ファンタジーのごった煮

刹那玻璃

文字の大きさ
上 下
1 / 6
スキル《田んぼ》の兄とあたし

スキル《田んぼ》

しおりを挟む
「スキルって、技術とか能力でしょう?
 なんで、ぼくの能力が《田んぼ》なんですか?」

 お金を払って、神殿にスキルをいただきにいったあと、先に戻ってきていた兄がorzの姿勢で嘆いていた。
 兄は本当に性格は弱々……こほんっ、穏やかで、ウジウジメソメソ……ううーんと可愛らしい。
 垂れ目でふわふわの長い髪。
 つり目で硬い髪のあたしとは真逆だ。
 今回は、本人曰くショボい、わからないスキルに落ち込んでるようだ。
 けれど、あたしは正直羨ましいと思った。



 ちなみに双子の妹であるあたしは、一緒に行った神殿で開示されたスキルは、

《支配者》

だった。
 しかも、

アレの支配者》



 ……。
 何?
 黒って何?
 アレって何?

 その文字をぐるぐる見ていたら、神官様たちが真っ青になってひざまづいていらっしゃった。

「どうか! どうか! アレは! お許しくださいませ!」
アレだけは! どうか……」
「どう言うことでしょう……」

 普通の黒じゃないんかい?

 ただただ土下座されるだけで、首を傾げるしかないあたしに、一番偉そうな……無駄にキラキラした重そうな装飾品に包まれたツルピカじいさんが、

「どうか!」
「どうかって……どうって意味わかんないんですけど?」
「し、支配者さま!」
「どうか、どうかっ! お許しくださいませ! ほら、皆も」

 説明もせず、ただ周りで頭を下げるだけ……に段々イラついてきたあたし。
 だって、バイトお仕事があるんだよ?
 時間が迫ってるんだよ?
 うん、あたし悪くない。

 だから、

「うっせぇわ! 黙れって言うより、ちゃんと説明しやがれ! こちとら早よ帰りたいんじゃ! ボケェ!」
「ひっ!」
「あんたらは、ふんぞりかえってりゃ、銭もらえるんだろうけどな! こちらは働かないと一枚も銭は入ってこねぇし、そうすりゃパンも服も手に入らねぇんだよ! 贅沢したけりゃあたしを帰すか、説明しやがれ! ついでにバイトの遅刻分払ってもらうからな!」
「も、申し訳ございません~!」

あたしの罵声にダラダラと汗をかいてた……じいさんたちの一人が、恐る恐る顔を上げ口を開いた。



 数日後、何故かシンプルイスベストに衣装をジョブチェンジしたらしいじいさんたちが、どこぞのイケメンと可愛い女の子を連れてうちに来た。
 迎えに来たのは、あたしじゃない。
 うちの兄だ。

「どうか、どうか……貴方様のスキルで、お助けください!」
「……はっ? ぼ、ぼくのスキルですか?」

 キョロキョロと首をあちこち向けていた兄は、

「ね、ねぇ……あーちゃん」
「何? にーちゃん」
「どうしたらいいの?」
「いってらっしゃい~あたしは、《アレ》が来るからこのじ……神官様たちに嫌われてるの」
「《アレ》ってなぁに?」

 くっそう~!
 あーちゃん、めっちゃ可愛いな!
 コテンって首傾げてるよ!

「アレってアレだよ」

 窓から外に指を指す。

「ぎゃぁぁ! 《アレの支配者》さまぁぁ!」
「お願いです!」

 ペコペコ頭を下げるじいさんたちを無視で!

「にーちゃん、あたし、黒って不吉だからって出てけって言われてるんだ~?」
「えっ? ぼくも出てく! あーちゃんいないとぼく生きてけない」
「大丈夫じゃない? にーちゃんは神官様たちに好かれてるでしょ?」
「やだ! あーちゃんの方が好きだもん! ぼくも出てく!」
「きゅ、救世主さまぁぁ!」

 ……じいさんたちのなき顔って、可愛くない……。
 目と目で会話したらしいじいさんたちの一人が、あたしに手を合わせる。
 手と手の皺を合わせて、《幸せ》ポーズ……。

「救世主様の妹様! どうか! 我々をお守りください!」
「我々ってのが、じいさんたちのふところ守れって気がするからやだね!」
「救世主様の妹様!」
「それに、出てけって言ったの、じいさんたちじゃん? こないだだって、バイトがあるって言うのに引き止められて、間に合わなかったし~? 辞めさせられたし~? その分のお金もくれないしぃ? ついでにそのさりげーにつけてる服も高級なシルクじゃん? 反省してないよね?」
「ひぃぃ!」

 怯えるじいさんをいじめるの面倒になったあたし。

「というわけで、あたしは殊勝に神殿の、神官様方の、追放命令を受け入れますよ? 無一文で追い出されますよ? 生活費だったお金もスキル鑑定費としてぶんどられましたし? えぇ、いいのです。神官様たちも贅沢したいですもんね? あたしのような貧乏人に出すお金もないでしょうし~?」
「どう言うことだ!」

 じいさんの後ろに立っていたイケメンが声を上げます。

「《黒の支配者》さまは、そんなショボいスキルじゃない! それに追放とは何だ? それに、スキル鑑定には国から金が払われていた筈! 説明しろ!」
「《黒の支配者》さま! どうかお待ちになって!」

 おぉう! かっこえぇ!
 可愛い女の子が、じいさんたちを蹴り上げ踏みつけ近づいてきた。

「お願いです! わたくしは《白の支配者》と言うスキル持ちですの!」
「……えっ」
「どうか、わたくしと共に……お願いいたします」
「オレからもどうか頼む! オレたちを見捨てないでくれ!」



 一応、このラストは、キラキラ二人に連れられて王都に向かったあたしと兄。
 あたしは《白の支配者》のお姫様と一緒に神殿を脅し……うん、黒いゴとか、黒い鳥とか、コウモリとかを出して、神殿を包囲し、白い狼とか、トラとかも日夜関係なく吠えてもらったからね。
 すぐにじいさんたちは謝罪しに来たらしい。
 それより、怒ったのがお姫様の兄だと言うイケメン。
 次期国王だと言う彼は、スキルが《破壊》だったらしい。
 《破壊》の反対は再生、もしくは何かを生み出すスキル持ちだったらしく、兄の《田んぼ》スキルは、食のスキルで探していたらしい彼には喉から手が出るほど探していたらしい。
 キレ散らかす王子が壊しまくるたびに、兄は全部田んぼにして……それはそれはのどかな場所になっていった。

 これはこれでめでたしめでたし……?


~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~

「何? これ」
「あたしが見た夢」
「オチがない……」
「だって《田んぼ》と《黒の支配者》と《破壊》だもん……」


 ちなみにあたしはあーちゃんというのが愛称
 兄はにーちゃんが愛称
 王子はモモ、王女はルルが愛称
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

処理中です...