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玄徳さんと関平の歪みが街を、人々を地獄の淵へと追いやろうとしていきます。
一夫多妻で、妾までいた時代にはありそうな話です。
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諸葛家に滄珠という娘が生まれた直後、玄徳の正妻、甘夫人絳樹が、念願だった男児を出産する。
夢の中で北斗を飲み込んだという絳樹の言葉に玄徳は、嫡子となるその息子の幼名を阿斗と名付けた。
今まで、幾人か子供を生んだものの全て女の子で、先に益徳の妻の美玲や雲長の後妻が嫡男をそれぞれ儲けていた事もあり、焦っていた絳樹はほっとしていた。
安心したとも言っていい。
先日、雲長の先妻で妾に貶められた彩霞が、主の正妻絳樹と側室である糜夫人淑玲とが曹孟徳に投降し夫のいない間の事を大暴露して、城内を混乱に陥れた。
夫にばれただろうかと不安だったが、元々無表情で感情の起伏のない夫は何時も通りであり、耳に入っていないらしいと思いほっとした。
夫は、何人か娘を生んだ絳樹を正妻とした。
本来絳樹は、小さな街で戦乱に逃げ惑う一般の馬売りの娘で、助けられた玄徳に付いて行くようになって、お手付きとなり妻になった。
子供は女の子ばかりだったが、流行り病で死んだり、戦乱の最中放置され、敵軍……曹孟徳軍に捕らえられ、噂では殺される事なく、側室としてではあるが嫁に行っているのだという。
子供はどうか解らないが、生める体である事を望んでいる。
子供を生める生めないでは、待遇が違うからである。
現に、玄徳には側室が一人、妾が数人いるのだが、側室の淑玲には子供がいなかった。
身分的には絳樹よりも高い、徐州の豪商、糜家の娘で、兄は現在内政を携わっている糜子仲、諱は竺。
そして、戦場で兵糧等を補給する部隊の指揮を任されている糜子方、諱は芳がおり、それぞれ職務に励んでいる。
そのお陰もあり、糜夫人淑玲は子供が生まれないが、兄達の恩恵で何とか側室としてではあるが残して貰っている。
現在、淑玲は気性のしっかりとした……正確に言うと激しい方である絳樹を姉のように慕う、と言うよりも全面的に絳樹に服従し、あれこれと絳樹の思う通り動く……。
本来、身分の上の存在……最初はプライドを見せ、お高く止まっていた淑玲を、今では顎で使うのは何とも楽しいものである。
そしてもっと楽しいのは、今現在、仲の良い……心の中ではどう思っているのか解らないが……夫の義弟の雲長の後妻とともに、雲長の前妻、彩霞の娘だった関平を呼びつけ、あれこれこき使うのが良いものである。
娼婦で、董仲穎と呂奉先を翻弄した悪女。
余り美しくない、美人でない事を劣等感を抱いていた絳樹は、美しい上に賢く、何事にも動揺しない、誇り高い彩霞を妬み続けてきた絳樹は、関羽が側室を娶ったと聞き付けると、その側室を度々招き入れ、友情と言うよりも共闘関係を結び、最後には妾に貶める事に成功した。
その上、城を出ていったのだ。
襄陽の豪商で、大金持ちの後妻となった事は誤算だったが、代わりに次の攻撃対象者を残してくれたのには感謝している。
夫のもう一人の義弟、益徳の妻は、敵ではあるが、漢王朝の将軍である夏侯妙才の姪であり、曹孟徳の遠縁である。
手出しは出来ない。
その代わり……、
「何をしているの? 貴方。口先だけで、何も出来ないの?」
「本当ですわね……礼儀作法も酷いものだし、お衣装も……」
「申し訳ございませんわ……私の前の方……いいえ、この娘の母親は夫の元の妾で、全く子育てが出来ない娼婦でしたの。何をするの?」
白湯を机に置こうとした関平の手を振り払う。
「あつっ!」
白湯を浴びせられ悲鳴をあげる関平を、見つめる瞳は嘲りを含んだもの。
「下賤な妾の娘ごときが、立ったまま玄徳様の奥方や、私に給仕をしないで頂戴! 膝を付き、きちんと『失礼致します。白湯をお持ち致しました。宜しいでしょうか?』と言うのが当たり前でしょう! それすら出来ないの? 貴方はどういう教育を受けてきたのかしら? 貴方の母親の顔が見てみたいわねぇ?」
「おほほほ……本当に。妾としても置いて戴けるのを感謝すればいいというのに、娼婦ですものね? 次々男を引っ掻ける……いえ、次々と男を惑わす悪女とは、あぁ言う女を言うのですわ。穢らわしい!」
「関平どの……だったかしら? 礼儀作法や裁縫や炊事、給仕、掃除に洗濯等は習わなかったの?」
問いかけてはいるが、それは関平を侮り愚弄する言葉の数々……関平は唇を噛み締めきっと睨み付ける。
その視線に、3人……特に絳樹はカッとなる。
「何です! その反抗的な態度は! 私は劉皇叔様……貴方の主の奥方なのよ! 主の奥方に対する態度とは思えませんわね!」
言いながら、残っていた机の上の白湯を顔面に浴びせかける。
そして、暑さと屈辱に顔を歪める関平を嘲る。
「ほほほほ……いい様だわ! あの娼婦もいけすかない女だったけれど、お前もお前だわ。自分の今の身分を噛み締めなさいな。娼婦の娘が!」
「ほほほほ……そうですわね。関平? 貴方がどうしてもと言うのなら、方法はあるのよ?」
絳樹におもねるように口を開く淑玲。
「趙子竜どののように豪商の養女になり、『臥龍』どののような優秀な夫に正妻として娶って貰えば良いのよ? 貴方のお母様もそうだったわね?」
「淑玲様? 無理ですわよ」
関平の父の後妻は口を挟む。
「趙子竜どのは諸葛孔明どのの妻になる為に、8才の頃から炊事洗濯、掃除、裁縫、刺繍に礼儀作法、舞踊、楽器演奏などありとあらゆることを嗜まれていて、他にも孔明どのが学者だからと文字の勉強をしたり、書簡を読んだり、養子として孔明どのの兄上のご令息を養育されて……女性ではあるものの、武将としても尊敬出来ますわ……そうは思いません?」
「そうだったわね……あの娘の母親は気に入らなかったけれど、今では生まれていて良かったわ。武将として戦えるのですものね……どなたかと違って……」
「そうですわね……早く片付けて頂戴な? そして、白湯を頂戴。出来るでしょう?」
3人の言葉に、心の中で怨嗟の言葉を吐きながら、関平は言われた通りぎこちない手つきながら白湯をいれたのだった。
後日……3人は後悔する……。
狂気と恨み、憎しみを抱いた女の怨讐の恐ろしさ……それを自分達が引き出したことを……。
夢の中で北斗を飲み込んだという絳樹の言葉に玄徳は、嫡子となるその息子の幼名を阿斗と名付けた。
今まで、幾人か子供を生んだものの全て女の子で、先に益徳の妻の美玲や雲長の後妻が嫡男をそれぞれ儲けていた事もあり、焦っていた絳樹はほっとしていた。
安心したとも言っていい。
先日、雲長の先妻で妾に貶められた彩霞が、主の正妻絳樹と側室である糜夫人淑玲とが曹孟徳に投降し夫のいない間の事を大暴露して、城内を混乱に陥れた。
夫にばれただろうかと不安だったが、元々無表情で感情の起伏のない夫は何時も通りであり、耳に入っていないらしいと思いほっとした。
夫は、何人か娘を生んだ絳樹を正妻とした。
本来絳樹は、小さな街で戦乱に逃げ惑う一般の馬売りの娘で、助けられた玄徳に付いて行くようになって、お手付きとなり妻になった。
子供は女の子ばかりだったが、流行り病で死んだり、戦乱の最中放置され、敵軍……曹孟徳軍に捕らえられ、噂では殺される事なく、側室としてではあるが嫁に行っているのだという。
子供はどうか解らないが、生める体である事を望んでいる。
子供を生める生めないでは、待遇が違うからである。
現に、玄徳には側室が一人、妾が数人いるのだが、側室の淑玲には子供がいなかった。
身分的には絳樹よりも高い、徐州の豪商、糜家の娘で、兄は現在内政を携わっている糜子仲、諱は竺。
そして、戦場で兵糧等を補給する部隊の指揮を任されている糜子方、諱は芳がおり、それぞれ職務に励んでいる。
そのお陰もあり、糜夫人淑玲は子供が生まれないが、兄達の恩恵で何とか側室としてではあるが残して貰っている。
現在、淑玲は気性のしっかりとした……正確に言うと激しい方である絳樹を姉のように慕う、と言うよりも全面的に絳樹に服従し、あれこれと絳樹の思う通り動く……。
本来、身分の上の存在……最初はプライドを見せ、お高く止まっていた淑玲を、今では顎で使うのは何とも楽しいものである。
そしてもっと楽しいのは、今現在、仲の良い……心の中ではどう思っているのか解らないが……夫の義弟の雲長の後妻とともに、雲長の前妻、彩霞の娘だった関平を呼びつけ、あれこれこき使うのが良いものである。
娼婦で、董仲穎と呂奉先を翻弄した悪女。
余り美しくない、美人でない事を劣等感を抱いていた絳樹は、美しい上に賢く、何事にも動揺しない、誇り高い彩霞を妬み続けてきた絳樹は、関羽が側室を娶ったと聞き付けると、その側室を度々招き入れ、友情と言うよりも共闘関係を結び、最後には妾に貶める事に成功した。
その上、城を出ていったのだ。
襄陽の豪商で、大金持ちの後妻となった事は誤算だったが、代わりに次の攻撃対象者を残してくれたのには感謝している。
夫のもう一人の義弟、益徳の妻は、敵ではあるが、漢王朝の将軍である夏侯妙才の姪であり、曹孟徳の遠縁である。
手出しは出来ない。
その代わり……、
「何をしているの? 貴方。口先だけで、何も出来ないの?」
「本当ですわね……礼儀作法も酷いものだし、お衣装も……」
「申し訳ございませんわ……私の前の方……いいえ、この娘の母親は夫の元の妾で、全く子育てが出来ない娼婦でしたの。何をするの?」
白湯を机に置こうとした関平の手を振り払う。
「あつっ!」
白湯を浴びせられ悲鳴をあげる関平を、見つめる瞳は嘲りを含んだもの。
「下賤な妾の娘ごときが、立ったまま玄徳様の奥方や、私に給仕をしないで頂戴! 膝を付き、きちんと『失礼致します。白湯をお持ち致しました。宜しいでしょうか?』と言うのが当たり前でしょう! それすら出来ないの? 貴方はどういう教育を受けてきたのかしら? 貴方の母親の顔が見てみたいわねぇ?」
「おほほほ……本当に。妾としても置いて戴けるのを感謝すればいいというのに、娼婦ですものね? 次々男を引っ掻ける……いえ、次々と男を惑わす悪女とは、あぁ言う女を言うのですわ。穢らわしい!」
「関平どの……だったかしら? 礼儀作法や裁縫や炊事、給仕、掃除に洗濯等は習わなかったの?」
問いかけてはいるが、それは関平を侮り愚弄する言葉の数々……関平は唇を噛み締めきっと睨み付ける。
その視線に、3人……特に絳樹はカッとなる。
「何です! その反抗的な態度は! 私は劉皇叔様……貴方の主の奥方なのよ! 主の奥方に対する態度とは思えませんわね!」
言いながら、残っていた机の上の白湯を顔面に浴びせかける。
そして、暑さと屈辱に顔を歪める関平を嘲る。
「ほほほほ……いい様だわ! あの娼婦もいけすかない女だったけれど、お前もお前だわ。自分の今の身分を噛み締めなさいな。娼婦の娘が!」
「ほほほほ……そうですわね。関平? 貴方がどうしてもと言うのなら、方法はあるのよ?」
絳樹におもねるように口を開く淑玲。
「趙子竜どののように豪商の養女になり、『臥龍』どののような優秀な夫に正妻として娶って貰えば良いのよ? 貴方のお母様もそうだったわね?」
「淑玲様? 無理ですわよ」
関平の父の後妻は口を挟む。
「趙子竜どのは諸葛孔明どのの妻になる為に、8才の頃から炊事洗濯、掃除、裁縫、刺繍に礼儀作法、舞踊、楽器演奏などありとあらゆることを嗜まれていて、他にも孔明どのが学者だからと文字の勉強をしたり、書簡を読んだり、養子として孔明どのの兄上のご令息を養育されて……女性ではあるものの、武将としても尊敬出来ますわ……そうは思いません?」
「そうだったわね……あの娘の母親は気に入らなかったけれど、今では生まれていて良かったわ。武将として戦えるのですものね……どなたかと違って……」
「そうですわね……早く片付けて頂戴な? そして、白湯を頂戴。出来るでしょう?」
3人の言葉に、心の中で怨嗟の言葉を吐きながら、関平は言われた通りぎこちない手つきながら白湯をいれたのだった。
後日……3人は後悔する……。
狂気と恨み、憎しみを抱いた女の怨讐の恐ろしさ……それを自分達が引き出したことを……。
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