお昼前に集合とあったので、朝早く起きて、顔を洗って、溜めていた水はこのねぐらの近くに住む野生の生き物のために桶に出しておいた。
 水は腐る。
 食べ物と同じで腐るから、溜めておいても使う人はいない。
 まぁ、余った薪とかはねぐらにいれておいて、木の枝とかはばら撒いておいた。
 生き物が巣作りに使うだろう。

『大丈夫? 年齢とかで、乗せてくれないんじゃない?』

 背中にピョンと飛び乗って、肩に登ってきたシアは心配そうに聞いてきた。
 心配? うん、心配だ。こんな薄汚い子供追い払われて当然だと思う。
 だけど……

「……行きたい。だって、誰もいないでしょう? ボクにはシアしかいない。生きるために行きたい」
『……そうだね……うん。シアも頑張るよ』

 ボクはわずかに残ってた干したベリーをポケットに押し込んで、バッグを肩にかけ、扉を押して出て行った。



 足には布をぐるぐる巻きにして厚みを増した靴というより、足の指に紐布を足に巻いている状態。(布用草履のようなもの)
 靴なんて買えないし、足の裏が傷つかなければいい。
 でも、この格好でダメって言われたらどうしよう……。

『ユーザー。早くない? 時間って騎士団の横の時計で10のところでしょ? まだ8じゃない?』
「で、でも……順番まちしておいた方がいいかなって……」

 走るのはやめて、早足で行く。
 湖に出て、遠回りして最後のつもりで今までの道にさよならした。

 そして、町に行き、中央発着場に向かうことにした。
 ボクが普段行く場所は、中央じゃなく街でも外側だったり、商店の裏通りだから、真ん中にはほとんど行ったことはない。
 だけど、多分発着場というのだから、何かが飛んだり、降りたりする場所だろうというのはわかる。
 シアが教えてくれた。
 乗獣という、騎士が移動に使う生き物が乗り降りする場所がそれだと。
 じゃぁ、前に遠目で見た広い場所がそこだと。

 走っていると、道でキラッと光るものが見えた。
 何かが落ちているようだ。
 近づいて見てみると、鎖のついた、ボクの掌くらいの丸い何か。

「なんだろう?」
『懐中時計だよ』
「懐中時計? 誰が落としたのかな?」

 手にとってキョロキョロしていると、淡いブルーのマントのお兄さんがキョロキョロと何かを探していた。

「困ったなぁ……落としちゃった」
「あ、あの……もしかしてこれですか?」

 ボクは駆け寄って、そっと差し出した。

 汚してないよね?
 それに、ボクは盗んだんじゃないよ?
 怒られる?
 怒られるかな?

 ビクビクしながらフードの中からお兄さんを見ると、

「あ、あぁ! ありがとう! これだよ! ありがとう! これ、友人にもらったものだったんだ。見つけてくれたんだね!」

長いバサバサだけど綺麗な鳶色の髪の眼鏡をかけたお兄さんは、時計を持ったままのボクの手を握った。
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