上 下
15 / 95
第一章……ゲームの章

13……dreizehn(ドライツェーン)

しおりを挟む
 まどかはうとうととする。
 瞬本人は元気そのものなのだが、耳元で聞こえる声は、

「久しぶりに熱を出されましたね……」
「そうだね。最近はディやフィーが来ると支度や、母上の代わりにこの城をまとめて、疲れたのかもしれないね」
「そういえば、若様」
「何だい?」
「姫様のベッドを掃除していましたら、変なもの……いえ、そこに……蛇が」

パチっと目を覚ましたアストリットは、ベッドを見る。
 そこにいるのは漆黒の蛇……ではなく、

「龍! 漆黒というのは驪龍りりゅう……? 何で?」

ベッドにとぐろを巻いて眠っているのは、あまり大きくはない黒龍。
 全体が艶と煌めきを帯びた鱗に覆われ、小さいツノに、ワニに似た口、ひげがあり、たてがみもある上に小さい手足には爪もある。

 パチリと目を開けたが微睡むように目を閉じ、黒龍は、

『そなたがアストリットか? 我は……』
「蛇が喋った!」
「お兄様。この子は蛇ではありません。『Chinesischerヒーナリッシャー Dracheドラッヘ』です。漆黒ですので水龍になります」
「黒……さっき驪龍って」
「『Schwarzerシュバルツァー Dracheドラッヘ』黒龍の別名です。は、初めまして。驪龍様ですね? 私はアストリットと申します」

兄の腕は離れなかったので、その代わり丁寧に挨拶をする。
 すると、目を閉ざしていた龍が再び目を開き、大欠伸をする。

『……どうも、変な感じがするのぉ。向こうの応龍おうりゅう様より、アストリットの元に行けと言われたのだが、そなたには気配がある』
「気配?」
『……我に似ていることもあり、似ていなくもある』

 すると、扉が叩かれ、

「おい、カーシュ、アスティ。大丈夫か?」

顔を覗かせたのは、ディとフィーの兄妹と……。

『あぁぁ! 餌~!』

 主人の頭を踏み台にして飛び越えたのは、リューン。

『餌~!』
「こら! リューン! 何を今度は食べるんだ! お腹を壊すからやめなさい!」
『餌ではないわ! 小童こわっぱ! 我を何と心得る!』
『餌~!』

 逃げ惑う驪龍とリューンの追いかけっこになるが、すぐに驪龍は空に逃げ、

『許さぬぞ~~! 格を知れ!m下賎なドラゴンが! 我を獲物扱いとは!』

 くわっ!と口を開けた。

と、

「わぁぁ! お兄様、『Schwarzシュバルツ』黒……バルちゃんだぁぁ!」

目をキラキラさせ、駆け寄るのはフィーである。

「バルちゃん、どうしたのですか~? 何かお腹痛い痛い?」
『な、何をする!』

 抱き上げ、よしよしと頭を撫でる。

「いい子いい子。頭痛いのですか~? お兄様~? どうしましょう」

 ディは遠い目をしながら、

「フィー。その子は、痛いんじゃなくて、リューンに怒っていたんだよ」
「そうなのですか……リューン、いじめちゃめっ。バルちゃん良い子ですよ?」
「あっ、フィーちゃん! 喉をくすぐるのはダメです!」

アストリットは顔色を変える。

「喉に、他の鱗とは反対の方向に生えている鱗を『逆鱗げきりん』……『Bastardバスタード』と言います。そこは、敏感な部分で……触っちゃダメなんです」
「……あ、ありました。じゃぁ、触らないように……そうなのです。アスティお姉様がリボンをくれたのです。バルちゃんにお揃いです。その部分を隠しましょうね、バルちゃん」

 黒い龍にピンクのリボンを結び、

「可愛い! バルちゃんはツヤツヤなので、とっても美人さんです!」
『当然じゃ。我はこれでも四本指ではあるが、竜王の眷属けんぞく
「リューオーちゃんのケンゾク……すご~い!」
『であろう?』

アストリットは意味が解り、兄二人も何となく解っているが、フィーは無邪気に笑う。

「じゃぁ、バルちゃんは本当にすごいのね。フィーと一緒にいてくれる?」
『うむうむ、良いぞ。そなたの名前は?』
「ニュンフェ……お兄様やお姉様はフィーって言うのよ」
『我は驪龍の桃李タオリーと申す』
「タオリ?」

 首をかしげるが、アストリットが紙に書き、桃李に示す。

「この漢字かしら? 『桃李不言 とうりいわざれども下自成蹊 したおのずからけいをなす』からでしょう? 素晴らしいわ」
『ふ、ふむっ。我の名前の意味を知っておったか!』
「どういう意味だ?」

 ディの問いかけに、

「この子の名前はこの文字が桃『Pfirsichプフィルズィッヒ』こちらがスモモpflaumeプフラウメ』やあんずAprikoseアプリコーゼ』という意味です……その名前を用いたたとえ話があります。『桃やすももなどの木は何も言わないが、その実は美味しいのでその周囲には人が集まり道ができる。それと同じで、徳のある……賢く知恵のある名君の元には、黙っていても人が集まる』という意味です。なので、この子は応龍さまより直々に遣わされた知恵のある龍です。応龍さまと言うのは、東洋の龍の中の龍とも言われ、姿はこちらのDracheにも似ていると言われますがとても大きく、伝説と言われています」
「そんなに大きいのか? リューンのように何でも食べたり……」
『応龍さまは、そのような不浄なもの口にせぬわ。そして我は水龍。水より力を与えられておる。北におるが、暖かいところも大好きじゃ。ここは暖かいのぅ。近くに泉があり、時々果物を口にするので満足する。野蛮なものと同じと思うでないわ』
『ヤバン~? むーっ。やっぱり食べる~!』
「リューンちゃん、めっ! んーと、バルちゃん……ターちゃんは、フィーのお友達。リューンちゃん良い子するの!」

 フィーが桃李を抱きしめ、めっとする。

「良い子にしないと、リボン結ばないの。可愛いリボン、しません! 良いの?」
『……ヤァダァ……』
「じゃぁ良い子。仲直り」

と、いつのまにか二頭のDracheを手なづけているフィーに、驚く3人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...