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第1章〜起

切なくて苦しくて……

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 今日は目を覚ますと、数日前から眉間にニキビと言うか、吹き出物ができ、そこがうっすら赤くなっていた。
 そして、その奥から鼻の奥までが目が開けられないほど痛く、鼻が詰まっていたので口呼吸をしていた。
 えら呼吸だとかなりやばい(O_O)
 しかし、再びストレスで呼吸困難感もあって、必死にティッシュを引っ張った。
 鼻をかむと、電話がかかる。

 妹である。

「姉ちゃん、おはよう」
「ほめん(ごめん)はへひいた(風邪ひいた)」
「はぁぁ!熱は?」
「ひふとへふがははひほうへ(見ると熱が上がりそうで)……」
「もう言わなくていい。寝てていいから」

 そう言われたが、鼻をかみ、

「はにはあっは(何かあった)?ふ、クーいる?」
「うん、実家。実はね。今日、父さんから連絡があって、昨日、千賀(ちか)にいちゃんが亡くなったんだって。父さんは仕事に向かってるから、帰れないから、私が実家にね」
「ふずあに(クズ兄貴)や、はによめ(兄嫁)にさせたらいいやん」
「忙しいやって。もう実家出たけん、関係ないもん連絡してくんなって」
「ムカつく~死ね!千賀にいちゃんの代わりに逝け~~」

叫び続け、めまいを起こす。

 何が関係ないだ。
 千賀にいちゃんは、祖父の一番下の弟で、父の長兄の同級生で父とも幼なじみで、母とも年が余り違わないので、親族はみんなにいちゃんと呼んでいた。
 私たちのことも、孫というよりも、子供のように遊んでくれた。
 長兄である祖父とは親子ほど離れていた……多分、今年祖父は99か100だったはずである。
 にいちゃんは80前後……務にいちゃんは、千賀にいちゃんの三番目の兄で、祖父の兄弟は男5人皆逝ってしまった。
 後、姉ちゃん達だけになった。

「……ハル姉ちゃん……辛かろね……」

 千賀にいちゃんの奥さんである大叔母を思い出し、涙がこぼれた。
 ハル姉ちゃんは、編み物の先生の資格を持つ器用な人で、父の下の妹……叔母もそうだったが、ハル姉ちゃんは、いくつもの糸を使って、風景画のようなセーターを編んでいた。
 叔母は縄編みを使ってベストなどを編んでくれたが、叔母は、頼まれて編んでいるという色が美しいセーターだった。
 私は、そういう不思議な……世界観が大好きだったので、小さい頃はよく編んでいる様子を見ていた。
 多分私が器用なのは、父やハル姉ちゃん達に世界を見せてもらったからだと思う。

 それなのに、小さい頃からあんなに可愛がってくれた二人に、会っていなかった。
 私の病気もそうだが、大叔父には子供がおらず、体調を崩したと言ったもののすぐに元気になったと動き回り、自分よりも年上の姉達を気遣い、車を運転して法事に出向いたりと、この間まで聞いていた。
 務にいちゃんは遠くにいたけれど、同じ地域にいてくれた優しいじいちゃんと言うのも悪いくらい若い大叔父だった。

「なんでやろ……近くにいたのに、電話番号聞いていたのに……声だけでも聞いて……こんなだけど……会いに行けばよかった……『にいちゃん、元気』って、お見舞いにも……なんで、なんで……」

 涙が溢れる。
 鼻はもともとつまり、呼吸も息苦しいのに泣くものだから、息が苦しくなる。
 去年務にいちゃんが逝き、今年、千賀にいちゃんが逝き……逢いたい人は次々この世を去る。
 生まれた時にすでに死を与えられているのが人間をはじめとする生き物……。
 でも、別れというのは……本当に辛い事だと今更思う。

 電話を切り、一種の防音室である風呂場で泣きながら、 千賀にいちゃんの冥福を祈ったのだった。
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