上 下
5 / 16
転生者の少女の章

献上させていただきます。

しおりを挟む
 一応、近所のおじいちゃんおばあちゃんには、リオンお兄さんが一言言いに行ってくれました。
 私は身の回りのものと、シュウさまの言っていた装飾品を包み……。

「あの……」
「なあに?」
「シエラさまのお子さん、こう言うの好きでしょうか?」

 店を片付けてくださる女神さま……もとい、幸矢さまとセイさまが振り向かれます。
 はい、女神さまとよんではダメと言われました。
 呼び捨てでもいいと言われましたが、それは絶対無理とお伝えしました。

「うわぁ、可愛いね。これはパラプル? それに小さいドラゴン」
「これ……オオサンショウウオ?」
「オオサンショウウオはこっちです。これはイアルベですね」
「……リアルすぎて気持ち悪い」
 
 あらぁ……リアルさを追求した力作が、セイさまには不評です。
 前世の写真を思い出して、再現してみたのに……。

 最大150cmになると言うオオサンショウウオですが、それは飼育下に置いたもので、野生では100cm超えるのは稀なのだそうです。
 なので、私の作ったものはそこのところをリアルに100cmにしてみました。
 イアルベは最大300cmを超えるものもいるそうですが、邪魔なので、同じサイズにしています。

 ちなみに、乾燥地帯や火山地帯に当たり前のようにいるイアルベは卵生で、何故か卵や幼体を背中にくっつけて移動し、安全なところで子供と別れるので、あまり極端に減ったりしません。
 微妙に生息域が広がりますが……。
 そして、オオサンショウウオは前世では絶滅危惧種で……って蘊蓄いりませんよね。
 でも、何故ご存知なのでしょう。

「オオサンショウウオ、ご存知なんですか?」
「うん。グランディアに普通にいるから。向こうの生き物、食物、植物持ってきたけど、いるよ? 昔のご先祖は食べ物ない時は、食べたって聞いてる」
「美味しいんでしょうか?」
「うちのじい様も食べたことないって。でも、オオサンショウウオは川ではサワガニとか、小鳥とか、魚とか食べてるらしいから美味しいのかもね。歴史書には山椒の香りがするって書いてあったね……」
「でも、進化の過程や固有種の研究で育てるだけだから、食べないよ?」

 あらら、セイさまに釘を刺されました。
 そんなに、食べてみたいと言う顔をしていたのでしょうか……。
 あぁ、でも、食い意地というより追求、探究心は衰えていません。

 幸矢さまがオオサンショウウオをじっくりみています。

「でも、ここまでリアルに再現する人いるんだね……」
「買う人いるのかな……」
「キモ可愛いと、時々帰ってくる幼なじみには好評なんですけどね~。オオサンショウウオはこの地域にはいませんし、イアルベの別種というか、伝説の生き物になりますから」

 珍しい毛足の短いものの、フワッとした感触の肌を再現した布を触る。
 気持ちいいのです。
 色褪せていましたが、いい生地だったので勿体無くて使ったくらいです。

「キモ可愛い……」
「好評って、ナオミが作ったのか?」
「はい。布は売れ残りで色褪せたものだって言うダークグリーンの布を貰ったので、ちょこっと刺繍して、布を切って、縫って手足をつけて、わた詰めしました。イアルベも私作です。抱き枕に好評なんです」
「……俺にはこれが可愛いっていうの、わかんないけど、綾は喜ぶかも……」

 遠い目をしつつ呟くセイさま。

「アヤさんですか?」
「父さんの妹。俺たちの叔母になるんだけど、俺と同じ歳。ちょっとずれた趣味なんだ……」
「カエルとかイモリとかトカゲ、好きだよね。綾ちゃんは」
「ミミズも好きだぞ」
「……お友達になりたいです」

 私も、は虫類、両生類大好きです。
 きっと仲良くなれます!

「えっと……じゃぁ、このオオサンショウウオとイアルベ、シエラさまの娘さんはパラプルとドラゴン……どっちでもいいですね。このマジックバッグに入れちゃいます」
「マジックバッグ……って、収納?」
「父が元騎士なので、別に二つ持ってました。これはパシヴァルさまに貰ったものみたいです。父の持っているうちの一つ、時間経過なしの方は、収納量は小さいみたいです。私が貰ったこちらは……うーん、多分、この家一軒分入るかな……」
「収納量多いね……」
「そうなんでしょうか?」

 よくわかりません……。

 そんな話をしつつ、気がついたものをポイポイ入れていきました。
 完成したものや作りかけのタペストリーに、裁縫道具も一緒です。
 アヤさんたちに仲良くしていただきたいので、余りあるぬいぐるみの山を全て献上品として持っていきたいと思います。
 私のベッドのお友達は、まぎれてはいけないので、今回は一匹のみにしたいと思います。

「……よく入るな……」
「自分でもびっくりです」

 あ、ナマモノは入れてませんよ。
 シュウさまに褒めていただいた刺繍ポーチも、ごっそり収納です。
 本当に容量分重くなったら困りましたね。

「ただいま~。ナオミさんできた?」

 蒼記さんとエドワードさんが顔を覗かせます。
 うーん、仕草がそっくりですね。

「できました!」
「って……最後に入れたの何?」
「あぁ、これは……作りかけの、リアル原寸サイズ! ホワイトタイガーです!」
「……こんな馬鹿でかいの作って、どこに置くの?」

 蒼記さんのツッコミが入りました。

「ソファの代わりに使います」
「……じゃぁ、綿は? 結構かかるよね?」
「うぅっ……近所の職人さんにあまり綿貰いました。それにくたびれ防止に、内側には軽い木の型を入れてます!」
「出来上がるまでに時間かかりそう」

 ポンポンツッコミが打ち返されます。
 厳しいです。

「いいのです! 出来上がったら店に置きます。あ、め……幸矢さまには、こちらを献上させていただきます」
「献上って何?」
「これでも、ちびっちゃい! リアル原寸サイズ! もふもふチビドラゴンです! 足の裏はブルードラゴンにしてみました! どぞ!」
「白い毛玉……」
「お昼寝バージョンです! このサイズは大量生産できませんので、ミニバージョンを三人に贈呈します!」

 特大サイズ……と言っても、前世の中型犬サイズの丸くなっているお昼寝ドラゴンは、たくさん作れませんでした……三人は色違いの両手サイズの四つ足で立ってるミニを渡します。

「うわぁ……これ、六槻喜びそう」

 エドワードさんはじっくりみてます。

「足の裏の刺繍が赤がレッドドラゴンです。ピンクがホワイト、黒がブラックです。カラードラゴンの幼体は、ブルードラゴンは白い毛らしいんです。他の子はブラックです」
「すごいな……こっち売ればいいのに」
「あら……じゃぁ、これも持っていきます! 進呈したいと思います! 確かアヤさまと六槻さまと……他に欲しい方いませんかね?」

 前世のキーホルダーをイメージした、タコ糸に似た丈夫な糸でバッグなどをいろどるヌイヌイと言うお試し品も実は作っている。
 ヌイヌイは、近所の幼なじみのお姉さんとか、奥さんの時間が空いた時の副業にお願いできたらなぁと、昔のキャラクター着せ替え人形とか、デフォルメしたちびドラの頭にパラプルの帽子を被せたりと言うのまで考えてたりする。
 ……私は多分結婚しないで、こう言うの作り続けて、この店で生きるんだろうなぁ……。

「あ、俺たちに2歳下の妹がいるんだけど、可愛いの譲ってくれるかな?」
「ちなみに、どちらに似られてます?」
「……えっと、俺は父方の祖父に似てて、蒼記は母方。妹の清夜さやは父方の祖母に似てるって言われてる」
「そういえば、幸矢さまたちのお父さんは……」
「大丈夫! 僕の髪と瞳が実の父親似って位で、幸矢もさーやもあの人の血がどこにあるって位似てないから!」

 自信満々に蒼記さんは言われます。

 それって大丈夫ですか?
 暗にお父さんは不細工って言ってませんか?

「たくさんありますので、向こうでドンドン選んでいただきます。セイさまのご家族もいりますか?」
「うん、母さん、そう言うの好きそう。それにちょっと体調が良くないから、元気になってほしいんだ」
「いいお母様なんですね~」
「うん、マザコンとかファザコンって言われるけど、二人が俺の両親ってことが自慢」

 す、素敵な家族です!
 しかも、思春期、反抗期年代のセイさま、照れもせず、ご両親のことを言い切る!

「では! これはどうでしょう! リアルさは追求しない! 可愛いくまさん! 手足も動きます! 赤ちゃん服の着せ替え可能! ついでに、色違いまでつけましょう!」
「……」
「重さはリアルではありませんが、体格は赤ちゃんとほぼ同じですので、可愛いと思われます、隊長!」
「……隊長って誰?」
「セイさまです!」

 うん、多分、この幼なじみの皆さんをまとめる兄貴分はセイさまなんだろうなぁ……。

「それともこちらはいかがでしょう。リアルさをこちらは追求したウォンバットです!」
「ウォンバット……?」
「有袋類って言う、他の国では珍しい動物ですけど、ここカズールの北に普通にいる固有種です。小さく生まれた赤ん坊をお腹の袋で育てる子です。この顔が癒し系なんですよね」
「本当にこんな顔なの?」
「はい! 他はクアッカとか。この子です! この子も有袋類ですね~。こう言う顔が癒されます」

 うん、かわいいんだこれが。
 前世では動物園にいて、そのもふもふ加減に一目惚れした。
 有袋類だからオーストラリアなどにすんでいる。

 でも、ここでは一応南西を流れる竜河と北西のユーザー河が一つになって、アンブロシアスと言う河になる、広大な三角州にある自然の平原に生息する動物だ。
 その地は一般は入れないが、騎士団で定期的に見回る。
 密猟を警戒してだ。
 父も元騎士だったこともあって、呼ばれて出かけることもあった。
 ごく稀に、怪我をした個体や、親とはぐれた子供を収容し、元気になったら返す。
 怪我がひどい時には、保護施設や騎士の館に預けられる。
 騎士の館では、保護した動物の手当てや餌について、生態についても学ぶのだ。
 ちなみに、一度そう言うウォンバットを数日預かったことがある。

「これ……俺、好きかも」
「幸矢、何気に可愛いもの好きだもんね。一歳でナムグの子拾ってきたり、猫や犬とか……オオカミとか、たぬきとかキツネも森に入るたびに頭下げてきて……」
「可愛いだろ? 白蓮は俺の妹だし!」
「白蓮?」
「オオカミの白蓮。旦那が黒曜、子供が睡蓮、木蓮がいる。連れてきてるんだ~。すっごく大人しいよ?」

 もふもふとウォンバットのぬいぐるみを触りながら語るお姿は、可愛らしいです。

「大人しいって……僕は近づけないよ! 彗だって!」
「蒼記が馬鹿にするからだろ? 白蓮は賢いんだから。六槻やさーやのお守りもできるし、父さんたちの狩りのサポートもできる」
「犬は……」
「猟犬がいるよ。子犬もいるけど、会ってみたい?」
「是非~! もしできれば、モフるのは無理でしょうが、一応攻撃性はないと言うことをわかっていただけるように、匂いを嗅いでいただければ~!」

 日本犬……猟犬は賢いのです。
 確か、四国犬は狼の血も引いていると言われています。
 主人を決めているのでそれ以外はプイッとするとか。
 多分、幸矢さまを主人と慕い、それ以外は関わりたくないと思っているのだと思います。
 ニホンオオカミは標本しか見ていませんが、とっても美しいと思います。

「じゃぁ、戸締りしていこうか。貴重品は持って行くんだよ」

 リオンお兄さんの言葉に、今まで忘れていた貴重品……鍵とか、お店の金庫と、私のお小遣いを慌ててしまったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...