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転生者の少女の章
楽しそうだな……と思う。
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「おにんぎょ?」
目を覚ましたナオミに作っていた人形を渡したことを伝えたら、キョトンとした。
「さっき来てたおじさんが欲しいって言ったから、あげたんだ」
「おじちゃん? ねんねしてた時に来たの?」
「起きてた時に来ただろ? 金髪で一緒にピアノ弾いてた……」
「あれは騎士のお兄ちゃんだよ。お兄ちゃん、おじちゃんじゃないもん!」
ツインテールにした耳のような髪がブンブン振り回される。
うん、髪の色だけ俺に似た。
元気な赤い髪だ。
「えっと、あの兄ちゃんは、俺の兄だから、ナオミのおじさんなんだよ」
「えー、嘘だぁ。にてない……もしかして、いぼきょうだい? えっ? パパ、どっかに落ちててひろわれたの?」
「おい! どこでそんな言葉覚えたんだ?」
「知らない~! じゃぁ、エリーちゃんはしらないおじちゃんとお出かけしたのね。あれ? エリーちゃん、おきにいりのおようふくとバッグ、もってったのかな?」
するんと横をすり抜け、その人形を入れていた箱を確認し、
「パパ、ダメじゃない! エリーちゃんのパンツとくつしたとリボン。そのまんま~! 今からこのはこを持って、エリーちゃん追いかけなさい!」
「オイオイ、やめてくれ。後で送るから」
その後、実家宛に、ナオミが詰めた人形の着せ替え服などを送った。
兄貴宛の人形の服などの荷物と、実家にこちらの特産品やリボンなどの雑貨、ナオミがあげてもいいよと言っていた刺繍したハンカチやお絵描きなどだ。
なんだかんだと、嫁のエーメと初孫のナオミが可愛いジジババは、たびたび向こうの野菜や日持ちするお菓子やおもちゃを送って来るし、用事を作っては遊びに来るのだ。
翌月、荷物を見たのと兄貴から色々聞いたらしい実家の両親と末っ子のサムが遊びに来た。
サムが恋人のように愛しているヴァイオリンをしっかり抱いて来たのを見たナオミは弾いてとねだり、そして横で歌い出す。
その後、
「そういえば、パーシー兄さんが教えてくれたんだけど、エリーゼの聞かせてくれた曲があるんでしょう? このヴァイオリンで弾いてみるね? オルガンとも演奏方法違うけど、練習したんだよ。違ってたら言ってくれる?」
「うん!」
自己流で弾くレベルのサムは、オルガンの時よりゆっくりとしたペースで弾き始める。
キラキラした目でサムを見上げていたナオミは、弾き終わった後手を叩く。
「お兄ちゃんすご~い! 上手~! 曲が流れるみたい! やっぱりオルガンは和音で、バイオリンはげんをゆみですべらせるから違うのね! 綺麗~!」
「ワオン?」
「音を重ねるの。綺麗よ~おっきな建物で弾くの。例えば、えっと、宗教音楽でね? こんなのがあるの」
オルガンの前に座り、弾き始めたものの、すぐに自分の小さな手を見てため息をつく。
「うぅぅ……指が長くなりたい」
「どうしたの?」
母さんが近づく。
「あのね、曲を弾くために、音重ねたいの。でも、ナオミの手は小さいからね、届かないの。だからね、主旋律だけ弾くの」
そして、
「タ~タ~タ~ン」
と歌い出す。
ゆったりとしたものの荘厳な曲に息を呑みつつ、チラッと横を見ると、今まで腕を組んでじっとしていた親父が涙を流していた。
一応、親父は、世界中の楽器の発見や復元が趣味で、失われつつある地域の曲も聴いて写し、遺していくのが好きらしい。
多分、兄貴にあの曲を聴いて、もしかしたらナオミが未知の曲を聴いていて、それを聴いてみたいと思っていたのだと思う。
言葉数が少ないものの、親父は感激屋だ。
ついでに新しい曲を収集できるとも思っている筈である。
「この曲は主題を繰り返すのと、そのあとそれを少し変える感じなの。そして、オルガンは空気を吹き込むことで深みも音量も増すから神聖さも増すの」
「そうなのね。じゃぁ、この音を重ねるのはこんな感じかしら?」
「うん!」
その後数時間、母さんとナオミはオルガンで音合わせをし、サムは主旋律を楽譜に起こす。
親父は時々サムの楽譜をチェックしつつ、まじまじと可愛い孫の仕草を見ていた。
しばらくしてまた疲れて寝入ったナオミ。
抱っこするのは親父。
生まれた直後に家に来た親父は、初孫が生まれたことに大喜びしたが、それ以上に孫が女の子だということにテンションが上がったらしく、あちこちに連絡しまくった。
亡くなる直前の国王陛下にも「孫娘誕生!」と届き、そちらから小ぶりだが相当な価値のある装飾品が贈られたらしい。
他にも王の親族である五爵(その中には兄貴の親友のスティファンの家も含む)の元にも《ナオミ誕生!》の連絡が回った後、そう……後に、父の叔母に当たるフェリスタの実質的当主であるマルガレーテ叔母からお叱りの手紙とどっさりと産衣やおもちゃ、タオルが届けられた。
その中には、
『好きなことをするのもいいけれど、奥さんに負担をかけすぎないように。何かあったらこちらにいらっしゃい。解っていると思いますが、我が家には部屋も沢山あるし、子供好きも多いから物を壊したり汚したりも全く気にならないわ』
とも書いてあった。
叔母は、昔旦那さんを亡くし、その後父の従姉妹に当たる一人娘が行方不明になっていたけれど、最近孫が戻って来た。
その孫は、別の家の御曹司だったが、フェリスタの唯一の後継者ということでそろそろ後継者教育が始まるようだが、騎士になりたかったと小さい頃から言っていたということもあって、今は騎士の館にいるとのこと。
それが寂しいと愚痴る叔母は、甥の子である俺たちも孫だと可愛がっている。
ナオミが少し大きくなった頃、一度実家に行く途中にお礼も兼ねて会いに行った叔母も、元気な赤子に喜んでくれた。
そして、自分が作ったのだというレースのおくるみをくれたことは大々的にしなかった。
昔、結婚のお祝いにくれた、レースの壁飾りを見た知人が譲ってくれと言い出し、かなり騒ぎになったのだ。
その知人曰く、叔母の作ったレースは10cm四方でも一年はかかるものすごく精巧な品で、その分値段も跳ね上がり、この飾りだけで一般家庭四人の一年分の収入に当たると言った。
つまり、おくるみサイズだと王都でもお屋敷一軒分の価値があると思われるのだ。
数日叔母の家に滞在中、ゆりかごの中のナオミの上にかけられていたそれは、今現在実家に置いている。
こんな下町の小さな店に置いておけなかったのと、破るか捨てるかしそうだからだそうだ。
ナオミがではなく、俺がだ。
目を覚ましたナオミに作っていた人形を渡したことを伝えたら、キョトンとした。
「さっき来てたおじさんが欲しいって言ったから、あげたんだ」
「おじちゃん? ねんねしてた時に来たの?」
「起きてた時に来ただろ? 金髪で一緒にピアノ弾いてた……」
「あれは騎士のお兄ちゃんだよ。お兄ちゃん、おじちゃんじゃないもん!」
ツインテールにした耳のような髪がブンブン振り回される。
うん、髪の色だけ俺に似た。
元気な赤い髪だ。
「えっと、あの兄ちゃんは、俺の兄だから、ナオミのおじさんなんだよ」
「えー、嘘だぁ。にてない……もしかして、いぼきょうだい? えっ? パパ、どっかに落ちててひろわれたの?」
「おい! どこでそんな言葉覚えたんだ?」
「知らない~! じゃぁ、エリーちゃんはしらないおじちゃんとお出かけしたのね。あれ? エリーちゃん、おきにいりのおようふくとバッグ、もってったのかな?」
するんと横をすり抜け、その人形を入れていた箱を確認し、
「パパ、ダメじゃない! エリーちゃんのパンツとくつしたとリボン。そのまんま~! 今からこのはこを持って、エリーちゃん追いかけなさい!」
「オイオイ、やめてくれ。後で送るから」
その後、実家宛に、ナオミが詰めた人形の着せ替え服などを送った。
兄貴宛の人形の服などの荷物と、実家にこちらの特産品やリボンなどの雑貨、ナオミがあげてもいいよと言っていた刺繍したハンカチやお絵描きなどだ。
なんだかんだと、嫁のエーメと初孫のナオミが可愛いジジババは、たびたび向こうの野菜や日持ちするお菓子やおもちゃを送って来るし、用事を作っては遊びに来るのだ。
翌月、荷物を見たのと兄貴から色々聞いたらしい実家の両親と末っ子のサムが遊びに来た。
サムが恋人のように愛しているヴァイオリンをしっかり抱いて来たのを見たナオミは弾いてとねだり、そして横で歌い出す。
その後、
「そういえば、パーシー兄さんが教えてくれたんだけど、エリーゼの聞かせてくれた曲があるんでしょう? このヴァイオリンで弾いてみるね? オルガンとも演奏方法違うけど、練習したんだよ。違ってたら言ってくれる?」
「うん!」
自己流で弾くレベルのサムは、オルガンの時よりゆっくりとしたペースで弾き始める。
キラキラした目でサムを見上げていたナオミは、弾き終わった後手を叩く。
「お兄ちゃんすご~い! 上手~! 曲が流れるみたい! やっぱりオルガンは和音で、バイオリンはげんをゆみですべらせるから違うのね! 綺麗~!」
「ワオン?」
「音を重ねるの。綺麗よ~おっきな建物で弾くの。例えば、えっと、宗教音楽でね? こんなのがあるの」
オルガンの前に座り、弾き始めたものの、すぐに自分の小さな手を見てため息をつく。
「うぅぅ……指が長くなりたい」
「どうしたの?」
母さんが近づく。
「あのね、曲を弾くために、音重ねたいの。でも、ナオミの手は小さいからね、届かないの。だからね、主旋律だけ弾くの」
そして、
「タ~タ~タ~ン」
と歌い出す。
ゆったりとしたものの荘厳な曲に息を呑みつつ、チラッと横を見ると、今まで腕を組んでじっとしていた親父が涙を流していた。
一応、親父は、世界中の楽器の発見や復元が趣味で、失われつつある地域の曲も聴いて写し、遺していくのが好きらしい。
多分、兄貴にあの曲を聴いて、もしかしたらナオミが未知の曲を聴いていて、それを聴いてみたいと思っていたのだと思う。
言葉数が少ないものの、親父は感激屋だ。
ついでに新しい曲を収集できるとも思っている筈である。
「この曲は主題を繰り返すのと、そのあとそれを少し変える感じなの。そして、オルガンは空気を吹き込むことで深みも音量も増すから神聖さも増すの」
「そうなのね。じゃぁ、この音を重ねるのはこんな感じかしら?」
「うん!」
その後数時間、母さんとナオミはオルガンで音合わせをし、サムは主旋律を楽譜に起こす。
親父は時々サムの楽譜をチェックしつつ、まじまじと可愛い孫の仕草を見ていた。
しばらくしてまた疲れて寝入ったナオミ。
抱っこするのは親父。
生まれた直後に家に来た親父は、初孫が生まれたことに大喜びしたが、それ以上に孫が女の子だということにテンションが上がったらしく、あちこちに連絡しまくった。
亡くなる直前の国王陛下にも「孫娘誕生!」と届き、そちらから小ぶりだが相当な価値のある装飾品が贈られたらしい。
他にも王の親族である五爵(その中には兄貴の親友のスティファンの家も含む)の元にも《ナオミ誕生!》の連絡が回った後、そう……後に、父の叔母に当たるフェリスタの実質的当主であるマルガレーテ叔母からお叱りの手紙とどっさりと産衣やおもちゃ、タオルが届けられた。
その中には、
『好きなことをするのもいいけれど、奥さんに負担をかけすぎないように。何かあったらこちらにいらっしゃい。解っていると思いますが、我が家には部屋も沢山あるし、子供好きも多いから物を壊したり汚したりも全く気にならないわ』
とも書いてあった。
叔母は、昔旦那さんを亡くし、その後父の従姉妹に当たる一人娘が行方不明になっていたけれど、最近孫が戻って来た。
その孫は、別の家の御曹司だったが、フェリスタの唯一の後継者ということでそろそろ後継者教育が始まるようだが、騎士になりたかったと小さい頃から言っていたということもあって、今は騎士の館にいるとのこと。
それが寂しいと愚痴る叔母は、甥の子である俺たちも孫だと可愛がっている。
ナオミが少し大きくなった頃、一度実家に行く途中にお礼も兼ねて会いに行った叔母も、元気な赤子に喜んでくれた。
そして、自分が作ったのだというレースのおくるみをくれたことは大々的にしなかった。
昔、結婚のお祝いにくれた、レースの壁飾りを見た知人が譲ってくれと言い出し、かなり騒ぎになったのだ。
その知人曰く、叔母の作ったレースは10cm四方でも一年はかかるものすごく精巧な品で、その分値段も跳ね上がり、この飾りだけで一般家庭四人の一年分の収入に当たると言った。
つまり、おくるみサイズだと王都でもお屋敷一軒分の価値があると思われるのだ。
数日叔母の家に滞在中、ゆりかごの中のナオミの上にかけられていたそれは、今現在実家に置いている。
こんな下町の小さな店に置いておけなかったのと、破るか捨てるかしそうだからだそうだ。
ナオミがではなく、俺がだ。
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