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孔明さんの不本意ありまくりの出廬が近づいてます。

もう少し、優しいお話にしたいですが無理そうです。

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 孔明こうめいは、琉璃りゅうりの首に残されていた傷に薬を塗り、包帯を巻く。
 そして、頬の傷の手当てをし、抱き締める。

「しばらくは痛いけれど、我慢してね? 琉璃」
「だ、旦那様……きょうちゃんは……」

 琉璃は夫に問いかける。

「味方に、江東に連れていって貰ったよ。ここは危険だから……貴方にだけは、私たちの可愛い息子を近づけたくなくてね!」

 後ろにいつの間にか来ていた男たちの姿に、琉璃が蒼白になる。

「あ……あっ!」
「大丈夫、琉璃の事は私が守るから……ね?」

 怯える妻をあやし、振り返った孔明はにぃっと笑いかける。

「初めてお目にかかります。劉皇叔りゅうこうしゅく諸葛孔明しょかつこうめいと申します……と言っても、ご存じですよね? 藪の中でこそこそと覗いてたそうじゃないですか。私にそんなに会いたかったのでしたら、正々堂々目の前で仕えるように言って戴けませんかねぇ? こんなまどろっこしい、周囲を巻き込む傍迷惑なことをして戴ける程、買い被って戴けるとは……」
「感謝しているかな? この歓迎に」

 にたりと笑う玄徳げんとくに、孔明は満面の笑みを浮かべると、即、妻の耳を両手で塞ぐ。

「そうですねぇ……隣の季常きじょうと二人、早々にあの世に送り込んで差し上げようかと考える程、感謝していますよ? あぁ、楽しみです。季常の死に様を見るのを、とてもとても楽しみにしていたので、それがもう一人増えるなんて……季常同様、無様な死に様を見せて下さいね? 皇叔」
「なっ! こ、孔明兄上でも、言っていいことと悪いことが!」

 憤然と食って掛かる幼常ようじょうに、憐れみを込めた目で告げる。

「幼常には本当に悪いけれど、死が見えるようになったよ、君の。兄に追随し、自分で自分の意見を言えぬまま、選択もせぬまま、自らの将来を選ばなかった罰だ……可哀想に……」
「なっ! 誰が可哀想……」

 どもる幼常に、孔明は繰り返す。

「幼常が、可哀想なんだよ? 自分の意志を口にせぬまま、季常の言葉が自分の意見だと思い込む、憐れな傀儡かいらいにしかなれなかった幼常が、ね? そして、そういう風に仕向け、自分の弟しか自分の傀儡として動かせない、可哀想な傀儡使いもね……季常位人付き合いが下手すぎて、軍を率いるのも無理な男もいないのに、軍に入れた皇叔の目も、とうの昔に腐っていたのでしょうね。曹孟徳そうもうとくに負けて中原ちゅうげんを逃げ出しただけはありますね!」

 ハハハ……

楽しげに笑う孔明に、みるみる表情を青黒く、醜く歪ませ……、

「貴様!」

振り上げた腕を、後ろ手に捕らえられる。

「……兄ぃ。悪りぃが、土竜もぐら……じゃねぇ、孔明は琉璃……俺の部下である趙子竜ちょうしりゅうの亭主だ。まだ出仕しゅっしをすると了承を得ていねぇだろ? そんな男に暴力を振るえば、皇叔である兄ぃの名声が地に落ちる。今は曹孟徳の野郎の動きも怪しいんだ。味方が欲しいだろ? そこの口先兄弟より、役に立つのが」

 益徳の言葉に、手を振り払う。

「……では、益徳! こいつに出仕迄に、主に対する言葉遣いを叩き込んでおけ! それと主に対する敬意もな!」
「ハイハイ、じゃぁその代わり、兄ぃ。悪りぃが、家に勝手に侵入し、客人を誘拐しようとした上、俺の嫁に息子、部下を殺そうとした親子がいるんだが、連れて帰ってくれねぇか? そいつ凶暴でさぁ? この孔明が両腕をねじり折るまで、嫁は殴り飛ばして蹴るわ、息子は壁に叩きつけるわ、部下の首を絞め殺しかけてなぁ……」

 眉を寄せる玄徳は、義弟を見る。

「……誰だ、その馬鹿は?」
「あれ、その馬鹿親子」

 示した益徳の指をたどった玄徳は、愕然とする。
 縄を打たれ、うちひしがれた態度の男は、玄徳の最も良く知った人物……。

雲長うんちょう! おい? 益徳! お前は義兄弟の契りを結んだ雲長に、何を!」
「義兄弟の契りを破ったのはこいつだよ。俺は悪くねぇ! ついでにねじり折られた腕の治療だけはやってやったんだ。逆に感謝して貰いてぇよ。なぁ? 漢寿亭侯かんじゅていこう様?」

 せせら笑う益徳。

「なぁ? 兄ぃ? 知ってたか? こいつ、彩霞さいか姉貴を妾に貶めて、持ち物全て奪った上に離れに監禁してたんだよ。その上、兄ぃが娶れと言った韋家いけの嫁は、彩霞姉貴の食事に毒盛ってたんだと。で、侍女の格好で彩霞姉貴が家に逃げてきた。俺は姉貴を助けたんだ。なのに、こいつばらされたら困るって人ん家の人間に暴力振るって、連れ戻しに来やがった!」

 義弟の行為に言葉を失う玄徳に、

「彩霞姉貴はもう戻るつもりはない。家屋敷、装飾、あらゆるものは姉貴が買い揃えたものだから、全て返して貰うって宣言して期日を決めた。が、それまでに出ていかなくて、今日商人二組に来て貰って交渉してたとこに、こいつがまたしても、そこの妾の子連れてやって来たんだよなぁ? こいつ、俺のこと見下してるし、もういい加減、堪忍袋の緒が切れた! 俺はこいつの義弟をやめる! 義兄である兄ぃが説教なり、孔明の代わりに殴り飛ばすなりしろよ! 頼むぜ! 俺、怪我をした嫁と息子に着いててやりたいんだ?」

にっこりと、髭面だがやんちゃそうに笑う益徳に、苦虫を噛み潰した顔で、

「……解った。こちらで処分する」
「じゃぁ、屋敷の売り主はもう決まってるから、追い出すのも頼む。こっちは彩霞姉貴を送り出すから」
「えっ?」

玄徳と雲長、驪珠りしゅは顔を上げる。

「さ、彩霞を何処にやるんだ!」

 食って掛かる雲長に、冷たい目で言い放つ。

「はぁぁ? てめぇら親子が、全うに……いや、それよりもてめぇが彩霞姉貴を妾に貶めたんだろ? そのてめぇが言えた義理かよ! その上、この家にまで侵入し、家族や使用人たちにまで暴力振るっただろうが! それに心を痛めて、姉貴はここを出ていくって言ったんだ! 何度も止めたさ、姉貴は俺の姉貴同然なんだしな! 人に何か言えるのか? 最初から、てめぇが悪いんじゃねぇか! 口挟むなよ、髭!」
「益徳、落ち着け……」
「兄ぃ! 今まで何も言わなかったが! 兄ぃが言うことには素直に従ってきたが! もう我慢できねぇ! 言わせて貰うぜ!」

 指を雲長に突きつける。

「俺は、こいつと一緒に戦うのは御免だ! 信用できねぇ! 長年連れ添った嫁を簡単に捨てるんだぜ? もし同じ敵に向かって戦う時になってみろよ! こいつ、戦況が怪しくなると逃げ出すとも限らねぇ! そんな奴と組みたくねぇ! もし組めと言うなら、俺は軍を動かさねぇ。絶対だ! 兄ぃ。俺は言ったぜ? 馬鹿な俺だが、絶対に忘れねぇ! 兄ぃも覚えておいてくれ! 良いよな?」

 益徳の迫力に頷いた玄徳。

「じゃぁ、頼むぜ、兄ぃ! 家は忙しいんだ、ゴタゴタしている所に、兄ぃをもてなせないんだ、。すまねぇが……」
「解った。では、雲長たちを連れていく。屋敷の方は……」
「買い取った商人に頼んだ。ついでに、姉貴の事もな」
「商人に?」

 訝しげな玄徳に、爆弾を投下する。

襄陽じょうよう黄承彦こうしょうげんどのだ。で、黄承彦どのが商売であちこち行くらしいから、その旅に着いていって、姉貴が気に入った街に屋敷を建ててくれるそうだ。兄ぃ。黄承彦どのなら安心だろう?」
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