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孔明さんの不本意ありまくりの出廬が近づいてます。
因果応報というのはこう言うことを言うのでしょう。
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同じ頃……主将のいない軍を何とか制御しようとしたものの失敗し、動揺していた季常の横で、急使が来、書簡を熟読した幼常が、一歩前に出て声をあげる。
「落ち着け! 皆。曹孟徳軍が今動くことはない! これは孟徳軍の扇動工作だ」
「で、ですが」
「大丈夫だ! 関将軍はいないが、我らがいる。解るか? 兄……『白眉』参謀の言っていたように、我らは職務を全うしている。そして動揺を誘い、一番重要なこの門を守る我らの結束を乱そうと、孟徳軍の参謀が根も葉もない噂を流したのだ。これから、思案中の司令の代理として、皆に指示を与える。その指示に従い、警備を厳重に! そして、流言を信じ動揺するな! 関将軍の怪我は浅い。すぐに復帰する。それまでは、復帰まで職務を全うせよ!」
幼常のキッパリとした発言に、動揺し浮き足立っていた兵士は次第に落ち着きを取り戻す。
「で、では、何を……」
「通常業務に戻れ! そして、軍備の点検、馬の様子を確認しろ! 孟徳軍は今回は様子見のようだが、いつ本気で攻めてくるか解らない! 休憩の者以外は訓練の強化、武具の手入れも怠るな! いいな?」
「は、はい副参謀。では、我らはそれぞれ別れ、任務につきます!」
「そうしろ! これは参謀からの命令である! 将軍の復帰までは、参謀がこの部隊の最高指揮官となる! では、参謀の代わりに命ずる、行け!」
幼常の一言に落ち着いた周囲は、集まった時とは違い安心したように戻っていく。
全てが去ったことを確認した季常が、ギロっと弟を睨み付ける。
「……何……今の? 孟徳軍の扇動工作だ? それはどこから知った?」
「え、何で? 兄上の策略じゃないの? これ、仲常兄上から使いが来たんだよ! ほら『季常の参謀としての役割は、それで合っている。しかし、将軍と食い違った意見のまま部下に指示は、余計に混乱し軍を動かせなくなる。まずは今、最高指揮官、参謀としての権限が季常にあることをはっきり宣言し、将軍不在だが、復帰までの間に参謀としての地位を磐石にさせるように。多分、季常は頑固で私の言うことを聞かないから、お前が部下に指示して、まずは部下を安心してやりなさい』って!」
季常は弟の手から書簡を引ったくると、文面を読み、そして顔をあげると怒鳴る。
「これのどこが、仲常兄上の文だ! これは……これは! 敬兄の……私をバカにした書簡だ! く、くっそぉ!」
書簡を床に叩きつけ、グリグリと踏みにじろうとして、滑り転ぶ。
「兄上? 兄上は体が丈夫ではないし、運動神経も良くないんですから、余り暴れては……」
「うるっさい!」
幼常は怒鳴られながらも、兄の体を立たせる。
「でもさぁ、兄上。先の書簡、何か書いてたぞ? 多分、将軍の復帰まで仮の上司が置かれるだろうって、仮の上司って誰だろうな……将軍のように、俺様軍人は勘弁だなぁ……」
呟く幼常を睨み付けながら、床に転がる書簡を書いた相手の高笑いを想像し、腸が煮えくり返る。
あのくそ生意気な嫁とやらを利用して利用し尽くして、汚泥の中に住んでいたというあの女をもう一度その世界に落として、苦しみ嘆く様をたっぷりと見て楽しんでやろうと思っていたというのに、予定が狂いまくっている。
この玄徳軍など、孟徳軍に勝てる筈もない。
勝てると信じ込む、関将軍のように気位の高い馬鹿と組まされたのも予想外だが、今回の混乱も予想していなかった。
どういうことだ?
こんな筈ではなかった……自分のたどる道はもっと平坦で楽だった筈だ。
それなのに……。
ざわざわと、女性の悲鳴と、何かを引きずるような音が近づいてくる。
嫌な予感に季常が身構えると、現れたのは主、玄徳と、一人の小柄な武将を両脇で抱え引きずってきた二人の護衛。
二人は玄徳に頭を下げる。
「玄徳さま、急の訪れ、何か重要な事が?」
「雲長の傷はしばらくかかることが解った。その為、二人では荷が重いだろうと、部下を一人連れてきた。これを一人前の武将に育てて見せろ。そうすれば、先程までの軍務命令の錯綜は赦してやる」
頭を下げたまま、舌打ちしそうになるのを堪える。
「は、かしこまりました。で、その武将と言うのは……」
「これだ、お前達、手を離せ」
玄徳の護衛が、突き放すように押し出した小柄な武将は、ヨロヨロっと倒れ込み、玄徳を振り返る。
「お、伯父様! どうして……どうして私が?」
雲長の娘の驪珠である。
「愚問だな。お前の父の雲長が馬鹿を仕出かし、この私に恥をかかせた上に、私事の怪我で、この戦が近いというのに長期休暇を申請している。その責任は、子供が負うべきだと思わぬか?」
「興がいますわ! あの女の生んだ……」
「あの女? 興は正妻の子供で、まだ赤子だ。雲長もようやく生まれた息子を、目に入れても痛くない程溺愛していると聞く。雲長には、妾の生んだ子供がいたと思い出してな? 妾の生んだ子供など、嫁にも出せんだろう? だから雲長に、興が成人するまで妾の子に存分に働かせよと伝えたら、頷いたぞ?」
くっと玄徳は、元姪を見下ろし嘲笑する。
「さぁ、お前も『破鏡』と同じ立場になったのだ。『破鏡』に負けぬように存分に働け! 役立たずはすぐに処分する! もしくは、お前を見捨てた母親のように、男どもを翻弄し、戦を産み出す者となるか? ……それも楽しいが、お前は母親と違い愚かだ。『美女連環の計』など出来る筈もない。出来るのは、その手で剣を握り戦場に立つことだ!」
「お、伯父様! 無理です! 無理ですわ! 私はこんなにひ弱で……どうして私がそんな目に?」
訴えるが、玄徳は笑うだけで返事をしない。
驪珠は周囲を見回し、季常と幼常に気づくと、目に涙を溜めて訴える。
「季常どの! 幼常どの! お願いですわ! 伯父様に!」
「無理です、殿の命令は絶対です」
「そうです。諦めて従って下さい」
「そ、そんな……」
あぁぁぁ……!
泣き伏す驪珠を冷たい眼差しで見下ろした玄徳は、口を開く。
「妾の子に『驪珠』という立派な名前など、必要あるまい。今日から関平と名乗るが良い。ではな? 雲長の代理として、存分に働けよ。関平」
そういい捨て、劉備は護衛と共に去っていったのだった。
この日、劉玄徳軍にもう一人、男装の武将が誕生したのだった。
「落ち着け! 皆。曹孟徳軍が今動くことはない! これは孟徳軍の扇動工作だ」
「で、ですが」
「大丈夫だ! 関将軍はいないが、我らがいる。解るか? 兄……『白眉』参謀の言っていたように、我らは職務を全うしている。そして動揺を誘い、一番重要なこの門を守る我らの結束を乱そうと、孟徳軍の参謀が根も葉もない噂を流したのだ。これから、思案中の司令の代理として、皆に指示を与える。その指示に従い、警備を厳重に! そして、流言を信じ動揺するな! 関将軍の怪我は浅い。すぐに復帰する。それまでは、復帰まで職務を全うせよ!」
幼常のキッパリとした発言に、動揺し浮き足立っていた兵士は次第に落ち着きを取り戻す。
「で、では、何を……」
「通常業務に戻れ! そして、軍備の点検、馬の様子を確認しろ! 孟徳軍は今回は様子見のようだが、いつ本気で攻めてくるか解らない! 休憩の者以外は訓練の強化、武具の手入れも怠るな! いいな?」
「は、はい副参謀。では、我らはそれぞれ別れ、任務につきます!」
「そうしろ! これは参謀からの命令である! 将軍の復帰までは、参謀がこの部隊の最高指揮官となる! では、参謀の代わりに命ずる、行け!」
幼常の一言に落ち着いた周囲は、集まった時とは違い安心したように戻っていく。
全てが去ったことを確認した季常が、ギロっと弟を睨み付ける。
「……何……今の? 孟徳軍の扇動工作だ? それはどこから知った?」
「え、何で? 兄上の策略じゃないの? これ、仲常兄上から使いが来たんだよ! ほら『季常の参謀としての役割は、それで合っている。しかし、将軍と食い違った意見のまま部下に指示は、余計に混乱し軍を動かせなくなる。まずは今、最高指揮官、参謀としての権限が季常にあることをはっきり宣言し、将軍不在だが、復帰までの間に参謀としての地位を磐石にさせるように。多分、季常は頑固で私の言うことを聞かないから、お前が部下に指示して、まずは部下を安心してやりなさい』って!」
季常は弟の手から書簡を引ったくると、文面を読み、そして顔をあげると怒鳴る。
「これのどこが、仲常兄上の文だ! これは……これは! 敬兄の……私をバカにした書簡だ! く、くっそぉ!」
書簡を床に叩きつけ、グリグリと踏みにじろうとして、滑り転ぶ。
「兄上? 兄上は体が丈夫ではないし、運動神経も良くないんですから、余り暴れては……」
「うるっさい!」
幼常は怒鳴られながらも、兄の体を立たせる。
「でもさぁ、兄上。先の書簡、何か書いてたぞ? 多分、将軍の復帰まで仮の上司が置かれるだろうって、仮の上司って誰だろうな……将軍のように、俺様軍人は勘弁だなぁ……」
呟く幼常を睨み付けながら、床に転がる書簡を書いた相手の高笑いを想像し、腸が煮えくり返る。
あのくそ生意気な嫁とやらを利用して利用し尽くして、汚泥の中に住んでいたというあの女をもう一度その世界に落として、苦しみ嘆く様をたっぷりと見て楽しんでやろうと思っていたというのに、予定が狂いまくっている。
この玄徳軍など、孟徳軍に勝てる筈もない。
勝てると信じ込む、関将軍のように気位の高い馬鹿と組まされたのも予想外だが、今回の混乱も予想していなかった。
どういうことだ?
こんな筈ではなかった……自分のたどる道はもっと平坦で楽だった筈だ。
それなのに……。
ざわざわと、女性の悲鳴と、何かを引きずるような音が近づいてくる。
嫌な予感に季常が身構えると、現れたのは主、玄徳と、一人の小柄な武将を両脇で抱え引きずってきた二人の護衛。
二人は玄徳に頭を下げる。
「玄徳さま、急の訪れ、何か重要な事が?」
「雲長の傷はしばらくかかることが解った。その為、二人では荷が重いだろうと、部下を一人連れてきた。これを一人前の武将に育てて見せろ。そうすれば、先程までの軍務命令の錯綜は赦してやる」
頭を下げたまま、舌打ちしそうになるのを堪える。
「は、かしこまりました。で、その武将と言うのは……」
「これだ、お前達、手を離せ」
玄徳の護衛が、突き放すように押し出した小柄な武将は、ヨロヨロっと倒れ込み、玄徳を振り返る。
「お、伯父様! どうして……どうして私が?」
雲長の娘の驪珠である。
「愚問だな。お前の父の雲長が馬鹿を仕出かし、この私に恥をかかせた上に、私事の怪我で、この戦が近いというのに長期休暇を申請している。その責任は、子供が負うべきだと思わぬか?」
「興がいますわ! あの女の生んだ……」
「あの女? 興は正妻の子供で、まだ赤子だ。雲長もようやく生まれた息子を、目に入れても痛くない程溺愛していると聞く。雲長には、妾の生んだ子供がいたと思い出してな? 妾の生んだ子供など、嫁にも出せんだろう? だから雲長に、興が成人するまで妾の子に存分に働かせよと伝えたら、頷いたぞ?」
くっと玄徳は、元姪を見下ろし嘲笑する。
「さぁ、お前も『破鏡』と同じ立場になったのだ。『破鏡』に負けぬように存分に働け! 役立たずはすぐに処分する! もしくは、お前を見捨てた母親のように、男どもを翻弄し、戦を産み出す者となるか? ……それも楽しいが、お前は母親と違い愚かだ。『美女連環の計』など出来る筈もない。出来るのは、その手で剣を握り戦場に立つことだ!」
「お、伯父様! 無理です! 無理ですわ! 私はこんなにひ弱で……どうして私がそんな目に?」
訴えるが、玄徳は笑うだけで返事をしない。
驪珠は周囲を見回し、季常と幼常に気づくと、目に涙を溜めて訴える。
「季常どの! 幼常どの! お願いですわ! 伯父様に!」
「無理です、殿の命令は絶対です」
「そうです。諦めて従って下さい」
「そ、そんな……」
あぁぁぁ……!
泣き伏す驪珠を冷たい眼差しで見下ろした玄徳は、口を開く。
「妾の子に『驪珠』という立派な名前など、必要あるまい。今日から関平と名乗るが良い。ではな? 雲長の代理として、存分に働けよ。関平」
そういい捨て、劉備は護衛と共に去っていったのだった。
この日、劉玄徳軍にもう一人、男装の武将が誕生したのだった。
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