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第3章〜転
『男装の処女ブルネシャ』
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アルバニアの山奥に人知れず暮らす男装の女性たちがいる。
彼(彼女?)たちは「ブルネシャ」「宣誓処女(Sworn Virgin)」と呼ばれ、アルバニア国内でもほとんど伝説の存在と化している。
謎めいた彼らの生態を追って、アルプスの僻地を訪ねた。
筆者のマイケル・パタニティの元に写真が送られてきたとき、彼は最初それが何を意味するのか読み解くことができなかった。
それはアルバニアに暮らすオッサンや爺さんの写真だった。
けれども、すぐに「ん?」と何かが引っかかり始める。
そう。オッサンや爺さんだと思っていた被写体は、実は女性なのだ。
彼(彼女?)らはレズビアンなのだろうか?
違う。ブルネシャ(Burrnesha)と呼ばれる人たちだ。
アルバニア人にとってもその存在は謎めいている。
現在、いったい何人のブルネシャがアルバニアに生きているのか、研究者ですら明言できずにいる(多くて100人ほどと言われる)。
「まるでユニコーンみたいですね」
取材のためにアルバニアを訪れた筆者のパタニティが問うと、自身がブルネシャでもある案内人はこう答える。
「ユニコーンは実在しない。ブルネシャは実在する」
ブルネシャの起源は不確かだが、500年ほどの歴史をもつとされる。
アルバニアに古来から伝わる「Kanun」(カノン/教令)によって定められた誓いをすることで、女性が男性へと変わることが許されるのだが、こうした取り決めがなされたのは、主に男性の相続人を失った家系が財産や土地を、家族内の女性に継がせるための「抜け穴」としてだったと考えられている。
代わりに、性転換した女性は、一生処女として生きることが定められる。
筆者はアルバニアで5人ほどのブルネシャと出会う。
最年少のブルネシャは40代だが、まるで若々しい少年のように見える。
彼女は5人兄弟の末娘として生まれた。
家族に相続の問題はない。
しかし、男兄弟のなかで育った彼女は12歳のときにブルネシャとして生きていくことを決意する。
兄弟たちからの強硬な反対を押し切って彼女は自分の生きる道を決めた。
それは、アルバニアにおいて、女性が自分自身の手で人生を決める唯一といってもいい手段なのだ。
アルバニアに伝わる「カノン」は、女性というものを「夫の家にある限り、死ぬまで耐え忍ぶズタ袋」と定義している。
女性は、家庭内で決定をくだすことも、口答えも許されない。
新婚初夜に処女でないことが発覚した花嫁は射殺されても文句を言えない。
泣く子も黙る男尊女卑のスーパー封建社会なのだ。
そうしたなかで、女性が、自分の人生を選び取るのなら、ブルネシャになるしかない。
パタニティは書く。
「ブルネシャになる、ということは男になること、男として人生を生きることを意味するのではない。それはむしろ自分を浄化することだ。自分を解放し解体し、性差を超えた新しい身体を獲得するところにある」
ブルネシャたちは酪農からトラックの修理まで、男性の仕事のすべてをこなす。
それはハードな人生だ。
そして常に孤独とともにある。
ひとりの老いたブルネシャは「雪が怖い」と孤絶した暮らしの淋しさを漏らす。
それでも、その孤独に耐え忍ぶ価値はある。
家も庭も井戸から湧く美しい水も、そこに暮らす牛も全部彼のものだ。
「彼女」であったなら、それは手に入れることができなかったものなのだ。
アルバニアの風習『ブルネシャ』の文章です。
彼(彼女?)たちは「ブルネシャ」「宣誓処女(Sworn Virgin)」と呼ばれ、アルバニア国内でもほとんど伝説の存在と化している。
謎めいた彼らの生態を追って、アルプスの僻地を訪ねた。
筆者のマイケル・パタニティの元に写真が送られてきたとき、彼は最初それが何を意味するのか読み解くことができなかった。
それはアルバニアに暮らすオッサンや爺さんの写真だった。
けれども、すぐに「ん?」と何かが引っかかり始める。
そう。オッサンや爺さんだと思っていた被写体は、実は女性なのだ。
彼(彼女?)らはレズビアンなのだろうか?
違う。ブルネシャ(Burrnesha)と呼ばれる人たちだ。
アルバニア人にとってもその存在は謎めいている。
現在、いったい何人のブルネシャがアルバニアに生きているのか、研究者ですら明言できずにいる(多くて100人ほどと言われる)。
「まるでユニコーンみたいですね」
取材のためにアルバニアを訪れた筆者のパタニティが問うと、自身がブルネシャでもある案内人はこう答える。
「ユニコーンは実在しない。ブルネシャは実在する」
ブルネシャの起源は不確かだが、500年ほどの歴史をもつとされる。
アルバニアに古来から伝わる「Kanun」(カノン/教令)によって定められた誓いをすることで、女性が男性へと変わることが許されるのだが、こうした取り決めがなされたのは、主に男性の相続人を失った家系が財産や土地を、家族内の女性に継がせるための「抜け穴」としてだったと考えられている。
代わりに、性転換した女性は、一生処女として生きることが定められる。
筆者はアルバニアで5人ほどのブルネシャと出会う。
最年少のブルネシャは40代だが、まるで若々しい少年のように見える。
彼女は5人兄弟の末娘として生まれた。
家族に相続の問題はない。
しかし、男兄弟のなかで育った彼女は12歳のときにブルネシャとして生きていくことを決意する。
兄弟たちからの強硬な反対を押し切って彼女は自分の生きる道を決めた。
それは、アルバニアにおいて、女性が自分自身の手で人生を決める唯一といってもいい手段なのだ。
アルバニアに伝わる「カノン」は、女性というものを「夫の家にある限り、死ぬまで耐え忍ぶズタ袋」と定義している。
女性は、家庭内で決定をくだすことも、口答えも許されない。
新婚初夜に処女でないことが発覚した花嫁は射殺されても文句を言えない。
泣く子も黙る男尊女卑のスーパー封建社会なのだ。
そうしたなかで、女性が、自分の人生を選び取るのなら、ブルネシャになるしかない。
パタニティは書く。
「ブルネシャになる、ということは男になること、男として人生を生きることを意味するのではない。それはむしろ自分を浄化することだ。自分を解放し解体し、性差を超えた新しい身体を獲得するところにある」
ブルネシャたちは酪農からトラックの修理まで、男性の仕事のすべてをこなす。
それはハードな人生だ。
そして常に孤独とともにある。
ひとりの老いたブルネシャは「雪が怖い」と孤絶した暮らしの淋しさを漏らす。
それでも、その孤独に耐え忍ぶ価値はある。
家も庭も井戸から湧く美しい水も、そこに暮らす牛も全部彼のものだ。
「彼女」であったなら、それは手に入れることができなかったものなのだ。
アルバニアの風習『ブルネシャ』の文章です。
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