上 下
6 / 8

奥方様の愛は重すぎます!〜乳兄弟は疲れてる〜4

しおりを挟む
 黙り込む公爵の横で、夫人はなぜかドレスのデザインが描かれた画帳を広げていた。

「見てちょうだい。これがわたくしたちの懇意にしているデザイナーのドレスです。色はこれから選んでいくのだけれど、どうかしら?」
「そうですね……お母さんは青……淡いブルー、ご令嬢は淡いピンクは如何でしょうか?」
「まぁ! わたくしのことをお母さんと呼ぶのだから、あの子のことはケイトリンかケイトでいいのよ?」
「あ、ありがとうございます……でも、恥ずかしいので練習してからでもいいですか?」

 ジークヴァルトは頬を赤くする。

 ……これは計算ではないと信じたい!

 その様子に、夫人はコロコロと笑った。

「まぁ! ケイトは素敵な旦那様で幸せね。二人で並んだら本当にとてもお似合いだわ」
「お母さんもとてもお美しいです。この画帳には、いろいろなデザインがあるのですね?」
「そうね。ここでは最初、わたくしがデザインを選んで、それに被らないものを侯爵家以下の夫人が選んでいくの。でも、少し飽きてきたわ」
「……少し子供っぽい……いえ、無駄なものが多いですね。お母さんはもっと品のあるレースとか、この、多すぎるリボンを一つを除いて、一気になくしてしまうといいのではないでしょうか?」

 大きく丸を描いて示す。

「ジークヴァルトさん! そうね!」
「それに、ケイトリンさまにもこのドレスはリボンが多すぎますし、形は未婚者には似合いません。僕はデザイナーではないですし、この手なので描けませんが、もう少しふわっとした柔らかいラインを出して、リボンの数を減らし、でも、地味にならないように可愛いパステル色が似合うのではないでしょうか?」
「はっきりした色はダメかしら?」
「まだお若いですから、今着られる色を。落ち着いた色はいつでも着られます」

 夫人は嬉しそうに微笑む。

「ジークヴァルトさんはケイトをよく見ているのね。こんな風に考えてくださる優しい旦那様ができるなんて、ケイトは幸せだわ」
「僕の方こそ、僕のような者の意見を聞いてくださるお母さんが出来て嬉しいです。これはお世辞じゃありません」
「うふふ……ジークヴァルトさんとわたくしはうまくいきそうだわ。ケイトも、不器用だけれどとてもいい子なのよ?」
「大事にします!」

 二人は共闘体制をとるらしい。
 公爵は諦めているのか口を開いた。

「カール。国王から内々にヴェルダン家に、伯爵位と領地を与えることになった。領地はここから南。先日潰れた家のあった土地だ。すでに元住人は屋敷を引き払い、南の鉱山で働かされている。愛人だった者は牢獄にいる。そして、エリク=ハインツ家は長年の功績で、子爵位を与えることになっている」
「……分かりました」
「そして、私の次はジークヴァルトが継ぐことになる。だが、新しく位の上がった伯爵家と子爵家では後見役として心許ない。そうすると、義父殿が君を養子に迎え入れたいと言う申し出があった」

 硬直する。

 ちょっと待て。
 一般人がなぜ大公殿下の養子なのか?
 大丈夫か?

「心配するな。大公の位は一代限り。つまり、娘である妻も義父殿の持つ公爵の位を持っているが、君には義父殿が持つ伯爵位を譲るとのことだ。土地はほとんどないが、毎年ある程度の収入が見込めるそうだ。そして、妻の弟として、この家に来て欲しい。なぁに、娶りたい女性がいればここに呼ぶといい」
「……まだおりません。ですが……今、私もここにと……」
「あぁ、そうだとも。部屋や身の回りのものは不自由はさせない。息子同様に扱うことにする」
「いえ、普通にお願いします」

 なぜか握り拳を作る公爵に、告げる。

「私は、ジークヴァルトのように表に立てる人物ではありません。無骨な人間ですし……です
 が認めていただいたもの以上の成果が出るよう、努力させて頂きます」
「よろしく頼むよ」

 この裏で、

『どうか、自分を助けてくれ』

と言われているような気がしたのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...